児童労働とは、世界の貧困や紛争などが原因で、18歳未満の子どもたちが危険な労働をしたり、劣悪な環境下で働かされたりすることです。
本来であれば義務教育を受けながら、保護者や社会に守られ健全な育成をされるべき子どもたち。なぜ、教育が受けられず、過酷な労働を強いられるのでしょうか?
そして、この問題を解決するために、わたしたちにできることは何があるのでしょうか?
児童労働は日本人である私たちも無関係ではいられない問題です。では順番に見ていきましょう。
児童労働とは?
国際労働機関は、児童労働を「15歳未満の就労&18歳未満の危険で有害な労働に従事すること」と定めています。
現状、貧困国を中心に海外の国では多くの地域にて15歳未満の子どもが当たり前のように働いているのが実態です。
生活が困難な環境に置かれた子どもたちは、給料の有無に関わらず、さまざまな労働を強いられています。
5歳という幼さの子どもまでが働かされ、その労働が子どもたちの身体的、精神的発達を阻害するような危険なものであることがしばしばです。
児童労働が最も盛んな産業は農業で、児童労働全体の70%以上を占めています。具体的には、インドのコットン畑やガーナのカカオ生産地などでは、子どもたちが労働力として働いています。多くの小規模農家は貧しく、労働者を雇うことができないため、子どもたちが労働力として利用されるのが一般的です。このような状況は貧困の連鎖を引き起こし、深刻な問題となっています。
農業の次に児童労働が多い産業は、サービス業と鉱山を含む工業です。「危険で有害な労働」の一部として、土砂崩れの可能性がある建設現場での作業、有毒物質を扱う作業、感電の危険がある場所での労働などが挙げられます。
児童労働において最も危険な仕事には、奴隷労働、子ども兵士、児童買春、児童ポルノ、薬物取引などがあります。
このような仕事は、大人たちに「学校に行けるよ」などと騙されて連れていかれ、一度も学校に行かせてもらうことができないまま、長年に渡り労働させられる事例も多いと言われています。
児童労働は、子どもたちの教育を受ける権利を奪うだけでなく、心身ともに深刻なダメージを与え、場合によっては命を奪うまでのリスクを伴う、極めて重大な問題です。子どもたちは、学び、遊び、自己の成長に専念するべき時間を奪われ、代わりに過酷な労働に駆り立てられています。
児童労働の原因
世界中で多くの子どもたちが児童労働を余儀なくされています。その背後には、多くの複雑な原因が絡み合っています。以下に主な原因をいくつか探ってみましょう。
原因①:貧困
児童労働に陥る最も根本的な原因は貧困です。特に低所得国や発展途上国では、大人だけの労働による所得では家族全員の生計を立てることが困難です。そのため、子どもたちも働かざるを得ない状況が生まれています。
彼らは学校に行く代わりに労働場所へ行き、大人同様に働き、家計を支えています。これは、本来彼らが享受すべきである子ども時代の時間と権利を奪うもので、貧困と児童労働は密接に関連しているといえます。
原因②:児童労働が当たり前とされる社会
児童労働が行われる場は、主に家族経営の農場などの働き場です。これらの場所では、子どもたちが成人してからではなく、早い段階から働くことが期待されています。
特に一部の地域では、女の子に教育を受けさせるという概念があまり存在せず、女の子たちは幼い頃から無給で働かせることが当たり前とされています。このような社会規範や信念が児童労働を助長している側面があります。
原因③:教育環境の欠如
児童労働の一因として教育環境の欠如も挙げられます。世界の多くの地域では、近くに学校がない、通学手段が整っていない、教員が不足している、文房具や制服を購入する資金がないといった問題が存在します。
これらの地域では、大人たち自身が教育を受けてこなかったため、子どもに教育の必要性を認識していない場合があります。その結果、子どもたちは労働力として見られ、教育を受ける機会を奪われてしまいます。
原因④:紛争、自然災害、HIVやエイズなどから起こる社会的な混乱
社会的な混乱は、児童労働の増加に大きく寄与します。世界の多くの地域では、紛争や内戦が頻発し、政治や社会の状況が不安定です。その結果、生活が困難になり、子どもたちが働かざるを得ない状況が生まれます。
また、発展途上国の多くは農業中心の経済であり、自然災害が発生すると経済活動が大きく阻害されます。これにより、子どもたちが労働に出る必要性が高まるのです。さらに、HIVやエイズによる親の死亡も、子どもたちが働かなければならない理由の一つです。これらの社会的な混乱が、子どもたちを労働の世界へと押し込んでいます。
原因⑤:移住によるスラム化
貧困が原因で、多くの家族が農村部から都市部へと移住します。しかしながら、この移住が生活状況の改善につながるとは限らず、多くの場合は新たな貧困層を生み出します。
移住によって都市部に形成されるスラム地区では、基本的な生活環境が整わず、子どもたちの権利が十分に保護されません。教育や医療へのアクセスが制限され、子どもたちは生活のために働くことを余儀なくされます。このような都市部のスラム化は、児童労働を増加させる大きな要因の一つです。
以上の原因は、児童労働を繰り返し生み出す構造的な問題を示しています。貧困、教育の欠如、社会的な混乱、移住とスラム化といった問題が複雑に絡み合い、子どもたちが働く社会を生み出してしまっているのです。
