スマートシティとは、「先進的技術の活用により、都市や地域の機能やサービスを効率化・高度化し、各種の課題の解決を図るとともに、快適性や利便性を含めた新たな価値を創出する取組であり、Society 5.0の先行的な実現の場」と定義される未来モデルのこと。
参照元:スマートシティ官民連携プラットホーム
日本が有する技術力・研究開発力を総動員して、日本全体が抱える社会問題を克服し、最新テクノロジー・デジタル化によって持続可能性のある社会・価値を創り出すことを目的としています。
もっとも、技術力によってもたらされる数多くのメリットがある反面、同時に懸念される課題・デメリットにも真正面から向き合わなければいけません。
なぜなら、弱点から目を背けたまま利潤を追求する姿勢は、SDGsを目指す世界全体の潮流に反することになるからです。
そこで、今回は、スマートシティが抱える課題・デメリットに注目するとともに、いかにそれを克服していくのかについて解説します。
スマートシティが抱える4つの課題とは
AI技術やビッグデータの活用によって交通渋滞緩和・防犯防災システムの構築・地方における利便性向上などの数多くのメリットが期待される反面、スマートシティ構想には次の課題・懸念事項が存在します。
・プライバシーとの折衝
・ハードのトラブル・ハッキングのリスク
・データの独占・寡占のリスク
・費用対効果の問題
それでは、スマートシティの抱える課題について、それぞれ具体的に見ていきましょう。
スマートシティの課題1:プライバシーとの折衝
スマートシティ構想が機能的であるためには、その前提として、ありとあらゆる情報が収集・蓄積・活用されることが求められます。
つまり、人々の生活に密接に関連したプライバシー情報も管理対象になるということです。
たとえば、交通渋滞緩和を目指すためには、人流の動きをリアルタイムで監視する必要があります。
そのためには、監視カメラの設置・車両ナンバー情報の統一管理体制が不可欠でしょう。
その結果、人々の個人情報が管理者に把握されること自体は避けようがありません。
そして、プライバシー情報が適切に管理・使用される限りでは問題は発生しませんが、目的外使用や企業の営利活動に悪用されると、パーソナルデータに対する各人の自由が侵害されるおそれが生じるでしょう。
このように、行政・企業などがプライバシーにアクセスすることがスマートシティにとって不可欠であるということは、常にプライバシーが脅かされるリスクがあることを意味します。
スマートシティの課題2:ハードのトラブル・ハッキングのリスク
災害などによる故障・外部からのハッキング・サイバー攻撃などの不測の事態が発生すると、システム全体がダウンするおそれがあります。
なぜなら、スマートシティでは社会基盤全体がデジタル技術等によってきめ細やかにリンクしているため、1ヶ所に問題が発生すると波及的に被害が拡大するおそれがあるからです。
したがって、デジタル化社会の機能を存分に発揮するためには、管理システム等について強固なセキュリティ体制・万が一のバックアップ体制等が構築されている必要があるでしょう。
スマートシティの課題3:データの独占・寡占のリスク
スマートシティでは、情報・データが一極集中することによる弊害リスクが存在します。
たとえば、メインサーバを管理する企業に情報が集中するため、当該企業のみが情報等にアクセスできる状態が発生。
すると、秘密裡に仕入れたこれらのソースを営利活動に転用しうる状態に至りかねません。
本来、スマートシティに蓄積される情報・データは、そこに生きる人々が恩恵を受けるために活用されるものです。
しかし、管理者が単一・少数になる場合には、外部からの監視体制が形骸化するおそれが生じます。
結果として、「いつ・どこで自分の情報が悪用されるか分からない」「悪用されたとしても被害を知ることもできない」という事態になりかねません。
スマートシティの課題4:費用対効果の問題
社会基盤を根本的に見直すスマートシティ構想は、短期的に利潤が上がるというものではありません。
また、技術の進展は目覚ましいスピードのため、現在研究開発に投じた費用が成果となって表れる保証もないのが実情です。
さらに、既存のインフラと新たに導入するテクノロジーを有機的に融合させるための工夫も求められるでしょう。
つまり、企業活動・税金などで巨額の投資をしたとしても、それが回収できる確証は得られないということ。
費用対効果が悪いとなると、社会全体がスマートシティ構想への参加に消極的になることが危惧されます。
スマートシティの抱える課題を克服する方法とは
スマートシティの課題を克服するためには、次の2つのポイントが重要となります。
・スマートシティ内で生活する人々のプライバシー保護
・強固なシステムに柔軟性をもたせる
「できるだけ豊富な情報量が必要、しかし、同時に情報源のプライバシーは一定の秘匿性が維持されなければいけない」という背理を乗り越えるためには、たとえば情報銀行などの制度を構築する必要があるでしょう。
人々が自分の個人情報がどのように使用されるのかについて意思決定できる機会を担保できれば、スマートシティ構想にデータを提供することへの安心感も高められるはずです。
同時に、システムの運用面・管理体制にも一定水準の信頼性が必要でしょう。
たとえば、スマートシティ運営者に対する外部監視体制が効果的に機能すること・不測の事態に対しても臨機応変に対応できるバリエーション豊富なセキュリティ体制を構築することなどが考えられます。
スマートシティの課題克服の先に真のメリットが見出せる
スマートシティ構想に脆弱性が存在する限り、実現するのは難しいでしょう。
なぜなら、スマートシティが実証的な実験の場であるためには、実験する側・実験に参加する側すべての信頼関係が不可欠だからです。
すでに、地域社会・日本全体において、「一定の文句・問題は存在するものの、一応は生活できる状態」が存在します。
これを乗り越えて新たな価値創出の場所を生み出すことは、大きなパラダイム転換だといえるでしょう。
それだけの大きな変化をもたらすものである以上、人々が変化に対して積極的な姿勢をもてるような土台を醸成しなければいけません。
スマートシティ構想のメリットが注目されるにつれて、同時にデメリットも浮き彫りになるはず。
その課題一つひとつをクリアすることによって、真の「Society 5.0」は達成されるでしょう。