SDGs17の目標のうちの一つである「3.すべての人に健康と福祉を」。
世界的にみて、先進国と発展途上国の医療格差は大きいとされています。
特にアフリカは、紛争や人道危機にみまわれている国々が多く、結果として医療制度が脆弱になっています。
そのような状況下では、命を救うために不可欠なケアを受けることができません。
先進国であれば助かっていた女性や子供たちも命を落としてしまうことが多いのが現状です。
そこで、「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」ために、知っておきたい「アフリカの医療問題」について解説します。
「医療問題」その具体的な内容
「発展途上国の医療格差は大きい」「アフリカの医療問題は深刻」と見聞きすることも多いでしょう。
では具体的に、どのような点が問題なのかを、いくつかの指標を取り上げて見ていきます。
妊産婦の死亡率
SDGsのゴール3におけるターゲットでは、妊産婦の死亡率には以下のような目標が掲げられています。
・妊産婦の死亡:出生10万人当たり70人未満に削減(年間の妊娠中または妊娠終了後満42日未満の死亡)→0.07%
・サハラ以南のアフリカ:38人中1人→2.6%
日本の妊産婦の死亡率は16,700人中1人、0.006%です。
比べてみるとアフリカの妊産婦が、医療の危険にさらされているかがわかります。
子どもの死亡率
SDGsのゴール3におけるターゲットでは、子どもの死亡率には以下のような目標が掲げられています。
・新生児死亡率:出生1,000件中12件以下
・新生児児及び5歳未満児の予防可能な死亡を根絶
このうち約3分の1は生まれたその日に死亡、約4分の3が生まれて最初の週に死亡します。これは、11秒に1人が命を落としている計算です。
新生児死亡率
ユニセフの「世界子供白書2019」によると、アフリカにおける新生児死亡率は以下の通りです。
・サハラ以南のアフリカ:出生1,000件中28件
この地域での子どもの死亡のリスクは、他のどの地域よりも高く、先進国との格差が広がっている状況です。
国ごとに見ると、さらにばらつきがあります。最も死亡率の高い国では40件以上にもなるのです。
・南スーダン:出生1,000件中40件
・マリ共和国:出生1,000件中33件
5歳未満児死亡率
次に、5歳未満児死亡率です。アフリカにおける5歳未満児死亡率は以下の通りです。
・サハラ以南のアフリカ:出生1,000件中78件
しかもこれはかなり改善した数値です。
サハラ以南のアフリカの5歳以下死亡率は1990年には180人にも達していました。
生まれた子どもの2割近くが5歳までに亡くなっていたのです。
これに対して、日本における5歳未満児死亡率は1000人あたり2人。
非常に大きな格差があるといえます。
医療問題の原因
ではどのようなことが、医療格差問題の原因となっているのでしょうか。
衛生・栄養環境の悪さと衛生教育
新型コロナウイルスで、手洗いやうがいが推奨され、その習慣がある日本が一定上の効果を上げていました。
日本の衛生環境や衛生に対する知識は、世界でも最上位クラスであると考えて良いでしょう。
日本では、蛇口をひねれば飲料水が出ます。
手だけでなく入浴で、身体を清潔に保つことができます。
しかしアフリカでは、池や川、湖などの自然の環境、もしくは整備されていない井戸から水を汲む必要があるのです。それらの水は不衛生であったり、汚れています。
水を汲んで家に保存していると腐ることもあります。
さらに、それらの水は貴重なため、頻繁に手や体を洗うことに使えません。
衛生教育についても「清潔」にするためにはどうすれば良いかという教育は行き届いていません。
また栄養環境も悪く、栄養失調が常態化してしまうと、体は弱って病気にかかりやすくなります。
そして結果的に、抵抗力の弱い子どもが病気になって亡くなってしまうのです。
医師・医療従事者が少ない
医療問題解決のためには、医師をはじめとした医療従事者の数を増やすことが必要です。
「国境なき医師団」など、ボランティア活動で発展途上国で医療行為を行う医師もいますが、その数は十分とはいえません。
医師や医療従事者の育成には、多額の費用が必要です。
しかし、国レベルで行うことは難しいのが現状であり、世界的な支援が求められているといえるでしょう。
質の高い医療へのアクセスの困難さ
アフリカは広く、病院の数はそう多くはありません。
物理的に遠いことから、病院にアクセスできない人が多いのです。
そのため、現地では「まじない」のような非科学的な伝統医療を利用する人も多くいます。もちろん医学的には有効でない処置です。
ようやく病院にたどり着いても、重症化して手の施しようがない場合もあります。
また、国の首都であっても、病院で対応できる病気はそう多くはありません。
薬や医療品はほとんどが輸入品です。高価かつ供給が不安定なため、医療機関にかかることが難しいのです。
もし重い病気になったり、大きなケガをした場合は、地元の病院では治療が難しいことから、高額な私立の病院にかかったり、飛行機で欧州へ行くことになります。
しかし、病院にかかる費用を払えないため治療を断念する人も多いです。
貧困層や中間層の方は、質の高い医療にアクセスできないため、日本であれば十分に救える病気でも亡くなっています。
アフリカの医療問題を解決するために
アフリカにおいて、多くの人が望む医療が提供されるためには、国ごとの対策では難しく、世界的な支援が必要です。
清潔な水の提供と衛生環境の改善
SDGsのゴール6と関連していますが、「安全な水とトイレを世界中に」行き渡らせることで、衛生環境は劇的に改善します。
不潔な水を飲んで下痢や病気になったり、傷口を洗えずに化膿するなどした場合、抵抗力の弱い子供や女性が亡くなるケースが多いのです。
食糧支援・農業技術指導による栄養状況の改善
SDGsのゴール2「飢餓をゼロに」は、医療問題の解決にとっても非常に重要です。
口にするもので体は作られます。十分に栄養を取ることができないと、体は病気やケガに打ち勝つことはできません。
そのためには、目先の食糧支援とともに、現地で食料を作り出すことができるようになるための農業技術の支援なども必要です。
医療機関の設立・医療従事者の育成
病院が少ない原因の一つは、医師をはじめとした医療従事者が少ないということもあげられます。
医療従事者の育成は、世界的な課題です。
しかしながら、アフリカの諸国ではそもそもの基礎的な教育が行き届いていないという根本的な問題も存在しています。
また、仮に病院があったとしても医療費がないという問題もあります。
SDGsのゴール1「貧困を無くそう」、4「質の高い教育をみんなに」は、医療問題の解決にとっても非常に重要です。
まとめ
2000年から2017年の間に、世界的に見て妊産婦死亡率は38%減少しました。
しかし、それでもアフリカの医療問題は深刻です。
政情が不安定な国では、弱い立場の女性や子供たちにその負担が大きくのしかかります。
これらを解決するためには、それぞれの国だけの努力では難しく、SDGsの他のゴール達成も踏まえた複合的な解決が必要となるでしょう。