認定NPO法人あおぞらは世界の各地で医療支援を行っています。
理事長の葉田さんは大学生の時、150万円でカンボジアに小学校が建つことを知り、仲間と共に実現した過去があります。その体験は「僕たちは世界を変えることができない。But We wanna built a school in Cambodia.」というタイトルで書籍化、向井理さん主演で映画化されました。
葉田さんは大学卒業後もカンボジアでの活動を続け、NPO法人あおぞらを設立。仲間とともに世界各地で医療支援を続けています。
今回は認定NPO法人あおぞらの活動について、理事の大音さんと、プログラムディレクターであり小児科、新生児科医の嶋岡さんにお話を伺いました。
認定NPO法人あおぞらについて
(左:大音さん、右:嶋岡さん)
ーーまず、認定NPO法人あおぞら(以下、あおぞら)設立の経緯を教えてください。
大音さん:理事長の葉田が大学生の時に仲間とともにカンボジアに学校を設立しました。その後、医師となった葉田がカンボジアで活動している中で、新生児を亡くした母親と出会ったのが保健センター設立のきっかけです。当時、葉田は医者になっていたので、救えるはずの命に目が向いたのだと思います。
ーーあおぞらにはどんなメンバーが集まっていますか?
嶋岡さん:私個人のことで言うと、元々はブータンで新生児科医として働いていました。葉田がカンボジアの活動の仲間を探している時に、彼からそれはそれは熱いオファーのメールをもらいました。その時から一緒に活動させてもらってます。
大音さん:私は元々あおぞらの支援者でした。あおぞらでは、支援者もプロジェクトに参加する形を取っています。あおぞらにコミットするようになったのは、コロナ禍にカンボジアの小学校に手洗い場を建設するというプロジェクトです。クラウドファンディングを立ち上げ、主に建設にかかる資金集めに奮闘しました。
ーーあおぞらの特徴はどんなところでしょうか?
嶋岡さん:あおぞらは参加型のプラットフォームでありたいと願っています。支援者はただお金を支援するのではなく、一緒にアイディアを出したり、現場に行ったりしてほしい。例えば、プロバスケットボール選手の寺嶋良選手とコラボをして、カンボジア僻地のサンブール地区40世帯に浄水フィルターを設置しました。他にも高校生とコラボし、サンブール地区にトイレを建設する活動をしています。
大音さん:2020年にはNPO法人から認定NPO法人になりました。支援者が寄付に対して、控除を受けられるようになったので、より支援しやすくなりました。認定NPO法人になるには、経理や活動内容などを含め、情報を正しく公開できているかがポイントになっているので、団体の信頼の向上にもつながっています。
カンボジアで保健センターを建設
(サンブール保健センター)
ーーカンボジアで保健センターを開業する際に、何が課題でしたか?
嶋岡さん:カンボジアのサンブール地域には元々古い保健センターがありました。かなりボロボロで、出産中に天井が壊れるなんてことも。そういった状況下では出産は厳しいので、地域の母親たちの多くが家で出産。医療が整っていないので、出産のトラブルが耐えずありました。さらに地域の文化では、出産は不浄なものとして捉えられています。赤ちゃんを浄化するために、煙でいぶす文化があり、健康を損なう可能性があります。
保健センターは出産だけでなく予防接種や薬の処方をする機能もあるのですが、古い保健センターにはあまり備わっていませんでした。
ーーどのように保健センターは運営されていますか?
嶋岡さん:保健センターのスタッフは現地で採用されるか、政府から派遣されています。保健センターの開院当時、私は現地に行き、指導に当たりました。生まれた直後の赤ちゃんは息をしていないことが多いので、蘇生する技術が必要です。その新生児蘇生法を現地のスタッフにレクチャーしました。サンブール保健センターのスタッフはまじめで、定期的に教えた内容を復習する講習を行っています。
現在ではあおぞらが保健センターの運営に介入することはほとんどなく、現地に任せています。あおぞらが変えていくのではなく、現地の医療者が医療を変えていく必要があると考えているからです。私たちは今は見守るという意識が強いですね。
ーー保健センターを開院するにあたって、地域の文化との軋轢はありませんでしたか?
嶋岡さん:現地では医療体制が乏しかったので、住人たちは医療を欲していました。政府に求めていましたが、なかなか叶わず諦めの気持ちがあったようです。そのため新しい保健センターは歓迎され、軋轢はなかったように感じます。
ーー保健センターを設立後、地域の住人の反応はどうですか?
嶋岡さん:センターが新しくなってから、センターでの分娩数が2倍になりました。家で産んでいた母親たちがセンターで出産するようになったからです。
また以前は出産後すぐに家に帰っていたため出産後の経過観察ができず、家で出血したり、他の病気に感染するケースがありました。新しいセンターでは出産後に滞在できるので、経過観察ができるようになりました。さらに前は妊婦健診の習慣がほとんどありませんでしたが、今では検診に来てくれるようになっています。
保健センターは地域の住人が集まる場所として機能していて、コミュニティが豊かになっているような印象です。
子どもたちに綺麗な水を届ける
ーーカンボジアで「水衛生環境改善プロジェクト」を始めたきっかけを教えてください。
大音さん:サンブール地区の小学校では、手洗い場がないか、数が足りていない状況でした。溜池の水や雨水を使って手洗いしていたのですが、それは不衛生な水です。また子どもが溜池に水を汲みにいくのですが、池に落ちてしまう危険性もあります。
ちょうど新型コロナウイルスの時期と重なり、手洗いの重要性が高まっていました。私たちはサンドフィルターという溜池の水や雨水を濾過する装置を各学校に設置する取り組みを始めました。クラウドファンディングで資金を調達し、6つの小学校にサンドフィルターと、衛生的な水が出る手洗い場を設置しました。
ーー手洗い場の設置後、現地の反応はいかがですか?
大音さん:手洗いをしている様子のビデオレターが届きました。笑顔でしっかり手洗いしていて、私たち日本人よりちゃんと手洗いをしている印象です(笑)。
サンブール保健センターのスタッフが定期的に手洗いの指導を行っています。スタッフたちもプライドを持って仕事しているようです。
さらに水質改善プロジェクトを進めていくうちに新たな課題が見えてきました。トイレの問題です。サンブール地区では、約300人の生徒に対し、男女ともにひとつずつしかトイレがないという小学校もありました。そのため野外排泄が多く、雨季になると浸水するため、菌が蔓延してしまいます。そういった不衛生の環境下で裸足で遊ぶ子どもたちが多く、下痢性疾患を引き起こし、亡くなる子もいます。現在では、国際協力に関心のある高校生と共にクラウドファンディングで資金を調達しトイレを増設しています。
まとめ
今回ご紹介した取り組み以外にも、あおぞらは様々な地域で活動しています。
例えばラオスでは医療者の教育に力を入れています。なぜなら妊産婦死亡率と乳幼児死亡率が東南アジア地域の中でも高く、医療者への技術指導、医療知識の普及活動が必要とされているからです。保健科学大学で新生児蘇生のインストラクターを育成する講習を行っています。
このように医療者に対するアプローチにも力を入れているそう。あおぞらの支援がなくなっても、自走できるように教育することが大切だと嶋岡さんは言います。持続可能な支援を目指し、地に足をつけた活動が印象的でした。