情報化・デジタル化の発展など、技術革新によって数多くのメリットがもたらされる一方で、急激な高齢化社会・東京一極集中による地方の衰退・感染症リスクなどの社会的課題が浮き彫りになっている昨今です。
確かに、社会が持続可能な形で成長を続けていくためには、一つひとつの課題へミクロ的な視点で対処をすることも大切です。
ただ、同時に、人類の叡智によってもたらされた多くの新技術・データを効率的に活用することによって、「社会基盤全体の在り方を根本的に見直す」という切り口も欠かせません。
このように現在、そして今後も直面せざるを得ない社会的課題を真正面から克服するための方策として掲げられているのが「スマートシティ」の取り組み。
不可逆的な流れのなかにあるデジタル化を積極的に「まちづくり」の段階から取り込むことによって、都市機能から個々の生活に至るまでのあらゆる場面でのデジタル・トランスフォーメーションを目指すものです。
そこで、今回は、スマートシティとはどのような中身のものなのか、具体的な事例とともに解説します。
あわせて、スマートシティを推進する際の注意点などについても触れるので、最後までご一読ください。
スマートシティとは?わかりやすく解説
まずは、「スマートシティ」という用語がどのような意味・目標を掲げているのかを確認していきましょう。
内閣府が主導する統合イノベーション戦略2020では、コンセプト・手段・動作・状態の4つの要件を充たすものを「スマートシティ」と定義しています。
コンセプト | 基本理念・基本原則に基づく |
手段 | ICTなどの新技術・官民各種のデータを活用した市民一人一人に寄り添ったサービスの提供や、各種分野におけるマネジメント(計画・整備・管理・運営等) |
動作 | 都市や地域が抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける |
状態 | 持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場 |
参照元:スマートシティガイドブック第1版(ver.1.00)別冊(3)用語集
スマートシティとは「新技術・データを活用した持続可能性のある都市・地域」
スマートシティとは、「ICTなどの新技術や各種データ活用によって、課題を解決・新たな価値を創出し続ける土地・地域のことで、Society 5.0の実現の場」のこと。
技術力・研究開発力を総動員して持続可能な社会を作り上げることが目的です。
Society 5.0とは、仮想空間(サイバー空間)と現実空間(フィジカル空間)の融合により高度に発展した人間中心の社会のこと。
狩猟社会・農耕社会・工業社会・情報社会に続く、我々が目指すべき未来社会の在り方として提唱されるものです。
参照元:スマートシティ官民連携プラットフォームとは|スマートシティ官民連携プラットフォームHP
ただし、技術の進歩レベルに応じてスマートシティの定義に盛り込まれる内容は変貌するもの。
たとえば、株式会社野村総合研究所は、「都市内に張り巡らせたセンサーを通じて、環境データ・設備稼働データ・消費者属性・行動データ等の様々なデータを収集・統合してAIで分析し、更に必要な場合にはアクチュエーター等を通じて、設備・機器などを遠隔制御することで、都市インフラ・施設・運営業務の最適化、企業や生活者の利便性・快適性向上を目指すもの」と定義している点も参考になります。
参照元:スマートシティ報告書 -事業機会としての海外スマートシティ-|株式会社野村総合研究所HP
スマートシティの3つの基本理念
スマートシティの3つの基本理念は次の通りです。
【3つの基本理念】
・市民(利用者)中心主義
・ビジョン・課題フォーカス
・分野間・都市間連携の重視
「市民(利用者)中心主義」とは、スマートシティ構想はあくまでもサービス利用者側が主体的に取り組むものだという考え方のこと。
行政や民間事業者などのサプライサイドは、あくまでも制度構想を支える存在でしかありません。
「ビジョン・課題フォーカス」とは、都市・地域が持続可能性を有するために、リアルな課題を常に発見し克服する姿勢をもつというもの。
課題が明らかになれば、克服に必要な新技術開発に挑戦しやすくなり、思い描くビジョンを実現しやすくなるでしょう。
「分野間・都市間連携の重視」とは、デジタル化の恩恵を効果的に享受するための行動指針のこと。
個々のエリア別にデジタル化が普及したとしても、それはその領域内だけの話。
全体が機能的・密接的に関連を有することによって、はじめて広域的な課題解決は可能となります。
スマートシティの5つの基本原則
スマートシティの5つの基本原則は、次の通りです。
【5つの基本原則】
・公正性・包摂性の確保
・プライバシーの確保
・相互運用性・オープン性・透明性の確保
・セキュリティ・レジリエンシーの確保
・運営面・資金面での持続可能性の確保
ここでは、スマートシティの利便性向上の側面と克服すべき問題点の折衝が目指されています。
たとえば、スマートシティの実効力を高めるためには、個々のデジタルデータを集積・活用することが不可欠です。
もちろん、データ管理者側が恣意的に運用するリスクへの懸念は常に存在するため、セキュリティ体制・プライバシー保護体制は確固たるものであることが大前提です。
