公式LINEアカウントでも絶賛配信中!

友だち追加
すべての人に健康と福祉を

先進国でも広がる医療格差、アメリカにおける現状とは?

先進国でも広がる医療格差|アメリカにおける現状

医療格差とは、住んでいる国や地域、所得などによって、必要な医療を受けられるかどうかに差が生じている状態を指します。アフリカや東南アジアを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、先進国でも医療格差は広がっています。代表的な例がアメリカです。最先端の治療が集まる一方で、国民全員を対象にした公的医療保険はなく、保険を持てるかどうかが受診のしやすさを左右します。この記事では、2024年までの公的統計と2025〜2026年の制度変更をもとにアメリカの現状を見ていきます。あわせて、日本の国民皆保険と比べて私たちが何を意識できるかを考えます。

この記事で学べること

  • 2024年時点でアメリカの無保険者がどれくらいいて、どんな人たちなのか
  • メディケア・メディケイドと民間保険の仕組み、州による違い
  • 保険に入っていても医療費の負担が重くなる理由
  • 2026年の保険料補助の終了とメディケイド改革が今後に与えうる影響
  • 日本の国民皆保険と比べて知っておきたいことと、渡米前の備え
目次

アメリカの医療格差はいまどうなっているのか|2024年の無保険者数から見る現状

アメリカ国勢調査局の報告書によると、2024年にアメリカで保険に入っていた人は人口の92.0%(約3億1,000万人)でした。裏を返せば、残る8.0%は1年を通して保険がなかったことになります。2023年の7.9%と比べて、統計上の有意な変化はありません。

数字だけを見ると「9割以上は保険に入っている」と受け取れます。ただし、その内訳や、入っていても使いにくい人がいる点まで見ないと、医療格差の実態は見えません。

無保険の人は65歳未満で約2,700万人

KFF(カイザーファミリー財団)の分析では、2024年に医療保険がなかった0〜64歳は約2,670万人で、この年齢層の9.8%にあたります。2023年より約130万人増えており、2019年以来、無保険者の数が増えた年だったと報告されています。65歳以上の多くは公的保険のメディケアに入るため、無保険の問題は主に65歳未満に集中しています。

無保険の理由は「入りたくない」ではなく「高くて入れない」

KFFによると、無保険の18〜64歳の成人のうち61.7%が、保険に入っていない理由を「保険料が高く、手が届かないから」と答えています。保険に入るかどうかは個人の選択に見えても、実際には家計の事情が大きく影響しています。

アメリカの医療水準そのものが低いわけではない

誤解のないように補足すると、アメリカには世界でも有数の高度医療があります。問題は医療の質ではなく、「その医療に届くかどうか」の差です。保険を持っている人は最先端の治療を受けられる一方、持っていない人は、体調が悪くても受診をためらいます。この差こそが、アメリカで語られる医療格差の中心です。

国民皆保険がないアメリカの仕組み|保険を手に入れる3つの経路

日本では1961年に国民皆保険が実現し、誰もが何らかの公的医療保険に加入する仕組みが整っています。アメリカには、全国民を一律にカバーする公的保険がありません。その代わり、保険を手に入れる経路が大きく3つに分かれています。

勤め先の民間保険が中心

アメリカ国勢調査局の2024年のデータでは、人口の66.1%が民間保険に入っており、そのうち53.8%が勤め先を通じた保険です。会社員にとっては、保険が福利厚生の一部として契約に含まれているのが一般的です。逆に言えば、仕事を失うと同時に保険も失う可能性があります。

公的保険は対象が限られる

公的保険には、高齢者や一部の障害者向けのメディケア(人口の19.1%)と、低所得者向けのメディケイド(17.6%)があります。メディケイドは2023年から1.3ポイント下がりました。子ども向けには、メディケイドを補う医療保険制度のCHIPもあります。いずれも、年齢や所得などの条件に当てはまる人だけが対象で、「国民なら誰でも入れる保険」ではありません。

自分で探す人と、州ごとの違い

自営業やフリーランスの人は、ACA(医療保険制度改革法)に基づく保険市場で、自分で民間保険を選んで契約します。保険は商品ごとに、診察のたびに自分で払う「免責額」や負担割合が異なります。

州による差も大きく、ACAでメディケイドの対象を広げる「拡大」を2024年初めの時点でしていなかったのは10州でした。KFFによると、2024年の無保険率(19〜64歳)は、拡大していない州で14.5%、拡大した州で8.0%と、約2倍の開きがあります。住む州によって、使える公的保険の範囲が変わるのです。

保険があっても安心できない|医療債務と受診控え

保険に入っていれば安心、というわけではありません。自己負担や免責額が重く、請求書を払いきれない人が多いからです。ここでは、2022年に実施されたKFFの調査を紹介します。調査時期は少し前ですが、アメリカ全体の医療費負担を成人に直接尋ねた代表的な調査です。