参照元:児童労働|国際労働機関
児童労働の実態・現状について
まず、そもそも児童労働というものが、どれほどの実態であるのかをデータで確認していきましょう。
ILO(国際労働機関)が2017年に発表した『Global Estimates of Child Labour: Results and trends, 2012-2016』では、主に下記の内容がレポートされています。
出典元:『Global Estimates of Child Labour: Results and trends, 2012-2016』
【概要】
・世界中で1億5200万人の子どもが労働している。そのうちの7200万人は極めて有害で危険な労働環境にある。
・1億5200万人の子どものうち、48%は5才~11才である。
・8800万人の男子と6400万人の女子が労働している。
・農業(70.9%)、工業(11.9%)、サービス業(17.2%)に従事している
・児童労働の割合は、アフリカ地域(19.6%)、アメリカ地域(5.3%)、アラブ地域(2.9%)、アジア太平洋地域(7.4%)、欧州中央アジア地域(4.1%)
つまり、世界の子どもの10人に1人が児童労働を強いられているというのが実態なのです。
実はこの20年間で1億人近くの子どもたちが児童労働から解放されたと言われていますが、それでもまだこれだけの児童労働をする子どもたちが世界には存在しているのです。
児童労働の多い国・地域とは?
まず、アフリカのサハラ以南の地域では、子どもたちは農業に従事していることが多いです。特に、カカオ豆の生産が盛んなコートジボワールやガーナでは、子どもたちが危険な農作業を行う場面がしばしば見られます。
次に、アジアでは、特に南アジアの地域に児童労働が集中しています。インドやバングラデシュ、パキスタンでは、子どもたちは織物業や石炭採掘、家事労働などに従事しています。また、東南アジアのミャンマーやカンボジアでは、子どもたちが漁業や農業、家事労働に従事することが多いです。
ラテンアメリカの国々、特にボリビアやペルーでは、鉱業や農業に従事する子どもが多く見られます。これらの国々では、子どもたちは極めて危険な労働環境で働くことがしばしばで、健康被害や命の危険を伴います。
遠くの国や地域で起きている児童労働の問題が、私たちの日常生活と深く結びついていることを理解することは重要です。私たち日本人が生活しているこの地でも、無関心でいるわけにはいきません。児童労働の問題は、私たちが直接目にすることは少なくても、間接的には私たちの生活に大きく影響しています。
特に、上述の通り、児童労働の問題はアフリカとアジアで高い割合を示しています。詳しくは下記の記事をご覧ください。
日本でも児童労働が行われている?
日本に生まれ育った私たちには、まるで別世界のことに感じる方も多いことでしょう。しかし、実は日本でも児童労働は存在するのが実情です。
歴史から振り返ると、日本では近代化が進む明治時代から昭和初期にかけて児童労働が盛んに行われていました。特に、絹糸や綿紡績の工場で、未成年の女性たちが長時間労働を強いられる状況が見受けられました。しかし、高度経済成長期を迎えると、教育の重要性が認識され、児童労働の抑制に向けた法制度が整備されました。現在では、児童労働は法律により厳しく規制されています。
具体的には、労働基準法において、15歳未満の子どもの就労は原則禁止されています。また、18歳未満の者は、特に危険または有害な労働から保護されています。さらに、中学校卒業までの就学義務があり、この期間中の児童は学業に専念することが求められているのです。
しかし、これらの法律があるにもかかわらず、日本でもまだ児童労働の問題は存在します。
特定非営利活動法人ACEの報告によると、日本の児童労働では、児童ポルノや出会い系ビジネス、援助交際などの性関係のものが多い傾向にあります。
また、家庭内労働という観点からも児童労働の問題は存在します。例えば、家事や介護、家族経営の事業への労働など、非報酬での労働が見られます。これらは、法律で規制が難しく、また子どもたち自身がその労働について認識していないことが多いため、解決が難しい課題となっています。
参照元:日本にも存在する児童労働 ~その形態と事例~|NGO ACE
児童労働の実態と日本の関係性
それでは次に、世界中で報告されている児童労働の実態と、私たち日本との関係性について考えていきましょう。
児童労働の実態
児童労働は、学校に通えないような貧困状態にある子どもたちが、自分や家族が生きるために労働することを選ばざるを得ない状況から生まれます。強制的に人身売買されたり、性的搾取を受けたりすることもあり、子どもたちを虐待や暴力から守るために国際的な問題になっています。
生きるために過酷な労働をするしかない子どもたちは、朝は早くから炎天下や劣悪な条件で働き、夜遅くまで作業に追われます。自由はほとんどありません。
賃金は低く、学校に行くことはできません。病気をしたりケガをしたりしても、病院に行くこともできず、休むこともできません。奴隷は世界的に禁じられていますが、まさに奴隷と言っても過言ではないのが児童労働の実態なのです。
児童労働と日本の関係
子どもたちの自由を奪い、教育を受ける権利さえも叶わない児童労働。恵まれた環境で育った人が多い日本人は、児童労働と無関係なのでしょうか?
