「水は豊富にある」
このように思いながら生活している人もいるのではないでしょうか?
しかし、世界人口の3分の1は水不足に苦しんでいます。
また水不足が深刻化し、紛争や国同士の対立につながる場合もあり、世界の水不足問題の早急な解決が必要とされています。
今回は、ナイル川をめぐる3カ国(エチオピア、エジプト、スーダン)の水紛争について解説します。
「ナイル川をめぐる水紛争」エチオピアとエジプト、スーダンが対立
エチオピアは2011年から「グランド・エチオピアン・ルネサンス・ダム」(GERD)の建設を開始しました。
総工費は約45億ドルで、日本円にすると約5000億円の大規模工事でした。
国内の水需要の9割をナイル川に依存しているエジプトは、当初から建設計画に強い懸念を示し、エチオピアに対しスーダンと共に交渉を行なっていました。
2015年には、エチオピア政府がナイル川上流で建設しているダムの運用方法に関する「原則宣言」に調印しています。
しかし2021年7月5日、エチオピアはエジプトに対して、ダムの貯水開始を伝える書簡を提出しました。
貯水は2020年の同月に続き2度目です。
以前よりエジプトは「ダムの貯水によりエジプトが深刻な水不足になる」として、貯水を長期間で行うように要求していました。
貯水開始の通達を受け、エジプトは「地域の安定を脅かす一方的な手法には反対」との声明を出しており、争いの火種となっています。
「水紛争」を引き起こしているナイル川の周辺国
ナイル川は、アフリカ大陸の北東部を流れる世界最長の大河で、流域国は以下の10カ国です。
・エジプト
・スーダン
・エリトリア
・エチオピア
・ウガンダ
・ケニア
・タンザニア
・コンゴ民主共和国
・ルワンダ
・ブルンジ
ナイル川の水資源分配は、1929年にエジプトとイギリス(当時支配下にあった4カ国の代表)と1959年にエジプトとスーダンが結んだ協定に基づいています。
協定の内容を以下の表にまとめました。
1929年:エジプト×イギリス (29年協定) | ・エジプトの取水に影響が出るような上流国のナイル川関連事業には、実質上の拒否権を保持 |
1959年:エジプト×スーダン (59年協定) | ・ナイル川の年間水量を840億㎥と規定 ・エジプトが555億㎥を、スーダンが185億㎥の取水権を持つとした(約100億㎥は蒸発による損失と仮定) ・他の流域国の取り分は「要求があれば共同で対処する」 |
この協定の背景には、当時植民地支配を行なっていたイギリスが関連しています。
第2次世界大戦前、イギリスはイギリス国内の綿織物産業発展を目的に、エジプトの綿花栽培を重要視していました。
その水資源確保のため、エジプトの許可なくナイル川の水資源を利用することを禁じたのです。
世界の水不足は年々深刻になっている
世界の水不足は、年々深刻になっています。
地球の表面の約70%は水で覆われているため、水資源は豊富にあると考えられがちですが、地球の表面にある水のほとんどが海水です。
私たちが飲める淡水の割合は約2.5%と少なく、ほとんどは南極や北極周辺の氷・氷河、地下に眠っています。
人間が暮らす場所で確保できる淡水は0.01%のみなのです。
アメリカの世界資源研究所(World Resources Institute: WRI)によると、世界人口の25%が住んでいる17カ国では「水ストレスが非常に高い状態にある」という結果が出ています。
”水ストレスの程度(水需給が逼迫している状態の程度)を表す指標として、「人口一人当たりの最大利用可能水資源量」がよく用いられます。
この指標では、生活、農業、工業、エネルギー及び環境に要する水資源量は年間一人当たり1,700 m3 が最低基準とされており、これを下回る場合は「水ストレス下にある」状態、1,000 m3 を下回る場合は「水不足」の状態、500 m3 を下回る場合は「絶対的な水不足」の状態を表すとされています。
参照元:水資源問題の原因|国土交通省
水ストレスが非常に高い国である17カ国のうち、12カ国が中東や北アフリカにあります。
また「人口増加」や「気候変動の影響」により、水不足は年々悪化しています。
2017年時点で約22億人が、安全な水を飲むことができていません。
2050年には、深刻な水不足に陥る河川流域の人口は39億人(世界人口の40%以上)といわれています。
水をめぐる紛争が世界中で起きている
日本は海に囲まれているため隣国がなく、水紛争に馴染みがない方は多いでしょう。
しかし、世界では水をめぐる紛争が各地で起きています。
・マレーシア×シンガポール:水供給の停止
・インド×バングラディッシュ:ガンジス川の堀建設と運用
・ボスニア:戦時下の水供給停止
・アメリカ×メキシコ:コロラド川の水資源の過剰利用と汚染
水紛争が起きている地域は、水不足が深刻なアフリカやアジアだけでなく、北米や南米大陸でも起きています。
水紛争の原因は、地域によって異なりますが、以下のような問題が原因です。
・(上流地域での過剰節水などによる)水資源配分問題
・(上流地域などによる)水質汚染問題
・水の所有権争い
・水資源開発と配分の問題
参照元:水資源|国土交通省
まとめ
ナイル川の水資源を巡った対立は今も続いており、人口増加や異常気象により、さらに深刻な問題になると予想されます。
アメリカが仲介を行なったり、国連に問題が持ち込まれたこともありますが、議論は平行線をたどりました。
日本は水ストレスが低く、私たちは安定した水の供給が受けられます。
しかし、世界人口の3分の1は、今も水不足に苦しんでいます。
「ナイル川の水紛争」をきっかけに、水資源の重要性や節水の大切さに気づいてもらえたら嬉しいです。