SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」、そのターゲットの1つとして「2030年までに、砂漠化に対処し、砂漠化、干ばつ及び洪水の影響を受けた土地などの劣化した土地と土壌を回復し、土地劣化に荷担しない世界の達成に尽力する。」が掲げられています。
乾燥した土地が劣化して、植物が生えない環境になってしまう砂漠化。今回は、その原因と現在行われている対策について解説します。
砂漠化とは?
まず「砂漠化」という言葉の意味から確認しておきましょう。
「砂漠化」とは、土地が劣化して植物が生育できなくなることをいいます。
砂漠化が危険視されている気候の地域は、以下の3つです。
・乾燥地域:年降水量200mm未満(冬雨期)、300mm未満(夏雨期)の地域
・半乾燥地域:湿潤気候と乾燥気候との中間にある気候で、乾季が長く、雨季は短い。草原に中低木がまばらにみられる。ステップ気候と言われる
・乾燥半湿潤地域:草原の中に乾燥した森林も見られるようになる
ポイントとしては、もともと人も住めず植物も生えない「砂漠」であるところは、これ以上悪くなりようがないので「砂漠化」にはなりません。
この3つのうち、最も砂漠化の影響を受けやすいのは「乾燥地域」です。
実は地球の面積のやく約40%は乾燥地域であり、そこで暮らす人たちは約20億人、世界の人口の約35%にも及びます。
さらに、その約90%以上は開発途上国です。
砂漠化は、食糧の供給不安、水不足、貧困の原因でもあり、喫緊で取り組まなければならない課題と言えます。
日本には砂漠ってあるの?
ところで、日本には「砂漠」はあるのでしょうか。
日本で「砂漠」というと、鳥取砂丘の光景を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
しかし、鳥取砂丘はあくまで風が運ぶ砂が堆積してできた丘であり、砂漠ではありません。
日本で「砂漠」という地名があるのは、伊豆大島の三原山山麓にある「裏砂漠」「奥山砂漠」の2か所です。
ここでは、火山灰による荒涼とした風景が広がっています。
しかし、島には雨量も多く植生もあるため、厳密な意味では「砂漠」ではありません。
雨の多い日本では、「砂漠」はいまのところ存在しないといえます。
砂漠化の原因とは?
砂漠化の原因は、大きく分けて2つあります。
- 気候的要因:地球的規模での気候変動、干ばつ、乾燥化など
- 人為的要因:乾燥地域における過放牧、森林伐採、過耕作などの人間の活動や、工業化が進んだことによる大気汚染など
気候的要因は、気候変動による雨の降水量の減少が主な原因です。
例えば乾燥地域・半乾燥地域はもともと雨量が少ないため、気候変動によって雨が降らなくなったら植物が生えずに砂漠化が進むという悪循環が起こります。
サハラ砂漠南部のサヘル地帯やモンゴルなどの地域の砂漠化は、気候変動によるものが大きいです。
しかし、砂漠化は気候変動だけによって引き起こされるものではありません。
降水量の減少がなくても、森林伐採や放牧、大規模な灌漑や焼畑農業などによって土地の植物を刈り取ってしまうことで、土が水を蓄えられなくなり、土地がやせてしまいます。
植物が少なくなると、風で土が飛ばされる「風食」や、雨で土が流される「水食」が起こり、ますます植物が生えにくくなるのです。
また、工業化によって大気汚染が進み、酸性雨で森が枯れたり、灌漑によって土地が塩分を含んでしまうなど、土壌汚染が進むことで、やはり植物が生えなくなって砂漠化が進むこともあります。
人為的な原因は、そこに住む人々が人口増加のために行った無理な放牧や開墾、そして土地が砂漠化したために陥る貧困、さらに新しい土地を開発するという悪循環があり、社会・経済的な問題と切り離せません。
砂漠の種類
砂漠というと、砂の世界が広がってラクダが歩いているようなイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし、砂漠には実は4種類あります。
