27カ国が加盟するEU。単一市場を完成させ、共通通貨ユーロを流通させていますが、政治や経済の統合については、加盟国間での調整が難しく、国ごとの経済格差があります。
今回は、EUの経済格差がどのように生じたかを、EU設立からさかのぼって解説するとともに、コロナがEUの経済格差にどのように影響を与えているのか考えてみましょう。
EUの設立背景
EU(European Union・欧州連合)は、欧州域内の経済的統合を目指して発展してきた欧州共同体(European Community:EC)を基礎に、1993年11月に創立されました。
私たちは「欧州」とひとくくりに考えがちですが、ヨーロッパ内はもともと文化や人種、宗教や価値観が大きく異なる国の集まりです。
だからこそ、長い間紛争や戦争を繰り返してきた歴史があります。EUはそうした歴史の反省から設立されたものです。
EU加盟国間では共通外交・安全保障政策が実施されるとともに、欧州市民権が導入されましたので、ビザなしに異動や就労ができます。
そうなると、ドイツやフランスなどの「法律が整備されていて、経済が好調な国」に職と人がどんどん移動していきました。
もともと貧しかった国や地域は人口が流出して経済が悪化しました。
EUにおいては、一部の立法権や通貨金融政策がEUによって定められるため、国の経済が悪くなっても自国で債券の発行や通貨流通量を制限できません。
これまで自国通貨を切り下げることで競争力を保ってきた加盟国は、賃金引き下げか、労働生産性向上によって生産コスト引き下げるしかなくなります。
リーマンショック以降の緊縮財政も追い打ちをかけ、貧しかった国はますます貧しくなってしまいました。
では、豊かな国なら大丈夫かというとそうではありません。貧しい国からの移民により、国内の雇用が奪われるだけでなく、彼らに対して教育・医療などの社会公共サービスの提供が負担になり、治安にも問題が生じるようになっていったのです。
EUの現在の加盟国は27か国。2016年6月23日、英国ではEU離脱の是非を問う国民投票が実施された結果、2017年3月29日にEUに対して正式に離脱を通告し、2020年12月31日をもって正式に離脱しています。
EUにおける経済格差とは?
EU加盟国の中には、豊かな国とそうでない国とがあります。
一人当たりの 国民総所得(GNI) は、ドイツやフランスは4万ドル以上ですが、財政危機したギリシャなどは1万ドルを切る貧しさです。
2004 年にはEUが東方拡大したので、新たに加盟国となった中東欧が最も貧しい国に替わっています。
EU内の所得格差については、国別の格差は「南北問題」が知られていました。これは、北欧が比較的豊かで、南欧が貧しい国が多いことに由来します。
ドイツを代表とする北ヨーロッパ諸国は高い GDP を達成する一方、南欧の危機国は前者では EU 平均を下回り中・東欧諸国グループに吸収され、赤字と巨額の債務を抱えている状況です。
これに加わって、所得水準の低い中東欧諸国の加盟によって「東西問題」も表面化してきました。
EUにおける経済格差はなぜ生まれたのか?
東欧諸国の市場経済化、グローバル化が進み、情報通信技術(ICT)の発展したことによって、国際競争が激しくなる一方です。
企業は競争に勝ち抜くために、生産拠点を安い労働力が得られる海外に移します。結果として、産業は空洞化して失業者が増えました。
もちろん、 IT リテラシーの高い技能労働者など、グローバル化によって恩恵を受けた職種もあります。
しかし、日本でもそうであったように、グローバル化は中間層を衰退させてしまいました。
金融サービスやIT産業など知識集約型産業に従事する「勝ち組」と、低賃金のサービス労働や低技能労働に従事する「負け組」に別れてしまったのです。
さらに追い打ちをかけたのがコロナです。「勝ち組」職種は、テレワークを導入し、可能な限り感染リスクを避けつつこれまで通りの収入が得られたのに対し、「負け組」職種は無理を推して出勤したり、時短勤務や休業で収入が減少。職を失った人も多く、新たな経済格差を生み出しています。
コロナで拡大したEUの経済格差
EUでは、経済成長戦略として2010年に「欧州2020(Europe 2020)」を策定。
「賢い成長(Smart Growth)」、「持続的成長(Sustainable Growth)」および「包摂的成長(Inclusive Growth)」を柱とする10カ年計画を打ち出しました。なかでも、EU域内の貧困削減は重要な達成目標の一つです。
しかし、温室ガス効果や高等教育比率、雇用については目標をほぼ達成しつつも、貧困削減については、30%程度と大きく未達となっています。
フランス、イタリア、ギリシャ、スペインなどは、逆に貧困人口を増加かせる結果となりました。EU全体での貧困率は 21%です。
コロナ対策(緊急雇用支援 SURE)や各国の雇用維持政策によって失業率の急上昇は今のところ避けられています。
2021年4月以降、活動制限の緩和によって景気は回復傾向ですが、いつまでも続けられるものではありません。長引くロックダウンで、観光業が大きな打撃を受けています。
特に観光業への依存度が高い南ヨーロッパ諸国は、感染が蔓延しました。
EU域内全体では、新型コロナウイルスワクチンの接種を終えた成人の割合は70%をすでに超えています。
マルタが90%を超し、アイルランドやデンマーク、ポルトガル、ベルギーも80%台に達した一方、東欧諸国では低い水準にとどまっています。中でもルーマニアは32%、ブルガリアは20%です。加盟国別の接種率は20~90%と大きくばらつきがあり、これも経済格差と連動しています。
通信インフラの未整備により広報が行き届いていないのと、そもそも政情不安だった国が多いことから、ワクチンへの不信もあり、接種が進まない状況となっているのです。
すでに接種率が70%超えのフランスやイタリアでは、飲食店や鉄道利用に際してワクチンパスポートの提示義務化を始めました。
「ワクチンを接種して経済を回す」という試みに取組むことで、すでに2回接種済みの人たちにはコロナ禍以前の生活が戻りつつあります。
経済格差に対するEUの対応
EU内の経済格差は、加盟国が増える都度に問題となってきた点でもあります。これまでも欧州投資銀行・欧州社会基金などを設立し、低開発地域への資金融通をおこなってきました。
コロナ禍においても、域内格差縮小(加盟国間、国内双方を含む)にむけては、緊急雇用支援 SUREや各国の雇用維持政策によって失業率の急上昇は今のところ避けられています。
しかし、今後失業者が大幅に増加する可能性は高いです。特に観光業、宿泊業と飲食業については非対面に移行しずらいという特性があります。
イタリアは積極的に支援を行っていましたが、スペインは消極的な支援にとどまるなど、コロナに対する財政対応は、国ごとの財政余力によって異なるため、ワクチンの接種も含めてアフターコロナでは南北間の経済格差がさらに進む可能性があるでしょう。
EUとして、全体的に底上げするためには、財政が比較的良好な国からの拠出が必要ですが、コロナ後に果たしてそこまで余裕が残るのかは非常に厳しいところです。
EUを牽引するドイツ経済が停滞すると、連鎖して中・東欧経済でより深刻な停滞を招くリスクがあります。コロナは、今後も中長期にわたって格差を広げる原因となるかもしれません。