世界中でCO2排出量の削減が叫ばれる中、有害な排気ガスを一切出さず、モーターのみで走行する電気自動車(EV車)の需要が高まっています。
いわゆるEV車の普及率が世界一高い国が、北欧ノルウェーです。
首都オスロはヨーロッパで最も環境改善に取り組む都市として、欧州グリーンシティ賞を受賞しています。
「環境に優しい街づくり」とはどういうことでしょうか。なぜ、ノルウェー人は環境保護に積極的なのでしょうか。その背景を見ていきましょう。
電気自動車が世界で一番売れる国
電気自動車メーカー、テスラの販売シェアトップを誇るノルウェー。
新車販売に占めるEV車の割合は54%に達しており、21年中に65%まで上がると予測されています。
日本のEV普及率が1%にも満たないことを踏まえると、いかにノルウェーが環境先進国であるかが分かります。
なぜ電気自動車がこんなにも普及しているのでしょうか。
背景には、政府による手厚い補助と充実したインフラ設備があります。
北欧といえば高い税金が有名ですが、EVの購入については購入税25%が免除されます。
さらに、EV運転者は有料道路や駐車場利用料が免除になったり、ラッシュ時にバス専用レーンを通行できたり、市民にとって魅力的なインセンティブが充実しているのです。
電気自動車が普及し始めた5~6年前には、充電インフラの不足が課題となっていましたが、現在はコンビニやガソリンスタンドにEV充電器が設置されており、どこでも充電が可能になったことで、EVの普及率も増加していきました。
ノルウェーは、2025年までに、販売するすべての乗用車をEV等のゼロエミッション車にすることを目標としています。
「カーフリー化」を進める首都オスロ
電気自動車へのシフトチェンジのみならず、都市を走行する車の数自体を減らす取り組みも進められています。
首都オスロは、都市部への車の出入りを制限する「カーフリー」政策を導入しています。
具体的には、オスロ中心部に1,000以上設けられていた駐車スペースを無くし、歩行者天国化を促進してきました。
道路には、自転車専用レーンが増設され、街中にレンタル自転車や電動スクーターが設置されています。
公共交通機関においても、バイオガス燃料のみで走るバスやEVタクシーが増加しています。
これらの取り組みの結果、排出ガスの削減のみならず、オスロ市は2019年に歩行者の交通事故死ゼロを達成しました。
リサイクルの日常化
CO2の削減に加えて、日々の生活の至る所でサステイナブルなライフスタイルが定着しています。
エコな活動といえば、リサイクル、をイメージする方も多いのではないでしょうか。
なんとノルウェーのペットボトルリサイクル率は97%。
スーパーに設置された専用の回収機に、ペットボトルや空き缶を投入すると、お金に換えることができます。
飲料製品に容器代を上乗せして販売し、回収する際にそのデポジットが返金されるというデポジット制度が導入されているためです。
また、要らなくなった衣服や家具等を処分せず、リユースする取り組みも盛んです。
回収ボックスが全国各地の駅や大通り沿いに設置されており、回収されたモノは、フレテックスと呼ばれるセカンドハンドショップにて低価格で販売されます。
北欧ならではの家具や食器も並び、古着屋やリサイクルショップに持ち込む手間なしで、次の持ち主へと引き継がれるサステイナブルなシステムです。
自然と共生する精神性「フリルフスリフ」
こうした制度面の充実が環境と人に優しい社会の実現に一役買っていることは間違いありませんが、何よりノルウェー人の環境意識の高さがエコな行動の基盤となっているのではないでしょうか。
ノルウェー人は古来より、「フリルフスリフ」と呼ばれる文化を大切にしてきました。
一言でいえば、自然の中で、自然と調和し暮らす、という生活スタイルのことです。
フィヨルドや山々といった豊かな自然に囲まれ、冬にはスキーやキャンプファイヤーを楽しみ、夏には湖で泳ぎ太陽の下で日光浴をする。
自然からの恩恵を受け、共に生きていくため、環境を積極的に保護することは当たり前である、という精神性が根付いているのです。
ノルウェーは森林教育の先駆者であり、1980年代から、子どもたちの環境意識の向上のため森林教育を行ってきました。
森林保全が持続可能な生活を送るために必要不可欠であることを、実践を通して子どもたちに教えています。
若者がリードする環境保護活動
若者の環境活動家といえば、スウェーデン出身のグレタ・トゥーンベリさんが有名ですね。
ノルウェーでも、若者による環境保護活動が勢いを増しています。
国内で最大規模を誇る環境保護団体Nature and Youth(ネイチャーアンドユース)は、25歳以下の若者によって構成され、市民に環境問題の緊急性を訴え、政府に早急な対策や措置を取るよう働きかけています。
全国に60以上の地域グループを持ち、8,000人を超えるメンバーが活動しています。
未来を生きる若者が自ら声を上げ、行動することは、持続可能な社会の実現にとって欠かせません。
まとめ
ここまで、環境先進国ノルウェーのサステイナブル社会の仕組みと背景をみてきました。
遠く離れた国のようですが、日本とノルウェーの面積はほぼ等しく、豊かな海や山、大自然に囲まれている点も共通しています。
国籍を問わず、私たち一人ひとりが地球市民として、自然と共に生きている、という自覚を持ち、環境に配慮した生活に転換していくことが必要です。
車の代わりに電車や自転車を使う、不要になったモノをリサイクルショップに持ち込む、ペットボトルの代わりにマイボトルを使用する、環境問題について声を上げる。
私たちができることは多くあり、行動した分だけ持続可能な社会に近づくことができます。
少し言いづらいけれど、メッセージは至ってシンプルな「フリルフスリフ」を合言葉に、環境にも人にも優しいグリーンな共生社会を築いていきましょう。
・ノルウェー、EVシェア通年でも過半に 20年54%|日本経済新聞2021年1月6日
・EV/PHV普及の現状について|国土交通省HP
・普及率世界一 ノルウェーの電気自動車導入促進策|公益財団法人 日本自動車教育振興財団HP
・歩行者の交通事故死ゼロのオスロ、その秘密は「クルマが走らない都市づくり」にあり|産経新聞2021年2月13
・回収率97%。ノルウェーはどうやってプラスチックをリサイクルしている?|ハフポスト2018年8月28日
・LEAF|環境教育基金FEE Japan HP
・Nature and Youth – Young Friends of the Earth Norway