砂砂漠(すなさばく)
サハラ砂漠やゴビ砂漠のように、砂が続く砂漠です。
礫砂漠(れきさばく)
砂よりも大きな砂利や石の「礫砂漠」です。礫(れき)とは、粒径が2ミリメートル以上の砕屑物を指します。
岩石砂漠(がんせきさばく)
「ハマダ」とも呼ばれ、岩石や岩くずれで覆われている砂漠のこと。
実は、地球の砂漠の約90%以上は岩石砂漠です。
サハラ砂漠も80%は岩石砂漠であり、砂砂漠の割合は20%にすぎません。
土砂漠(つちさばく)
土や粘土によっておおわれた砂漠です。
土なら植物が生えるのではないかと思うかもしれませんが、表層は固い粘土で土の中に微生物が住んでいないため、植生には適していません。
世界の砂漠化の現状
砂漠化は、恐ろしいほどのスピードで進んでいます。
その速さは1秒間で1900平方メートル、1年間では四国と九州を合せた面積(東京ドームおよそ128万個分)の土地の緑が失われているといいます。
砂漠化による影響
砂漠化ではまず植物が生えなくなることから、食糧生産に大きな影響があります。
その土地に住む住民は、貧困に陥り、生存のために他の場所の森林、水などの資源を過剰に採取しなくてはならくなり、人為的な要因で砂漠化を加速させるという悪循環に陥っているのです。
また、土地を捨てた住民は都市や他国へ向い、都市の人口集中や、難民の増加を招きます。
砂漠化した土地からは生物の多様性が失われ、絶滅する動植物も少なくありません。
生態系が一度損なわれると、元のとおりに回復させることは困難です。
地表から緑が消えることにより、さらなる地球温暖化への影響もあります。
砂漠化への取り組みと対策
砂漠化の解決というと、緑化運動が思い浮かぶかもしれません。
しかし、砂漠化への取り組みは、砂漠を緑化することとは違います。
気候変動や人間活動によって砂漠化してしまった土地を修復・復元することです。
また、砂漠化への取り組みは、単に植物を生やせばよいというわけではありません。
砂漠化の背景にある人口問題や貧困など、乾燥地の国々が抱える社会問題の解決が不可欠です。
仮に、緑化によって新たにそこで農業ができるようになったとしても、そこで生産された農産物が適正な価格で国際市場で取り引きされる必要があります。
開発途上国だからと安価で取引をしているようでは、そこに住む人々の生活が成り立たたないので、新たにまた土地を破壊してでも多くの作物を得ようとするからです。
砂漠化の根本的な対策としては、緑化だけではなく、まずその地域の風土を知り、適した植物種を選択し、その単位土地面積当たりの生産力を高めるための技術を開発すること、そして、持続的な農牧業システムを構築することをセットで行う必要があります。
このような砂漠化の危機は1国でどうなるものではありません。
そこで、世界的に砂漠化に対応するため1994年6月17日に「国連砂漠化対処条約」が採択されました。
国連砂漠化対処条約事務局は、SDG15「陸の豊かさを守る」のターゲット15.3「土地劣化に荷担しない世界の達成」を達成するために「ゼロネット土地劣化」を目指しています。
これはさらなる土地劣化の回避と劣化した土地の回復(land restoration)によって、差し引き(=土地回復面積-土地劣化面積)がプラスとなるようにすることです。
さらに、2030年にむけての新戦略枠組で以下のことを目標に掲げています。
1.砂漠化の影響を受ける生態系の改善、砂漠化/土地劣化との闘い、持続的土地管理の推進、土地劣化の中立性への貢献
2.砂漠化の影響を受ける人々の生活環境の改善
3.砂漠化の影響を受けやすい人々と生態系のレジリエンスを高めるための干ばつへの緩和と適応
日本も砂漠化対処条約批准国であり、国際協力機構等を通じた砂漠化対策への貢献を続けています。
まとめ
日本に砂漠はないとはいえ、食糧の多くを輸入に頼っているため、砂漠化は私たちにも直接かかわる大きな問題です。
世界の砂漠化を防ぐ第一歩は、まずは砂漠化について関心を持つことから始まります。この機会に、砂漠化について考えてみませんか。