地球上に暮らしているのは、人間だけではありません。
わかっているだけでも、約175万種類もの生物が暮らしており、未知の生物を含めると3,000万種ともいわれています。
こうした様々な生物が存在することを「種の多様性」といい、これらの生態系がバランスよく保たれている状態が生物多様性です。
しかし近年、生物多様性が脅かされており、私たちの暮らしにも影響が及んでいます。
今回は、生物多様性がいかに大切かを解説するとともに、失われた場合に起こる問題や解決に向けた取り組みについて紐解いていきましょう。
参照元:COP(生物多様性条約10回締約国会議支援実行委員会)
生物多様性とは
多種多様な生き物が、同じ地球の中で暮らし、互いに繋がりあっていきていることを生物多様性といいます。
生物多様性は、3つの柱から成り立っているのが特徴です。
まずは、生物多様性の特徴について解説します。
生態系の多様性について
私たち人間を含めた自然界では、食物連鎖が起こっています。
食物連鎖が成り立つことが、自然のバランスを取るためには欠かせません。
例えば、植物を虫が食べ、虫を鳥類や小さな動物たちが食べ、鳥類や小さな動物たちは大きな鳥や大きな動物に食べられます。
そして、大きな動物たちもやがて死に至り、土に還れば微生物たちの餌となり分解され、ふたたび植物の栄養となるといった流れです。
これを生態系の多様性といいます。
種の多様性について
生物と一括りにしても、様々な「種(しゅ)」が存在しています。
人間は、「ヒト」という「種」であり、ネコやイヌもそれぞれ「種」です。
もちろん、動物に限らず、植物や菌類なども「種」で分類されており、これまでに発見されているだけでも、175万種類を数えます。
「種」が減っていくと、「絶滅危惧種」と呼ばれ、ついに地球上から存在しなくなる状態が「絶滅」です。
IUCN(国際自然保護連合)では、実に40,000種以上の生物に、絶滅危惧があるとしています。
この数字は、全評価種の27%に相当する数です。
参照元:IUCN(国際自然保護連合)
遺伝子の多様性について
生命を作り上げている設計図を、遺伝子といいます。
同じ種であっても、遺伝子はそれぞれに異なり、同じ両親を持つ兄弟姉妹であっても少しずつ違うのが特徴です。
この違いを、遺伝子の多様性といいます。
私たちに個性があり、動物や植物におけるユニークさがあるのも、遺伝子の多様性のおかげです。
生物多様性の重要性
実は、生物多様性(biodiversity)という言葉が登場したのは1985年のことで、「biological(生物の)」と「Diversity(多様性)」の2つの言葉を組み合わせた造語です。
この言葉が生まれた背景には、地球環境への危機感や絶滅危惧種に対する不安があります。
続いては、生物多様性がいかに重要なことかを紐解いていきましょう。
生態系サービスについて
私たちが、安心して暮らすためには、多くの生物の支えがなければ難しいでしょう。
例えば、日本人の主食であるお米は、水や空気、田んぼで生きるたくさんの生物たちが存在しているからこそ成り立ちます。
野菜や果物は、虫たちの受粉がなければ、実をつけません。
食べ物に限ったことではなく、衣類や木材、水や医薬品まで、ほとんどのアイテムが生物多様性の恩恵を受けています。
この状態が生態系サービスです。
生態系サービスは、4つに分類されます。
食べ物や衣類、水や医薬品といった衣食住に欠かせないアイテムに関する恩恵は「供給サービス」です。
また、きれいな空気や水が得られること、気候が安定し自然災害を防ぐことを「調整サービス」、野外環境で音楽を聴いたり、文学を楽しむような、人間の暮らしを豊かにしてくれることを「文化的サービス」といいます。
これらの土台となるのが、植物の光合成や昆虫や微生物が土壌を形成する状態を表す「基盤サービス」です。
私たちの健康にも欠かせない生物多様性
生態系サービスの章でも触れていますが、私たちの健康や医療に関しても生物多様性は大きな役割を担っています。
私たち現代人に欠かせない医療を支えるものの一つが、医薬品です。
WWF(世界自然保護基金)によると、医薬品の成分には5万種から7万種もの植物由来の物質が役立っているとされています。
また、広い地球の中で広がる多様な自然環境において、未だ発見されていない生物は無数にあるでしょう。
これらの生物が日の目を見れば、未だ解決されない難病に対する治療法なども見つかる可能性があります。
参照元:WWF
生物多様性が失われるとどうなる?
