2021年11月にイギリスのグラスゴーで開催された「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議」(通称COP26)では、石炭火力発電を段階的に削減することが合意されました。
COP26の議長国であるイギリスは当初、協定の原案として石炭火力発電の段階的「廃止」を提案していたのですが、各国の合意が得られず、段階的「削減」に落ち着いた経緯があります。
なぜ石炭火力発電を削減する必要があるのでしょうか。
それは、石炭火力発電に代表される火力発電が、地球温暖化の原因である二酸化炭素(CO2)を多く排出するからです。
そこで今回は、石炭に加え、石油、液化天然ガス(LNG)も含めた火力発電全体における世界や日本の問題点と解決策を紹介したいと思います。
火力発電とは
火力発電とは、タービンと呼ばれる羽根のようなものを、燃料を燃やすことで回転させることで発電する方法です。
気候条件に左右されない安定した電力供給が可能なため、主要な発電方法として多くの国で採用されています。
実際、2020年のデータによると、世界全体のエネルギーのうち約61%が火力発電(石炭・石油・液化天然ガスの合計)で生み出されています。
また、日本は全体の約69%を火力によって発電しています。
火力発電に使われる燃料は、主に石炭、石油、LNGの3つです。
それぞれの特徴について詳しく紹介します。
石炭火力発電
石炭は、植物が長い時間をかけて堆積し化石になったもので、比較的安価な燃料です。
石炭火力発電は数ある発電方法の中で最も大きな割合を占めていて、世界全体のエネルギーのうち約35%を生み出しています。
特にインド(約68%)、中国(約63%)、オーストラリア(約54%)などで割合が高く、日本でも約31%が石炭火力発電です。
石油火力発電
石油は液体状の化石燃料で、私たちの生活でおなじみのガソリンや灯油も石油の一種です。
石油は採掘できる地域が限られています。
産油が特に盛んなのは中東地域で、サウジアラビアは世界でもトップクラスの原油産出国です。
エネルギーといえば石油という印象がありますが、実は発電燃料として石油はあまり使われていません。
石油火力発電は世界全体のエネルギーのうち約3%に過ぎず、日本でもたった4%です。
火力発電
LNGは天然ガスを-162℃まで冷却し、液状化させた燃料です。
液体にすることで体積が約600分の1になるため、大量輸送や貯蔵に向いています。
LNGは石炭や石油に比べてCO2の発生量が少なく、比較的クリーンなエネルギーとして注目されています。
そんなLNGは近年、火力発電の燃料のなかでも比較的大きな割合を占めるようになってきています。
LNGによる火力発電は、世界全体のエネルギーのうち約23%を生み出しています。
アイルランド(約48%)やイタリア(約46%)などでその割合が高く、日本でも34%がLNGによる発電です。
参照元:
・国際エネルギー | 統計 | 自然エネルギー財団
・液化天然ガス(LNG)とは | 石油資源開発株式会社
火力発電のデメリット
火力発電は安定した電力供給ができることから、世界中で採用されている発電方法です。
しかし、火力発電にもデメリットがあります。
デメリット①CO2の排出
まず、火力発電はCO2の排出量が多い点がデメリットとして挙げられます。
太陽光発電や風力発電は、設備稼働時にCO2が発生しますが、発電時にCO2が発生することはありません。
一方で火力発電は、燃料自体を燃やすことで発電するため発電時にCO2が発生します。
たとえば太陽光発電は1kWhあたりのライフサイクルCO2排出量が38gなのに対し、火力発電ではもっとも効率のよいLNGコンバインド方式で474g、石炭火力発電で943gと、太陽光発電の10倍以上のCO2を排出します。
参照元:一般社団法人日本原子力文化財団|原子力・エネルギー図面集
デメリット②資源の枯渇リスク
また、燃料となる石炭や石油、LNGの枯渇リスクも挙げられます。
一般社団法人日本原子力文化財団の発表によると、石炭は約118年、石油は約46年、天然ガスは約59年でなくなると推測されています。
電気は現代のインフラであり、その需要は今後も増え続けることが予想されるので、火力発電以外の発電方法を考えるのは急務と言えるでしょう。
