最も知名度の高い宗教のひとつ「イスラム教」
そんなイスラム教が語られる際には、「女性差別」という言葉が対になるのも少なくありません。
近年話題になっている女性差別の問題解決を目指すことは、人種や障がい、民族などすべての差別を改善していくきっかけになります。
イスラム教で語られる女性差別問題から、わたしたちが今日からできることを見つけられるかもしれません。
この記事では、何故イスラム教と女性差別の関係が深いのかや何が本当の意味での差別になるのか、SDGsとの関係などを詳しくご紹介します。
イスラム教とは
イスラム教とは、7世紀初め創始者ムハンマドによって創られた唯一絶対の神アッラーを信教する宗教です。
パキスタン、インド、バングラディッシュなどの東南アジアを中心に、世界三大宗教の一つとして信者数は19憶人とキリスト教に並ぶ信者数の多さです。
イスラム教を信仰する人は「ムスリム」と呼ばれ、アラビア語で「神に帰依する人」を意味します。
メインの宗派はスンニ派とシーア派に分かれていて、ムハンマドの後継者の考え方に違いがあります。
簡単に言うと「ムハンマドの子孫を後継者にするべき」と考えるのがスンニ派、「血筋ではなく能力や実力で後継者を決めるべき」と考えるのがシーア派です。
基本的には同じ宗教で教義に大幅な違いはないため、教義についてではなく労働や資源確保など経済的利権を理由に対立してしまうこともあります。
文化や宗教が絡み合うイスラム女性差別と人権問題
イスラム教は女性の行動や権利を制限し、差別するようなしきたりがあると感じる人が多いかもしれませんが、本来は男女平等を目指して聖典「コーラン」が作られました。
というのもイスラム教が布教する前の7世紀のメッカは、法律も秩序もない常に戦争状態で完全な男性優位社会でした。
そんな中、人減らしのために生まれたばかりの女児を埋める慣習をなくしたのがイスラム教で、女性の地位向上や自由意志と一定の権利を持つよう定義されたと言われています。
基本的にイスラム教は女性を差別しているわけではなく、女性と男性を区別しお互いで助け合いながら生きていくための宗教という考えなのです。
例えば、現在の慣習では「出産は女性がしないといけないため、労働の義務があるのは男性だけ」や「生理期間中は断食や礼拝が免除」されたりします。
しかし、もともと部族文化の強いイスラム圏では、コーランの内容を自分が優位になるよう都合よく解釈したり、部族社会特有の悪習により女性差別や女性蔑視に直結しているケースがあることも事実です。
現在のイスラム教と女性の暮らし
時代の変化やムスリム自身がイスラム教の在り方に疑問を感じ、女性差別や女性蔑視に該当する慣習は廃止していこうといった運動も各地で広がりつつあります。
トルコやパキスタンなどでは政府の上層部や首相に女性が抜擢されたり、家庭内暴力の禁止や女性から離婚を言及できるように法律が改正されたりもしています。
このようにイスラム教の在り方を改善していくことはもちろん、慣習を他人に強要されたり、避難や偏見を持たれたりすることなく本人がやるかやらないか自由に選べるように改善していくべきだと思います。
ヒジャブ(スカーフ)
ヒジャブはアラビア語で「覆うもの」を意味します。
日除けになったり砂ぼこりから身を守ったりという物理的な理由と、男性を誘惑しないようにあえて美しさを隠すというコーランの教えを守るムスリムのアイデンティティの象徴でもあります。
ヒジャブは、巻き方や生地は多種多様でそれぞれが自分の好みやTPOに合わせておしゃれを楽しんでいたりもします。
ヒジャブが女性の服装を制限しているとして廃止する動きが一部で強まっていますが、ヒジャブを大切に思って身に着けている人もいるという理解が必要です。
モデルのハリマ・アデンさん(以下ハリマさん)は、ヒジャブを着用したモデルとして初めてファッション雑誌「VOGUE」の表紙を飾ったり、印象的なメッセージを発信したりしたことがファッション業界の多様性のあり方を考えさせられるきっかけになりました。
ハリマさんは、「もしわたしのヒジャブが象徴されないのであれば、私はもう表舞台にはでません」と言いました。
メディアでは引退宣言との受け取り方をされたようですが、難民キャンプで生まれ育ったイスラム教徒である彼女自身の真の多様性を追求していく決意表明であったと明かされています。
ハリマさんは、モデル活動を通してイスラム女性に対する偏見や差別と戦い、難民キャンプで過ごす子どもたちの支援を行ってきました。
ハリマさんにとってヒジャブはかかせないものでありながら、現状のファッション業界では彼女が考える、ヒジャブの在り方や伝統を正しく表現するのが困難だと葛藤しています。
ヒジャブを付けたくない女性や、逆に好きでヒジャブをつけている女性が暴行されたりセクハラ被害に遭ったりする事例もあるため、制度改正より先にヒジャブについての正しい知識の浸透が重要です。
参照元:「ヒジャブが尊重されないなら、もうランウェイは歩かない」──真の多様性を求めるハリマ・アデンの決意。【戦うモデルたち】|VOGUE
一夫多妻制
一夫多妻制は、4人まで妻を持つことを許される制度です。
もともとは戦争で夫を亡くした女性を救済するための制度で、生活費などの扶養面を4人まで許されている妻帯者すべて平等に扱う義務があります。
