スポーツはフェアな世界だと考えられていますが、実際に歴史を振り返ってみると、人種差別との戦いがあります。
しかし、競技中に人種差別やその抗議をすることは良くないことだという認識が世界共通であります。
今回は、スポーツ界の世界的オリンピックの人種差別に関してのパフォーマンスに関してと、サッカー界での問題を取り上げて紹介します。
スポーツ界にも人種差別によって傷付けられている選手は多く、そういった視線も見逃せませんが、あくまでフェアな目線を持つことが求められています。
オリンピックでは競技会場で抗議活動は禁止されている
4年に一度開催される、全世界からトップアスリートが集まるスポーツの祭典であるオリンピック。
そのオリンピックでは、スポーツの中立性を重んじていて、オリンピック憲章では競技中や表彰式などのオリンピックエリアで、宣伝活動を禁止しています。
その宣伝活動は、政治的・宗教的なものだけでなく、人種的なパフォーマンスも含まれるとされていて、人種差別に対する抗議もスポーツの中立性を侵害するとみなされているのです。
人種差別は世界で問題になっていますが、スポーツ界でも特に問題意識が高いです。
特に世界中で競技されているスポーツは、多様な人種が集まるため、人種差別は切っても切れない問題なのです。
トップアスリートが表彰台で人種差別に抗議するパフォーマンスをすることが、オリンピックの中立性を保てないと問題になっています。
メキシコシティーオリンピックの人種差別抗議
1968年に開催されたメキシコシティーオリンピックでは、2人の黒人メダリストのパフォーマンスが問題になりました。
それは、男子陸上200mの表彰式の出来事です。
当時の世界記録を出して金メダルに輝いたアメリカのトミー・スミス選手と、3位のジョン・カーロス選手が、表彰式の国歌が演奏され国旗が掲げられる中、黒い靴下を履き表彰台に上がり、黒い手袋をはめた手を付き上げるポーズをしました。
このパフォーマンスは、「ブラックパワー・サリュート」と呼ばれるデモンストレーションで、アメリカで行われている黒人差別への抗議を表すものです。
オリンピック憲章50条2項では、“オリンピックの用地、競技会場、またはその他の区域では、いかなる種類のデモンストレーションも、あるいは政治的、宗教的、人種的プロパガンダも許可されない。”と規定されていることから、この2人の行動は大きな社会問題として広がりました。
そして、この2人の選手はメダルのはく奪と失格となり、オリンピックからの永久追放と強制帰国を強いられたのでした。
東京オリンピックから人種差別抗議活動の一部緩和がみられる
オリンピックでは、人種差別反対や政治的、宗教的なパフォーマンスは規制されているものの、昨今の人種差別の事件などの世情から一部緩和されました。
2020年代に入ると、アメリカで黒人のジョージ・フロイドさんが白人警察官に押さえつけられて亡くなる事件があり、そこから黒人差別への抗議活動「ブラック・ライブズ・マター」が世界中で巻き起こりました。
そして人種差別への抗議パフォーマンスとして広がったのが、片膝を地面につけるポーズです。
東京オリンピックの女子サッカーの試合で、試合前に両チームの選手がピッチ内で片膝を地面につけて人種差別抗議のポーズをとりました。
本来なら、オリンピック憲章でこうした人種差別抗議パフォーマンスは禁止されています。
しかし、2021年に行われた東京オリンピックでは、試合前や選手紹介の時に限りこうしたパフォーマンスは容認されるようになったのです。
ただし、表彰式の最中などに行われたパフォーマンスに関しては、まだ問題視されています。
実際に陸上女子砲丸投げで銀メダルを獲得した選手のパフォーマンスが、IOC(国際オリンピック委員会)が調査対象となっています。
サッカー界の人種差別への取り組み
サッカーは世界中で愛されているスポーツです。
サッカーの競技人口はとても多く、多様な人種が入り混じったチームは珍しくありません。
特にサッカーへの思いは選手だけでなく、ファンであるサポーターもとても情熱的です。
その一方で、人種差別発言などによって選手が傷付けられることが多いのも事実です。
ここでは、サッカーが世界でも盛んなヨーロッパの事例と、日本でも起こっている人種差別問題について紹介します。
ヨーロッパは人種差別の抗議運動が盛ん
ヨーロッパのサッカーリーグは強豪チームが揃っていて、人気があります。
日本からもヨーロッパのサッカーチームに移籍する選手もいますが、世界中からトッププレイヤーが集まる場所でもあります。
ヨーロッパの人口は、アメリカと同じように白人が多くを占めていて、人種差別が問題となることはしばしばあります。
それはサッカーでも同様で、特にサポーターによる野次やジェスチャーが問題になることが多く見受けられます。
そこで1999年には、ヨーロッパのサッカー界で人種差別を撲滅する組織のFARE(Football Against Racism in Europe)ができました。
また、2001年以降には、ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)や国際サッカー連盟(FIFA)によって人種差別撤廃の運動が始められています。
2006年のサッカーワールドカップでは、「Say no to racism(人種差別にノーを)」というテーマが掲げられることもありました。
しかしいまだに、黒人選手への野次や誹謗中傷などをするサポーターが逮捕されるなど、人種差別によって、選手が傷付けられる事件が発生しています。
また、人種差別が行われたと判明したチームは、無観客試合や罰金などの処罰を受ける対処がされています。
日本でも人種差別の問題がある
日本では、人種差別問題に触れることが少ないと思うかもしれません。
しかし、現実に日本でも人種差別が問題になるケースがあります。
日本のサッカーリーグであるJリーグでも、人種差別が問題視された事件が起こりました。
2014年に行われた浦和レッズ対サガン鳥栖の試合で、浦和レッズのサポーターが、観客先に「JAPANESE ONLY」と書かれた横断幕を掲げたことです。
この横断幕を掲げた人は、警備員から注意を何度も受けましたが、結局試合終了まで横断幕は掲げ続けられました。
このことを問題視したJリーグ側は、浦和レッズに対して1試合の無観客試合という制裁をすることになりました。
このように、日本でもスポーツの場で人種差別行動をする人がいることは確かです。
スポーツ界の人種差別は、オリンピックやサッカーのみでなく、野球やバスケットボールなどさまざまな競技で起こっています。
スポーツに政治や宗教、人種差別などの表現を持ち込むなという意見もあります。
しかし、多くの選手が人種差別に苦しみ、その抗議をする機会が増えてきていることも確かなのです。
まとめ
オリンピックは平和の祭典と言われていて、オリンピック会場で人種差別に対する抗議のパフォーマンスをすることは禁止されてきました。
しかし、競技前や選手紹介の前の競技や表彰式以外なら、抗議パフォーマンスをすることができるように緩和され始めました。
また、オリンピックだけではなく、サッカーや他のスポーツでも人種差別に関して問題視されていることは多いです。
特に選手だけでなく、サポーターなどのファンの行動も選手を傷付け、警察沙汰やチーム全体の不利益になることも起きています。
スポーツは人種を超えてフェアな視点で行い、観戦するものです。
昨今問題になっている人種差別による痛ましい事件を無くすためにも、スポーツでも人種は関係ないと思える行動が求められるでしょう。