近年、石炭火力発電の環境負荷への懸念が高まる中、バイオマス発電は環境に配慮した再生可能エネルギーとして注目を集めています。日本政府も石炭火力発電からバイオマス発電へのシフトを進める方針を示しており、今後のエネルギー戦略においてバイオマス発電がどのような役割を担っていくのかが関心事となっています。
本記事では、日本のバイオマス発電の現状、技術、課題、政策、将来展望について解説し、持続可能なエネルギー供給の実現に向けた取り組みを紹介します。
日本におけるバイオマス発電の現状と未来について考察することで、持続可能なエネルギー戦略の重要性を知ることができます。
バイオマス発電の重要性
バイオマス発電は、植物や動物から得られる有機物を燃料として利用し、エネルギーを生成する方法です。地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の排出を抑えることができるため、環境にやさしい再生可能エネルギーの一つとされています。
日本では、原子力発電所の稼働が減少したことからも、バイオマス発電などの再生可能エネルギーが注目されています。日本のバイオマス発電は、まだ発電量が限られていますが、政府も再生可能エネルギーの普及を促進するために、様々な施策を進めています。
日本のバイオマス発電の種類と技術
日本におけるバイオマス発電は、主に下記の3つの種類に分けられます。
1. 木質バイオマス発電
木質バイオマス発電は、木材や間伐材、廃棄物などの木質素材を燃料として利用する発電方法です。燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しますが、植物が成長する際に吸収したCO2とのバランスが取れるため、環境負荷が低いとされています。
木質バイオマス発電における技術
木質バイオマス発電には、主に「直接燃焼発電」「ガス化発電」「液化燃料発電」の3つの技術があります。
直接燃焼発電は、木質素材を直接燃焼させて発電する方法で、最も一般的な技術です。ガス化発電は、木質素材を高温でガス化し、得られたガスを燃焼させて発電します。液化燃料発電は、木質素材からバイオエタノールやバイオディーゼルなどの液体燃料を生成し、それを燃焼させて発電します。
2. 家畜糞尿を利用したバイオガス発電
家畜糞尿を利用したバイオガス発電は、家畜の糞尿を発酵させて得られるメタンガスを燃料として利用する発電方法です。この方法では、家畜の糞尿を有効活用することで、環境負荷を減らすことができます。
家畜糞尿を利用したバイオガス発電における技術
家畜糞尿を利用したバイオガス発電では、嫌気性微生物を利用した発酵技術が鍵となります。糞尿を嫌気性微生物が分解する過程で、メタンガスが生成されます。このメタンガスを集めて発電機に供給し、燃焼させることで発電が行われます。
また、発酵後に残る固形物は、肥料として利用することができます。このように、家畜糞尿を利用したバイオガス発電は、資源の循環を促すエコロジカルな発電方法として注目されています。
3. 食品廃棄物を利用したバイオマス発電
食品廃棄物を利用したバイオマス発電は、食品工場や家庭から出る食品廃棄物を燃料として利用する発電方法です。食品廃棄物は、有機物が豊富でエネルギー密度が高いため、発電に適しています。また、食品廃棄物のリサイクルやエネルギーの有効活用が可能となります。
食品廃棄物を利用したバイオマス発電における技術
食品廃棄物を利用したバイオマス発電には、主に「バイオガス発電」と「固形燃料発電」の2つの技術があります。
バイオガス発電は、食品廃棄物を嫌気性微生物によって分解し、生成されたメタンガスを燃料として発電します。固形燃料発電は、食品廃棄物を乾燥・固形化させた燃料を燃焼させて発電します。どちらの技術も、食品廃棄物の有効活用により、廃棄物処理とエネルギー供給の両面で貢献しています。
参照元:
・バイオマス発電のしくみ|中部電力
・バイオマス資源ってなに?|DINS関西株式会社
日本のバイオマスエネルギー活用事例
世界最大級のバイオマス発電所
バイオマス発電大手のイーレックス株式会社と石油元売り大手のENEOS株式会社は、来る2026年に向けて世界最大級のバイオマス発電所を新設する予定です。
40万平方メートルに建設されるこの発電所では、年間200万キロワットを東北電力へ売電する計画が立てられています。
通常、再生可能エネルギーによる電力を電力会社に売電する場合、国が定めるFIT制度が適用されます。
FIT制度とは、売電される電力会社が再生可能エネルギーを発電する業者に、一定期間国の定める価格を支払うというものです。
しかしこの価格、実は電力会社が負担しているのではなく、最終的に電力を利用する人、すなわち国民一人一人の電気料金に上乗せされています。
イーレックスでは、利用者の負担を軽減するためこのFIT制度を利用せずに東北電力に売電する方針です。
これにより、再生可能エネルギーがより私たち身近なものになるのではないでしょうか。
使用燃料は、ロシアから輸入する木質ペレットの他、ベトナムとフィリピンで栽培を行っているイネ科の雑穀ソルガムです。
栽培されたソルガムは収穫後、固形燃料に加工されて日本に輸送されます。