成人の4割以上が医療費の負債を抱えている

KFFの調査では、成人の41%が、医療費や歯科費用に起因する負債を現在抱えていました。過去5年間に返済を終えた人(16%)を加えると、57%が負債を経験しています。意外なのは、保険がある人でも44%が負債を抱えている点です(無保険の人は62%)。保険に入っているかどうかだけでは、費用の不安は測れないことが分かります。

負債は「受診を遠ざける」

負債がある人の64%が、必要な医療を先延ばしにしたと答えました。負債がない人では28%です。さらに、負債のある人の15%は、未払いの請求を理由に医療機関から診療を断られた経験があると答えています。負債が、次の受診を妨げる悪循環になっていることがうかがえます。

医療費の負担が家計を圧迫し、必要な医療を遠ざけるという構図は、貧困が連鎖する仕組みそのものです。

こうした負の連鎖を、世界の貧困の視点から詳しく知りたい方は、次の記事もあわせてご覧ください。

国際比較でも課題が指摘されている

アメリカのシンクタンク、コモンウェルス・ファンドが2024年に公表した10カ国比較では、アメリカの医療制度は総合順位で最下位でした。比較は、医療へのアクセス、公平性、成果など5分野・70の指標で行われています。特に公平性の分野で、所得が低い人ほど「費用が理由で必要な医療を受けられない」と答える傾向が強いと指摘されています。

誰に格差が集中するのか|誤解されやすい点と当事者の視点

医療格差は、特定の人だけの問題ではありません。ただ、統計を見ると、負担が偏りやすい層があります。ここでは、誤解されやすい点と、数字から読み取れる偏りを整理します。

「無保険は働いていない人」という誤解

無保険の人と聞くと、働いていない人を想像するかもしれません。しかしKFFによると、無保険の人の85.1%は、1人以上が働いている世帯に暮らしています。また、無保険の人の約8割(80.2%)は、世帯収入が連邦貧困水準の400%未満です。働いていても、勤め先に保険の提供がない、あるいは保険料が家計に見合わないという状況が、数字から見えてきます。

人種や所得によって変わる負担

KFFの2022年の調査では、医療費の負債を抱える人の割合が、黒人の成人で56%、ヒスパニックの成人で50%、白人の成人で37%でした。年収別では、4万ドル未満の世帯で57%、9万ドル以上の世帯で26%です。

こうした差の背景には、仕事の種類、住む地域、保険の入手しやすさなどが複合的に関わっています。人種や所得といった一つの要素だけで説明できるわけではありません。

移民や、言語の壁を抱える人たち

無保険の人の約4分の1(25.4%)は、市民権を持たない人たちです。加えて、言語の壁があると、保険の選び方や手続きの情報にたどり着くこと自体が難しくなります。情報が届かないことも、格差の一因になりえます。

格差が暮らし全体にもたらす影響を広く知りたい方には、こちらの記事が参考になります。

コロナ禍から2026年へ|保険を失うリスクが再び高まる理由

アメリカの医療格差は、固定された状態ではありません。景気や制度の変更によって、保険を持つ人の数は大きく動きます。コロナ禍と、2025〜2026年の変化を順に見ていきます。

コロナ禍で見えた「失業すると保険を失う」リスク

会社が保険を提供する仕組みのため、コロナ禍で職を失った人は、同時に保険も失うことになりました。自宅でテレワークができる人と、現場で働き続けなければ収入が途絶える人との間で、リスクの差が浮き彫りになりました。

その後、コロナ禍で続いていたメディケイドの継続加入の特例が2023年に終了し、手続きの見直しが進みました。2024年のメディケイド加入割合が前年から1.3ポイント下がったのは、その流れの一部とみられます。

2026年に終わった保険料の補助

2021年から続いていた、保険市場の保険料を補助する拡大措置(強化された税額控除)は、2025年末で終了しました。KFFが公表した民間保険会社の届出データの分析では、個人向け保険の加入者は、2025年6月の約2,520万人から2026年6月には約2,050万人へと、約18%減っています。

減った人のすべてが無保険になったわけではありません。KFFの調査では、2025年に保険市場で加入していた人のうち、22%が別の保険に移り、9%が無保険になったと答えています。議会予算局(CBO)は、補助の終了によって400万人超が無保険になると見込んでいました。

メディケイドの就労要件が2027年に始まる

2025年7月に成立した大型の予算法には、メディケイドの見直しが含まれています。ACAでメディケイドを拡大した州の19〜64歳の対象者は、原則として月80時間の就労や就学、地域活動などを示す必要があります。実施の期限は2027年1月1日です。

CBOの推計では、2034年までに無保険者がこの法律により約1,000万人増えるとされ、うちメディケイドの変更が約750万人、保険市場の変更が約210万人です。就労要件だけで約530万人にのぼるとされています。これらはあくまで推計であり、実際の人数は、各州の運用や景気によって変わります。

この見直しには、制度の持続性や就労の促進を理由に支持する声もあれば、手続きの負担で、条件を満たす人まで外れてしまうと懸念する声もあります。

日本の国民皆保険と比べると|私たちが知っておきたい3つの視点

ここまで見てきた内容を、日本に住む私たちの暮らしに引き寄せて考えます。厚生労働省は、日本の医療保険を、国民皆保険のもとで全員が何らかの公的保険に入る仕組みとして説明しています。

