世界のすべての人々が協力して取り組むべき目標を定めたSDGsの13番に「気候変動から地球を守るために、今すぐ行動を起こそう」があります。
CO2などの温室効果ガスによる温暖化、それに伴う環境被害は深刻さを増し、今すぐ行動を起こさなければならないという抜き差しならない状況にまで及んでいるのです。
温室効果ガスの排出を抑制し、環境負荷を減らすために、太陽光やバイオマス・風力・地熱といった再生可能エネルギーのさらなる導入が叫ばれています。
その再生可能エネルギーの中でも世界的に導入が進んでいるのが、風力発電です。
今なぜ風力発電は、注目を集めているのでしょうか。
メリットやデメリットとともに、風力発電の現状について見ていきたいと思います。
風力発電とは
風力発電は、風の力を利用して発電する再生可能エネルギーの一種です。
地球温暖化や化石燃料の枯渇が問題となる中、風力発電は持続可能な未来を実現するためのエネルギー源として期待されています。
風力発電の仕組み
風力発電では、「ブレード」とよばれる風車のような形をした羽根を風の力で回転させることによって、そのエネルギーを電気に変える仕組みです。
タービンには大きく分けて、水平軸型と垂直軸型の2種類があります。水平軸型は「プロペラ型」の一般的によく見かけるもので、垂直軸型は風向きに関係なく発電が可能です。風速に合わせてブレードの傾きを調整したり、風の向きに合わせて風車の向きを変えることで、風の力を効率よくエネルギーに変換します。
風力発電によってつくられた電気は、送電線を通ってそれぞれの地域に届けられます。
また、風力発電において、プロペラ(ローター)の大きさは発電量に大きく影響します。
プロペラの大きさが大きいほど、より多くの風を捕らえることができ、それによってより多くのエネルギーを発電することが可能になります。
ただし、プロペラの大きさを無限に大きくすることは現実的ではありません。プロペラの大きさが大きくなると、重量が増加し、構造上の制約や費用対効果の問題が発生します。
プロペラの大きさと発電量の関係を最適化するためには、設置場所の風の強さや周囲の地形、さらには環境への影響などを総合的に検討することが必要なのです。
陸上と洋上、ふたつの風力発電
風力発電は設置場所により、地上に設置される陸上型と海や湖などに設置される洋上型に分かれます。
さらに洋上風力発電には、海底に支柱を埋め込み固定する「着床式」と海中に浮きのような構造物を建設し、その上に発電機を設置する「浮体型」とがあります。
水深50メートルを超える深い海では、主に浮体式が採用されています。
風力発電のメリットとは?
では、風力発電にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
再生可能エネルギーとしてのメリット
まず第一に、再生可能エネルギーだからこその利点があります。
風は自然界に無尽蔵に存在する再生可能なエネルギーであり、化石燃料のように枯渇する心配がありません。
また、石油や石炭といったいわゆる「化石燃料」を使わずに発電ができるため、二酸化炭素の排出を削減できます。これにより地球温暖化の進行を抑制できます。
現在、供給燃料の9割を海外から輸入される化石燃料でまかなっている日本にとって、再生可能エネルギーはエネルギーの自給率をアップさせるというメリットも持ち合わせています。
参照元:なっとく!再生可能エネルギー|経済産業省エネルギー庁
コストの低減、対費用効果の高さ
再生エネルギーのなかでも風力発電は太陽光エネルギーと並んで、政府の後押しやコストの低減化が進み、今後さらに導入が加速すると予想されています。
風力発電のコストは設置型別にみると、陸上型では世界平均で2012年の82ドル/MWh(メガワット時)から2020年は39ドル/MWh、洋上型では147ドル/MWhから84ドル/MWhと、10年近くでほぼ半減しています。
アメリカのエネルギー省も風力発電を、「現在利用可能なエネルギー源のなかで最も低価格なもののひとつ」とし、積極的に導入をおし進めています。
地産地消型のエネルギー
風力発電は地域の風を利用するため、地元で発電した電気を消費できます。これにより、エネルギーの輸送コストや送電ロスを抑えることができます。
参照元:
・グリーン成長を巡る世界のビジネス動向|JETRO
・アメリカエネルギー省エネルギー効率・再生可能エネルギー局
風力発電の現状はどうなっている?
