SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」は、開発途上国だけの問題ではありません。
世界で最も高い予算を教育にそそぎ、トップレベルの教育機関を有するアメリカでは、日本以上に深刻な教育格差が存在します。
今回はアメリカの教育格差についてみてみましょう。
アメリカの教育格差の現状
アメリカの教育というと、ハーバードやMITのような名門大学や、たくさんのノーベル賞受賞者を生み出し、イノベーションを起こす先進的なシステムを思い浮かべるかもしれません。
優秀な経営者やリーダーたちを輩出してきたアメリカの教育には、確かに見習うべき点は多いです。
しかし、アメリカの教育格差は、実は日本以上に深刻な状況となっています。
2017年のBBCの報道によると、アメリカでは読み書きができない成人が全体の8.1%。これは約1600万人という数字です。
東京都の人口よりも多い人が、読み書きができません。
そればかりか、世界各国の学力比較調査では、アメリカの子どもたちの成績はそれほど高くないのです。
それは、アメリカが激しい格差社会であることが原因です。
持たざる者に厳しいアメリカの社会制度
「アメリカは自由の国」といいます。才能のある人はとんでもなく成功できる国です。
アメリカ人は、基本的に「独立独行」。
つまり、自分のことは自分でするという精神で生きています。
日本でいうところの「自己責任」です。
しかしそれは、非常に高額なことで知られる医療費のように、持たざる者には残酷な現状を作り出しました。
実際に、アメリカでは自己破産した人の内、約60%以上は医療費が原因で破産しているといわれています。
日本では考えられないほどの富豪がいる半面、日本ではありえないほどの貧困にさらされている人たちもいるのがアメリカなのです。
アメリカの教育格差の原因
アメリカの教育格差の原因は、地方分権と格差社会によるところが大きいです。
地方分権・地域によって全く質が違う学校教育
アメリカは、良くも悪くも格差社会です。
例えばニューヨークには、超富裕層もホームレスもいます。
エリアによって雰囲気も全然異なります。
簡単にいうと、良いエリアにある学校は質が高く、悪いエリアにある学校は質が低いです。
なぜかというと、教育にかける財源の大部分が、その学区の住民の収めた税金だからです。
富裕層の集まる学区であれば、良い学校になるのは当たり前。
日本でいうところの教育委員会は公務員ではなく、地区ごとに選挙で選びます。
さらに、教育カリキュラムについても州や学区や学校が決めて良いことになっています。
「よりよい学校にしよう!」と意気盛んな地域の学校は、先進的な教育を取り入れて質の高い教育を行う一方、治安が悪かったりするような地域だと教育自体の関心がないので、学級崩壊まっしぐらです。
日本でも「あの学区はレベルが高い」という傾向はありますが、アメリカはそれよりも激しい現状があり、どこに住むかで受ける教育がまるで変わってしまいます。
ただし、あまり良い学区ではない地域でも、才能のある子たちには機会平等でチャンスを与える仕組みは整えていたりします。
「機会平等的」と言えるかもしれません。
人種間よりも所得差による教育格差が顕著
スタンフォード大学の教育機会モニタリングプロジェクトによると、白人と黒人・ヒスパニック系の学生の共通テストの成績の差は、いまだに約2年分の教育に相当するという結果が出ています。
しかし、これでも人種間の格差は縮まっているそうです。
なぜこのような差が出るのか、それは、前述の地域による教育の差によるところが大きいとされています。
富裕層は、教育に熱心な地域に住み、質の高い教員がいる学校で高い教育を受けます。
こうした地域では、いまだに白人の比率が高い傾向にあるそうです。
対して、黒人・ヒスパニック系は、住民の教育レベルが低かったり治安が悪かったりする貧しい地域に住まう率が高いのです。
テストの成績差が生じているのは、かつて人種差別によって生じた貧富の差が尾を引いているといえます。
まだ時間はかかるでしょうが、人種差別の解消に伴い、人種間の教育格差はさらに縮まると見られています。
しかし、地域による教育格差が変わらない限り、教育の質が低い地域に住まざるを得ない人は一定数出ることは避けられません。
これまでは、それが黒人やヒスパニックがメインでしたが、今後は、白人の割合が高まるのではないでしょうか。
コロナウイルスの感染拡大でも教育格差が生まれた
コロナウイルスの感染拡大によってアメリカではロックダウンが行われたため、子ども達の学校もオンライン授業へと変化しました。
そして、ここで教育格差の問題がさらに浮き彫りになったのです。
授業では生徒たちは学校の機器を使って授業を受けることが可能でしたが、オンライン授業では生徒個人にも負担が求められました。
深刻な負担としては、各家庭にWi-Fiの環境を整えなければいけないことです。実は、このWi-Fi環境が整えられないという理由で、授業が受けられない子どもがいました。
つまり、地域や家庭ごとに収入格差が生じ、この問題がそのまま教育格差に繋がるのです。
アメリカのなかで最も裕福な地域のシリコンバレーであっても、全家庭のうち1割の家庭は学校の給食がなければ食事を十分にとれない子どもがいます。これが現実なのです。
まとめ
日本からアメリカにわたり、子どもを育てている人が「アメリカの教育は素晴らしい」という発言をすることがあります。
それは、治安が良く、優秀な教員がいる教育熱心な地域に住んでいるからです。
そういう地域であれば、日本よりもずっと自分の子供に合った教育を受けさせ、のびのび育てることができるでしょう。
才能があれば、アメリカの教育はどこまでもそれを尊重して伸ばそうとします。
しかし、全体の底上げや「みんな」平均的にできるようにしようという姿勢はほとんど見られません。
アメリカの教育格差を考えるには、アメリカ社会のしくみや考え方を踏まえてみる必要があります。単純な問題ではないのです。