日本では、米国をはじめとした黒人差別問題が盛んに取り上げられています。
現実には黒人差別は容易にはなくならず、大坂なおみ選手の活躍で注目が集まったBlack Lives Matter(BLM)運動などもその表れです。
そして、実は私たち日本人も「アジア人」として差別を受けています。
2020年に新型コロナウイルスが猛威を振るいはじめた頃から、その傾向は顕著になっています。
今回は、人種差別の原因と現状について解説します。
黒人差別の歴史
なぜ黒人差別がここまで続いてきたのでしょうか。
その歴史について考えてみましょう。
奴隷貿易
黒人差別は、アフリカ系黒人の人を「奴隷」として取引していたことが発端であり、原因です。
元々は、主にヨーロッパ(スペイン、ポルトガル、オランダ、イギリス、フランス、デンマーク、 スウェーデン、アメリカ州を含むヨーロッパ系)の「植民地政策」にその発端があります。
奴隷を必要としたのは、プランテーションで働く労働力が必要だったからです。
大航海時代に海路で世界に進出したイギリスは、アフリカの黒人たちを「奴隷」として売り買いしており、そのための法律すら作っていました。
奴隷貿易には、現地の部族抗争なども絡んでいました。
他部族の黒人を白人に売却したりして、富を得ようとする勢力もいたのです。
奴隷貿易は約3世紀に及び、その間に1200万人以上とも言われるアフリカ原住民が取引されたといわれています。
あまりにもたくさんの人が奴隷として狩られた結果、コンゴ王国など、国そのものが傾いた国もあります。
当初から奴隷制度については、宗教的・人道的関連から反対意見が多くありました。
しかし実際に廃止のための法律が設けられたのは、おおよそ18~19世紀以降です。
法律・社会的による「差別」と現在
アメリカでは、南北戦争(1861-1865)の終了で奴隷制は廃止されました。
しかし、黒人に対して白人と同じような生活を営むことができるようにはなりませんでした。
列車、学校など社会のあらゆる領域で、白人と黒人を分離することは合法とされ、法律そのものが黒人を二流市民(準市民)として扱ってきたのです。
このことが、一般人にとっても「黒人に対する対応はこれが普通」と、差別するのが当たり前という基準を作っていったことは、想像にかたくありません。
1964年には「公民権法」が成立しましたが、黒人は何もしていなくても、警官に職務質問、身体検査をされる、暴力を受ける、微罪でも刑が重くなるなど、社会的な差別があります。
表面上は、学校や仕事で差別はないことになっています。
現在では、多くの黒人政治家がいますし、ビジネスやスポーツでの成功者もたくさんいます。
「もはや差別は解消された」と考える人も多いのです。
しかし、長い間人々の中に「当たり前」として植え付けられてきた差別感情は、法律の整備によってあっさりと変わりません。
というよりも、「自分は差別していない」と思っている人が無意識に取る言動そのものが、差別であることは少なくないのです。
Black Lives Matter(BLM)運動は、暴動にまで発展した過激な運動でしたが、全米から世界各地に運動が広がったことは、黒人差別は厳然と存在するという事実を知らしめたと言えます。
日本での人種差別の現状
翻って、日本ではどうでしょうか。
「日本では人種差別はない」と主張する人もいます。
確かに、人種差別を公言し、場合によっては暴力をふるって排除しようとする過激な人はほぼ見られません。
「安全」という面では、治安も含めて日本の方が諸外国よりは評価されるべき点が多いでしょう。
しかし、日本はそのほとんどが日本人という世界のため、ちょっとした違いに敏感に反応しがちです。
排他性が強く、外国人を「部外者」として扱う傾向があります。
また、国際的な感性に触れる機会が少ないため、意識せずにタブーを犯してしまうことも少なくありません。
例えば、いわゆる「ハーフ」の方に対する対応。
ハイチ人の父親と日本人の母親を持つテニスの大坂なおみ選手は、その肌の色と日本語を解しないことから、さまざまな揶揄を受けています。
彼女が出演したCMでは、アニメのキャラクターの肌を白くしたために「白人化」したと批判を受けました。
また、日本人の母親とアフリカ系アメリカ人の父親を持つ宮本エリアナさん。
彼女は2015年にミス・ユニバース日本代表に選出されますが、その肌の色や顔立ちから、「日本人じゃない」「日本代表にはふさわしくない」と攻撃されました。
これらはいずれも、法律違反や犯罪ではありません。
しかし、世界基準では明確に「差別」と言われても仕方がないことです。
確かに、肌の色については、日本では古来から「白い」ことが良いとされてきました。
「白肌」志向は、白人への憧れに基づいているわけではありません。
1000年前の平安時代から存在する感性で「色の白いは七難隠す」ということわざもあるくらいです。
日本の美白は、単に白いだけでなく、キメが細かく、透明感があり、陶器のような滑らかな美しさを指します。
日本では、外見について言及することが日常的に行われています。
しかし、それは日本ならではの感性で、世界では通用しません。
無意識で悪意がないからといって差別していないということにはなりません。
私たちは、自分が何気なく発する言葉が「差別」であり「人を傷つける」かどうかにもっと敏感になる必要があります。
差別されていることに気が付かない日本人
自分たちが差別していることもそうですが、差別されていることにも日本人は気が付きにくいという特徴があります。
「郷に入っては郷に従え」ということわざの通り、何か差別的な言動をされたとしても「そういう習慣なのかな」と捉えてしまいやすいのかもしれません。
最近では、2021年7月にサッカーのスペイン1部リーグ、強豪バルセロナに所属するフランス代表2名が日本人に対して差別的言動を行った動画をアップしてニュースになりました。
それは、彼らが来日した際に滞在したホテルで、ゲーム機器のセッティングのためにスタッフを呼び、テレビの前で作業している様子を見守りつつ「醜い顔ばかりだ。PESをプレーするだけなのに。恥ずかしくないのか」と話しただけでなく、日本語について「後進的な言葉」などと話し笑い合うというものでした。
フランスやイギリス、オランダなどの欧州の国々がこの動画を「日本人に対する人種差別だ」とニュースで取り上げました。
しかし当の本人たちは「私は差別には常に反対してきた。なぜレイシスト扱いされるのか」と憤っています。
しかし、これもまた、黒人がされてきた社会的な差別をアジア人に同様に行っていることに無自覚なだけです。
さらに、フランス在住の著名な日本人の中には「こんなのはフランス人の冗談で差別ではない」といった発言をした人もいました。
日本人は特に「事なかれ主義」が多く、自分が侮蔑を受けたとしても表立って反論したりすると「面倒な人」とレッテルを貼られやすい社会です。
何か差別的な言動を受けても「相手にするな」「相手と同じ土俵に乗るな」と流すことが良しとされたり、例えばそれがサッカーなら「サッカーで見返してやれ」と正々堂々と戦うべきだというプレッシャーがあります。
しかし、声を上げた人を「たしなめ」る、日本流の「大人の対応」では、世界の差別はなくなることはないでしょう。
相手にどう思われるかを全く気にせず、自分がもし言われたら不快である言葉を投げつけることは「差別」なのです。
まとめ
人種に限らず、あらゆる差別は、まず私たちが「何が差別なのか」を学び、それは「いけないことだ」と理解することから始まります。
そして、自分たちが差別を受けたらきちんと反論すること。
差別をなくすためには、根気強くこれらを繰り返していくしかありません。