いいえ、実は私たち日本人も、児童労働と深い関わりがあるのです。
なぜなら、日本人は高品質であるにも関わらず『安い』ことにこだわる傾向が強いからです。そのしわ寄せが、世界中で多くの児童労働を生んでいるのです。
児童労働と日本の関係①:安くておしゃれなファッション
安くておしゃれで、多くの人に愛されるファッションスタイルが人気です。
こうした安価なファッションで使われる素材として綿(コットン)があります。自然素材で肌触りが良く、人気の素材がコットンです。
コットンというナチュラルな響きから、良い印象を持たれる方も多いことでしょう。ですが、綿の栽培や収穫には膨大な労働力が必要です。そのため、人件費の安い中国やインド、パキスタンなどの地域で生産が盛んです。
多くの場合、大量の農薬にまみれながら、手作業で綿を収穫します。収穫した綿は糸にしたり、縫製したり、色を付けたり、綿の加工にも膨大な労働力を必要とします。そんな綿の生産には、できるだけ安い労働力が必要です。
なぜなら、綿が安くなければ、私たちが手軽に買えるファッションの値段にならないからです。学校に行けないほど貧しい子どもたちは、安価な労働力としてうってつけなのです。
日本人であれば、安くて快適な綿の肌着や洋服を誰もがひとつは持っていることでしょう。
しかし、その安くて快適な綿素材のファッションは、過酷な児童労働によって生み出されたものかもしれないのです。
児童労働と日本の関係②:美味しく人気のチョコレート
甘くておいしいチョコレート。日本では子どもはもちろん、大人も大好きな人が多いです。
チョコレートの原料はカカオですが、カカオは主に中南米、西アフリカ、東南アジアで多く生産されます。
カカオを生産するためには、農地を開墾し、カカオを育て、実を収穫して運び、加工をする必要があります。
熱帯地域での過酷な条件下でたくさんの労働が必要になります。
世界的な気候や価格の変動により、カカオの生産効率は悪化していると言われています。
そのため、安くて手ごろな価格でチョコレートを生産するためには、学校に行けないほど貧しい子どもたちの安価な労働力としてうってつけなのです。
チョコレートが好きという人も多いと思いますが、チョコレートとして食べることはもちろん、パフェやアイスクリーム、料理にまでチョコレートを使います。
しかし、その安くておいしいチョコレートは、過酷な児童労働によって生み出されたものかもしれないのです。
児童労働を解決するための取り組みとは?
では児童労働を解決するには、いったい何をすれば良いのでしょうか?
