普段、私たちが何気なく使っている携帯電話やテレビゲームなどは、材料に鉱物を使用しています。
しかし、その鉱物は非人道的な手段で採掘された紛争鉱物を使用している場合もあるのです。
本記事では、紛争鉱物の課題や対策・紛争鉱物を排除するとSDGsの目標達成につながる理由をまとめました。
まずは、紛争鉱物とはどのようなものかを知りましょう。
紛争鉱物とは
紛争鉱物とは、アフリカのコンゴ共和国やその周辺地域で、武装勢力によって強制労働をさせられている地元住民が採掘した鉱物です。
採掘された鉱物を売り、得たお金は武力勢力の活動資金として使われます。
そのため、企業が何も知らずに紛争鉱物を購入してしまうと、間接的に武装勢力の活動に加担してしまうことになるのです。
そうならないためにも、購入した鉱物は「どこで、誰によって、どのように採掘されたか」「どのようなルートを通って運ばれ、販売されたか」など、サプライチェーンを明確にしなければいけません。
紛争鉱物の種類
そもそも紛争鉱物とは、どのようなものを指すのでしょうか。
OECD(経済協力開発機構)が作成した「デュー・ディリジェンス・ガイダンス」では、
・スズ
・タンタル
・タングステン
・金
上記4つが紛争鉱物に指定され、それぞれのガイダンスを公開しています。
これ等の鉱物は、米国金融規制改革法(ドット・フランク法)でも紛争鉱物として指定されており、頭文字をとり「3TG」と呼ばれています。
参照元:
・紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス(仮訳)|OECD
・よくわかる責任ある鉱物調達のページ|JEITA
紛争鉱物の主な用途
紛争鉱物に指定されている鉱物は、下記のような用途で使われています。
スズ | タンタル | タングステン | 金 |
携帯電話 | 集積回路 | 白熱電球 | 金箔 |
カメラレンズ | 台所用品 | エックス線管 | 歯のかぶせ物(クラウン) |
パソコン | 食品やペットフードなどの缶 | 集積回路 | 刺繍 |
テレビ | クリップ | 放熱板 | 宝石 |
補聴器 | 弾薬など | 船の首尾線など | 歯科用ブリッジ |
ペースメーカーなど | CDの反射層など |
このように携帯電話やパソコンなど身近なものから集積回路やエックス線管など、あまり触れる機会がないものまで、さまざまな場所で使用されているのです。
紛争鉱物について理解したところで、続いては抱えている課題を確認していきましょう。
紛争鉱物の課題
紛争鉱物によって、下記のような課題が発生しています。
人権侵害
紛争鉱物は、武装勢力が紛争地域の地元住民を無理やり働かせる「強制労働」によって採掘されています。
その他にも現地では、児童労働や奴隷化・人身売買・性暴力などの人権侵害が行われているのです。
紛争や戦争
紛争鉱物の販売によって得た利益は、武装勢力の活動資金になります。
それにより、武器を購入したり兵士を増員したりと、武装勢力の活発化につながる危険性が高まるのです。
最悪の場合、紛争や戦争が起こり、多くの人が怪我を負ったり亡くなったりするでしょう。
紛争や戦争による貧困の悪化も考えられます。
風評被害により鉱石の価格が下落する
紛争鉱物が排除されず市場に出回ることによって、正しい方法で採掘された鉱物の価値も下がることがあります。
たとえ紛争鉱物でなかったとしても、同じ国や地域で採掘されたという理由から一括りにされてしまう可能性があるのです。
その結果、鉱物の価格は下落し、罪のない人々も被害を受けます。
収入が減り、貧困に苦しむ人も出てくるでしょう。
紛争鉱物への対策
紛争鉱物を排除するために、下記のような対策が行われています。
紛争鉱物の調査方法「RMAPプログラム」
紛争鉱物調査を行う際は、RMAPプログラムによってサプライチェーンを辿り製錬業者を特定。
その後、製錬所が武装勢力の資金源となる鉱物を調達していないか確認します。
それぞれの企業が、単独で紛争鉱物の調査を行うと膨大な時間とコストが発生します。
RMAPプログラムは、調査するサプライチェーンを3つに分けたり、調査票を統一したりすることで効率的に調査ができるのです。
参照元:責任ある鉱物調達 調査説明会|一般社団法人電子情報技術産業協会
責任ある鉱物調査検討会
「責任ある鉱物調査検討会」とは、その名の通り責任ある鉱物調達の実現を目指しており、2012年にJEITAによって設置されました。
米国金融規制改革法のような紛争鉱物に関連する規制への対応や、「責任ある鉱物調達の最新動向」を伝える説明会などを毎年行っています。
コンフリクト・フリー
コンフリクト・フリーとは、直接的または間接的に紛争鉱物を素材として使用していないことを証明するものです。
サプライヤーやサプライチェーン・製造業者・精製業者などを指す場合もあります。
ここまでは、紛争鉱物への対策をお伝えしました。
上記のような対策を行うことによって紛争鉱物が減少し、その結果SDGsの目標達成にもつながります。
参照元:コンフリクト・フリー(紛争鉱物不使用)を実現するサプライチェーンの構築に向けたインテルの取り組み|intel
紛争鉱物の減少はSDGsの目標達成につながる
SDGsとは、2015年に行われた国連総会にて193カ国が賛同した国際目標です。
環境・社会・経済の課題にまつわる、17の目標と169のターゲットが設定されています。
2030年までにすべての目標達成を目指し、誰一人取り残さない世界の実現を目指しているのです。
とくに紛争鉱物の排除は、SDGs目標8と16の達成につながります。
目標8「働きがいも経済成長も」
目標8は、誰も排除しない持続可能な経済成長や完全かつ生産的な雇用、働きがいのある人間らしい仕事などを促進する内容となっています。
そのなかでも、ターゲット【8.7】は、
強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終らせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び撲滅を確保する。2025年までに児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働を撲滅する。
となっています。
紛争鉱物を購入してしまうと武装勢力の資金源となり、ますます勢力を強めてしまうことになるのです。
それにより、住民に対する暴力や虐殺・児童労働を含む強制労働などが悪化する危険性が高まります。
紛争鉱物を排除することは、これらの危険性をなくすことにつながり、SDGs目標8の達成に貢献するのです。
目標16「平和と公正をすべての人に」
目標16は、
・子どもに対する虐待や搾取・人身取引・拷問などをなくす
・違法な武器取引や組織犯罪の根絶
・すべての人々が司法への平等なアクセスを実現する
などを含む内容となっています。
ターゲット【16.5】には、
あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させる。
と記されており、紛争鉱物を排除することによって、非人道的な強制労働や児童労働の減少につながり、目標16の達成に貢献できるのです。
まとめ
紛争鉱物を排除しなければ、さまざまな人が苦しみ続けることになります。
被害を減らすためにも、企業は購入する際に紛争鉱物ではないか確認することが大切です。
万が一、紛争鉱物が含まれていた場合を想定して、適切な対処法を示しておく必要もあります。
そして、私たち個人にもできることはあります。
紛争鉱物に対する知識を深めたり、コンフリクト・フリーの製品を購入したりすることです。
紛争鉱物の排除を目指して、1人ひとりが取り組んでいきましょう。