大ヒットとなった韓国の映画「パラサイト 半地下の住人」では、韓国に渦巻く格差社会が描かれました。
2020年のアカデミー賞では4部門で受賞するなど、日本でも話題となった映画です。
実は、この映画が上映される以前から、韓国は超学歴社会であり、受験や就職、昇進における競争が非常に厳しい国でもあります。
そのため、所得格差が広がり、深刻な問題となっているのが実態です。
今回は、韓国の格差社会にスポットを当て、映画だけではわからない背景を解説していきます。
韓国における所得格差の実態
所得格差を測る尺度として一般的に使われるのが「ジニ係数」です。
ゼロから1までの値で計測し、0に近づくほど格差が少ないことを表します。
2016年のOECD(経済協力開発機構)による調査では、韓国におけるジニ係数は、0.355となっており、世界においてワースト6位を記録しました。
とはいえ、韓国を含める6位以下の国は大差がなく、それほど深刻な数字とはいえません。
2018年には、0.295と数値を縮めています。
実際、日本のジニ係数と比べても、それほど大きな差はないものの、韓国は年金制度が成熟しておらず、高齢世帯に所得再配分がなされていないのが実態です。
参照元:第5-16表 所得のジニ係数|データブック国際労働比較2019|OECD
広まる高齢者の貧困
高齢世帯への所得再配分が日本と比べて遅れている韓国ですが、この背景にあるのが社会保障制度の整備が遅れていることが挙げられます。
韓国で国民年金制度が始まったのは1988年であり、ごく最近のことです。
すでに加速化している高齢化社会の波に対する体力が、社会自体に備わっているとはいえません。
2021年の段階では、日本の高齢化率の方が韓国より高くなっています。
しかし、韓国における少子高齢化のスピードが日本に比べて早く、2045年になると日本の高齢化率を韓国が上回ると予想されるほどです。
このまま少子高齢化が加速し続けると、2065年の段階で韓国の高齢化率は48.8となり、同年に予想される日本の高齢化率38.4%をはるかに超える結果になります。
参照元:日本の将来推計人口 平成29年推計|国立社会保障・人口問題研究所
若者にも押し寄せる格差の波
韓国の格差問題は、高齢者に限ったことではありません。
韓国は世界の中でも屈指の学歴社会であり、実際のところ、貧困層から抜け出すためには、名門大学に入ることがポイントとなります。
とはいえ、名門大学に入ったからとって将来が安定するとは限りません。
韓国は、儒教の国でもあり、職種より「格」を重んじる傾向にあります。
たとえば、結婚という側面から見ても、同等の「格」にある家柄同士で行うものであるという見方もあるほどです。
そのため、富裕層と貧困層のカップルが結婚すれば、個人の問題ではなく「家」や「家系」全体の問題になることも考えられます。
こうした格差は、就職においても影響しており、一流企業に入ることが重要視され、そのための激しい競争が生まれるのです。
韓国においては、学費を払う「親」や「家系」への想いも強く、就職は自由にならないことも多いといいます。
韓国の格差社会における背景
韓国の格差社会が顕著である理由は、学歴や思想だけの問題ではありません。
背景には、急激に加速した経済発展も影響しています。
1950年代の韓国は、朝鮮戦争による大きな打撃を受けて、経済的に困窮していました。
世界の中でも最貧国と言われるほどの貧困ぶりでしたが、1960年代後半から劇的な復興を遂げます。
そのきっかけとなったのが、海外から得た多額の資金であり、そこに貢献したのは財閥企業でした。
こうした背景が、現在の韓国における格差社会の実態を作り上げているともいえます。
経済発展の裏にある格差社会の実態
韓国では、1997年の通貨危機をきっかけに、新たな自由主義思想が登場しました。
その流れを汲み、経済においても自由化が加速しています。
こうした経済発展の裏には、個人間に大きな格差を生んでいる実態があります。
もともと独裁政治が続いていた韓国は、経済発展を目指す政府と財閥企業とが密接に関わってきました。
韓国の財閥企業として代表される、サムスン・現代自動車・LGの3社が、現在の韓国経済における多くを占めていることもあり、未だ政府との関係が色濃いままです。
政策が変わるたびに格差社会対策も施されてきましたが、こうした根強い社会構造は、なかなか覆せないのが現状といえるでしょう。
韓国における男女間の格差
韓国の格差社会は、男女間においても顕著に現れています。
特にわかりやすいのが、賃金格差です。
たとえば、韓国の財閥企業は、女性をトップに置かないことで有名でしょう。
また、OECDの調査では、韓国における男女間の賃金格差は34%と、先進国のなかでワースト1という結果が出ています。
世界の平均値が約13%となっている中で、このような数字が叩き出されるのはなぜでしょうか。
ここ最近は、多少改善の兆しは見えるものの、韓国で働く女性の生活は非常に苦しいものがあります。
たとえば、財閥の多くは、女性が妊娠する可能性を「リスク」と捉えており、採用は男性の方が有利です。
韓国の女性にとっては、家庭と仕事を両立させることは非常に難しいと言われています。
こうした背景もあり、韓国において女性がキャリアアップしていくことも至難の技だといえるでしょう。
現に、韓国の大企業において幹部になっている女性を見ていくと、ほとんどが持ち株主の親族であり、コネがなければ出世もできないような実態が未だに根付いている点は否めません。
参照元:How does KOREA compare?|OECD
N放世代における格差の実態
韓国における若者の就職難は、各ライフイベントにも影響しています。
1997年のアジア通貨危機(IMF危機)以来、20年にもわたる若者の就職難ですが、現在も劇的な回復は見せていません。
そのため、いわゆる若者世代である20〜30代の人たちは、様々な人生におけるイベント放棄せざるを得ないのが現実です。
こうした実態を踏まえて、彼らは「N放世代」と呼ばれています。
「N」に当てはめるのはライフイベントの数で、中には、「結婚・出産・家・趣味」など非常に多くのものを諦めざるを得ない「7放」と呼ばれる人も少なくありません。
就職難による負の連鎖
就職できない人たちは、交際費すら捻出できない状態に追い込まれてしまい、人間関係も諦めざるを得ないケースも見られます。
その結果、恋愛もできず、さらには、家を借りられないことも加わって、出産や結婚は叶わぬ夢と成り果てているのです。
そのため、非婚化・少子化高齢化が加速し、韓国における格差社会にも拍車をかけているといえるでしょう。
出生率が世界初の「0人台」
N放世代に現れる、世代間の格差は、出生率にも大きく影響しています。
韓国統計庁による「2018年出生統計」では、出生率が0.9人と世界で初めて「0人台」となりました。
この数字は、韓国という国家自体の存続すら脅かすものであり、格差社会は見逃せない問題と言えます。
統計庁が2016年に発表した人口推計では、2028年頃から総人口が減少するとしていましたが、2018年の出生統計を踏まえると、はるかに超えた水準で減少していることは否めません。
そのため、2019年3月に発表された「将来人口特別推計」では、2019年下半期から、自然減少するだろうと修正しているほどです。
まとめ
韓国における格差社会は、思想や政治的な根強い理由に加えて、経済発展に力を入れたことによる揺り戻しも大きく影響しています。
未だ厳しい経済状況と、政治に翻弄される韓国社会において、若者に限らず多くの人が格差社会に悩まされているのが実態です。
こうした問題は、韓国に限ったことではありません。政治や思想が偏り、道を踏み外せば、日本でも起こり得ることでしょう。