違いは「入口の仕組み」にある

日本では、保険に入ること自体が制度上の前提で、窓口で払う自己負担は原則3割(年齢や所得で異なります)です。さらに、高額療養費制度により、1か月の自己負担額が所得に応じた上限を超えた分は払い戻されます。アメリカでは、保険に入るかどうか、どの保険を選ぶかが、雇用や所得、住む州によって変わります。

日本にも課題はある

どちらの制度が優れているか、という単純な話ではありません。日本でも、保険料の負担感や、地域による医療提供体制の差などは議論が続いています。アメリカの現状は「他国の問題」ではなく、自国の制度を見直す際の参考材料として読むのが適切です。

渡米・留学・出張の前に確認したいこと

日本の健康保険は、アメリカの医療機関の窓口でそのまま使えるわけではありません。海外で支払った医療費の一部が後から払い戻される海外療養費制度はありますが、治療目的の渡航は対象外で、払い戻し額は日本国内の価格を基準に計算されます。実際の請求額との差が大きくなることがあります。来年の春や夏に渡米を予定している方は、今のうちに次の点を確認しておくと安心です。

  1. 留学先や勤務先が加入を指定している保険があるか
  2. 海外旅行保険の補償額が、治療費と緊急搬送費をカバーしているか
  3. 保険会社が医療機関へ直接支払う方式(キャッシュレス診療)に対応しているか

医療格差をどう受け止めるか|SDGsの視点と次の一歩

SDGs(持続可能な開発目標)の目標3「すべての人に健康と福祉を」には、ターゲット3.8として、経済的な負担を理由に医療を諦めずに済むUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)の達成が掲げられています。ここで想定されているのは途上国だけではありません。先進国でも、制度の設計や景気によって、医療に届く人と届かない人が分かれるという事実を、アメリカの例は教えてくれます。

同じ「格差」でも、見ている指標が違う

ニュースでは、無保険率、医療債務、受診控えといった数字が並びます。これらは別の指標です。無保険率は「保険の有無」、医療債務は「負担の重さ」、受診控えは「実際に医療を使えているか」を表します。たとえば、無保険率が横ばいでも、医療債務が増えていれば、実態は悪化している可能性があります。数字を見るときは、どの指標かを確かめる習慣が役に立ちます。

数字の出どころを自分でたどってみる

アメリカの無保険率は、毎年9月ごろに国勢調査局が公表します。KFFは、その数字を分かりやすく整理した解説を更新しています。ニュースで数字を見かけたら、元の資料で、対象の年齢層や調査年を確認してみてください。たとえば0〜64歳の数字と全年齢の数字では、割合が異なります。

まとめ

アメリカでは、2024年に人口の8.0%が無保険でした。保険は勤め先を通じて手に入れる人が多く、公的保険は高齢者や低所得者など、対象が限られています。さらに、保険に入っていても、自己負担が重く医療債務を抱える人が少なくありません。負担は、所得、人種、住む州によって偏りがあります。

2026年に入ると、保険料の補助の終了で個人向け保険の加入者が減り、2027年にはメディケイドの就労要件が始まります。CBOは、2034年までに無保険者が約1,000万人増えると推計していますが、実際の影響は、各州の運用や景気に左右されます。

日本の国民皆保険は、このような仕組みと比べると、入口の段階で「誰もが入る」ことを前提にしている点が大きく違います。一方で、日本にも負担や地域差の課題があります。まずは、アメリカの無保険率のニュースを一つ見かけたら、その数字がどの年齢層、どの調査年を指すのかを確かめてみてください。

  • 2024年のアメリカの無保険率は8.0%で、0〜64歳に限ると約2,670万人(9.8%)にのぼる
  • 無保険の約85%は働く人がいる世帯で、最大の理由は「保険料が高く、手が届かない」こと
  • 保険がある人でも44%が医療費の負債を抱え、負債は受診の先延ばしにつながる
  • 2026年の補助終了とメディケイドの就労要件の導入で、無保険者がさらに増える可能性がある
  • 日本の皆保険と比べて違いを知ることは、渡米前の備えや自国の制度を考える手がかりになる

参考文献

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事

アフリカ在住フリーライター。現在はルワンダにて、2歳児を育てながらwebライターとして活動中です。無理しない範囲で「エコな暮らし」「サステイナブルな生活」を楽しむよう意識しています。実践しているのは、布おむつ・マイボトル・エコラップ・自宅ではできるだけベジタリアンなど。読者の背中を押して、明日からの生活に小さな変化をもたらせるような記事を書いていきたいです。

  1. 増え続けるパレスチナ難民|歴史の長い背景と過酷な難民暮らし、最新の現状まで

  2. アフリカ難民はなぜ増え続けるのか|2026年最新データと日本にできる支援

  3. 先進国でも広がる医療格差、アメリカにおける現状とは?

RELATED

PAGE TOP