テレビから流れるニュースには頻繁に中東アジアなどの紛争やテロ、クーデターなどの映像が流れます。もちろん現場は厳しい状況ですが、紛争などには無関係にも関わらず、命を簡単に奪われてしまう人たちの恐怖を考えたことがあるでしょうか。
今回は自国に住み続けるのが難しく、他国に避難する難民について取り上げます。
難民増加の難しい現状とは
世界中では毎年難民が増え続けています。2019年には難民の数は約8000万人となり、世界の97人に一人、人口の約1%が難民であるという状況になりました。
難民とは1951年の難民条約には『人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けられない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者』(引用:難民条約について|UNHCR)と、定義されています。
この条約は第二次世界大戦の結果、多くの難民が生まれたことにより締結されたものです。
今では衣食住もままならない、医療サポートが充実していない、教育が受けられない、クーデターや紛争、飢饉など、様々な理由で中東を中心に難民が生まれています。ここ数年は毎年約1000万人も難民が増え続けていて、その中には幼い子供たちも含まれています。
日本で、当たり前のように日々を暮らしている私達には遠い話かもしれません。しかし、今日生き抜く命を保証されていない毎日を過ごす人たちが、世界中には確かにいるのです。
難民として他国へ逃げた後は、難民キャンプなどを経て自国に帰る人、避難先の国で定住する人、自国でも避難先の国でもなく第三の国で定住する人に分かれます。シリアなど危険のある国から逃れてくる難民の多くは、意外にも自国に帰っていく現状を知らなければいけません。
これは難民支援が資金不足によりすべての難民には行き渡ってないからです。劣悪な難民キャンプでの生活、避難先でのサポートも十分に受けられず、結局貧困生活を強いられることになります。平和でない自国から逃げてきたはずなのに、まだ平和ではない自国に帰るしか選択肢のなくなる難民を、止める術が私たちにはありません。
SDGsの掲げる「誰一人取り残さない」世界を、実現させることはできるのでしょうか。
難民認定率が低い日本
日本にも毎年多くの難民がやってきます。しかし、難民認定率は実に低いです。2019年の難民認定率は0.4%でした。10,375人が難民の申請をしましたが、難民と認定されたのはわずか44人という結果に。在留を認めた37人を合わせても81人です。
申請取り消しではなく、難民申請が認められなかったのは4,936人。感情的に言うと「せっかく命からがら日本に逃げてきたのにほとんどの人を追い返すなんて」と思ってしまいます。海外からも「難民鎖国」などと呼ばれていたりもします。
実際、他国はかなり多くの難民を難民として受け入れています。アメリカでは約8割、ドイツでは約4割、オーストラリアでは約9割と日本の比ではありません。ところが難民をとにかく多く受け入れることが良いこととも限らないのです。
比較的多くの難民を受け入れているヨーロッパ諸国では、難民へのサポート体制が揃わず、難民が犯罪者になることはそう珍しいことではありません。難民を受け入れることによって自国の治安が悪くなったり難民も満足いく生活ができなかったりすると、誰も幸せにならないという状況が出来あがってしまいます。
日本は「サポートできるぐらいの人数」の難民を受け入れるために、厳しい難民認定の基準を設けています。ここ数年増えている「偽装難民」をふるい分けるためにもより厳しい判定を下しています。
難民認定率が低いからと言って、日本が難民問題に対して消極的というわけでは決してありません。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は国連の難民支援機関ですが、日本は2019年には1億ドルを超えて拠出しており、UNHCRにとって5番目に大きな支援国なのです。
日本が行う難民支援策
難民受け入れ人数が他国に比べて少ない日本は、難民認定された人たちにあらゆる支援策を講じています。難民が日本で実際生活していくには、様々な壁が生じ、その壁を超えていくための支援が必要です。
日本ではほとんどの人が日本語を話します。日本で自立した生活を送るために、他国から避難してきた難民は、まず日本語を理解して話せるようにならなければいけません。日本語力をつけるための日本語教育は支援策の1つです。
日本語だけでなく、日本文化や生活習慣、社会制度なども指導します。今までの暮らしとは全く違うであろう日本の生活。何も知らないまま放り出されては、うまく順応することは難しいでしょう。他にも子供であれば就学斡旋、大人であれば就職先や職場適応訓練の斡旋も行っています。
生活に必要な衣食住や医療サービスを保証することはもちろん大切ですが、それだけでは他国で生きていくのは難しいのです。働くことができるようになって、やっと自立した社会生活を送ることができます。そのために必要な支援策を充実させることは、日本での労働力獲得にもなり、もし難民が自国に戻っても役立つことになります。
難民問題とSDGs目標16「平和と公正をすべての人に」
日本は支援策を充実させていますが、難民受け入れ率は少ないです。世界の難民のほとんどは最貧国で受け入れられています。
持続可能な開発目標であるSDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」の観点から考えてみましょう。「すべての人に」ということがポイントです。難民として受け入れてもらえなかった避難すべき人もたくさんいます。このあふれてしまった人も含めて「平和と公正」を与えるべきです。
かといって、申請された分だけ受け入れることにより、サポート体制が揃えられず自国の平和が保てなくなってしまい、自国の人々に平和や公正を与えられなくなることもSDGsの開発目標16「平和と公正をすべての人に」から外れてしまいます。最貧国が難民を受け入れることで最貧国がさらに貧困に困ることになり、富裕国が最貧国を助けないことも問題です。
SDGs開発目標16「平和と公正をすべての人に」は細かく10個とa.bの合わせて12個のターゲットに分けられます。
16.2 子どもに対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する。
16.3 国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、すべての人々に司法への平等なアクセスを提供する。
16.4 2030年までに、違法な資金及び武器の取引を大幅に減少させ、奪われた財産の回復及び返還を強化し、あらゆる形態の組織犯罪を根絶する。
16.5 あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させる。
16.6 あらゆるレベルにおいて、有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる。
16.7 あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保する。
16.8 グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する。
16.9 2030年までに、すべての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する。
16.10 国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する。
16.a 特に開発途上国において、暴力の防止とテロリズム・犯罪の撲滅に関するあらゆるレベルでの能力構築のため、国際協力などを通じて関連国家機関を強化する。
16.b 持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進し、実施する。
概要をまとめると、暴力や搾取などにより、弱い立場の人が被害を被ることがなくなること。
発展途上国も含めてすべての人に身分証明と自由、司法へのアクセスを提供する。
組織犯罪やテロリズム、汚職などを撲滅するために国際的な協力体制を築いていく。ということが挙げられるでしょう。
以上のように「平和と公正をすべての人に」という目標を達成し、持続していくには難民問題は避けては通れません。人として最低限、人権の守られた暮らしを世界中の人に保証するにはまだまだ足りないものが多いです。
まとめ|難民問題の現状に対して私たちにできること
日本での難民受け入れ、認定率や海外との差に考えさせられますね。誰もが平和を願っているはずなのに、そこに向けてのプロセスは人によって、国によって違います。難民問題についても一概に「この国が悪い」と断言できるものではありません。
難しい難民問題に、私たち一人一人ができることはごくわずかかもしれません。まずは現状を知ること、そして自分なりに考えることが大切です。その上でできることをそれぞれがそれぞれの形で行っていくことで、きっと難民問題も含めて「誰一人取り残さない」世界がきっと開けてくるでしょう。