中国は毛沢東の時代に始まった社会主義政策によって世界の工業化の流れから取り残されてきましたが、鄧小平時代の改革開放制作によって社会主義体制から市場経済原理による資本主義体制へと変貌を遂げました。
近年では毎年10%近い経済成長を続けており、今後10年以内にアメリカを抜いて世界一位の経済大国になるという推定もあります。
リーマンショックやコロナショックからもいち早く立ち直り順風満帆に見える中国経済ですが、都市部と農村部、経済特区とそれ以外の地域で深刻な経済格差が広がっています。
この記事では、経済大国中国が抱える経済格差の現状や課題について解説します。
中国の経済格差の歴史
中国では所得の上位1%が下位50%より多くの資産を保有するという歪な格差が存在しますが、中国の経済格差の現状について語る上で中国の経済体制の変遷について触れることは不可欠です。
中国では国共内戦によって共産主義政権が誕生してから、共産党一党独裁体制のもとで社会主義政策が採用されました。
しかし、社会主義では人々の勤労意欲を奪い、非効率な官僚組織が効率的な経済運営を阻害していました。
鄧小平指導のもとに、1970年代から市場原理経済が導入されました。
日本や欧米の企業とって、資源が豊富で13億の安価な労働力や消費者がいる中国は魅力的でした。
中国の南東の沿岸部に設置された経済特区を中心に外国資本が流入し、原材料や輸出入に便利な沿岸部では飛躍的な成長が見られました。
中国の経済格差の現状
中国の沿岸部の都市を中心に経済成長が続くと人々の生活水準が向上し、都市部に人口が流入しました。
中国の二大都市である北京や上海の生活水準はヨーロッパの生活水準といわれるスイスと同等であると言われています。
これらの都市部では住民は最新の電気自動車で移動し、買い物はスマートフォンのアプリで決済されるというテクノロジーに囲まれた生活を送り、海外の不動産に投資したり、ブランド物のバックを購入しています。
その一方で、地方では雇用の機会もなく、その日の生活を送ることで精一杯で地域によっては人身売買が行われています。
生活水準の高い都市部と地方では住民の所得は平均で3倍以上にまで開いています。
地方の若者は、より多くの雇用の機会と高い賃金を求めて都市部へ移住していますが、その結果、地方では高齢者や子供が取り残されて、経済格差はさらに拡大しました。
中国の国家統計局が2019年に発表した統計によれば、300万人以上の貧困人口を抱える省が5省以上存在し、貧困の村は8万以上、貧困の県は600以上となっています。
同局の統計によれば、都市部と地方では以下のように所得格差が存在します。
2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | |
都市部 | 10,493 | 11,759 | 13,786 | 15,781 | 17,175 |
地方 | 3,255 | 3,587 | 4,140 | 4,761 | 5,153 |
差額 | 7,238 | 8,172 | 9,646 | 11,020 | 12,020 |
(単位:人民元)
また、都市部と地方の経済格差が拡大した要因には外国資本の流入のほかにも伝統的な学歴主義が関係しています。
中国では王朝時代に実施された官僚試験の慣習が現在も続いており、高学歴の人ほどよりよい条件でより大きな企業に就職しやすい現状があります。
都市部の豊かな学生は充実した教育環境において受験勉強に専念できますが、農村や地方では教員不足や教育費の不足から勉強に専念できる環境がありません。
その結果、豊かな住民の子供はさらに豊かになり、貧困層の子供は貧困になるという負のスパイラルが続いています。
中国政府の貧困政策
上述のような都市部と地方の経済格差を解決するために、中国政府は様々な政策を行っています。
例えば、地方、特に農村部の住民を経済的に支援するために農業税を撤廃したり、農民への補助金や給付金を創設しています。
また、農村のインフラ建設や医療・教育分野への財政援助を行っています。
加えて、社会インフラとしてのインターネットの整備も行われています。
貧困地域に電話とインターネットを普及させることによって新しいビジネスを地方から創生したり、農民の生活水準の向上を図っています。
西部大開発という国家プロジェクトも貧困の撲滅を目指したものです。
中国で改革開放を進めた鄧小平は「先富起来!(先に裕福になれ!)」というスローガンによって中国東部の沿岸部が先に豊かになって、それ以外の地域、例えば西部地域は後から豊かになればいいと考えていました。
しかし、東西の経済格差がなかなか解消されないので、2000年から当時の江沢民政権が西部大開発事業をはじめました。
これは中国内陸部の12の省・市・自治区を西部地域として指定し、鉄道・道路建設などのインフラ整備や投資環境の整備、西部にある豊富なエネルギー資源の有効活用を目的としています。
2005年時点で既に9600億元(約12兆円)の投資が行われており、西部地域の経済成長率は上昇しています。
【中国西部の経済成長率】
1999年 | 2000年 | 2001年 | 2002年 | 2003年 | 2004年 |
7.2% | 8.5% | 8.7% | 10.0% | 11.3% | 12.0% |
西部大開発によって西部の内陸部にも雇用が創出され、もともと沿岸部に合った向上が西部へ移転したり、外国資本が西部地域に流入しています。
2010年には中国政府の貧困撲滅に向けた取組について国連が、「中国は自国の貧困人口を大幅に減らしたと同時に、ほかの発展途上国をも援助することで、世界の貧困撲滅対策で重要な役割を果たしている」と賞賛しました。
今後の展望
かつて中国には、安価で大量の労働力を求めて外国資本が流入していましたが、沿岸部が発展したことで都市部の賃金水準は上昇しています。
また、従来続いていた一人っ子政策の影響で2015年頃から労働力不足が深刻化しており、より安価な労働力を求めて企業が内陸部に進出する可能性があります。
現状は沿岸部を中心とする都市と農村部を中心とする地方の賃金格差は大きいですが、今後は緩やかな賃金上昇圧力が加わり、地方の賃金水準も都市部と同等ほどに上昇するとの予想もあります。
少しずつではありますが、都市部と地方の経済格差も解決に向かうかもしれません。