家族と過ごす時間を大切にしたい、趣味の時間を充実させたい、仕事だけの人生はいやだなど、新型コロナウィルスがきっかけで、今までの働き方以外の働き方を探されている方も多いのではないでしょうか?
この記事では、新たな働き方「ディーセント・ワーク」についてご説明します。
ぜひ、企業選びの参考にしてみてください。
ディーセント・ワークとは?
まだまだ浸透していないディーセント・ワークという言葉。
ディーセント・ワークは、1998年の第87回ILO(国際労働機関)総会でファン・ソマビア事務局長の報告の際に使用された言葉です。
ディーセント・ワークとは、「働きがいのある人間らしい仕事」を指し、ILO国際労働機関では以下のように示されています。
「権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会保護が与えられる生産的な仕事を意味します。それはまた、すべての人が収入を得るのに十分な仕事があることです。」
引用元:ディーセント・ワーク|ILO国際労働機関
分かりやすく言うと、「働きがいのある人間らしい仕事」をするためには、ただ働くだけではなく、人としての権利が保障されることが大切だということです。
また、ディーセント・ワークは、働くことで安定した生活を送ることができ、さらに人としての尊厳を保たれた生産的な仕事をすべての人が行えることが条件となります。
ではなぜ、近年ディーセント・ワークが注目されるようになったのでしょうか。
ディーセント・ワークが注目されるようになったきっかけ
ディーセント・ワークが実現すると働きがいのある仕事ができ、充実した暮らしを送れるようになります。
では、ディーセント・ワークはどのような背景のもと注目されるようになったのでしょう。
厚生労働省が推進する働き方改革
ディーセントワークが注目されているひとつに、ワーク・ライフ・バランスに合わせた働き方を実現するための取り組みを、厚生労働省が推進しているからです。
・人口減少による労働力不足
・出生率の低下
・労働生産性の低さ
を解消するために働き方改革がはじまり、2019年4月に労働基準法が改正されました。
内容としては、
・時間外労働の上限規定
・年次有給休暇の取得
・フレックスタイム制の導入
などです。
また、2023年にも労働基準法は改定され、月60時間超えの時間外労働に対して、大企業・中小企業ともに割増賃金率50%が適用されることになっています。
ディーセント・ワークはSDGsが関係する
ディーセント・ワークが注目されているもうひとつの理由はSDGsとの関係です。
2015年9月に国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)。
この目標が掲げている17個ある目標のなかの目標8、「働きがいも経済成長も」とディーセント・ワークが深く関わっています。
目標8は12個のターゲットで構成されており、その中に「包摂活持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」とあります。
ディーセント・ワークの実現は、不平等な労働環境にある人々をなくし、働きがいのある仕事をすることで誰一人残さない世界を目指しています。
ディーセント・ワークの具体的取り組み内容
では、ディーセント・ワークの具体的な取り組み内容とはどんなことでしょう。
メインとなる取り組み内容は2つです。
具体的に説明します。
労働時間の削減
1つ目が日本の労働環境で問題となっている、労働時間です。
厚生労働省の発表によると、過労働時間49時間以上の割合は18.3%(男性26.3%、女性8.3%)でした。
この18.3%という数字は、諸外国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ)と比べても最も高く、いかに日本の労働時間が長いのかがわかります。
労働時間を削減するための取り組み内容として、企業で行われているのが、
・ノー残業デー・ノー残業ウィークの設置
・年次有給休暇の取得
・残業の事前申請制度
・目標・スケジュールの見直し
などです。
また、工夫しながら時間外労働を削減のため独自の取り組みをしている企業も増えています。
多様な働き方
そして、2つ目がライフスタイルに合わせた働き方への配慮です。
