「生まれ育った環境が、子どもの未来を決めてしまう」。
そんな現実が、今なお日本や世界中に存在しているのをご存じでしょうか。
教育は本来、すべての人に平等に与えられるべきものです。しかし現実には、家庭の経済状況や地域性、性別、社会制度などによって、教育の機会に大きな差が生まれています。このような「教育格差」は、子どもの将来の選択肢や生活の質を左右し、さらには世代を超えて貧困の連鎖を引き起こす深刻な社会課題となっています。
内閣府の報告書でも、「子供たちの将来が、貧困の連鎖によって閉ざされることは決してあってはならない」と強く指摘されており、日本国内でも教育格差の解消に向けた取り組みの重要性が増しています。
本稿では、教育格差とは何かを改めて整理し、その原因や現状を国内外の事例からひも解きながら、私たちが今できる行動について考えていきます。
教育格差とは?
教育格差とは?
教育格差とは、子どもが育つ家庭の収入や地域、性別、文化的背景などによって、教育の機会や学習環境に不平等が生じることを指します。その差は、最終的に就職機会や収入、生活の安定度にまで及ぶ可能性があり、個人の努力だけでは乗り越えられない壁として立ちはだかります。
例えば、日本では義務教育が整備されているため、教育の機会は「平等に与えられている」と思われがちです。しかし、塾に通うことができるか、学習に適した静かな空間やICT機器を持てるかどうかなど、細かい点での格差は確実に存在しています。
一方、世界に目を向けると、そもそも学校がない、学費が払えない、文化的・宗教的理由で教育を受けられないなど、教育そのものへのアクセスが不可能な子どもたちが数多くいます。
教育はすべての人の権利
国連が定めた「世界人権宣言」第26条では、「すべての人は、教育を受ける権利を有する」と明記されています。さらに、「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標4では、「質の高い教育をみんなに」という目標が掲げられています。これらの国際的な約束が示すとおり、教育はすべての人に保障されるべき基本的な権利です。
にもかかわらず、その権利が家庭の経済状況や文化的背景によって侵害されている現状があります。つまり、教育格差は個人の問題ではなく、社会全体で取り組むべき構造的な課題だと言えるのです。
教育格差の原因や現状について
原因1:紛争・貧困・差別・風習による教育機会の欠如
世界では、今なお1億人を超える子どもたちが、何らかの理由で学校に通うことができていません。ユネスコのデータによれば、6歳から14歳の学齢期の子どもで、学校に行けていない子どもは約1億2100万人。その多くがアフリカ、中東、南アジアなど、紛争や貧困が深刻な地域に集中しています。
また、約7億7300万人の成人が読み書きができないとされ、これは世界の15歳以上人口の約1割に相当します(日本ユネスコ協会連盟「世界寺子屋運動」より)。これらの地域では、教育が社会的優先事項とされておらず、教育の重要性を理解していない家庭も多く存在します。
特に女性や少数民族への差別、文化的な風習が教育機会の阻害要因となる場合もあります。たとえば、「女子は家庭にいるべき」「子どもは働いて家計を助けるべき」といった価値観が、教育を受ける機会を奪っているのです。
こうした状況では、教育の必要性がそもそも認識されず、結果として「教育の欠如」そのものが貧困を固定化し、世代を超えた格差を生む「負の連鎖」となっています。
原因2:学習環境や家庭の経済状況、地域差による教育機会の不均等
教育格差は、必ずしも発展途上国に限った問題ではありません。たとえば日本でも、以下のような理由により教育機会に差が生じています。
地方や過疎地域では高校や大学へのアクセスが困難
通学・下宿にかかる費用が家計の負担になる
インターネット環境やデジタル端末の有無による学習効率の差
ひとり親家庭など、家庭内での学習支援の難しさ
特にコロナ禍以降、オンライン授業への対応に差が出たことで、「デジタル格差」が顕著になりました。家庭にWi-Fi環境がなく、1人1台の端末が行き渡らないケースでは、授業についていくことすら困難です。
さらに、親の学歴や教育への理解も、子どもの進学意欲や学習習慣に影響を及ぼします。たとえば、大学に進学する意義が親に理解されていない場合、進学の選択肢が提示されないまま終わってしまうことも少なくありません。
国内にも根強く残る教育格差
