日本唯一の羽毛専業メーカーである河田フェザー株式会社(以下、河田フェザー)は、小売店への古い羽毛布団などの回収ボックス設置や地方自治体との連携により、羽毛のリサイクル事業に積極的に取り組んでいます。「ペットボトルのように、羽毛もリサイクルするのが当たり前の世の中を実現したい」と語る、河田フェザー 広報の平屋有加里様に、MIRASUS編集部がお話を聞きました。
<プロフィール>
河田フェザー株式会社
広報 平屋有加里様
羽毛ビジネスは、そのものがリサイクル事業である
──河田フェザーさんはリサイクル羽毛に力を入れていますが、リサイクルされる羽毛はどのように入手されているのですか?
平屋有加里様(以下、平屋様):入手経路は2つあります。1つ目は一部の寝具店舗、アパレル店舗、大型ショッピングモール、スーパー、クリーニング店などの協力店に回収ボックスを設置し、羽毛布団などを一般の方から回収する方法です。
2つ目は行政と提携し、いわゆる「粗大ごみ」として自治体に出されたものを回収する方法です。日本では、使わなくなった羽毛布団はほとんどが焼却処分されているのが現状で、焼却処分される予定の羽毛布団を我々が引き取ってリサイクルしています。回収された羽毛は、後者の方が割合は大きいです。
──バージン羽毛の割合が減り、リサイクル羽毛の割合が増えているそうですが、なぜでしょうか?
平屋様:まず前提として、羽毛を採取する水鳥は食肉用として育てられているので、羽毛ビジネスは食肉産業の動向に大きく左右されると言えます。
その上で、良質な羽毛は体の大きな食用水鳥から採取されるのですが、昨今の食用鳥は身体が小さくなっていて、大きく良質な羽毛が採取しづらくなっています。食用鳥が小さくなっている主な原因として、人口減少や1家族あたりの人数が少なくなったことにより、冷凍がしやすい小型の肉の需要が高まってきたことが挙げられます。また、食肉市場では効率よく肉を成長させるための品種改良が並行して進み、飼育期間は短期化し、羽毛に成長が十分に行き渡らなくなっています。
そのような鳥からは良質な羽毛はごくわずかしか採取できません。そこでバージン羽毛に代わり、リサイクル羽毛に注目が集まるようになったのです。
──食肉業界と羽毛業界が密接につながっているのですね。お話をお伺いするまでは、てっきり羽毛は生きている鳥から採取されているのかと勘違いしていました。
平屋様:「羽毛は生きている鳥から採取している。だから動物愛護の観点からも羽毛を使わない」という方が時々いらっしゃるのですが、基本的には生きたままの鳥から非人道的に羽毛をむしりとる行為(ライブハンドピック・ライブハンドプラッキング)は2012年ごろから動物愛護の観点で禁止されており、当社でもそのような羽毛の取り扱いはありません。
弊社代表の河田は「羽毛ビジネスは、それ自体が畜産の副産物でリサイクル事業だ」と考えています。
羽毛は100年間使うことができる貴重な資源
──バージンとリサイクルに品質の違いはあるのでしょうか?
平屋様:実はリサイクル羽毛は、バージンのものよりもきれいなことがあります。なぜなら製品として使用されていく過程でアカやホコリがはがれ落ちていき、リサイクルの過程でさらにきれいに洗浄されているからです。
さらに、羽毛は適切に処理すると100年間は使うことができると言われています。リサイクル羽毛を長持ちさせるには、傷めずに洗うことがとても大切です。弊社では洗浄水はもちろん、洗剤も環境に配慮したオリーブオイル系のマルセイユ石鹸を使っています。
──リサイクル羽毛について、お客様からはどのような反応がありますか?
平屋様:捨てられるはずだったダウン製品を回収し、リサイクルを行う「Green Down Project」で反響をいただいています。当社は「Green Down Project」の一員として、羽毛の洗浄加工の役割を担っています。
最近では、店舗で「リサイクルダウンを使用しています」というタグを見たから購入したというお声をいただくことが多くなりました。SDGsの意識を持たれている方が増えたと感じています。
──リサイクル羽毛の割合は今後さらに増えていくのでしょうか?
平屋様:増えると思います。良質な羽毛の確保は業界全体の課題です。今後はおそらく、羽毛そのものが欲しくても手に入らないような高級品となるでしょう。すでに世の中に出ているダウンジャケットや羽毛布団に使われている高品質な羽毛を、再利用する必要があります。
弊社が2025年2月時点で回収している羽毛の量は、年間およそ100トンほどです。1枚の布団に使われる羽毛はおよそ1キロほどですので、布団10万枚分の羽毛に相当します。2030年までに年間300トンの回収を目指しています。
羽毛リサイクルが当然となる世の中へ
──羽毛のリサイクルが進んでいくためには、何が必要でしょうか?
平屋様:まずは、リサイクルに出しやすい環境を作ることだと思います。現在、羽毛製品の回収ボックスの設置は全国のふとん店やショッピングモールなどが主ですが、例えば大学など、学生に身近な場所に設置できたら若い世代にも羽毛リサイクルに協力いただけると思っています。
また、リサイクル羽毛の機能性の高さについて認知を広げる必要があります。リサイクルと聞くと「いろいろな羽毛が混じることで品質にバラつきが出るのではないか」と心配される方がいらっしゃいます。しかし実際にリサイクル羽毛を活用したダウンジャケットをご着用いただくと、バージンと変わらない保温力や耐久性に感動していていただけることも多いです。何の遜色もないことを、より多くの方に知っていただく必要があると感じています。
──若い世代が羽毛のリサイクルのためにできることはありますか?
平屋様:例えばおばあちゃんの家に行くと、客用の古い布団がある場合がありますよね。そういった布団には高品質な貴重な羽毛が使われていることが多くあります。弊社にとっては、リサイクル羽毛になりうる宝物のような布団です。もしそのような使われていない羽毛布団があったら、リサイクルできないか考えていただきたいです。
若者世代は上の世代よりも環境問題の意識が高いように思います。もし実家や祖父母の家で、使われていない羽毛布団を見かけたら、親御さんたちにリサイクルを提案してもらいたいです。
──遺品だった場合、思い入れがあるので手放しにくいと思うのですが。
平屋様:弊社はリフォームも行っています。例えばおばあちゃんの羽毛布団を解体して洗浄し、羽毛を補充して新しい生地に詰め替えて、新しい布団に変身させることもできます。
──思い入れはそのままに、日常で使えるアイテムに変身しそうですね。では、最後に今後の展望を教えてください。
平屋様:ペットボトルは分別してリサイクルするのが当たり前ですよね。それと同じように「羽毛はリサイクルするもの」という考えが当たり前になる世の中を実現したいと考えています。羽毛を捨てようとする人がいたら「そんなのナンセンスだよ。リサイクルしなきゃ!」と言い合えるような社会が実現することが理想です。
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