省エネが叫ばれる昨今、環境を保全しながらエネルギーを安定して供給する観点から「エネルギーミックス」が重要視されています。特に日本はエネルギー自給率が低く、いかにして自国でエネルギー生産をするかが直近の課題です。
今回は、エネルギーミックスについて解説するとともに、現状や課題にも触れていきます。
エネルギーミックスとは
エネルギーミックスとは、暮らしや社会全体に欠かせない電気を、1つの発電方法ではなく複数の方法を使って供給することを指します。
日本のようにエネルギー自給率が低い国では、1つの方法に頼ると有事の際に滞ってしまう可能性があるため、非常に重要な発電方法です。
日本では、主に「火力発電」「原子力発電」「水力発電」「太陽光発電」といった発電方法を行っており、それぞれにメリット・デメリットがあります。
デメリットを際立たせないように、これらの方法を組み合わせて電力を賄っているのが現状です。
こうした発電方法の組み合わせのことを「電源構成」ともいい、エネルギーミックスと同じ意味があります。
エネルギーミックスの基本方針について
エネルギーミックスの基本方針は、「3E+S」と呼ばれています。
「3E」は、「安定供給(Energy Security)」「経済性(Economic Efficiency)」「環境(Environment)」を表す言葉です。また、「S」は「安全性(Safety)」の頭文字をとっており、いずれもエネルギーミックスに欠かせません。
続いては、エネルギーミックスの基本方針についてそれぞれ解説します。
安定供給(Energy Security)
日本をはじめ、どんな国であってもエネルギーが安定して供給されなければ、社会が回らなくなります。
エネルギー供給を安定させる上で欠かせないのが、自給率アップと輸入先を増やすことです。
特に日本はエネルギー自給率が低いだけではなく、石油や石炭、天然ガスといったエネルギー源も乏しいため、海外に頼らざるを得ません。
経済産業省の資源エネルギー庁によると、日本の一次エネルギー自給率は12.1%となっています。
1位のノルウェーでは816.7%もの自給率があり、いかに日本の自給率の低いことがわかります。
こうした現状より、エネルギー源を海外から輸入する必要がありますが、一国に偏ってしまうと国際情勢によっては輸入できなくなる可能性もあります。
こうしたリスクを避けるために、複数の調達先に分散しなければなりません。
参照元:エネルギー自給率の推移|経済産業省 資源エネルギー庁
経済性(Economic Efficiency)
もしも私たちの生活から電気が奪われてしまえば、生活水準が下がり、不便な生活を強いられます。
現代人にとって、それだけ電気はなくてはならない存在となっており、暮らしや社会を支えるライフラインです。
誰もが電気を使える状況を保つためにも、リーズナブルな金額を保たなければなりません。
コストがかかる発電方法に偏ると、電気料金が値上がりしてしまうため、経済性を考えた電源構成が必要です。
環境(Environment)
安定した電力供給には、環境への配慮も欠かせません。経済産業省では、温室効果ガスを2030年に2013年と比較して46%削減することを掲げています。
しかし、主要な発電方法の1つである火力発電は、温室効果ガスを大量に排出するため、他の発電方法とうまくバランスを取らなければなりません。
また、太陽光発電や地熱、水力といった再生可能エネルギーの活用もポイントとなります。
参照元:日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」|経済産業省 資源エネルギー庁
安全性(Safety)
最後の1つが「安全性(Safety)」です。
いずれの基本方針も安全性があってこそ成り立つものだという考えのもと、エネルギーミックスの取り組みはなされています。
例えば、2011年に日本で起こった東日本大震災は、福島第一原子力発電に多大な影響を与えました。
現在もなお、生まれ育った地に帰ることができない人がたくさんいるのが現状です。
こうした惨劇が二度と起こらないように、安全性を踏まえた取り組みが欠かせません。
エネルギーミックスの現状、2030年に向けた目標
東日本大震災から10年の節目を迎えた2021年、経済産業省による「第6次エネルギー基本計画」が閣議決定されました。
この計画では、「2030年度の温室効果ガス排出46%削減(2013年度比)」に加えて、「2050年カーボンニュートラル」に関する目標が掲げられています。
こうした目標実現に向けて、日本におけるエネルギーミックスの現状は、どうなっているのでしょうか。世界の現状も踏まえて解説します。
日本の現状
2020年度の段階で、日本の発電は火力発電が大半を占めており、その割合は76.3%でした。
2050年までにカーボンニュートラルを目指していますが、再生可能エネルギー発電の割合は18.1%にとどまっています。
とはいえ、2012年度に導入されたFIT制度により、再生可能エネルギーの1つである太陽光発電は増加しました。
