カーボンフットプリントとは、商品の原材料の調達から製造、輸送、使用、廃棄・リサイクルまでの全過程で出る温室効果ガスを、CO2の量に換算して示したものです。英語では「Carbon Footprint of Products」と書き、略して「CFP」と呼ばれます。日本語では「炭素の足跡」と訳されます。
カーボンニュートラルやカーボンオフセットと似た言葉が多く、違いが分かりにくいと感じる方もいるでしょう。この記事では、CFPの目的と日本の制度の流れ、日本企業の取り組み事例を紹介します。あわせて、売り場でCFPの数値を見たときにどう読み、どう使えばよいかも整理します。
カーボンフットプリントの目的|CO2の「見える化」で何が変わるのか
CFPは、商品が環境に与える負荷の一部を数字で示す仕組みです。数字にすることで、企業と消費者が同じ物差しで排出量を話せるようになります。
ライフサイクル全体を一つの数字にする
商品づくりでは、原料の栽培や採掘、工場での加工、店舗までの輸送、家庭での使用、廃棄やリサイクルと、多くの段階でエネルギーが使われます。CFPは、この全段階の排出量を合計した値です。国際規格としては、製品のカーボンフットプリントの算定方法を定めたISO 14067があります。
メタンや一酸化二窒素など、CO2以外の温室効果ガスも含まれます。これらは地球温暖化への影響の大きさに応じてCO2の量に換算され、「CO2e(CO2換算)」として合算されます。
目的は「気づき」の共有
CFPの狙いは、排出量を表示して、事業者と消費者が削減行動への「気づき」を共有することです。企業にとっては、どの工程の排出が大きいかが分かり、削減の優先順位をつけやすくなります。消費者にとっては、買い物の判断材料が一つ増えます。
日本は2050年カーボンニュートラルを掲げ、2030年度に2013年度比46%削減という目標を示してきました。家庭や企業の排出だけでなく、商品が作られて捨てられるまでの排出にも目を向ける必要があります。CFPはその入口になる仕組みです。
数字が示すのは「排出量」であり「削減量」ではない
よくある誤解が、CFPのマークが付いた商品は低炭素なのだろうというものです。CFPはあくまで排出量を示す表示で、少ないことの証明ではありません。多くの商品は、算定した結果として数値を載せているだけです。「他と比べて少ないかどうか」は、別の確認が必要になります。この点は後の章で詳しく扱います。
日本の制度の歩み|試行事業からガイドラインまで
日本のCFPは、2000年代後半に国の主導で動き出しました。そこから民間の運営に移り、現在は算定・表示のルールが整理されつつあります。
2009年ごろの試行事業のスタート
日本では2009年ごろから、経済産業省が中心となり、関係省庁とともに「カーボンフットプリント制度試行事業」が始まりました。食品や日用品、文房具などで算定ルールが作られ、CFPマークを付けた商品が店頭に並ぶようになりました。製品の工程を細かく分け、どこで排出が多いかを調べる方法は、このころに広がりました。
運営の移行とガイドラインの整備
試行事業の後、制度は民間の運営に移り、現在は一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)が環境ラベルのプログラムを運営しています。その後、経済産業省と環境省が、算定・表示の考え方をまとめたガイドラインを公表しました。企業が自社で算定する際の共通の土台ができたことになります。
脱炭素経営の広がりで関心が高まった理由
背景には、企業が自社の排出だけでなく、取引先や商品の使用段階まで含めて把握する流れが強まっていることがあります。サステナビリティ情報の開示ルールの整備が進み、取引先から排出量データを求められる場面も増えています。CFPは、そのデータを製品単位で整える手段としても使われます。最新の運営団体や制度の細部は変わる可能性があるため、利用を検討する企業は、SuMPOや環境省の公開ページで現行の情報を確認してください。
日本企業の取り組み事例|食品・文具・時計・小売・電機
CFPの取り組みは、業種によって動機も表れ方も違います。ここでは、各社の公開情報で紹介されてきた主な事例を並べます。公開時期が異なる情報も含むため、最新の登録状況は各社の公式ページで確認してください。
食品や文具で進んだ工程ごとの削減
日本ハムは、「森の香りシリーズ」のウィンナーやベーコンなどにCFPマークを表示してきました。環境負荷が大きい箇所を洗い出し、パッケージの変更などで削減につなげた取り組みです。
