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人種差別はなぜ起こる?その原因と現状を、日本の制度と暮らしの視点で読み解く

人種差別はなぜ起こる?その原因と現状

人種差別とは、肌の色や出身、民族的な背景を理由に、人を不当に区別したり、排除したり、不利に扱ったりすることです。国連の人種差別撤廃条約(1965年採択)は、人種、皮膚の色、世系、民族的・種族的出身に基づく区別や排除を差別と定めています。日本は1995年にこの条約へ加入しました。

では、人種差別はなぜ起こるのでしょうか。米国の黒人差別だけでなく、日本で暮らす外国ルーツの人や、海外でアジア人として扱われる私たち自身にも関わる問いです。この記事では、人種差別が起こる原因を整理します。そのうえで、日本の統計や制度、事例から現状を確かめ、今日からできる行動までをまとめます。

この記事で学べること

  • 人種差別が起こる原因を「歴史」「制度」「心理」「社会状況」「SNS」の5つの視点で理解できる
  • 米国の黒人差別とアジア系への差別が、いまどう報告されているかが分かる
  • 日本の在留外国人の状況、ヘイトスピーチ対策の法律や条例、相談先が分かる
  • 「悪意がなければ差別ではない」などの誤解をほどき、発言を点検する3つの問いを持ち帰れる

人種差別はなぜ起こる?原因を5つの視点で整理する

人種差別は、一つの原因だけで起こるわけではありません。歴史の中で作られた序列、それを固定した制度、人の心の働き、社会の不安、そして情報の広がり方。これらが重なり合って、差別は長く続いてしまいます。ここでは5つの視点に分けて見ていきます。

歴史が作った「序列」の意識

現在の科学では、人間を生物学的にくっきり区切る「人種」の境界は存在しないとされています。それでも「人種」という区分が社会に根づいたのは、歴史の中で人を序列づける必要があったからです。

大航海時代以降、ヨーロッパ諸国はアフリカから膨大な数の人々を連行し、プランテーションの労働力として売買しました。奴隷貿易は数世紀に及びました。働かせる側が「彼らは劣っている」という理屈を必要としたことで、肌の色と優劣を結びつける考え方が広がったのです。経済的な利益のために差別の理屈が作られ、それが後の世代に「常識」として引き継がれました。

制度や慣行が「当たり前」を固定する

差別は個人の気持ちの問題だけではありません。法律や慣行が人を分ける仕組みになると、「そう扱うのが普通だ」という感覚が社会全体に染みこみます。米国では南北戦争後に奴隷制が廃止されましたが、その後も学校、列車、飲食店などで白人と黒人を分ける州法が長く合法とされました。

制度が変わっても、住宅、教育、雇用に残った格差は何世代にもわたって影響します。差別は、制度が撤廃されたあとも、慣行や格差という形で残り続けることがあります。

無意識の偏見とステレオタイプ

人は、限られた情報から相手を素早く判断しようとします。このとき、見た目や出身地から「こういう人だろう」と決めつける近道が使われます。これがステレオタイプで、本人に悪意がなくても働きます。

「自分は差別していない」と考えている人ほど、無意識の言動が相手を傷つけているのに気づきにくいという面があります。差別は、強い憎しみを持つ人だけが起こすものではありません。日常の判断の中にもまぎれこみます。

不安や不満のはけ口にされる

景気の悪化、感染症の流行、災害など、社会が不安定になると、特定の集団に責任を押しつける動きが強まることがあります。日本でも、1923年の関東大震災の直後に、根拠のない流言によって朝鮮人らが殺害される事件が起きました。政府の中央防災会議の報告書にも記されている歴史です。

「誰かのせいにすれば安心できる」という心理が、差別を生む土壌になります。不安が強い時期ほど、情報を一度疑う習慣が大切になります。

SNSが差別的な言説を増幅する

インターネットでは、匿名のまま、強い言葉ほど拡散されやすい環境があります。法務省の発表によると、令和6年に法務局が新たに救済手続を開始した人権侵犯事件は8,947件でした。そのうちインターネット上の人権侵害情報に関するものは1,707件で、高い水準で推移しているとされています。

その中には、特定の地域に住む外国人住民について「日本から出て行け」と排斥を扇動する投稿の例もあり、法務局の要請で削除された事案が紹介されています。画面越しの言葉が、現実の暮らしの不安につながる時代になっています。

黒人差別の歴史が、いまも尾を引く理由

日本でも報道されることの多い米国の黒人差別は、原因の「歴史」と「制度」が重なった典型例です。ここでは、時間の流れで押さえておきます。

奴隷貿易から分離政策、公民権法まで

奴隷貿易の時代、アフリカの各地から連行された人々は「人」ではなく「財産」として扱われました。連行によって社会が崩れた地域もあります。

米国では1865年に奴隷制が廃止されましたが、その後も人種ごとに施設や学校を分ける制度が各地に残りました。1964年に公民権法が成立し、法の上での分離は禁止されます。それでも、住宅や教育、雇用、刑事司法における格差は、制度が変わった後も長く議論され続けています。

