医療格差という言葉を聞いたことがありますか?
文字通り「医療を受けられるか否かに格差がある状況」を指します。
国によって受けられるサービスが異なったり、同じ国にいても住んでいる場所によって医療サービスが受けにくかったり、または経済的な理由などで受けられないということもあります。
医療格差の問題と聞くと、アフリカや東南アジアなどの貧しい国を真っ先にイメージするかもしれません。
たしかに発展途上国における医療格差の問題も大きいというのが現状です。
ですが、いわゆる先進国でも医療格差という大きなギャップが生まれているということをご存知でしょうか。
この記事ではアメリカにフォーカスをあて、現地での医療保険制度と医療格差の問題についてご紹介していきます。
先進国アメリカでも広がっている医療格差
日本から治療を受けるために渡航する人もいるくらい、最先端技術の集まっているイメージの強いアメリカでも、医療格差の問題は依然として大きな問題となっています。
先進国であれば当たり前のように最低限の医療が受けられると勘違いしてしまいがちですが、現地の状況は思っているより深刻のようです。
アメリカには国民全員がカバーされる制度はなし
今回ご紹介していくアメリカにおいては、国民全員が対象となる公的な医療保険サービスは存在しません。
日本で暮らしていると「手元に保険証がある」という状況は、当たり前すぎて、これと言って疑問を感じることはありません。
風邪をひいたら病院に行って、保険証を見せて診断を受けることができます。
そして、お会計の際には一部負担額を支払って一件落着となりますよね。
実は、これ、日本の外に出ると当たり前なことではありません。
医療保険の制度が全国民に対して準備されないということは、自分から保険に加入しないことには、医療機関にかかるたびに全額支払う必要があります。
お金がなく保険に入れない人は、もちろん医療機関での全額負担も厳しいというのが現状です。
となると、どうなるのか。
どんなに体調不良でも、病院にさえいけないという状況に陥ります。
これぞ、まさにアメリカにおける医療格差です。
アメリカの公的保険であるメディケア・メディケイドとは?
アメリカでは公的な医療保険がないとお伝えしましたが、唯一「メディケア」「メディケイド」という一部の方を対象としたものサービスだけ存在しています。
これらは具体的にどのようなものなのでしょうか。
「メディケア」とは65歳以上の高齢者と障がい者を対象とした、国が運営している制度です。
アメリカ在住歴が5年以上、市民権を持っている事などのルールに該当すると、受給することができます。
「メディケイド」とは、低所得者を対象として運営されているサポートです。
こちらの制度を受給するには、所得や資産の厳しい資産があります。
加えて、子どもが対象となる医療保険制度(SCHIP:State Children’s Health Insurance Program)というものもあります。
対象外の人はどうするの?
ここで気になるのが、高齢者でもなければ、低所得者でもない、いわゆる「一般の人」はどうしているのか?という点です。
日本であれば国民保健で全員がカバーされますが、そのような制度のないアメリカにおいては、下記のどちらかを使って自分自身で身を守る必要があります。
・自分で探した民間保険に加入する
サラリーマンを始め、雇われ先がある場合は、契約内容に保険が含まれていることが大半です。
よって、多くの人は1つ目のパターンでカバーされていることが多いです。
一方で、自営業をしていたり、フリーランスのような形で企業に縛られない働き方をしている場合は、自分で民間の保険会社と契約を結ぶ必要があります。
どちらにせよ、日本のように一律で国民保健があるわけではないので、加入している保険サービスによって、年間免責金額が異なったり、負担割合が異なるというのが特徴です。
保険に未加入の人が2,750万人という現状
少し前のデータですが2018年時点で、アメリカ国民の2,750万人が「保険に未加入」というデータがあります。
「メディケア」「メディケイド」という公的サービスの受給資格は持たず、さらに失業中などで雇用形態がないケースがほとんどと言われています。
公的なサービスは受けらず、会社に属していないため自分で民間保険を探さなければいけないのですが、多くの問題が立ちはだかり、未加入のまま暮らしている人が国民の8%ほどを占めています。
・民間保険サービスに保険料を払うだけの経済的な余裕がない
・持病があるなど、保険サービスを申し込んでも却下される
上記は一部の例ですが、言葉や経済的な壁があり、保険サービスに加入することが難しいという人がたくさんいます。
最先端医療が集まっている国とはいえ、「お金があって、民間保険に入っている人」だけが享受できるという歪みが生じています。
世界的なパンデミックを受け益々広がる医療格差
全世界で猛威を振るっている新型コロナウィルスの影響を受けて、アメリカの医療格差はより顕著になりました。
失業率が25%に達すると、医療保険の未加入者が4割増え、4000万人になるという試算まで出ていたほどです。
失業と共に失う医療保険
先に述べた通り、アメリカにおける大半の人は「勤め先の提供する民間保険サービス」に加入しています。
これは企業が従業員への福利厚生の一環として、提供している保険となります。
よって、会社が倒産したり、解雇されたりすると、同時に解約となります。
今回のパンデミックを受けて、全世界の経済は大打撃を受けました。
これによって、倒産や人員減に踏み切らざるを得なかった企業もたくさんあります。
となると、失業と共に、保険費用が自己負担となっていまい、無保険者となる人が急増しています。
サービス業はリスクでも収入を止められない人が大半
また、パンデミックを受けて学歴格差や経済格差も浮き彫りになりました。
多くの企業が「テレワーク」制度を導入して、安全な自宅からでも業務を継続できるような体制に切り替えました。
でも、この恩恵を受けられるのは、いわゆる大学を出ていて、パソコンでテレワークが出来るという恵まれた環境の人のみ。
教育水準や語学レベルが限定的で、接客以外の仕事が見つけられない人もたくさんいます。
このような方々は、文字通り「日銭を稼ぐ」ような契約形態で働いていることが多く、レストランの営業停止などで大打撃を受けています。
収入面でも打撃ですし、常に人と接していなければいけないという精神的ストレスにもさらされています。
安全な場所からテレワークが出来る層と、そのような選択肢がなく、何が何でも現場で働いて明日の食べるものを確保しないといけない層。
そんな格差が、浮き彫りになりました。
まとめ|アメリカという先進国でも医療格差は深刻な問題
持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット3番では「すべての人に健康と福祉を」が掲げられています。
「健康と福祉を」と聞くと、無意識にアフリカや中南米の貧しい国をイメージしてしまうかもしれません。
しかし、医療格差の問題は発展途上国だけではありません。
世界の最先端医療が集まっているアメリカでさえ、国民全員をカバーするような公的保険サービスがないという現状です。
お金がある人は、保険サービスに加入して身を守ることができますが、お金がない人は医療を受けることもままならないという悲しいギャップが生じているのです。
アメリカでは国民の8%の人が、保険に加入していないという状況でしたが、今回のパンデミックを受けて、失業率が高まると同時に、無保険者はますます増えていると推定されています。
このままでは、ますます格差は広がる一方と言えるでしょう。「全ての人に健康と福祉を」までは、まだまだ遠い道のりです。