コクヨは「チューブファイル」などにCFPマークを表示しています。チューブファイルには間伐材が使われています。間伐材とは、森の育成を促すために木の間隔を広げる伐採で出る木材のことです。製品の素材と排出量の見える化を同時に進めた例といえます。
時計・小売・電機に見る広がり
時計ではシチズンが、複数のモデルでCFPを登録・公開してきました。同社は、光で発電する「エコ・ドライブ」シリーズも展開しています。製品ごとに数値を出せば、電池交換が不要になることなど、使用段階の違いも議論しやすくなります。
小売のイオンは、2009年からCFP表示に参加してきたと紹介されています。自社の脱炭素ビジョンでは、イオンモールの電力を再生可能エネルギーに切り替える目標を掲げています。商品と店舗の両方で排出を減らそうとする点が特徴です。
パナソニックのデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY」は、個人の排出量を見える化する「Carbon Pay」構想を発表しました。個人の年間のカーボンフットプリントを表示し、行動のヒントを示す仕組みです。商品単位のCFPから、生活者単位の見える化へ視野を広げた例です。
事例から見える共通点
これらの事例には共通点があります。まず、算定で終わらず、削減の打ち手につなげていること。次に、素材や電源、パッケージなど、自社が動かせる部分から手をつけていることです。逆に、一社の数値だけを見て「優れている」と決めつけるのは早計です。次の章で、数値の読み方を確認します。
CFP表示の読み方|比べてよいもの、比べてはいけないもの
CFPの数値は、使い方を誤ると誤解を生みます。売り場で役立てるための基本を押さえます。
同じ算定ルールの商品だけを比べる
CFPは、商品の種類ごとに決められた算定ルールに沿って計算されます。何を範囲に含めるか、どんな前提で計算するかによって、数値は変わります。このため、算定ルールが違う商品同士の数字を並べて優劣をつけることはできません。
たとえば、洗剤とハムの数値を比べても意味はありません。同じ種類の商品でも、容量や使用回数の前提が違えば、そのままでは比較できません。
内訳を見る
数値の合計より役立つのが、段階ごとの内訳です。食品では原材料の調達段階、家電のようにエネルギーを使う製品では使用段階が大きくなりやすい傾向があります。内訳が公開されていれば、削減のポイントが原材料なのか、輸送なのか、使い方なのかを読み取れます。自分の行動で変えられる段階がどこかを見つけるヒントにもなります。
確認したい3つの点
売り場や公式サイトで数値を見たら、次の3点をチェックしてみてください。
- 算定の範囲が原材料から廃棄まで含んでいるか
- どの算定ルールに基づいているか、第三者の検証を受けているか
- 前年や従来品との比較など、同じ条件での変化が示されているか
この3点が示されていれば、数値の信頼性を判断しやすくなります。示されていなければ、商品の説明ページや問い合わせ窓口で確認するのも一つの方法です。
似た言葉との違い|カーボンニュートラル・カーボンオフセット・Scope3
CFPは、似た言葉と混同されやすい用語です。役割の違いを整理しておくと、表示の意味が読み取りやすくなります。
カーボンニュートラルとカーボンオフセット
カーボンニュートラルは、排出量と吸収・除去量を差し引きして実質ゼロにする状態を指します。カーボンオフセットは、減らせなかった排出分を、他の場所での削減や吸収で埋め合わせる手段です。いずれも「状態」や「手段」を指す言葉です。
一方、CFPは排出量を測って表示する「物差し」です。CFPで排出量を把握し、削減し、残った分をオフセットするという流れで、三つは組み合わさります。
Scope3とのつながり
企業の排出量は、GHGプロトコルで3つの範囲に分けられます。自社の直接排出がScope1、購入した電気や熱の使用による間接排出がScope2、それ以外の事業活動に関わる間接排出がScope3です。原材料の調達や製品の使用・廃棄の排出はScope3にあたります。
Scope3は、企業全体の排出量の中で大きな割合を占めることが多いとされています。製品ごとのCFPを算定しておけば、Scope3の把握にも役立ちます。つまり、CFPは製品単位の見える化、Scope3は企業単位の見える化という関係です。
「ゼロ」「低炭素」の言葉に注意する
