『健康格差』という言葉を聞いたことがありますか?
格差という言葉を聞くと、貧困や経済格差、教育格差などをイメージする人が多いと思います。
健康の格差がメディアで取り上げられることは少ないですが、決して問題が表面化していないわけではありません。
むしろ、健康格差は先進国において大きな問題になりつつあります。
さらに厄介なことに、様々な原因が複雑に絡み合って健康格差を引き起こしているため、問題の解決は容易ではありません。
現在は、SDGsの目標3として「すべての人に健康と福祉を」が掲げられ、政府が主体となって健康格差の解決に取り組んでいます。
しかし、この問題を解決するためには政府だけでなく、私たち一人一人の協力が不可欠であるといえるでしょう。
今回は、健康格差の基礎知識や、この問題を解決するために私たちができることについて解説していきます。
健康格差とは
健康格差とは、「健康状態に影響を及ぼす総合的な社会環境の格差」を指す言葉です。
ただ単に「健康状態の格差」と解釈されがちですが、これは厳密には誤りです。
例えば、下記のような2人がいるとしましょう。
・裕福な家庭の男性。好きな食べ物を好きなだけ摂取する生活を送っていたことが原因で、体に腫瘍が見つかった。
・子供を育てるために、毎日ブラック企業で神経をすり減らしながら就業するシングルマザー。過度のストレスにより、体に腫瘍が見つかった。
結果的に2人とも同じ病気を発症していますが、その原因は大きく異なります。
そしてこの場合、『健康格差』に苦しめられているのは後者の女性になります。
要するに、自分でコントロールするのが難しい、もしくは不可能な要素が原因で健康状態に差が出てしまうことを健康格差というわけです。
たとえば、労働は健康に影響を与える大きな原因の1つです。
労働環境や職場の人間関係などは、心理的なストレスを発生させやすい要因がたくさん潜んでいるからです。
健康格差が生まれる主な原因
健康格差を引き起こす要因は多岐に渡りますが、自分ではコントロールできないような社会的要因、生得的原因もあります。健康格差が引き起こされる主な原因を以下で確認していきましょう。
所得格差
所得格差は、健康格差に影響を及ぼします。
所得格差の大きな地域に住んでいる人ほど、健康度や幸福レベルが低下することが報告されています。
なぜなら、所得の差が大きいほど、他人と自分を比較してしまうからです。
他者との比較によって、自己肯定感をすり減らしていきます。
特に、職場における雇用形態が不安定な人ほど、所得格差の大きさに絶望感を覚える傾向が高いそうです。
「所得について差を感じることなんて実際は全然ない」と思う人もいるかもしれません。
たしかに、所得について周りの人と自分を意識的に比較することは、あまりないですよね。
しかし、無意識のうちに所得格差による劣等感を感じてしまうこともあります。
自分では気にしていないつもりでも、所得の差によって心に複雑な感情が積もっていき、結果的にそれがストレスとなり、健康に影響を及ぼしてしまうことがあります。
職場環境
職場環境も、健康格差を引き起こす一因になっています。
ブラック企業で過労死する人や、職場の人のいじめによって精神を病んでしまう人については、みなさんもイメージがしやすいのではないでしょうか。
このような職場環境に加えて、勤務形態の不安定さも不健康を引き起こしています。
パートタイマーや派遣・契約社員などの不安定な契約形態の人は、正社員の人に比べて、心理的ストレスを感じやすい傾向があります。
また、会社の大きさという観点から見てみると、中規模程度の会社に勤める人が最もストレスを感じやすいというデータが、ある調査機関から出ています。
教育水準
学歴や教育水準が健康状態に影響しているというのは、少し意外に感じる方もいるかもしれません。
教育格差が所得や居住環境に影響を与える要因の一つと考えられていますが、同時に健康に対する影響力も確認されています。
たとえば、教育水準の低い人は、高学歴の人に比べて喫煙率が高くなる傾向があります。また、柔軟な思考力が鍛えられていないため、環境への適応に対応できず、ストレスを感じやすい人が多いようです。
教育格差は、世代間で連鎖しやすい要素です。高学歴の親は子供も大卒になる割合が高く、逆もまた然りです。教育水準に関する問題は、かなり複雑に絡まった問題であるといえるでしょう。
性別
性別も、健康状態を左右する要素の1つです。
性別は不変の要素であるため、どんなに対策をしても影響を完全に排除することは難しいです。
日本は、平均寿命の男女差が大きい国です。例年、男性より女性の方が5~7年ほど長い平均寿命になっています。
男性の寿命の短さにも、様々な要因が絡み合っています。主に、以下のような要因が関係していると言われています。
・仕事におけるストレスの多さ
・付き合う人の数が多い
また、男性ホルモンが原因である病気というのも一つ可能性として挙げられると言われています。
人間関係
大ベストセラー「嫌われる勇気」で、一躍有名となった心理学者アドラーは、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と言い切りました。
これが事実であるかはさておき、人間関係という要素が健康に及ぼす影響力は、たしかに大きいといえます。
実際、悩みの大半は、「恋愛の悩み」「友人関係の悩み」「上司との関係」…と、ほとんど人間にまつわることです。また、人間関係にはポジティブな影響力もあるため、一元的に悪いものだと決めつけることはできません。
政府の取り組み
日々広がり続ける健康格差という問題を解決するために、政府はどのように取り組んでいるのでしょうか。
現在、SDGsの17の目標の1つに、「すべての人に健康と福祉を」という項目があります。健康格差問題の解決は、日本だけでなく世界的に取り組まれているものなのです。
もちろん、複雑に絡み合う健康格差問題を是正するのは、簡単ではありません。
だからこそ、政府だけに頼るのではなく、私たち一人一人の協力が不可欠になっています。
私たちにできること
健康格差の解消のために、私たちにできることはどんなことがあるでしょうか?
ここでは、自分のためと他人のためにできることを、それぞれ紹介します。
参考にしてみてください。
他人のため:周囲の人に目を配ってみる
普段付き合いのある人を、冷静な目で観察してみましょう。
格差に苦しんでいる人は、どうしても自分から現状を話そうとしないことが多いです。
周りに相談できずにストレスを溜め込んでいる人が、あなたの近くにいるかもしれません。
たとえば、貧困家庭の子供は肥満になりやすいという調査結果もあります。これは、親が家に帰ってくるのが遅いため、深夜にインスタント食品を食べる機会が多いことが原因と考えられています。
しかし、「貧困の人=痩せている」というイメージが強いゆえに、このような事実はあまり知られていません。外見だけで、格差に悩んでいるかどうかを判断することは難しいのです。
自分の周りの人をじっくりと観察してみましょう。理不尽に苦しんでいる人は、あなたのすぐ近くにいるかもしれません。
自分のため:環境を変える
健康格差から自分を守るための強力な対策は、環境を変えることです。
残酷な話ですが、「周りがなんとかしてくれる」と思っていても、世界が変わることはありません。自分から能動的に動かない限り、周りの環境に変化は起きないのです。
引越しをする。転職をする。人間関係を整理する。できることはたくさんあります。問題が顕在化する前に、動き始めるようにしましょう。
まとめ
ここまで、健康格差の原因や現状について解説してきました。
「健康格差という問題が発展途上国に限らず、日本にも存在する」という事実を知るだけで、普段の物の見方が変わってきます。
まずは自分と身の回りから、健康格差を解決できるように動きましょう。1人の行動の積み重ねが、世界を大きく変えていきます。