この発電所の着工は、2023年、運転開始は2026年度を目標としています。
バイオガス生成装置「メタクレス」
建設会社大手の鹿島建設株式会社では、このバイオガスを抽出できるメタン発酵技術の研究を続けており、「メタクレス」という装置を開発しました。
「メタクレス」は、メタン発酵菌を利用して生ごみなどの有機性廃棄物に定着させ高温発酵します。
有機物を効率よく分解処理することで、短時間で大量のバイオガスを発生させ、回収することが可能となります。
すでにこの装置を利用している霧島酒造株式会社では、焼酎粕や芋くずなどの廃棄物を大量に処理することができ、処理したことにより発生したバイオガスを焼酎工場のエネルギー源として利用しています。
さらに、鹿島建設株式会社では北海道十勝地域で、乳牛などの家畜の糞尿をメタン発酵させて回収したバイオガスから水素を製造しています。
回収した水素は、燃料電池自動車やフォークリフトなどに利用されています。
参照元:
・再生可能エネルギー|鹿島HP
・バイオマス発電とは?仕組みやメリット・デメリットについて|エネチェンジ
・環境用語集/固定価格買取制度(改正FIT法)|環境ビジネスオンライン
日本のバイオマス発電の現状と課題
バイオマス発電は、日本のエネルギー供給全体の中でまだ限定的な割合を占めていますが、その普及は着実に進んでいます。各地で新しいバイオマス発電プロジェクトが進行中であり、今後の発電量の増加が期待されています。特に、高効率ガス化技術やバイオマスの前処理技術の進展により、発電効率の向上や経済的なメリットが拡大することが予想されます。
政府は、バイオマス発電を含む再生可能エネルギーの普及を促進するために、固定価格買い取り制度や補助金制度を導入しています。さらに、2030年までに再生可能エネルギーが全エネルギー供給の約22~24%を占めることを目標にしています。
バイオマス発電の燃料には、木質素材、家畜糞尿、食品廃棄物などが利用されていますが、安定した供給が求められています。具体的には、原料調達ルートの確保やコスト削減が重要な課題となっています。
さらに、バイオマス発電の効率向上やコスト低減が求められています。新技術の開発や既存技術の改良が進むことで、バイオマス発電の普及がさらに加速することが期待されています。
また、バイオマス発電は地域資源を活用するため、地域との連携が重要です。地域住民の理解や協力を得るプロジェクトづくりが求められています。地域と発電事業者のコミュニケーションが課題であることもありますが、地元のバイオマス資源を利用することで、輸入エネルギーへの依存リスクが低減され、安定したエネルギー供給が実現できます。
日本のバイオマス発電の将来展望
バイオマス発電技術の進化に伴い、より効率的で環境に配慮した発電方法が期待されています。今後は新しい技術の開発や既存技術の改良が進むことで、バイオマス発電のコスト低減や普及が大幅に進展する可能性が高まっています。
さらに、バイオマス発電は地域資源を活用することから、地域循環型社会の構築に大きく貢献できるでしょう。地域内で生産されるバイオマス資源を用いて電力や熱を供給することで、地域のエネルギーセキュリティの向上や環境改善につながります。
また、日本政府は再生可能エネルギーの普及促進を目指し、バイオマス発電を太陽光や風力などの他の再生可能エネルギーと組み合わせることで、エネルギーミックスの多様化が図られ、より安定的なエネルギー供給が実現できるようになります。これにより、日本のエネルギー政策において、バイオマス発電が重要な役割を果たすことが期待されています。
総じて、バイオマス発電は環境にやさしいエネルギー供給方法として、今後ますます重要な位置づけになることが予想されます。技術の進歩や普及が進めば、バイオマス発電は日本のエネルギー戦略の中で、地域循環型社会の実現やエネルギーミックスの多様化に大きく寄与することになるでしょう。
まとめ
2021年6月のG7サミットでは、コロナ禍の中で開催され、石炭火力発電への新規輸出支援を年内で終了することが決定されました。
この決定は、二酸化炭素排出量が最も多い中国に対する圧力だけでなく、原子力発電が低迷している日本への警告でもあります。日本は約3割のエネルギーを石炭火力発電に依存しており、当時の菅首相は国内の石炭火力発電を縮小する方針を表明しました。
この背景から、日本では石炭からバイオマスなどの再生可能エネルギーへの転換が不可欠となります。
バイオマス発電は環境に優しいエネルギー供給方法として期待されていますが、敷地面積に制約がある島国日本では、原料調達や技術開発の課題が存在しています。地域と連携し、政策支援を活用することで、バイオマス発電の普及が進むことが期待されています。
今後の技術開発や社会的な取り組みが進めば、バイオマス発電は日本のエネルギー戦略でますます重要な役割を果たすことが予想されます。このような取り組みにより、日本のエネルギー供給が環境に配慮したものへと移行するでしょう。
参照元:
・頓挫か持続か?バイオマス発電の将来性|Energy Shift
・石炭火力の輸出支援、首相が年内終了を表明 G7で足並み|日本経済新聞