2020年度の日本の大学進学率は54.4%と過去最高を記録していますが、OECD加盟国の中では依然として低い水準にあります。背景には経済的な理由や、進学に関する情報不足があるとされています。
また、内閣府の資料によると、大卒と高卒の生涯賃金には最大約7,000万円もの差があるとされており(※諸説あり)、進学できるか否かはその後の生活設計に大きな影響を与えています。
このように、義務教育だけでは「基礎的な学力」こそ保証されても、その先の教育機会が保障されているとは限りません。教育格差は、学力格差だけでなく、その後の人生設計、ひいては社会全体の競争力にも大きな影響を及ぼすのです。
教育格差は日本にもある
教育格差は遠い諸外国だけの問題ではありません。実は日本でも、教育格差は深刻な問題になっています。
なぜなら、ひとり親世帯の増加やコロナ禍により、貧困や経済的格差が広がっているからです。
日本の場合、義務教育が受けられるため基本的には誰もが中学校までは卒業できますが、また、もっと勉強を頑張りたいのに、塾に通えなかったり、教材が十分に買い揃えられないケースも存在します。
親の考え方や大学進学をしないからという理由によって、教育が軽視される場合もあります。
しかし、大学進学の有無で賃金格差が広がっているのが現状です。
また、2020年度の日本の大学進学率は54.4%で過去最高を記録しましたが、実は世界的に見れば先進国の中では低い水準にあります。
参照元:産業競争力会議下村大臣発表資料「人材力強化のための教育戦略」10|東京都
大卒と高卒の生涯賃金には大きな差があり、大卒と高卒の労働者とでは生涯賃金が約7,000万円異なることが分かっています。
参照元:参考資料|内閣府
つまり大学進学をするかしないかによって、その後の就業先での給与格差、離職率などにも影響を与えているのです。
政府が学習要領や教育体制をいくら整えたとしても、それは標準的な基礎学力が身に付き易くなるだけであって、実際には高校卒業後に大学へ進学できるかできないかで教育的格差は大きく開きます。
教育格差は遠い海の向こうの出来事と思っている方も多いかもしれませんが、決してそうではありません。教育格差は人口減少社会になった日本の国際競争力をより低下させることにもなるでしょう。
私たち日本人も、自国の教育格差についてもっと考えるべきなのかもしれません。
日本の教育格差については、下記の記事に詳しく解説があります。ぜひ参考にしてください。
世界中における教育格差問題の現状
そして、教育格差は世界中でも問題になっています。
紛争や貧困、差別や風習などが原因で、学校に行けなかったり、生活や仕事に追われて勉強する時間がなかったりする子どもたちも大勢います。
世界の人口のうち約7億5000万人、約10人に1人は文字が読めません。
教育格差の中で育った子どもが大人になり、そのまた子どもが貧困や仕事のために教育格差に落ちていきます。
特に教育格差が顕著なのは、アフリカなどの発展途上国です。
そもそも教育を受ける機会すらなく、子どものうちから肉体的労働により生計を立て生活する人がほとんどで、サハラ以南のアフリカでは、5人に1人の子供は学校に通えていません。
参照元:アフリカに教育支援が必要な理由|ユニセフ
また中国では、沿岸部や都市部では先進諸国に負けず劣らずの経済発展ぶりですが、地方では未だに貧しい生活をしている人がたくさんいます。
生まれ育った地域の違いによって、大きな教育格差が生まれています。
大学を出た裕福な家庭の子どもが収入の高い職業に就き、教育もままならない地方の出身者は重労働で低賃金の仕事に就かざるを得ません。
教育格差によって、貧困から抜け出すチャンスすら失われてしまうのです。
また、アメリカはITなどの先端技術や革新的な産業を多く生み出し、教育レベルも非常に高いイメージがありますが、地域や家庭環境によって大きな教育格差を生んでる現実があります。
教育に熱心な地域に生まれた裕福な家庭の子どもと、教育の予算が乏しい地域に生まれた貧しい家庭の子どもでは、本人の努力ではどうすることもできないほどの教育レベルの差がついてしまいます。
教育は平等にチャンスがあるべきですが、生まれた地域や家庭環境によって前提条件がまったく異なるのです。
圧倒的な勝者を生むアメリカンドリームがある一方、貧困から抜け出しにくい社会になってしまっているのがアメリカの現状でもあります。
教育格差をなくすためにできる対策とは?
