もし日本で生活していながら病気になったとしたら、症状にあわせて医療機関を選び、自分で選択した病院を受診することができます。
そんな私たちが健康を維持するためにイメージすることといえば、バランスの良い食事や運動習慣などでしょう。
このような日常の中で、医療格差を身近な問題として感じる機会はほとんど無いかもしれません。
健康は私たちがゆとりのある人生を送るための土台となるものですが、世界には医療が受けられず、治る病気や予防できる病気で亡くなっている人が多くいます。
この記事では、SDGsの視点を取り入れながら、世界の医療格差の実態と解決策について紹介します。
死亡する原因が示す世界の地域格差
日本をはじめとする先進国では、がんや心臓病などのいわゆる生活習慣病が死亡する原因の上位を占めています。
一方で、途上国ではエイズや肺炎、結核といった感染症が主な死亡原因となっています。
途上国の死亡原因となっている多くの感染症。これらは予防することができますし、治療法も確立されています。
例えば結核は内服で治すことができる病気ですが、世界の結核患者と死亡者の95%以上は途上国で発生しているという報告があります。
SDGsのゴール3には「すべての人に健康と福祉を」が掲げられていますが、このような世界の医療格差は、病院への距離や貧困から生まれています。
参照元:結核について (ファクトシート)|厚生労働省検疫所HP
医療へのアクセスが遠い
途上国では医師が少なく医療が人々の身近にないために、体調が悪くてもすぐに受診することが難しい現状があります。
とくに農村部では病院が遠く、受診するまで何時間もかかることも珍しくはありません。
そのため、途上国には具合が悪い時に遠くの病院まで行くのが大変だったり、交通手段がないために、治療を受けることをあきらめてしまう人もいます。
さらに、実際に病院に行っても医療環境や薬が揃っていないために、さらに遠い病院に行かなければならないこともあります。
貧困が人々を医療から遠ざけてしまう
途上国の人々を医療から遠ざけているもう一つの原因は、貧困です。
日本には国民皆保険制度がありますが、WHOによると世界の約半数の人々が、基礎的な保険サービスを受けることができていないようです。
保険サービスが無いと治療費は必然的に高くなります。貧困によって日々の生活に精いっぱいな人は、治療費を払う余裕がなく病院に行くのをためらってしまいます。
そのため、適切な治療を受けることができずに体調が悪化し、治る病気でも亡くなってしまうのです。
病気の原因を減らすために大切な栄養不良の改善
2019年のユニセフ子供白書には、5歳の誕生日を迎えることなく亡くなる子どもは年間520万人で、1日に約1万4,000人の5歳未満児が命を落としている現実が記されています。
さまざまな解決策によって、1990年に年間1,250万人、1日に約3万4,000人の5歳未満児が亡くなっていた状況よりも大きく改善されました。しかしながら、いまだに途上国では6秒にひとりの命が失われているのです。
SDGsのゴール2「飢餓をゼロに」は、医療格差を解決するためにも重要な課題です。食べるものはその人の体を作ります。栄養不良の子どもは抵抗力が弱いので病気にかかりやすく、そして病気に打ち勝つことができずに命の危機にさらされてしまいます。
途上国の子どもたちの死因のほとんどが、基本的な栄養摂取によって予防効果のある肺炎や下痢などです。
つまり、子どもたちの命を守るためには、途上国の栄養不良の改善が必須と言えるでしょう。
参照元:世界子供白書2019 子どもたちの食と栄養|unicef
病気の原因を減らすために大切な水・環境
SDGsでは、「すべての人が安全で安価な飲み水を入手できること」を世界が達成すべき目標の一つとして掲げています。世界全体で大きな改善がみられていますが、地域格差が残っているのが現状です。
特にサハラ以南のアフリカに住む子どもたちの多くは、不衛生な水と環境の中で生活しています。清潔な水で傷口を洗うことができずに化膿したり、手洗い設備がないため感染症にもかかりやすくなります。安全な水の確保は、医療格差の解決策としてとても重要であると言えます。
また、世界ではマラリアによって年間推定40万人もの方が亡くなっており、そのほとんどが途上国の人々です。マラリアは、ハマダラ蚊というマラリアを媒介する蚊に刺されることで感染します。大人でも重症化しやすく死亡率も高い病気ですが、蚊に刺されなければマラリアへの感染リスクを抑えることができます。
現在日本企業が開発した、防虫剤を織り込んだ蚊帳をUNICEFなどの国際機関を通じて供給する動きがあります。蚊帳の中で眠るという環境の変化によってマラリアを予防でき、多くの人の健康を守ることができるのです。
参照元:世界保健機構(WHO)2019年世界マラリア報告書|認定NPO法人 Malaria No More Japan
日本にいる私たちができる解決策に向けた取り組み
医療格差は、単に病院の数の違いによって起こっているのではなく、貧困や栄養状態、生活する環境によっても大きく影響されることを紹介しました。
治療や予防方法が確立されている病気によって亡くなる方の中で、救う事ができた命はどれだけあるでしょうか。そして、私たちひとりひとりが医療格差をなくしていくために、どんなことができるでしょうか。
まず、募金やボランティアを思い浮かべる方も多いと思います。これらは直接の援助に結び付き、とても有効な支援方法といえるでしょう。しかし募金やボランティア以外にも、SDGsの達成を目標にしていくことで医療格差を減らすことができます。
日本企業が開発したマラリア予防の蚊帳に代表されるように、さまざまな企業がSDGsに取り組むことで、途上国の環境改善に繋げることができるかもしれません。そのために私たち個人ができることは、一人の消費者としてそのような取り組みを行っている企業や団体に関心を持つことです。
興味をもってニュースを見たりインターネットで情報収集をして、まずは身近な人に話してみませんか。一人ひとりの小さな気付きから、SDGsの達成や格差の解決に向けたアイディアが、新しく生み出されていくかもしれません。
参照元:持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割|JAPAN SDGs ACTION PLATFORM|外務省