ただし、プライバシー保護に偏りすぎると、せっかくのスマートシティ構想が硬直性を帯び、結果として制度全体の効率性が阻害されかねません。
そこで、セキュリティ体制構築に対する透明性・体制側の意思決定プロセスをオープンにすることによって、安心・安全にデータ管理・体制運用が実践できるような均衡が求められると考えられます。
スマートシティとスーパーシティの違い
スマートシティに類似する考え方として、「スーパーシティ」と呼ばれるものがあります。
スーパーシティ構想とは、国家戦略特区制度を活用しつつ、住民と競争力の高い事業者が協力することによって、世界最先端の日本型スーパーシティを実現しようという取り組みのこと。
次の3つのポイントを押さえることが要件とされています。
- 移動、物流、支払い、行政、医療・介護、教育、水・エネルギー、環境・ゴミ、防犯、防災・安全のうち少なくとも5領域以上をカバー
- 2030年頃実現される未来社会に向けた取り組みを主導的に取り込む
- 住民が参画し、住民目線でより良い未来の実現ができるように、ネットワークを最大限活用する
スマートシティとスーパーシティの違いは、スーパーシティの方がより共通のプラットフォーム(AI・ビッグデータの活用等)に注目している点、そして、スーパーシティの方が住民の参画が求められる点です。
スマートシティは、あくまでも各事業者・行政がそれぞれ主体となって課題克服・価値創出を目指すもの。
これに対して、スーパーシティでは、全体的な有機的関連性が重視されている点が特徴的で、より根本的な都市設計の視点が重要です。
したがって、スーパーシティはスマートシティの基盤となるもの・スマートシティを包摂するものというイメージとなります。
参照元:「スーパーシティ」構想について|内閣府 国家戦略特HP
スマートシティの国内事例
現在、スマートシティ構想は着々と実行に移されており、日本国内でもスマートシティ構想を体現した参考事例に目を配ることができます。
そこで、代表的なスマートシティ事例を参考に、スマートシティの利便性を見ていきましょう。
TOYOTA WOVEN CITY
TOYOTAが主導する「WOVEN CITY」は、暮らし・働き方・移動に注目した先駆的なスマートシティプロジェクトです。
静岡県裾野市のTOYOTAの東富士工場跡地に所在し、2021年2月23日から建設工事がスタート。
自動運転・MssS・スマートホーム技術などが導入され、新技術による価値創出の恩恵を受けながら、「実証実験の街」として幸せの量産を目指しています。
DATA-SMART CITY SAPPORO
「DATA-SMART CITY SAPPORO」は、北海道札幌市で実施されているICT活用戦略の一端を担う取り組みのこと。
「データの地産地消」を目標に、官民データの協調利用が進められています。
人口・観光・教育・建設などの多様なジャンルのデータがカタログとして登録・蓄積され、地域社会振興のために積極的に活用することが可能です。
また、インフルエンザ・新型コロナウイルスの感染者データがオープンソースとして公表されており、市民がいつでも情報にアクセスできる環境が整備されています。
スマートシティたかまつ
香川県高松市では、「スマートシティたかまつ」構想によって、IoTなどの活用によって地域の複数分野のデータ収集・分析等を行うプラットフォームを構築し、まちづくりに役立てるという取り組みが進められています。
高松市と地域の企業・ベンチャーなどが官民連携。
防災分野では水位センサー・潮位センサーの情報を収集、観光分野ではレンタサイクルの移動履歴データを参照できます。
今後は福祉分野や行政効率化にも発展する予定です。
SMART CITY TAKESHIBA
東京都港区の国家戦略特区の竹芝エリアに所在する「SMART CITY TAKESHIBA」は、東急不動産とソフトバンクによる共同プロジェクトです。
自立走行型宅配ロボット「RICE」などの先端技術を実験的に活用するだけではなく、人流データ・訪問者の属性データ・道路状況・交通状況・水位などのデータをリアルタイムで集積・提供できるデータ流通プラットフォームの構築による快適な生活実現が目指されています。
「大丸有エリア」「豊洲エリア」と並ぶ形で、「スマート東京」実現に向けて、積極的な実証実験が進められています。
スマートシティ構想で変わる社会・生活
スマートシティは最新技術を私たちの生活にも普及させるもの。
医療や地域の課題が抱える問題にもリンクしてくるため、あらゆる面で恩恵を受けることができるでしょう。
ただし、スマートシティが実現した社会のなかで生きる一人ひとりが受動的であってはいけません。
なぜなら、社会システムが実験的な挑戦を続ける以上、その恩恵を受ける個人が敏感にセンサーを作動させながら新たな価値・技術を前向きに受け入れる姿勢を維持しなければ、全体的な好循環は生まれないからです。
「新しい価値・技術を生活のなかに取り込んでみる」
たったこれだけのことでも、スマートシティ構想実現に役立つことができます。
今後、いろいろな企業・団体・行政がスマートシティ構想に果敢にチャレンジしていくはず。
最新の情報をチェックしながら、興味があるもの・役立ちそうなものをピックアップしていきましょう。