2020年のBlack Lives Matterと、いまの数字

2020年、黒人男性ジョージ・フロイドさんが警察官の拘束中に亡くなった事件をきっかけに、「Black Lives Matter(BLM)」の抗議が米国から世界へ広がりました。日本でも、大坂なおみ選手が抗議の意思を示したことで関心が高まりました。

FBIのヘイトクライム統計を米国司法省が公表しています。2024年は11,679件、2025年は10,881件が報告されました。2025年は、人種・民族・出自を動機とするものが55.6%を占めています。ただし、これは警察に報告され集計された件数です。被害を届け出ない人もいるため、実際の被害の全体像を示すものではない点には注意が必要です。

「法律ができたから差別は終わった」とは言えないことを、数字は示しています。一方で、実態を把握し、公表し、議論する仕組みがあることも、社会が差別と向き合っている証しです。

アジア人も標的になる|コロナ禍と、声を上げにくい空気

「差別するのは遠い国の誰か」と考えてしまいがちですが、日本人を含むアジア人も、海外で差別の対象になってきました。

コロナ禍で広がったアジア系への差別

2020年に新型コロナウイルスが広がると、米国などでアジア系の人々への暴言や暴行が相次いで報告されました。民間団体のStop AAPI Hateなどが、被害の報告を集める活動を続けています。感染症という不安が、特定の見た目の人々への攻撃につながったのは、先ほどの「社会の不安のはけ口」の典型です。

日本からの留学生や出張者、駐在員が、現地で不快な言動を受けたという話も聞かれます。自分が差別される側になりうると知ることは、ほかの人の痛みを想像する入口にもなります。

受けた側が「飲み込んでしまう」問題

差別的な言動を受けても、「波風を立てたくない」「冗談として受け流すべきだ」と考えて、その場では何も言えない人は少なくありません。これは日本に限った話ではなく、少数派の立場に置かれた人が世界中で感じる圧力です。

けれども、「大人の対応」として受け流すことが積み重なると、差別的な言動は「許される範囲」として社会に残ってしまいます。声を上げられる環境を周りが作ることも、差別を減らす大切な一歩です。上げた声を「面倒なこと」にしない姿勢が求められます。

日本に人種差別はあるのか|統計と制度で現状を見る

「日本には人種差別はない」という声も聞かれます。ここでは感覚ではなく、公開されている数字と制度から確かめます。

在留外国人は412万人、暮らしの接点は増えている

出入国在留管理庁の統計によると、2025年末時点の在留外国人は412万5,395人で、4年連続で過去最多となり、初めて400万人を超えました。職場、学校、地域で外国ルーツの人と接する機会は、今後さらに増えると考えられます。差別の問題は、特定の人だけの話ではなく、地域づくりそのものの課題になっています。

調査で報告されている差別の経験

法務省が2016年度に実施し、2017年に公表した外国人住民調査では、外国人であることを理由に入居を断られた経験が39.3%、就職を断られた経験が25.0%と報告されています。調査から年数は経っていますが、国として差別の実態を包括的に調べた貴重なデータです。

出入国在留管理庁も、在留外国人の生活上の困りごとを継続して調査しています。令和7年度の調査は2025年10月から11月に実施され、2026年5月に公表されました。差別や暮らしにくさがどう変わったかは、最新の結果概要を自分で確かめることができます。

ヘイトスピーチ対策の法律と自治体の条例

2016年、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(ヘイトスピーチ解消法)が施行されました。ただし、この法律は理念を示すもので、違反に対する罰則はありません。

そこで自治体が独自に動いています。川崎市は2019年12月に「差別のない人権尊重のまちづくり条例」を成立させ、2020年7月に全面施行しました。市内の公共の場所での悪質な差別的言動に対し、勧告や命令を経て、従わない場合に最高50万円の罰金を科す仕組みです。ヘイトスピーチに刑事罰を設けた、全国初の条例とされています。

大阪市(2016年施行)や東京都(2019年施行)にも、差別的言動への対処や、公表などの措置を定めた条例があります。国の法律は理念にとどまり、地域ごとに対応が進むという状況です。居住地の条例がどうなっているかは、市区町村の人権担当窓口で確認できます。

警察の職務質問をめぐる訴訟

2024年1月には、外国にルーツを持つ日本国籍者や永住者の3人が、人種や肌の色を理由にした職務質問は違法だとして、国、東京都、愛知県を相手に東京地裁へ提訴しました。いわゆる「レイシャル・プロファイリング」を問う訴訟です。