参照元:一般社団法人日本原子力文化財団
火力発電の課題
発電時のCO2排出や天然資源の枯渇リスクなどデメリットもある火力発電ですが、今すぐに廃止するのが難しい事情もあります。
課題①代替手段の問題
火力発電以外の発電方法にもデメリットがあります。
たとえば近年注目される自然再生エネルギー(太陽光発電、風力発電など)は、気候条件に左右されるため安定した電力供給が困難です。
また、CO2の抑制という観点では、原子力発電も選択肢のひとつとして考えられますが、チェルノブイリ原子力発電所事故や福島第一原子力発電所事故などからもわかるように、万が一の事故が起きた際の被害が甚大かつ長期的になるリスクがあります。
特に日本のように地震や台風などの自然災害が頻発する地域では、すべてを原子力発電に置き換えるのは難しいと考えられます。
課題②環境問題への意識
火力発電の廃止が難しいもうひとつの理由は、環境問題に対し危機感を持っている人が少ないことです。
環境問題に対して積極的な取り組みを示しているドイツは、2021年9月の選挙で環境政党である「緑の党」が躍進し話題となりました。
しかし、ドイツや北欧など一部の地域を除いては、一般市民レベルにおいて環境問題が熱心に取り扱われているわけではありません。
また日本では、2021年の新語・流行語大賞のノミネート語に「SDGs」が選ばれるなど、環境問題も含めた地球規模の課題に興味を示す人も増えていますが、まだまだ社会全体に浸透しているとは言いにくい状況です。
電気を利用している私たちひとりひとりが環境問題に対して危機感をもって考えることが、火力発電の割合を減らしていくためには必要です。
火力発電の今後と解決策
デメリットもありながら、なかなか全廃するわけにもいかない火力発電ですが、今後どのような運命をたどるのでしょうか。
ここでは世界情勢から、今後の火力発電事情について考えてみます。
世界では今、代替エネルギーを推進しています。
COP26の議長国であったイギリスは、発電量全体の45%を再生可能エネルギーが占めていて、特に洋上風力発電が盛んです。
洋上風力発電は1990年に環境先進国であるスウェーデンで始まったことをきっかけに広まりました。
イギリスは国土を海で覆われている島国である環境を活かし、洋上風力発電に注力する国家政策によって、現在では石炭火力発電の割合を2%にまで減らしました。
火力発電への依存度が低い国の代表例としてフランスも挙げられます。
フランスは電力の66%を原子力発電でまかなっていて、火力発電は10%に満たない数字です。
これも国家政策として原子力発電を推し進めてきた背景があり、現在では原子力発電で生み出した電気を周辺国へ売電することも盛んです。
日本では火力発電自体の技術革新が進められています。
特に石炭火力発電では、蒸気タービンの圧力や温度を超々臨界圧まで上昇させる技術で、欧米やアジア諸国より高い発電効率を実現しています。
発電効率が上がれば石炭の使用量が減るため、CO2を減らすことにつながります。
もしこの技術を中国やインド、アメリカへ適用できれば、CO2を約12億トン削減できる試算があります。
これは、日本全体の年間CO2排出量(約13億トン)に匹敵する規模です。
参照元:
・国際エネルギー|統計| 自然エネルギー財団
・経済産業省資源エネルギー庁
まとめ
今回は、火力発電の現状やデメリットを知ることで将来の発電のありかたについてご紹介しました。
火力発電のデメリットとして以下の2点を取り上げました。
・ほかの発電方法に比べ、火力発電は多くのCO2を排出する。
・天然資源を利用しているため、枯渇リスクがある。
そして、これらのデメリットを解消するために必要な課題について2点紹介しました。
・代替エネルギーや火力発電の技術革新が必要である。
・市民レベルでも環境問題への意識改革が必要である。
こうした課題を乗り越えるため、世界各国で新たな動きが始まっています。
たとえばCOP26では、石炭火力発電の段階的削減を世界が合意しました。
金融機関では、環境問題の取り組み意識が低い企業に対して投資を行わないという方針も出始めています。
SDGsの目標にもあるとおり、クリーンなエネルギーを目指すことが大事な時代となるのは間違いないでしょう。