内閣府によると、第1子出産前後に女性が仕事を継続する割合が4割から53.1%まで上昇していると発表しました。
育児制度が整ってきたことで、職場復帰できる人が増えている一方で、まだ半数の人は仕事を辞めなければならないという状況にいるのです。
育児や介護、家庭の事情で「働きたくても働けない」を減らすためには、企業も多様な働き方を推奨する必要があります。
例えば、
・テレワーク
・短時間正社員制度
・副業兼業
などです。
また、グローバル社会ではダイバーシティへの対応が求められるので、今以上に多様な働き方が重要になってきます。
では、ディーセント・ワークを取り入れる事で企業にどのようなメリットがあるのでしょうか。
参照元:
・労働時間やメンタルヘルス対策等の状況|厚生労働省
・時間外労働削減の好事例集|厚生労働省
・第1子出産前後の女性の継続就業率及び出産・育児と女性の就業状況について|内閣府 男女共同参画局
企業メリット
続いて、企業が取り組みを実践することで、どのようなメリットがあるのかご紹介します。
不足解消
ディーセント・ワークの導入で人材不足の解消につながる可能性があります。
育児制度や男性の育休推奨など、サポート体制の強化の導入など、仕事と家庭の両立が可能な環境に改善していくことで、人材の確保ができ、やめる人を減らすことで新たな採用コストをかける必要がなくなります。
企業成長
働きやすい環境という点で従業員満足度が向上すると、従業員の働くモチベーションも安定し、意欲的に仕事に取り組むようになります。
やる気のある従業員が多いと仕事の効率も上がり、生産性が向上し、企業全体の成長につながります。
また、企業が成長することで有能な人材が集まる可能性もあります。
企業のイメージアップ
ディーセント・ワークを導入し、透明性の高い会社だと認知されると企業イメージのアップつながります。
また、ディーセント・ワークの導入は社会に貢献しているという評価は、ESD投資の点でも重要となります。
オランダと日本企業の取り組み事例
続いて、ディーセント・ワーク先駆けといわれているオランダの事例と、日本企業が取り組んでいる事例をご紹介します。
オランダの取り組み
オランダでは、パートタイムの労働者と正規雇用の労働者の時給や社会保険の差をなくす、同一労働同一賃金制度を導入しています。
その結果、男女関係なく家事や子育てをしながら働くことができるようになり、オランダの失業率の低下と経済状況の改善に成功しています。
朝日新聞
新聞業界では男性社員の割合が多く、朝日新聞でも8割が男性だと言います。
ライフステージの影響を受けやすい女性が働きやすい環境に整えるため、
・育児休業
・介護休業
・短時間勤務
などの制度を導入。
また、産休・育休の研修は女性ではなく、パートナーの参加も奨励し、家事や育児は男女の協力も必要だという意識づけに努めています。
この取り組みにより、育児休業の取得者は増加、育児休業からの復帰率と復職後の1年の商業継続率が100%になっています。
さらに在宅勤務制度を導入し、利用者が増えています。
参照元:子育て支援|朝日新聞
Panasonic
パナソニック株式会社は、ベトナム国内4都市に生産拠点を構えており、近年大幅に企業を拡大しています。
その中で人材確保と定着が課題となっており、従業員1人ひとりのワークライフバランスに焦点をあてています。
基本的労働条件(昇給・賞与・手当・労働時間など)に加え、
・健康支援
・財産形成支援
・食堂などのインフラ整備
など、きめ細やかな意見を尊重した経営を進めています。
事業目線のカレンダー設定ではなく、ベトナム人が大切にする旧正月の休みを、仕事と家庭の両立を目的として10連休に定めています。
また、国内でも育児と介護、キャリアの継続ができるような取り組みに力を入れています。
まとめ
「ディーセント・ワークとはなにか?」をご説明しました。
今までは企業のための自分の時間を削りながら働くのが当たり前の世の中でしたが、これからは自分自身で働き方を選べる時代になります。
また、企業側は生き残っていくためにもディーセント・ワークを積極的に取り入れていく必要があります。
自身のプライベートが充実することで仕事へのモチベーションも向上し、やる気のある社員がたくさんいることで企業が成長していくことが期待できます。