安いファッションやチョコレートを買わなければ良いのでしょうか?そんなことが世界中で起きたら、綿やカカオの生産作業をするしかない子どもたちの生きる術を奪ってしまいます。
では、綿やチョコレートをもっと買えば良いのでしょうか?そんなことをしたら、もっと過酷な労働を大勢の子どもたちに強いることになるでしょう。
寄付をしたり、人権保護を訴えれば良いのでしょうか?一定の効果はありますが、根本的な解決には至らないでしょう。
では、どうすれば良いのか?児童労働を解決するには、子どもたちに教育の機会を作る必要があります。
なぜなら、教育を受けられない子どもたちが大人になり、その子どもたちがまた貧困層になってしまうからです。
貧困の世襲を断ち切るためには、字を書いたり、計算ができるように教育を受けるチャンスを作る必要があります。
貧しい子どもたちが教育を受けられるようにするには、彼らが労働する時間を減らし、教育が受けられる時間を増やす必要があります。
児童労働の解決に向けて、各国で様々な取り組みが行われています。以下にいくつかの国の事例を紹介します。
インドでの取り組み
インドでは、NGOや企業が中心となり、教育へのアクセスを改善する取り組みが行われています。これは、教育が児童労働を撲滅する鍵であるという理念から始まったもので、子どもたちに基礎教育を受ける機会を提供することを目指しています。
具体的には、学校建設や教師の雇用、教材の供給などが行われています。また、ラグマーク(RugMark)という制度も導入されており、これは絨毯(じゅうたん)産業における児童労働防止認証制度です。消費者がラグマークの付いた絨毯を選ぶことで、児童労働のない生産体制を選択することができ、それが企業に対するインセンティブとなります。
バングラデシュでの取り組み
バングラデシュでは、縫製工場における児童労働を撲滅するための取り組みが行われています。この取り組みは、国際的な衣料ブランドと政府が協力する形で進められています。
一部のブランドは、供給チェーンの透明性を高め、工場で働く子どもたちの年齢を厳格にチェックすることで、児童労働の排除に努めています。これにより、児童労働の存在がブランドイメージを損なうことを避け、消費者に対して社会的責任を果たす姿勢を示すことができます。
ガーナとコートジボワールでの取り組み
ガーナとコートジボワールでは、主要なカカオ生産地での児童労働問題に取り組んでいます。これらの国は世界のチョコレート供給の大部分を担っており、その生産過程での児童労働が問題視されてきました。
国際チョコレート製造業者と政府が協力して、カカオ農園で働く子どもたちのための教育プログラムを提供しています。これにより、子どもたちは学校教育を受け、より良い未来を実現する機会を得ることができます。また、農園主たちに対しても、児童労働を利用せずに生産を続けるための支援が行われています。
ニジェールでの取り組み
西アフリカのニジェールでは、ウラン鉱山で働く子どもたちを保護するための重要な取り組みが進行しています。この地域のウラン鉱山では、過酷な環境下で子どもたちが働かされるケースが見受けられており、そのような状況を改善するため、国際労働機関(ILO)とニジェール政府が共同でアクションを起こしています。
具体的には、ウラン鉱山で働く子どもたちに対して教育を提供し、彼らが安全な環境で働けるようにするプロジェクトを推進しています。このプロジェクトにより、子どもたちは危険な労働から解放され、学校に通う機会を得ることができるようになりました。また、彼らの家族に対しても、子どもたちを労働させずに生計を立てられるような支援が行われています。
児童労働の解決については下記のコラムでも詳しく紹介しています。
児童労働問題に対して私たち日本人にできることは?
世界中で行われている児童労働。教育を受けられないばかりか、危険な労働を行ったり、虐待され自由を奪われたりする児童労働は、絶対にあってはいけません。そんな児童労働を無くすために、私たち日本人にできることはあるのでしょうか?
貧しい子どもたちに直接何かをしてあげることはできませんが、
・安易に安いものを喜んで買わない
・できるだけゴミを減らし、リサイクルをする
・世界の問題にもっと関心を持つ
このような小さな努力を積み重ねることは、私たち日本人にも可能です。私たちの生活は巡り巡って貧しい子どもたちの生活に影響を与えているのです。
綿しかり、チョコレートしかりです。安いから買う、美味しいから食べる、いらないから捨てる。
日本のような豊かな国の人々がこのような生活をしている限り、世界の児童労働はなくなりません。
なぜなら、安いものを好んで大量に買い、いらないものを大量に捨てることで、安い労働力を必要とする原材料のニーズを高めているからです。
私たち日本人のひとり一人がモノを大切に扱い、本当に必要な価値あるものを買うようにし、無駄をなくしていけば世界に良い影響を与えることができます。価値あるものに富が分散され、世界の貧しい人々の労働賃金が上がり、児童労働を減らすことができるでしょう。
私たちの小さな努力の積み重ねが、児童労働をなくすことに繋がっていくのです。
まとめ|私たちにも原因がある世界の児童労働
今回は児童労働問題の現状と原因、そして私たちが取り組むべき解決策について解説しました。児童労働とは、多くの場合、貧困状態にある子どもたちが避けられない状況下で、過酷で危険な労働環境にさらされる状況を指します。これは深刻な社会問題であり、世界中の人々が関心を持つべき課題です。
この問題の根源は、決して遠い国や地域だけのものではなく、私たち日本人にも密接に関係しています。なぜなら、私たちが安価な商品を好み、大量に購入し、また必要なくなったものを大量に捨てることで、低賃金労働者を必要とする商品の原材料の需要を増大させているからです。
もしかしたら、遠くの国で生じている児童労働の問題に対して、私たちがすぐに具体的な解決策を見つけることは難しいかもしれません。しかしながら、私たちの日常生活が、何らかの形で児童労働を生み出す環境を助長してしまっているという事実を理解することは重要です。その理解を通じて、私たち一人ひとりができる何か、たとえ小さな行動であっても、児童労働問題の解決に向けて進めることができるようになるでしょう。