土壌汚染は、人の健康に影響を及ぼす恐れがあるものとはいえ、これまで明らかになることはあまりありませんでした。
しかし、昨今、企業の工場跡地などを再開発する際に、重金属や揮発性有機化合物といわれる有害物質による土壌汚染が明るみになることが増えました。
ここ数年での土壌汚染の事例判明件数の増加は著しい状況です。
土壌汚染は、すぐに人の健康に影響を及ぼすものでないと言われていますが、放置すれば健康被害が生じる恐れがあるのです。
この記事では、土壌汚染の原因や事例について、分かりやすく解説します。
土壌汚染とは
土壌は、わたしたち人間やすべての生き物が生存するために、空気・水と同じくらい必要不可欠なものです。
人間を含むすべての生き物は、食事をとらなくては生きることができません。
土壌の中にある水分・養分が農作物を育て、その農作物を食べることで私たちは生きています。
土壌汚染とは、人間を含む生き物にとって害のある物質で土壌が汚染された状態のことを言います。
土壌汚染には、人間の活動によって引き起こしたものや、時間をかけて自然に汚染されたものなど、様々な原因があります。
土壌汚染の特徴
土壌汚染は目に見えにくいものです。
土壌汚染には、以下のような特徴があります。
・土壌汚染の原因となる有害物質は、水・大気の中と比べると動きにくい特徴があり、土の中に長い期間とどまる。
・目に見えないので、汚染されていることに気が付きにくい。
・一度土が汚染されてしまうと、排出をやめても長い期間汚染された状態はつづく。
・人の健康や生態系への影響は長い期間及ぼしてしまう。
・汚染される範囲は、水や大気の汚染と比べると狭い範囲である。
・揮発性有機化合物(液体から気体に変化しやすいもの)は、地下の奥深くまで浸透しやすく、地下水に溶け、その流れにそって汚染が拡大する恐れがある。また、地層の中の空気を汚染して、大気へも広がる場合がある。
・重金属は、土の中ではあまり広がらず、とどまりやすい。
土壌汚染の主な原因物質は、以下のものです。
・揮発性有機化合物…トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ベンゼンなど
・重金属…鉛、ヒ素、六価クロム、水銀、カドミウムなど
土壌汚染の主な原因
土壌汚染が発生する原因として、まず思い浮かぶことは、工場などで有害な物質を不適切に扱われたという状況ではないでしょうか?
工場から引き起こされる状況はよく知られる原因ですが、土壌汚染の原因は他にもあります。
原因① 工場などから流出する
工場などでは、使用している際に有害物質をこぼしてしまったり、有害物質を含んだ排水が漏れることによって土の中に入ってしまう恐れがあります。
原因② 土に埋められた有害物質が溶けて広がる
有害物質を含んだ廃棄物を土の中に埋めると、雨や雪などの影響で有害物質が溶けて、土の中で広がってしまうことがあります。
原因③ 大気中の有害物質が地面に落ちる
大気中の排気ガスや飛灰も土壌汚染の原因になります。
これらの中にも、有害物質が多く含まれていますので、土の表面に落ちて蓄積されると、土壌汚染が進んでいきます。
土壌汚染が原因で引き起こされた3つの事例
では、実際に土壌汚染が原因となって起きた3つの事例について、分かりやすく解説します。
事例① イタイイタイ病
岐阜県の三井金属鉱業神岡事業所で、鉱石を還元することによって金属を取り出す過程で、未処理排水があり、岐阜〜富山を流れる神通川流域の富山県で発生した公害病。
鉱山から排出されたカドミウムという有害物質が神通川を流れて、下流の水田土壌に蓄積しました。
当時、神通川の他に水源がなかった周辺の住民たちは、カドミウムが溶けた水を農業用水や飲み水として生活していたため、カドミウムを大量に含む米が収穫され続けていました。
こうした状況の中、この地域で長年生活してきた35歳以上の住民に多くの健康被害をもたらしました。
事例② 築地市場移転問題
築地市場における施設の老朽化に伴い、豊洲地区への移転を計画し決定していました。
移転先は東京ガスの工場跡地であり、土壌汚染対策として浄化した土壌の上に盛り土を行うという方式となりました。
しかし、豊洲市場の全施設が完成した後で、敷地の一部で盛り土をされていなかったことが判明し、市場移転において安全性を担保する必要があり、議論は深刻化しました。
事例③ 小鳥が丘住宅団地
岡山県郊外にある、廃油処理工場の跡地に造成された分譲の住宅団地での事例です。
調査により、環境基準を大きく上回る有害物資がされました。
ベンゼンが約26倍、トリクロロエチレンが約27倍と、非常に高い数値です。
さらに、地下水位が上昇したことにより、油の臭いが生じることとなりました。
よって、20世帯以上の住民が10億円以上の救済を求めて提訴する事態となりました。
汚染された土壌に対してとられてきた対策
農用地における土壌汚染については、「農用地の土壌の防止等に関する法律」によって、人の健康に影響を及ぼす恐れのある農産物などの生育阻害の防止・対策がとられてきました。
しかし、これまで、都市部における土壌汚染については、汚染の原因やメカニズムがあまり明らかにならない状況でした。
近年では、工場跡地の再開発・売却のタイミングや、環境を管理する取り組みで、汚染状況を自主的に調査する業者が増えたり、自治体が地下水を調査するといった動きが増えたことで、土壌汚染が明らかになることが多くなりました。
土壌汚染において、環境省が土壌環境の基準を設け、調査・対策を策定してきました。
また、各自治体でも、独自で条例をつくるなどし、住民の健康を守るための対策がとられています。
土壌汚染の原因を作らないために個人で注意すべきこと
先程、土壌汚染の原因や土壌汚染が原因で引き起こされた3つの事例を紹介しました。
土壌汚染の原因の多くは工場などだろうと感じた方もおられたかもしれませんが、実は個人の行動が土壌汚染の原因となる恐れもあることを理解しておく必要があります。
私たちは、日常生活において、多くの化学物質を含んだ製品を使用しています。
例えば、掃除用の洗剤・殺虫剤・除草剤などは効果が強いものも多いです。
「まぜるな危険」と書かれた製品は誰もが見たことがあるのではないでしょうか。
化学物質を含んだ製品を使用している私たちは、指示どおりに正しく取り扱うよう注意が必要です。
扱い方を間違えると、土壌汚染の原因を作ってしまう恐れがあります。
私たちが簡単にできることは、化学物質を含んだ製品は適切な量を使うこと、正しく廃棄することです。
まとめ
土壌汚染とは、人間を含む生き物にとって害のある物質で土壌が汚染された状態のことを言います。
土壌汚染は、人の健康に影響を及ぼす恐れがあるものとはいえ、これまで明らかになることはあまりありませんでした。
しかし昨今、工場跡地の再開発・売却のタイミングや、環境を管理する取り組みで、汚染状況を自主的に調査する業者が増えたり、自治体が地下水を調査するといった動きが増えたことで、土壌汚染が判明することが増えています。
土壌汚染が発生する主な原因としては、以下の状況があります。
・工場などから有害物質が流出する
・土に埋められた有害物質が溶けて土の中で広がる
・大気中の有害物質が地面に落ちて蓄積される
このような土壌汚染は環境省や地方自治体などでも対策をとられていますが、私たち個人でも土壌汚染の原因を作らないために意識して生活することが大切です。
私たちは多くの化学物質を含んだ製品を使用しながら生活しています。
土壌汚染のことを正しく理解して行動しましょう。