現在、風力発電は他の再生可能エネルギーのなかでどのような位置を占めているのでしょうか。世界での導入状況とあわせてみていきましょう。
新規導入再生エネルギーの約4割が風力発電
ある国際機関のレポートによれば、2020年に世界で新規に導入された再生可能エネルギーの総容量は261GWと、過去最高に達しました。
そのなかでも風力発電は111GWと、容量増加分の4割強を占め、太陽光発電の次に多くなっています。
参照元:2021年度再生可能エネルギー統計|IRENA(国際再生可能エネルギー機関)
日本における風力発電
日本は国土が狭く気象条件が厳しいことから、風力発電は太陽光発電に比べて広がりませんでした。
しかし、2018年の日本の風力発電機総数は2253機で、10年間で1.5倍増加しています。これからの日本の風力発電は海上や湖面に建設される洋上風力発電が進むと考えられ、2030年までに1000万KW、2040年には最大4500万KWを目標に政府が掲げています。
国土が海で囲まれる日本は、洋上風力発電で大きく期待できますが、コストやインフラ整備が課題でもあります。日本では着床型が難しいため、浮体式が導入されることで風力発電機設置の増加が期待されています。
ヨーロッパでは洋上風力が急伸
中国が陸上風力発電を積極的に導入しているのに対し、近年ヨーロッパでは、洋上風力発電機の設置が大きく伸び、年間の導入量にして1000~3000MW規模で増加しています。これは10年前と比べて3倍以上です。
この増加の背景には、ヨーロッパの海洋に吹く風の状況が風力発電に理想的であることや、ヨーロッパの海は浅瀬が多く発電機の設置に向いている、という自然環境の恩恵があります。
また、他の地域に先だって風力発電に取り組んできたヨーロッパの国では、政府主導でルール作りや設置のための調査・区域の選定・送電システムの整備などが行われ、事業者の開発リスクが低減していることも一因です。
民間の競争が促されることによって開発技術も進み、ヨーロッパでの海洋風力発電にかかるコストは、2020年の75ドル/MWhから2050年には25ドル/MWhまで下がると見込まれています。
ヨーロッパの国ごとの風力発電事情については下記のコラムで解説しているので、あわせてご覧ください。
参照元:
・日本でも、海の上の風力発電を拡大するために|経産省資源エネルギー庁
・グリーン成長を巡る世界のビジネス動向|JETRO
風力発電のデメリットや課題点は?
では、風力発電のデメリットや課題は何なのでしょうか。
電力の安定供給
太陽光発電とは異なり日中問わず発電できる風力発電も、その時々の風のコンディションによって発電量が不安定になることは避けられません。
また、風力発電で作られる電気は直流式で、電子機器を通して交流電気に変換し送電線に送られています。
この電子機器は送電線のトラブルに影響されやすく、そのため風力発電は現在の時点では送電線に何か事故が起きた場合には連鎖的に止まってしまう可能性がより高い発電ともいえます。
参照元:再エネと安定供給~求められる「発電を続ける力」|経済産業省資源エネルギー庁
風の不安定さ
風という自然の力を利用している半面、強風や台風、落雷といった自然災害により、ブレードなど発電機の一部が破損したり、基礎から倒壊するといったリスクがあります。
風力発電を導入する際には、このようなリスクへの対策もあわせて講じる必要があります。
騒音・振動問題
風力発電所の近くに住む人々にとって、タービンが発する騒音や振動が生活環境に悪影響を与えることがあります。これらの騒音は固有の周波数をもつため、そのための健康被害を危惧する声もあります。
自然への影響
野生生物の中でも鳥類が風力発電機と衝突する「バードストライク」は、見過ごせない問題となっています。
アメリカでは、年間40万羽の鳥が被害に遭っているとも推測されています。
絶滅危惧種も例外ではなく、日本でここ10年に確認された102件のバードストライクのうち、半数は猛禽(きん)類で、その3分の1をオジロワシやオオワシといった絶滅危惧種が占めているといいます。
このような鳥たちにとっては少しの死亡リスクが種の絶滅につながるため、早期の対策が求められています。
また、洋上に設置する場合には、その海域を先行して利用している漁業への配慮も必要になります。
風力発電はこれからどうなる?
風力発電は、技術の進歩によって発電コストが低下しており、今後も競争力が向上することが期待されています。
具体的には、タービンの大型化や設計改良、制御システムの最適化などが進み、発電効率が高まるでしょう。また、風速の弱い地域でも発電が可能となる新型タービンの開発も期待されています。
海上風力発電の拡大
海上風力発電は、陸上風力発電に比べ風が安定していて、より大きな発電量が期待できます。
また、陸上では用地確保が難しい場合でも、海上ならば比較的容易に設置が可能です。そのため、海上風力発電は今後ますます注目され、世界各国で導入が進むと言われています。
グリーンエネルギー政策の推進
多くの国では、温室効果ガス削減のために再生可能エネルギーの普及が進められており、風力発電もその一環として期待されています。
また、各国政府は、風力発電の導入を促進するために、税制優遇や補助金制度などの施策を実施しています。
まとめ|サステナブルな社会のために
私たちは産業革命以降、石炭や石油などからつくられた多くのエネルギーによって快適で豊かな生活を手に入れてきました。
しかし、そのトレードオフとしてCO2の排出量が増え、このまま放っておけば地球温暖化による被害はさらに深刻なものになります。
従来の化石燃料の利用から地球資源を利用した再生可能エネルギーへの転換は、CO2を削減するために有効な手段だといえます。
しかし他方で、再生可能エネルギーにもそれぞれデメリットがあり、すべての問題を解決してくれるいわゆる「魔法の杖」ではないことも、忘れてはなりません。
再生可能エネルギーをはじめとした「いかに賢くエネルギーをつくるか」ということだけではなく、「いかにエネルギーをうまく使うか」に目を向けることも大切だといえるでしょう。
私たち一人一人ができることは、身近にもっとあるはずです。『MIRASUS』ではクリーンエネルギーに関する記事を他にも掲載しています。詳しくは下記コラムをご覧ください。