ハラルフードとは、イスラム教で食べることが許されている食事のことです。
イスラム教では信仰を守るために食べてはいけないものが厳しく決められています。
この記事では、ハラルフードの具体例や注目される背景、日本におけるハラルフードについて解説します。
ハラルフードとは?
ハラルフードとは、イスラム教徒(ムスリム)が教えにもとづいて食べることを許されている食事を指します。
「ハラル」とは、イスラム教において許されている物事やイスラム法に照らして合法的なもの、逆に、イスラム教において禁忌(タブー)とされているものは「ハラム」と言います。
ハラルかハラムか明確に分からないものも存在します。
そのようなものは「シュブハ」と呼ばれ、「避けた方が安心である」とされています。
食に関する事だけではなく、日常生活における行い全般にハラルとハラムが定められています。
ハラムを破ることはもちろん禁止されていますが、逆に許されていること(ハラル)をハラムと偽ることもまた禁じられています。
何がハラルで何がハラムかを決めるのはすべて神であり、その規範を判断する源となるのは聖典コーランや預言者ムハンマドの示した範例(スンナ)とされています。
イスラム教における食の禁忌(ハラム)とは?
ムスリムが口にすることを禁忌(ハラム)とされている主なものは、豚肉とアルコールです。
豚肉
豚肉は、食材として使用されていないことはもちろん、
・加工品
・抽出エキスの入った調味料やスープ
・衣料品や化粧品などに添加物として使用される豚由来の成分
なども厳しく禁止されています。
また、一度豚肉の入った料理に使われた食器やカトラリー、豚肉の調理に使用された包丁やまな板なども使用することができません。
豚肉を運搬した車で輸送したものなども口にすることはできません。
アルコール
飲酒やアルコールを使用した調味料なども禁忌とされていますが、アルコールに関してはムスリムの中でも個人や地域によってさまざまな解釈があり、絶対禁止から「酔わない程度ならOK」という立場まで、大きな幅が見られます。
その他
ほかに、食肉はイスラム法に沿った方法で正しく屠畜されていることが求められています。
また、
・死んだ動物の肉
・かぎ爪のある動物
などもハラムとされています。
水産物の扱いは地域差が激しく、イスラムの中の宗派や法学派の違いによる影響が大きく現れます。
例えばインドネシアでは「マングローブガニ」という種類のカニについて、ハラルか否かで意見が分かれます。
認証団体によってハラムという判定が出た後も、人によってはいまだ否定的な態度であると言います。
参考文献:『食のハラール入門:今日からできるムスリム対応』|阿良田麻里子(2018年講談社)
ハラルフードに使える食材
以下では食材別に注意すべきポイントを見てみましょう。
肉
基本的に鶏肉、羊肉、牛肉はOKですが、イスラム教の戒律にしたがって加工されたものであることに注意が必要です。
パン
ビールや酒種といったアルコール由来酵母や、乳化剤の入ったドライイーストなどの使用は許されていません。
乳製品
「生きている動物からとったもの」である牛乳やヨーグルト、バターは大丈夫。
ただし、ゼラチンには豚由来のものがあるので、加工品に入っていないか確認が必要です。
砂糖
砂糖の多くはサトウキビかテンサイという植物からできていますが、上白糖を作る際に動物の骨を使うことがあるため、ほかの砂糖を使用したほうが安全です。
調味料
アルコールの含まれたものが意外と多いのが、調味料。
ケチャップやマヨネーズに含まれる醸造酢にもアルコールが入っていることがあります。
また、サラダ油には乳化剤の入ったものが多くあります。
乳化剤にも豚由来のものがあるので、避けたほうが安全でしょう。
参考文献:『SDGsクッキング3:多様性を学ぼう!バリアフリーレシピ』|今泉マユ子(理論社、2022)
ハラルフードが注目される理由
ではなぜ今、ハラルフードが注目されているのでしょうか。
世界的人口の増加
2020年の調査ではイスラム教徒は世界人口の24.9%、約4分の1にも及び、年々増加の傾向にあります。
インバウンドの増加
東京がオリンピック開催地に決定されたのをきっかけに、訪日外国人観光客受け入れの態勢が整えられ、コロナ流行までの期間は東南アジアからの観光客が激増しました。
ムスリム人口世界一を誇るインドネシアからもたくさんの観光客が訪れ、2011年から5年間の間に約4倍にも達しました。
コロナウィルスの流行によりいったん客足は途絶えたものの、今後は円安の影響などもありインバウンドは増加するものと思われます。
参考文献:『食のハラール入門:今日からできるムスリム対応』|阿良田麻里子(2018年、講談社)
日本におけるハラルフード
インバウンドの旅行者の増加にともなって、日本でもハラル認証を取得する食品やレストランは年々増加傾向にあります。
また、醤油や味噌といった日本食にかかせない調味料や、日本食材でもハラル対応がすすんでいます。
アジア進出のためにハラル認証を受け製造を行う企業も増えてきました。
とくに空港や観光地では、レストランやホテルなどでムスリムの旅行者に対応する取り組みをすすめています。
ですが、ハラル認証レベルの基準をすべてクリアすることは、非イスラム圏である日本においては簡単なことではありません。
そこで、一部の施設やメニューがハラルの一定基準をクリアしていることを証明する「ムスリムフレンドリー」という部分認証の制度も取り入れられています。
参照元:ハラル・ジャパン協会ホームページ
ハラル認証とは
ハラル認証とは、外部の認証機関が対象となる商品やメニューがハラルの基準を満たしているかを検査し、それを保証する制度のことです。
1960年頃にマレーシアで始まり、以後各国で認証制度が整ってきました。
一見しただけでは判断しにくい商品も、ハラルの認証マークがあることで安心・安全に食べることができます。
一方で、ハラル認証機関は世界に300以上あると言われており、その判断基準も機関により異なるため、一概に認証マーク=求められた基準を満たしているものとは限りません。
全世界で有効な認証はいまだ存在しないため、見極めが必要です。
日本にも複数のハラル認証機関が存在しますが、それぞれ国際相互認証を受けている機関が異なります。
ムスリム人口が世界で最も多いインドネシアの認証機関(MUI)は厳しい評価基準をもつことで知られていますが、日本ハラール協会やムスリム・プロフェッショナル・ジャパン協会などが相互認証を受けています。
まとめ:注目される食のダイバーシティ
ハラルフードはフードダイバーシティ(多様な食文化)の一例です。
ユダヤ教におけるコーシャフードなどハラルと同じように宗教的なもの、個人の信条によるヴィーガンやベジタリアン、健康的な制限によるアレルギー食、糖尿病食などもフードダイバーシティと位置づけられます。
日本の中にも食のダイバーシティは存在します。
ご当地グルメや地元の特産品などは、その一例と言えるでしょう。
国と国との垣根を越えて人が行き来しグローバル化がすすめば、他の文化を尊重しあって共生することがさらに求められます。
どのような食文化をもつ人も大切にされ、尊重されるような社会づくりが、今後ますます必要になるでしょう。