企業の植林活動とは、森林の再生や環境保全を目的に、伐採跡地や森林でなくなった土地へ、企業が資金・人手・技術を出して木を植える取り組みです。ただ、実際の現場を見ていくと、苗木を植える作業だけで完結している例はほとんどありません。植えた後の手入れ、現地の人々の暮らしの支援、研究や調査まで含めて「森をつくる」活動になっています。この記事では、ソニー・三菱商事・JT・トヨタ紡織の4社の事例を軸に、企業の植林活動が何をやっているのか、そして「植樹○万本」という数字をどう読めばよいのかを整理します。
なぜ企業が植林に関わるのか|世界の森林のいま
企業の植林活動を理解するには、まず森林がどんな状況にあるかを押さえておく必要があります。森林は二酸化炭素を吸収し、動植物の住みかとなり、周辺に暮らす人々の燃料や食べ物、収入を支える存在です。その森林が、農地開発や無理な伐採で減り続けてきました。
世界の森林は減速しながらも減り続けている
国連食糧農業機関(FAO)が2025年11月に公表した「世界森林資源評価2025」によると、世界の森林面積は約41億4,000万ヘクタールで、陸地の約32%を占めます。森林が他の用途に転換される「森林減少」は、2015〜2025年に年間約1,090万ヘクタールでした。1990〜2000年の年間約1,760万ヘクタールからは大きく減っています。
一方で、森林減少から新たな森林の増加分を差し引いた純減少は、2015〜2025年で年間約412万ヘクタールです。1990年代の約1,070万ヘクタールから下がったとはいえ、森林は今も純減が続いています。減少ペースが緩んだことは前進ですが、「もう大丈夫」と言える段階ではありません。
企業が植林に関わる3つの理由
企業が植林に乗り出す背景は、大きく3つに分けられます。1つ目は、原材料の調達です。紙パルプ、パーム油、木材、たばこの葉のように、森林や農地に由来する原料を使う企業にとって、産地の森林が失われることは事業の持続性に直結します。
2つ目は、気候変動への対応です。森林は光合成で二酸化炭素を吸収するため、排出削減に取り組む企業が、吸収源としての森づくりを組み合わせる例が増えています。3つ目は、地域との関係づくりです。工場や事業所がある地域の森を守ることは、水源や防災、従業員や住民との交流にもつながります。
企業ごとに力点は異なります。次の章で、その違いを4つの事例で見ていきます。
日本企業の植林活動4つの事例
ここで取り上げる4社は、同じ「植林」でも関わり方がかなり違います。ソニーグループのソニー銀行は寄付の仕組みで資金を出し、三菱商事は大学の研究を支えて再生技術を実証しました。JTは自社の原料産地の森林保全に、トヨタ紡織は自社の生産拠点がある国や地域に、それぞれ軸足を置いています。数値は各社・各機関の公開情報にもとづきますが、年度ごとに更新されるため、最新の値は各社の公式サイトで確認してください。
ソニーグループ(ソニー銀行)|口座開設がスマトラ島の植樹につながる
インドネシアのスマトラ島では、1985年に約2,530万ヘクタールあった熱帯雨林が、2016年には約1,040万ヘクタールに減ったとされています。日本は紙パルプやパーム油を輸入しているため、この問題は私たちの暮らしと無関係ではありません。
ソニーグループのソニー銀行は、2012年9月から、WWFジャパンが行う「インドネシア・スマトラ島の森林保全プロジェクト」を支援しています。口座を1件開設するごとに10円を寄付する仕組みで、寄付1,000円が苗木1本の植林と3年間の育成に相当するとされています。2025年3月31日までの累計は、植林17,392本相当です。
植え方にも特徴があります。現地で種や苗を調達し、すでに生えている天然の木は残したまま、果樹や野菜、在来植物を組み合わせて植える「アグロフォレストリー」という方法を採っています。生物多様性の回復と、住民の食料・収入源の確保を両立させる狙いです。植林後は下草刈りなどの手入れも続けています。
三菱商事|熱帯林を短期間で再生できるかを実証
三菱商事の熱帯林再生プロジェクトは1990年に始まりました。マレーシア・サラワク州ビンツルの焼畑跡地で、マレーシア国立農業大学と横浜国立大学が進める共同研究を、同社が支援する形でスタートしています。現地に自生する樹種を密に混ぜて植える方法で、熱帯林の再生技術を確かめる実験でした。
約50ヘクタールの実験地に植えた約30万本の苗木は、30年以上を経て、高いもので20メートル以上に育ち、うっそうとした森の姿になったと同社は紹介しています。この事例の価値は、本数の多さより、「どう植えれば森に戻るのか」という技術を現地で確かめた点にあります。
JT|原料産地の森林保全を現地の人々と進める
