環境先進国であるデンマークは、風力発電においても先進的に取り組んでいて注目を集めている国です。
2017年にはデンマーク国内で使用する電力のうち、風力発電が占める割合が43%を超えました。
世界各国で再生エネルギーの使用率を高める取り組みが行われる一方で、各国がさまざまな問題を抱える中、デンマークはどのようにして風力発電の割合を向上させたのでしょうか?
この記事では、デンマークの風力発電の現状や今後の見通しについて解説します。
日本とは地形や風況の異なる国で、どのような取り組みがおこなわれているのかみていきましょう。
デンマークで風力発電が占める発電割合
デンマークはかつて、エネルギーの95%以上を輸入に頼っていました。
しかし1973年の第一次オイルショックをきっかけに、エネルギーの自給率を上げる取り組みを始めたのです。
その結果、2017年において国内使用電力のうち風力発電が43%以上を占め、その割合の高さから、環境先進国としてより知名度を上げることとなりました。
2019年には風力発電の割合をさらに向上させ、国内で使用する電力のうち47%が風力発電による電力供給となりました。
日本において、デンマークの面積にもっとも近い九州の2019年の風力発電割合が0.7%であったことと比較すると、デンマークでの風力発電の割合の高さがより明確になるでしょう。
日本で風力発電の割合がもっとも高い北海道でも、2019年時点では3.5%にとどまっており、デンマークの風力発電がいかに先進的かつ積極的であるかがわかります。
デンマークで風力発電による発電割合が高い理由
デンマークで風力発電が占める割合が高い理由としてまず考えられるのは、偏西風による影響です。
三方が海に囲まれ、平地であるデンマークの地形が強い偏西風をもたらすため、デンマークの海岸沿いには安定した強い風が吹きます。
こうした地形や気候条件が、デンマークで風力発電が発展した大きな理由です。
また、ヨーロッパでこれまでおこなわれてきた風車の利用も、風力発電に影響をもたらしています。
ヨーロッパでは長年の風車の利用により、風を動力にするノウハウが蓄積されています。
このノウハウによって効率的な風力発電が可能だったことや、高い技術を持った部品メーカーが揃いコストを抑えて発電できることも、デンマークで風力発電が発展した理由であると考えられています。
デンマークの次なる施策 「エネルギー島」とは?
デンマークは、今後2つの「エネルギー島」を建設すると発表しています。
2つのうち1つは北海、2つめはバルト海に建設される予定です。
これらエネルギー島の建設によって、洋上に風力発電の拠点ができることとなります。
エネルギー島建設のメリットは大きく2つあります。
1つは、電力供給量の増加です。
5GW(ギガワット)の洋上風力で、新たに約500万世帯分に相当する電力の供給が可能となる見込みです。
風力発電による電気の供給量が増える分、化石燃料を使用した発電量を抑えられることとなり、地球温暖化対策に繋がります。
2つめは、洋上に発電の拠点を置くことで、近隣他国への送電が可能となります。
デンマークからスウェーデンやノルウェーなど付近の国々へエネルギー島を通じてよりクリーンなエネルギーの供給が可能となり、地球規模でのエネルギー源の置き換えに通じる大きな一歩となります。
エネルギー島は遅くとも2030年の建設完了が予定されていますが、大幅に前倒しとなる見込みも出ています。
合わせて、デンマークの企業である、風力発電機世界最大手「ヴェスタス」が2021年2月に、世界最大出力となる15MW(メガワット)の風力発電タービンを投入すると発表しています。
これまでの最大機種と比較すると、1基あたりの発電量は65%増加します。
2024年に量産が始まる予定で、世界各地の洋上風力発電での採用を目指しています。
デンマークは2050年までにカーボンニュートラル、つまり二酸化炭素の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロの状態となることを目指しており、世界最大出力タービンの投入やエネルギー島建設による電力運用はカーボンニュートラルの達成にも寄与し、環境先進国としてさらに前進することとなるでしょう。
風力発電における洋上発電と陸上発電の違い
これまで風力発電は、陸上沿岸部でおこなわれることが常でした。
しかし近年、海洋上に風力発電設備を建設し、洋上での発電が増えています。
洋上発電と陸上発電の違いとなる、洋上発電によるメリットは2つあります。
1つめは陸上よりも安定し、強い風力を得られること。
そして2つめは、万が一、地震やハリケーンで発電機が損壊した場合に、洋上発電であればその物理的距離によって家屋の破損や怪我人の発生といった人的被害を最小限に抑えられることです。
こうしたメリットを踏まえ、現在、デンマークだけでなくイギリスでも洋上発電の実施が進められています。
また日本においても2013年に千葉県銚子市、福岡県北九州市で洋上風力発電機の実証運転が始まり、今後さらに洋上風力発電機の利用が増える見込みです。
国土の狭い島国であるイギリスや日本にとっては、発電機の建設を狭い地上ではなく広い洋上でおこなえることそのものが大きなメリットと言えるでしょう。
デンマークの風力発電を見習い 自国の状況に合わせた発電が必要
今回は、デンマークの風力発電の現状や今後の見通しについて解説しました。
環境先進国と呼ばれるデンマークは、強いリーダーシップを持って他国との連携を強め、世界規模で風力発電の利用を推進しています。
環境に対するこうした積極的な姿勢は、日本をはじめデンマーク以外の国も見習うべきでしょう。
しかしながら、風力が不安定である日本では、安定的に強い風力を得られるデンマークと同じように風力発電を運用することは難しいというのが現実です。
今後、デンマークでの風力発電の運用を参考にしながら、日本の地形や風況に合わせた独自の運用検討が必要となります。
すでに実証運転が始まっている銚子市や北九州市での運用を皮切りに今後も展開を続け、日本は再生エネルギーへの切り替えの遅れを巻き返したいものです。
参照元:
・【速報】日本国内の電力需給(2019年)における自然エネルギー割合│特定非営利活動法人環境エネルギー制作研究所
・【インタビュー】「将来はヨーロッパで最大の電源に~拡大する風力発電」―加藤仁 氏(前編)│経済産業省エネルギー庁HP
・洋上風力発電とは何か? どんな仕組みでどんなメリットがあるのか?│ビジネスIT
・ヴェスタス、世界最大の風力発電機 発電量65%増│日本経済新聞
・世界初のエネルギー島のイメージ像が公開│State of Green HP