教育格差をなくすためには、教育格差があるという現実をもっと世界中の人々が知る必要があります。
なぜなら、人々が知らないことには、何ら改善がされないからです。
そして、もっと教育に時間や予算が割かれるべきであるという共通認識が広がる必要もあります。
『勉強なんて意味がない、学校なんて行かなくても良い、1円でもいいから稼いで来い。』
そんな考えを持つ親や大人たちも世界には大勢いるのが現状です。
その上で、勉強することの意義や大切さを、大人たちはもちろん子どもたちにも理解してもらう必要があります。
教育の大切さを理解していない子どもが大人になれば、そのまた子どもにも教育の大切さが伝わっていきません。教育格差は次の世代に連鎖していってしまうのです。
私たちのひとり一人が、もっと教育の大切さを理解して、子どもたちの未来を守るために大人としての責任を果たす必要があります。
子どもたちには無限の可能性があります。その夢や未来を、大人の都合による貧困や紛争、差別や風習で奪ってはならないのです。
そして、子どもであれば誰もが平等に頑張れるチャンスを作っていく必要があります。
また、教育格差の問題に対して、日本国内はもちろんですが、海外の国に対しても日本から寄付をすることができます。実際さまざまな団体で寄付を募集しており、善意ある誰もが参加することができます。
なお、寄付をすることで控除の対象にもなることがありますので要チェックです。
参考:寄付金を支出したとき|国税庁
以下に、国内外それぞれの寄付を受け付けている団体をご紹介します。
【日本国内への寄付】
・「塾や習い事に通えない」子供たちに、スタディ・クーポンを届ける|チャンス・フォー・チルドレン
・貧困や震災などに立ち向かう!子どもたちが通う放課後学校|認定NPO法人カタリバ
・情熱あふれる人材を学校現場に教師として派遣し、勉強をサポート|Teach for Japan
【国外への寄付】
・すべての子どもの命と権利を守るため、最も支援の届きにくい子どもたちを最優先に、約190の国と地域で活動|UNICEF:国際連合児童基金
・アジア山岳地域の教育環境を整え、子どもたちに夢を|NPO法人AEFAアジア教育友好協会
・最高の教育を世界の果てまで|e-Education
この他にも国内外を問わず寄付を募集している団体は多数存在しますので、ぜひ探してみて下さい。
もっと教育のことに関心を持ち、自分ごととして国や世界の行く末を考えてみましょう。
まとめ
この記事では『教育格差とは?教育格差をなくすために、できる対策を考えてみよう』というテーマについて解説しました。
教育格差は世界中で起きていて、日本も例外ではありません。
生まれ育った環境や地域、性別、風習などにより、子どもたちが教育を受ける権利が奪われてはならないのです。
また、「SDGs(エスディージーズ)」の目標4『質の高い教育をみんなに』を実現するために、私たち大人のひとり一人が教育にもっと関心を持ち、未来のためにできる努力をしていくことが大切です。
寄付や募金、ボランティア、リサイクル、見守り運動、地域行事への参加など、小さなことでもできることはたくさんあります。
まず私たちひとり一人が、子どもたちの未来を変えるきっかけを作っていきましょう。