FIT制度とは、「固定価格買取制度」のことで、太陽光や水力などの再生可能エネルギーを使って発電した電力を、電力会社が一定の価格で買い取る制度です。
世界の現状
再生可能エネルギーといえばヨーロッパが先駆けであり、特にデンマークでは年間発電電力量の約8割を占めています。
ドイツでは2000年に再生可能エネルギーの割合が7%程度でしたが、2010年には20%近くまで増加しました。
その後も、着実に数字を伸ばし、2050年には80%以上を目標としています。
参照元:2020年の自然エネルギー電力の割合(暦年速報)|特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所
個人でできるエネルギーミックス
エネルギーミックスと聞くと、個人でできることはないと考える人も少なくありません。
しかし、エネルギーミックスに不可欠な再生可能エネルギー発電の普及に関する行動は、個人レベルでも可能です。
続いては、個人でできるエネルギーミックスについて解説します。
太陽光発電パネルの設置
FIT制度の導入以来、自宅に太陽光発電パネルを設置する家庭が増えてきました。
とはいえ初期投資や管理費がかかるため、すぐに導入できないということもあるでしょう。
一般的に太陽光発電パネルは、中長期的に見れば電力の買い取りによって投資額を回収できると言われています。
また、災害時や停電が起きた場合には、非常用の電源となる点もメリットです。
太陽光発電ファンド
太陽光発電事業には、収益に合わせて分配金が配当される太陽光発電ファンドという金融商品があります。
太陽光発電パネルを設置するよりも安い金額で、日本全体の太陽光発電普及に貢献できる仕組みです。
ただし、自宅に太陽光発電パネルを設置するわけではないので、電気代節約や非常時の電源にはなりません。
省エネ
エネルギーミックスを進めるためには、省エネ対策も欠かせません。
全体的に使う電力が減れば、火力発電に頼る割合も少なくなります。
企業や国を挙げた対策はもちろん、個人レベルでも省エネを意識した活動が大切です。
例えば、使わない照明や電源は消すといった小さな行動も、多くの人が行えば大きなエネルギー削減になります。
このように一人一人の活動が、エネルギーミックス実現に影響していることを知ることも大切なポイントです。
エネルギーミックスの今後の展望と課題
エネルギーミックスは、電力供給の安定性、環境への影響、経済性をバランス良く考慮し、多様なエネルギー源を組み合わせて電力を供給する方法です。今後のエネルギーミックスの展望については、以下のようなポイントが重要となります。
再生可能エネルギーの普及拡大
気候変動対策や持続可能な開発の観点から、再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、バイオマス等)の普及拡大がますます求められます。
技術の進歩やコスト低減により、再生可能エネルギーの導入が加速されるでしょう。各国政府も、環境対策や自給率向上のために、再生可能エネルギー政策を強化しています。
脱炭素化の動き強化
温室効果ガス排出削減のため、化石燃料からのエネルギー供給を減らし、脱炭素化を進める必要があります。
再生可能エネルギーの導入拡大に加え、エネルギー効率の向上や省エネルギー技術の普及が重要です。また、炭素捕捉・貯蔵技術(CCS)や炭素回収・利用技術(CCU)の開発も注目されています。
原子力発電の役割
原子力発電は、CO2排出量が少ないため、気候変動対策の一つとして位置づけられています。
ただし、原子力発電にはリスク(事故、放射性廃棄物処理等)も伴います。各国において、原子力発電の利用をどの程度続けるか、またどのような安全対策を講じるかが大きな課題となっています。
エネルギー需要の変化
世界人口の増加や経済発展に伴い、エネルギー需要が変化します。特に、新興国のエネルギー需要が高まることが予想されるため、効率的かつ環境に配慮したエネルギーミックスが求められます。
また、エネルギー消費構造の変化や電気自動車の普及により、電力需要が増加することが予想されます。そのため、柔軟で効率的な電力システムの構築が重要となります。
国際協力の強化
エネルギー供給や環境問題は国境を越えた課題であるため、国際協力が不可欠です。技術移転や資金供与を通じて、各国が持続可能なエネルギーミックスを実現できるよう、国際的な取り組みが重要です。
まとめ
エネルギーミックスは、カーボンニュートラルを実現するためにも欠かせない取り組みです。
また電力の自給率が低い日本では、1つの発電方法に偏ってしまうことを避けなければなりません。
とはいえ、再生エネルギー先進国であるヨーロッパとは地形も違うため、なかなか難しい課題ではあります。
少しずつでも目標に近づくためには、一人一人の省エネ活動や再生エネルギーに対する理解が大切です。
地球温暖化が叫ばれている中、未来に生きる人たちが安定した暮らしを営めるように、できることから始めていきましょう。