私たちの暮らしに大きく影響する生物多様性ですが、このまま失われていけば地球のバランスを保っていたサイクルが崩れます。
例えば、日本ではオオカミが絶滅したことにより、シカが爆発的に増加しました。
結果的に森の生態系が崩れ、美しい森は荒れ果ててしまい、失われつつあります。
また、農作物への被害も増加しているでしょう。
そのほか、昆虫が少なくなっていることで、受粉率が低下していくことも危惧されています。
このように、存在する生物のうちどれか一つが絶滅するだけで、全ての生態系に影響を及ぼしかねません。
生物多様性に起こっている問題
地球が誕生してから、人類が誕生する以前にも絶滅した生物は多く見られました。
わかりやすい例でいえば、恐竜があげられるでしょう。
恐竜の絶滅は、巨大な隕石が地球に衝突したことを引き金としたものです。
しかし、近年起こっている生物多様性の喪失は、これまでの絶滅とはスピードが大きく異なります。
その背景には、人間の営みが関係しており、人間が関わらない絶滅スピードと比べると、実に1,000倍〜10,000倍に相当するほどです。
まだ、正確な数字は算出されていないものの、極めて深刻な状況にあることは変わりません。
特に20世紀に入ってからの状況は、あまりにも急激です。
こうした危機的状況を引き起こしている理由について解説します。
自然環境の破壊
生物多様性が喪失する理由として、人間による環境破壊が挙げられます。
過度な開発により棲みかを奪われた生物は数しれません。
また、森林を分断する道路が作られると、従来森林に取り込まれていた光や水の割合が変わります。
希少種を対象にした乱獲や、繁殖力をはるかに超える数の利用も、生物多様性を脅かす原因です。
人の手が入らなくなった里山
日本でも、生物多様性の崩壊は起こっています。
例えば、少子高齢化により、一昔前までは人の手が入っていた里山が、放置されるようになりました。
以前は、人間の適度な営みがあったからこそ、バランスのいい自然環境が保たれていたのです。
手入れされた森には光が入り、平野部にあった氾濫原は田んぼとして利用されていました。
また、適度な狩猟によってイノシシやシカといった大型の哺乳類は個体数が抑えられていましたが、里山を手入れする人が少なくなった今、急激に数を増やし、食害なども引き起こしています。
外来種によるバランスの崩壊
海を渡る人の流れができるようになると、合わせてその土地にもともと存在するはずのない外来種が入ってくるようになります。
例えば、日本でもブラックバスやマングースなど多くの動植物が持ち込まれました。
日本のような島国で外来種が入り込むと、天敵がいない状態となります。
そのため急激に繁殖し、もともといた固有種に多大なる影響を与えてしまいかねません。
地球温暖化
地球全体の問題として、各国が取り組んでいる地球温暖化も、生物多様性に大きく影響しています。
温暖化がこれ以上進めば、寒冷地にのみ生息する生物が生きられなくなるでしょう。
また、海水温が上がれば、サンゴの死滅につながります。
生物多様性に対する取り組み
生物多様化に関する問題は、様々な出来事が複雑に絡み合って起こっています。
もちろん、一度絶滅した生物を元に戻すことはできません。
また、数が少なくなっている絶滅危惧種を元の状態にするのには一筋縄ではいかないでしょう。
この先、生物多様化がこれ以上衰退しないためにも、多くの国や地方自治体、企業などが取り組みを行っています。
関西電力の取り組み
関西電力グループでは、発電所を作った場所に環境に適した植物を植栽し、自然に近い森を作っています。
そのほか、兵庫県立大学や兵庫県コウノトリの郷公園と連携した活動も特徴的です。
コウノトリを守るといった活動で、人工的に育てたコウノトリを自然に戻しています。
また、コウノトリが電線にぶつからないような工夫も活動の一つです。
参照元:生物多様性を守るために~関西電力グループの取組み~|関西電力HP
株式会社ニチレイの取り組み
マングローブの減少を危惧し、環境負荷がかかりにくい粗放養殖を採用しています。
また、粗放養殖で育てたエビを販売した利益の一部をマングローブ基金に寄付し、生態系の保全に貢献しています。
生物多様性とSDGs
SDGs目標15「陸の豊かさを守ろう」は、生物多様性に関する内容です。
目標15では、生態系やそれらのサービスを保全することや、回復、持続可能な利用を確保するなど、12個のターゲットを用意しています。
例えば、持続可能な森林管理の証として条件を満たした木材にのみ与えられるのが、「FSC認証」です。
木で作られたおもちゃなどにもよく記されているので、目にしたことがある人も多いでしょう。
そのほか、SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」も生物多様性と大きく関わります。
地球の70%は海といわれており、海洋生物たちの暮らす場所です。
陸と同様に、海の存在にも人間たちは助けられ資源をいただいています。
海と陸と両方の豊かさを守ることは、生物多様性を守ることに直結するでしょう。
まとめ
世界だけではなく、日本でも生物多様性の危機は刻一刻と深刻化しています。
例えば、ニホンオオカミの絶滅は、人間による影響も多大にあるでしょう。
事実、ニホンオオカミがいなくなったことで、森の様子は大きく変化しました。
そして、現代は、ますます開発が進み、自然環境への影響も加速しています。
こうした状況を食い止めるためには、一人一人が生物多様性について目を向けることが大切です。
その上で、普段使っている製品や食べているものが、どのようなプロセスを経て手元にたどり着いているかを考えてみましょう。
こうした小さな一歩が、生物多様性を守る大きな力になります。