ドイツの風力発電は、かつて「失敗」と評されていたことがあります。
現在、風力発電は陸上発電と洋上発電に分けられます。
このうち、ドイツの風力発電が失敗と言われた背景には、陸上風力発電が新設できずに伸び悩んでいる現状が関係しています。
世界的に再生可能エネルギーへの切り替えが急務である中、なぜドイツの陸上風力発電は伸び悩んでいるのでしょうか?
この記事では、ドイツの陸上風力発電が伸び悩む理由について解説します。
再生エネルギーの利用割合を増やすために欠かせない風力発電を活用するため、ドイツがおこなっている対策もあわせて紹介します。
ドイツにおける風力発電の近況
以下のグラフは、再生可能エネルギー導入状況の国際比較です。
出典:令和2年12月15日 洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会資料内 洋上風力産業ビジョン(第1次) 概要
2018年時点でのドイツにおける再生可能エネルギー利用の割合は、35.3%となっています。
この割合は他国と比較しても高く、環境対策をリードするEUの中でも高い割合です。
さらに2020年には、この割合を44.6%にまで伸ばしています。
2018年の風力発電の利用割合を見ても17.3%と、スペインに次いで高い割合です。
こうした状況を踏まえると、ドイツの風力発電の利用割合において決して「失敗」とは言えません。
しかし、一部で「失敗」と評された理由は、陸上風力発電量の伸び悩みにありました。
ドイツ政府は、2020年の陸上風力発電の設備容量が54GW(ギガワット)であるのに対し、2030年までに30%増加させて71GWに到達させる目標を掲げています。
しかし、2018年から3年間の増加量は約4GWとなり、伸び悩みを見せているのです。
ドイツの陸上風力発電が伸び悩む理由
ドイツの陸上風力発電は、なぜ2018年から伸び悩んでいるのでしょうか?
これには大きく2つの理由があります。詳しくみていきましょう。
動物保護団体による 風力発電所の建設反対
まずは、動物保護団体からの建設反対です。
建設反対の理由は、発電に必要となる巨大なプロペラに鳥類が巻き込まれる事故が起こり、危機に瀕していることです。
飛行機のプロペラでも発生している、鳥類のプロペラへの巻き込みは「バードアタック」「バードストライク」と呼ばれます。
風力発電の建設によって「バードアタック」や「バードストライク」が増え、鳥類が命を落とすだけでなく生態系も壊しかねないと危惧した動物保護団体が、看板を立てて風力発電反対の意思表示をしています。
近隣住民による風力発電実施の反対
風力発電所の近隣住民からは、「景観が損なわれる」「体調不良が起きる原因である」と実施中止を求められています。
風力発電は風力によってプロペラの回転が起きると同時に、低周波を発生させます。
この低周波が長い時間をかけて健康被害をおよぼし、近隣住民は耳鳴りや吐き気を感じるようになったのです。
近隣住民によって訴訟がおこなわれた結果、住民の勝訴となり、健康被害の原因となった風力発電は撤去されました。
この裁判をきっかけに風力発電実施の反対運動をおこなう国民が増え、新たな発電所の建設ができないあるいは遅延することとなりました。
ドイツが風力発電割合を増加させるためにおこなっている対策
陸上風力発電所の建設に対する各反対運動によって、新たな建設が困難となる中、ドイツ政府はどのような対策をとっているのでしょうか?
洋上風力発電への切り替え
風力発電はドイツにとって、再生可能エネルギーへの切り替えの要となる発電方法です。
そのため、各反対運動を受けて風力発電そのものをなくすことはできません。
しかし、特段の対策をせずに国民との対立を生むことは不本意であることから、新たな方法として風力発電を海洋上に設けることとしました。
この動きは現在、ドイツに限らず欧米、そして日本でも始まっています。
ドイツ政府は、2040年までに洋上風力発電による設備容量を40GWに引き上げることを目標としています。
陸上風力発電の実施に対する ルールの設定
陸上風力発電の新設が困難となる一方で、既存の陸上風力発電装置を一切使用しないことは、再生エネルギーへの切り替えの大きな障壁となります。
そこで洋上風力発電の導入とあわせて、ドイツ政府は発電用風車の建設に関し居住地から数百m~1km離さなければ建設不可とする規則を設けたり、陸上風力発電による利益の一部を住民に還元する対策をとっています。
まとめ
世界全体で再生エネルギーへの切り替えによってCO2排出量の削減が求められる中、ドイツは風力発電に対する国民からの実施反対により、板挟みの状況が続いています。
発電施設を洋上に移すことで人的被害は抑えられるものの、鳥類への影響は変わらず、新たに海洋生物や水質環境への影響も考える必要があります。
再生エネルギーへの切り替えは急務ですが、発電施設の新設によって現存する自然との調和という新たな課題が生まれている事例となります。
私たち個人ができることとして、ドイツが今後どのようにこの問題を解決するのか見守りつつ、自分事として捉えたうえでどのように行動すべきなのかさまざまな立場を想定して考えたいものです。
参照元:
・嫌われ者になったドイツの風力発電は危機的状況に│キャノングローバル戦略研究所
・令和2年12月15日 洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会資料│洋上風力産業ビジョン(第1次) 概要
・陸上風力発電量が拡大するも、温室効果ガス削減目標達成には一層の加速が必要│独立行政法人日本貿易振興機構HP