「CO2ゼロ」「カーボンニュートラル商品」といった表現は、何を根拠にしているのかが肝心です。クレジットによるオフセットで成り立つ場合もあれば、削減努力による場合もあります。グリーンウォッシュを避けるうえでも、根拠となる算定範囲やクレジットの内容が示されているかを確認したいところです。
企業にとってのメリットと、見落とされやすい落とし穴
CFPの導入は、企業側にも利点と注意点があります。消費者が表示を読むときの背景としても知っておきたい内容です。
削減の優先順位が見える
最大の利点は、排出の大きい工程が分かり、削減の打ち手を絞れることです。素材を変える、輸送を見直す、パッケージを軽くするなど、効果の大きいところから着手できます。取引先との間で、共通の数値を使って話せる点も利点です。企業イメージの面でも、根拠のある開示は信頼につながります。
算定には手間とコストがかかる
一方で、算定には取引先のデータ収集や専門知識が必要で、特に中小企業には負担になりがちです。一次データが取れず、業界の平均値(二次データ)で補うこともあります。その場合、実際の努力が数値に反映されにくくなります。表示された数値が実態をどこまで表しているかは、この点でも変わってきます。
CO2だけでは測れない環境負荷もある
CFPが示すのは温室効果ガスだけです。水の使用量、生物多様性への影響、廃棄物など、他の環境負荷は含まれません。CO2排出が少ない商品でも、別の面で負荷が大きいことがあります。CFPは判断材料の一つとして位置づけ、他の環境表示や素材の情報とあわせて見るのが現実的です。
私たちにできること|買い物でCFPを使う3つの場面
数値を見て終わりにせず、買い物や暮らしの判断につなげる方法を考えます。
同じカテゴリの商品で内訳を見る
CFPの表示がある商品を見かけたら、同じ種類の商品や、同じメーカーの旧モデルと比べてみてください。内訳が公開されていれば、使用段階の比重が大きい家電なら、省エネ性能や使い方で差が出るのが分かります。食品なら、原材料や輸送の影響を想像する手がかりになります。
長く使う・無駄なく使うを基本にする
商品の排出量は、作る段階で大きく決まるものも多くあります。そのため、長く使えるものを選び、買い替えの回数を減らすことは、数値の大小にかかわらず排出を抑えます。食品ならロスを出さない、家電なら待機電力を減らすといった使い方の工夫も有効です。
表示が見当たらないときの確認方法
CFP表示がない商品が多いのが現状です。そのときは、メーカーのサステナビリティ情報ページで、排出量の算定・開示があるかを調べる方法があります。問い合わせフォームで、削減の取り組みを尋ねるのも一つです。消費者からの質問が増えることで、企業が開示を進める後押しになります。
まとめ
カーボンフットプリントは、商品の一生で出る温室効果ガスをCO2換算で示す物差しです。日本では2009年ごろの試行事業から始まり、民間の運営やガイドラインの整備を経て、企業の脱炭素経営を支える仕組みとして位置づけられています。日本ハム、コクヨ、シチズン、イオンなどは、それぞれの業種でCFPを使ってきました。
一方で、CFPは排出量を示す表示であり、低炭素であることの証明ではありません。算定ルールが違う商品同士は比べられず、CO2以外の環境負荷も含まれません。内訳や算定の範囲を確認しながら、判断材料の一つとして使うことが大切です。
まずは、お店やメーカーのサイトでCFPの表示を見かけたら、合計の数字ではなく内訳を一度のぞいてみてください。
- CFPは原材料の調達から廃棄までの排出をCO2換算で示す物差しで、削減量の表示ではない
- 日本では2009年ごろの試行事業から始まり、ガイドラインの整備へと進んできた
- 比べてよいのは、同じ算定ルールの同種の商品どうしだけ
- カーボンニュートラルやオフセットは「状態」「手段」、CFPは測る「物差し」で役割が違う
- 内訳と算定範囲を見て、長く使う・無駄なく使うことにつなげる
参考文献
- 環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」(環境省)
- ISO「ISO 14067:2018 Greenhouse gases — Carbon footprint of products」(2018年)
- GHG Protocol「Corporate Value Chain (Scope 3) Standard」(2011年)
- 一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)(公式サイト)