制度の運用が、特定の見た目の人に偏っていないかという視点は、私たちが差別を「個人の言動」だけで考えがちなことを広げてくれます。

「悪意がなければ差別ではない」は本当か|よくある誤解

差別を巡る議論では、いくつかの誤解が繰り返されます。当事者の視点から整理します。

意図ではなく、受け手への影響から考える

「悪気はなかった」「褒めたつもりだった」という言葉は、よく聞かれます。しかし、言った側の意図が良くても、受けた側が「あなたはこの社会の一員ではない」というメッセージを受け取れば、傷は残ります。

たとえば「日本語が上手ですね」は、日本で育った人に向けると「外国人扱い」になりえます。2015年にミス・ユニバース日本代表に選ばれた宮本エリアナさんが、見た目を理由に「日本人らしくない」という批判を受けたことも、広く報じられました。外見で「日本人かどうか」を決めつけること自体が、ルーツを持つ人を傷つけます。

発言を点検する3つの問い

発言する前に、次の3つを自分に問いかけてみてください。

  1. 相手の個人の話をしているのか、それとも出身や見た目という「属性」の話にすり替えていないか
  2. 同じことを、自分の家族や自分自身が言われたら、どう感じるか
  3. その言葉は事実の確認に基づいているのか、それとも「そういうものだ」という思い込みか

この3つは、悪意の有無にかかわらず使える簡単な目安です。迷ったときは、言葉を一度のみこむだけでも違います。

「日本には差別はない」でも「全員が差別している」でもない

「日本は差別がない」と言い切ると、困りごとを抱える人の声が見えなくなります。反対に「日本人は排他的だ」と一括りにするのも、実態とずれた見方です。多くの人は、善意で暮らしていると考えられます。

大切なのは、善意の人でも無意識に差別に加わりうるし、同時に、誰でも差別を止める側に回れる、という両面を知ることです。

今日からできる行動|知る、止める、相談する

差別をなくすには、大きな決意より、小さな行動の積み重ねが力になります。

知る|学ぶ機会を自分で作る

毎年3月21日は国連が定めた「国際人種差別撤廃デー」、12月4日から10日は日本の「人権週間」です。もうすぐ訪れる12月の人権週間は、各地の自治体や学校、企業が講座や展示を開く時期です。近くの人権啓発イベントをのぞいてみるのも、一つの方法です。

止める|その場で、無理のない形で

差別的な発言を耳にしたとき、強く反論する必要はありません。「それはちょっと違うんじゃないかな」と話題を変える、被害を受けた人にそっと声をかける、その場にいる別の人と目を合わせる。こうした小さな行動でも、「この場では許されない」という空気を作れます。危険を感じる場面では、自分の安全を優先し、周囲や管理者に助けを求めてください。

相談する|一人で抱えない

差別を受けた、あるいは目撃したときは、法務省の「みんなの人権110番」(0570-003-110)や、法務局のインターネット人権相談で相談できます。ネット上の投稿は、画面を保存したうえで相談すると、削除要請につながることがあります。職場や学校の相談窓口も、まずの入口になります。

まとめ

人種差別が起こるのは、歴史の中で作られた序列、それを固定する制度や慣行、人の無意識の偏見、不安な社会状況、そしてSNSでの拡散が重なるためです。米国の黒人差別、コロナ禍でのアジア系への差別、日本での外国ルーツの人々への差別は、別々の話ではなく、同じ仕組みの上にあります。

日本には、ヘイトスピーチ解消法、川崎市の条例、法務省の相談体制など、対策の土台があります。一方で、国の法律は理念にとどまり、調査や裁判を通じた課題の洗い出しは続いています。「差別はない」と言い切らず、「全員が加害者だ」とも思わず、事実と制度を見ながら一歩ずつ進める姿勢が大切です。

まず1つだけ試すなら、自分の使っている言葉を3つの問いで点検してみてください。それだけでも、周りの誰かにとって暮らしやすい場所が少し広がります。

  • 人種差別は、歴史、制度、無意識の偏見、社会の不安、SNSの拡散が重なって起こる
  • 米国ではFBIが2025年に10,881件のヘイトクライムを報告し、その55.6%が人種・民族・出自を動機としている
  • 日本の在留外国人は412万人を超え、ヘイトスピーチ解消法は罰則のない理念法、川崎市条例は最高50万円の罰金を設けた
  • 差別かどうかは意図ではなく受け手への影響で考え、「属性」「自分ごと」「思い込み」の3つの問いで点検できる
  • 差別を見聞きしたら、無理のない形で止め、法務省の相談窓口などを使って一人で抱えない

参考文献

  • 記事を書いたライター
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