教育格差とは、生まれ育った環境や性別によって、本来受けられるべき教育を受けられなかったり、教育の質に差が生じてしまうことを指します。このような教育格差は、どのようにして生まれるのでしょうか?
SDGsで掲げられている「目標4. 質の高い目標をみんなに」を世界全体で達成するためにも、教育格差の問題を抱えている国の現状を知り、対策を考える必要があります。
そこで今回は、かつて「世界一不平等な国」と言われたタイの教育格差について解説します。
タイの教育格差
2000年時点のタイに住む児童の中等学校校進学率は82.8%、高等学校への進学率は57.4%となっています。
同じ年の日本の高等学校進学率である97.8%と比較すると、タイにおける進学率の低さがより明確になるのではないでしょうか?
中等学校での教育課程を終えた後、児童の多くは就業または職業訓練を受けてから就業しています。
その背景には、就業を急がなければならない事情、教育を受けられない環境などの理由があります。
タイの教育格差 発生の原因は?
タイで教育格差が起きる原因は、大きく2つあります。
1つは、家庭ごとの所得格差。そして2つめは、教育施設のある地域格差です。
それぞれについて、詳しく見て行きましょう。
教育格差の原因1. 所得格差
教育格差の原因の1つに、所得格差が挙げられます。そこでタイ政府は所得格差による教育格差是正に向け、2009年に幼稚園を含めた15年間の教育費用を無償化しました。
ただし対象は、公立幼稚園もしくは学校のみ。無償化によって、進学の門戸は広がるものと思われましたが、教科書を含めた教材費、給食費、その他必要経費は徴収されることがあります。
また、実際には運営資金が不足している現実があり、やむを得ず、各家庭から必要な資金の一部を徴収する事態となっています。
収入の低い家庭にとってその徴収は重くのしかかり、そのような家庭に育つ子どもは教育を受けることすらままならない状況となっています。
私立幼稚園や私立学校は、無償化の対象ではありません。私立の教育施設への進学を希望する場合は、高額な寄付金が求められることがあります。
質の高い教育は私立学校で行われることが多く、よりよい教育を求めて私立学校の入学を希望しても寄付金を支払う収入能力がなければ、希望する学校への進学は出来ず、受けたい教育を受けることも出来ません。
UNICEFの報告によると、2014年時点でもタイの0~17歳の子どもの貧困率は13.8%であり、約200万人の子どもたちが貧困ライン以下の世帯で生活しているとされていました。
その後2018年、スイスの金融機関であるクレディ・スイスのレポートにより、タイ国民の人口のうち上位1%の富裕層だけで国全体の富の66.9%を所有していることがわかり、その大きな格差が明らかとなりました。
これにより、タイは『世界一の格差を抱える国』である」と評され、世界に衝撃を与えました。2020年には富の所有率は40%へと改善しましたが、まだそれだけの格差が残っているとも言えます。
こうした所得格差が起きる原因として、タイの税率の低さや、日本のように累進課税でないことが関係しています。
教育格差の原因2. 地域格差
教育格差の原因の2つめは、地域格差の問題です。
タイは日本と同じように小学校6年間、中等学校3年間、高等学校3年間の教育を行っていますが、小学校から中等学校への進学率を地域別に見た場合、進学率がもっとも高い地域は首都であるバンコクの103.1%でした。
一方、もっとも低い地域はナラティワットという南部地域の都市で31.1%となり、都市部と農村部で大きな差があることがわかります。
進学率のデータが発表された1999年には格差是正の対策が実施されているため、現在は数字の変化があるかもしれません。
しかし設備や教育の質においては現在もその差は大きく、在籍する教師の質や指導技術、人数の中央集中も問題視されています。
また、都市部にはインターナショナルスクールがある一方、農村部にはないことや、都市部の富裕層が通う学校には英語教育が導入されているものの、農村部では未導入であるなどの違いがあります。
段階的に地方分権に向けた対策が行われていますが、都市部と農村部における格差が完全になくなるまでには、長い時間とインパクトのある対策が必要です。
タイの教育格差 対策は?
教育格差を是正するための対策は、1999年に制定された「タイ教育法」に始まります。
この法律によって、12年間の基礎教育や9年間の義務教育など、教育制度が体系化されました。
2003年には「児童保護法」を制定。子どもの利益を最優先とし、国籍や社会的地位に関係なく、いかなる子どもも平等に福祉や教育を受けられると明記されています。
同じ年には教育省が、当初あった大学庁や教育委員会などと統合され、教育制度全般を管理運営することとなりました。
それにより、2005年には教育省規定が制定され、国籍を問わずタイ国籍の子どもと同じ基礎教育を受けられるよう保障することが定められたのです。
このように、教育に対する法整備や教育制度の改革がなされています。しかし、教育格差のさらなる根底には税制や中央集権の問題など、タイ全体の社会問題が関わるため、継続的な対策が必要です。
タイの教育格差 改善のために出来ること
タイで起きている教育に関する問題として、教師の質も問題視されています。その原因は、教師自身が受けてきた教育の質の低さや経験不足、給与の低さであると言われています。
それらも突き詰めれば、タイ国内の所得格差や他国と比較した場合の国家予算の低さなどが原因です。
その解決のために、日本に住む私たちひとりひとりが出来ることは、こうした問題を正確に知ること。そして、募金やボランティアといった支援活動を行うことにほかなりません。
また、こうした教育格差の問題は、実は日本でも起きており対岸の火事ではありません。海外への支援に限らず、日本でも起きている問題に対し、支援を行うことも重要です。
SDGs達成の目的は、社会・環境に関するあらゆる問題を解決し、誰ひとり残すことなく、平等に、豊かに、幸せに暮らすことです。
その目的を果たせるよう、ひとりひとりが協力的かつ積極的にアクションを起こしていきましょう。
《参照元》
・Table 6-5: Wealth shares and minimum wealth of deciles and top percentiles for regions and selected countries, 2018│Credit Suisse Global Wealth Databook 2018
・タイ│ユニセフHP
・教育セクターの現状と課題 東南アジア 4 カ国の自立的発展に向けて│国際協力銀行 開発金融研究所