実際は金銭的な問題もあり、ムスリムに4人もの妻帯を持つ人は稀で、現在の妻の許可なくして2人目以降の妻は持てなかったり、妻側から離婚を選択する権利もあります。
また、一夫多妻制が浸透しているのはイスラム教だからというわけではなく、地域の経済的理由や伝統、文化でもともと一夫多妻制を採用している人たちもいます。
一夫多妻制は女性蔑視や男尊女卑の代表例として認識されていますが、イスラム教の一夫多妻制は理論上では女性が不利にならないような制度になっています。
しかし、女性側に経済力がなかったり、イスラム教を信仰する部族の伝統として家族に迷惑をかけないように当事者の女性が自由に単独で判断することは難しく、夫側に従うしかない場合もあります。
これは日本でも言えることですが、女性自身の経済力をつけるシステムや救済措置を確率する必要があると考えられます。
誤ったイスラム教の解釈から生まれた「女子割礼」や「名誉殺人」
イスラム教の慣習として女性が大人になった儀式として女性器を一部またはすべて切除したりする「女子割礼」や、婚前交渉や駆け落ち、未婚の妊娠など不貞行為をした女性を親族の男性が殺害する「名誉殺人」など、しばしばイスラム教と関連付けて話されています。
しかし、それらの過激で残酷な慣習はコーランに記載もなく、イスラム教に由来しているわけでもありません。
イスラム教は紛争地帯や部族社会が根強い国や地域での信者も多いため、もともとそういった慣習があり、偶然もしくは意図的にイスラム教と紐づいてしまったと考えられます。
例えばコーランには男女の貞操をまもり、不貞をはたらいた際は罰則を行うという教えもありますが、罰則を暴力や殺人で行うという教えはありません。
宗教に問題があるのではなく、それを悪用する人間側に問題があるのです。
SDGsとイスラム女性差別との関係
SDGsとは「Sustainable Development Goals」を略した言葉で、持続可能な開発目標として世界共通の2030年までに達成するべく設定された17の目標です。
SDGsとイスラム女性差別との関係については、SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」と深い関係があるように感じます。
しかし、イスラム女性差別についてはSDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」のみではなく、すべての問題と深く複雑に関係しています。
特に紛争地帯や貧困地帯のある国は、SDGs17すべての目標に関わる課題を強く抱えています。
イスラム女性差別の根源にあるのが、そんな国や地域自体の社会的、経済的な問題です。
女性差別というひとつの問題だけでなく、それらの多くの問題がイスラム教の慣習や教えと絡み合ってしまっているため複雑化し深刻化しています。
イスラム教と女性差別から考えるわたしたちにできること
イスラム教と女性差別について考えられる改善ポイントは、「イスラム教徒の女性に教育や経済的支援、自立へのインフラを整えることで選択の自由を持ってもらうこと」と「イスラム教に対する正しい理解」の2点だと考えています。
現地で直接何か支援をするのは、なかなか難しいかもしれませんが今日から私たちができることをまとめてご紹介します。
正しく知ること
イスラム教に限らず、宗教には歴史と信仰する人の想いが詰まっています。
何故その宗教ができたのか、何故厳しく守られている慣習があるのか知ることでその国の人々の理解に繋がります。
わからないことには恐怖を感じたり、攻撃したくなったりしたくなります。
その宗教に対するネガティブな情報も何故そういった情報が流れているのかきちんと理解することで、知らず知らずにしてしまっていた偏見や差別を減らしていけると考えています。
自分事としてとらえること
イスラム教の女性差別は、異国の問題で他人事のように感じるかもしれませんが、まったく無関係な人はいません。
イスラム教の根本の考えは男女平等なので現代用にアップデートする必要はありますが、女性の社会進出を推進していく上で参考になる部分は多々あると感じています。
また、多様性が求められる世の中で、イスラム教を信仰する人と実際に仕事をしたり、プライベートで関わったりする機会も出てくると思います。
無関心は人を傷つけたり、逆に傷ついたりすることもあるかもしれません。
相手の気持ちや状況を想像したり考慮したりできるようにしておくことが、女性差別だけでなく人種差別を減らしていくことに繋がっていきます。
支援団体などに寄付すること
イスラム教の女性差別の根本の問題は、宗教自体ではなく紛争地帯や貧困層が多い地域などでの社会的な問題です。
そういった地域の子どもたちや女性など、立場の弱い人々への支援は必要不可欠です。
具体的には、医療や教育、インフラなど様々な課題に対しての問題解決を目指している団体への寄付や募金で間接的に直接的な支援ができます。
大規模な団体から小規模な団体まで、NPOやNGO、公益財団法人など組織形態や事業内容も様々なので「こんな団体もいるんだ!」という新たな発見もできます。
気に入った団体がいたら可能な人は小額からできる寄付や自宅にいてもできるボランティアなどの形で支援してみてはいかがでしょうか?