JTは、アフリカ有数の葉たばこ産地であるタンザニアとマラウイで、植林・森林保全に取り組んできました。のちにザンビアにも活動が広がったことが、2016年の報告書で示されています。これらの地域では、家庭の燃料に木材が使われることなどを背景に森林の減少が課題とされ、葉たばこの生産過程でも燃料として木材が使われます。
JTの事例で目を引くのは、植林と同時に暮らしの側にも手を入れている点です。現地NGOと連携し、住民向けの勉強会を重ねて理解を得ながら、薪の消費を減らす「改良かまど」の普及といった生活面の支援も行っていると紹介されています。原料を調達する産地の森を守ることが、自社の事業と地域の暮らしの両方を支える、サプライチェーン型の植林といえます。
トヨタ紡織|生産拠点のある地域で「森づくり」を続ける
自動車のシートなどを製造するトヨタ紡織は、2050年までにグループ累計132万本の植樹を目標とする「森づくり活動」を進めています。2021年度時点のグループ累計は約58万本とされています。目標に対する進み具合を、年度ごとに開示している点は、後述する見極めの観点でも参考になります。
国内では、2008年1月に岐阜県・中津川市と「企業との協力による森づくり」の協定を結び、同年4月から年5回程度の活動を続けています。海外でも、生産拠点のある地域で、現地の団体と協力した植林を進めています。自社の拠点がある場所で長く関わり続ける、拠点展開型の取り組みです。
4つの事例を並べて見えてくる共通点と違い
4社の取り組みを横に並べると、植林に関わる形は4つに整理できます。
- ソニー銀行は、寄付で資金を出して成果を支える「資金提供型」
- 三菱商事は、再生技術を現地で確かめる「研究実証型」
- JTは、原料産地の森林と暮らしを守る「サプライチェーン型」
- トヨタ紡織は、事業拠点のある地域に長く関わる「拠点展開型」
この分け方で見ると、企業の植林活動を評価するときの物差しも変わってきます。資金提供型なら寄付の使い道と実績の開示、研究実証型なら成長の追跡と技術の共有、サプライチェーン型なら原料調達との結びつき、拠点展開型なら継続年数と目標への進捗が、それぞれ見るべき点になります。
一方で、4社に共通する点もあります。まず、自社だけで完結させず、WWFのような国際NGO、現地のNGO、大学、自治体と組んでいることです。植林には樹種の選び方や育て方の技術と、地域の人々の理解という、企業単独では確保しにくい要素が欠かせません。
もう1つの共通点は、植えた木をどう育て、現地の暮らしとどう結びつけるかまで視野に入れていることです。ソニー銀行の下草刈りやアグロフォレストリー、JTの改良かまどはその例です。植林は「植えて終わり」ではなく、育った森が地域に根づくまでの長い活動だと、各社の取り組みから読み取れます。
国内でも広がる企業の森づくり
企業の植林活動は海外だけの話ではありません。林野庁によると、企業による森林づくり活動の実施箇所は、令和6(2024)年度に2,002か所でした。地域の森を会社の活動場所として整える動きが、全国に定着しているといえます。
活動の形はさまざまです。顧客や地域住民、NPOと協力して植樹や下草刈りを行う例、募金を通じて森づくりを支援する例、会社が所有する森林を地域貢献に使う例があります。トヨタ紡織の岐阜県での活動のように、自治体と協定を結んで長期に続ける形も代表的です。
企業が森づくりを始めやすいように、林野庁は支援の仕組みも整えています。森づくりの相談先を紹介する情報サイト「森ナビ・ネット」、各界の企業・団体が参加する「森林づくり全国推進会議」、カーボンニュートラルや生物多様性保全に貢献する企業を顕彰する「森林×ACTチャレンジ」などです。
国内の植樹は、秋から春先にかけて苗木を植えやすい時期とされ、各地で植樹イベントや森林ボランティアの機会が増えます。10月の今は、来春に向けた参加者の募集が始まる時期でもあります。
「植樹本数」を読むときの注意点|誤解されやすい3つのこと
「○万本を植樹」という数字は分かりやすい反面、そのまま成果の大きさを表すとは限りません。ここでは、数字を読むときに誤解されやすい点を3つに分けて確認します。
植えた本数は、森が育った成果とは別の数字
植樹本数は、あくまで植えた苗木の数です。その木が何割根づき、数年後にどんな森になったかは、別の指標で見る必要があります。三菱商事の事例が示すように、森として形になるまでには30年単位の時間がかかります。短期の本数だけで「森が増えた」と受け取るのは早計です。
植えた後の手入れが続いているか
苗木は植えた直後より、その後の数年のほうが育ちにくい時期です。ソニー銀行の事例で、寄付1,000円が苗木1本の植林に加えて3年間の育成費用に当たるとされているのは、そのためです。「植えた」だけでなく「育てた」ところまで開示されているかが、取り組みの質を測る手がかりになります。
植林と、今ある森を守ることは別の話
FAOの評価では、植林によってできた森林は世界の森林の約8%とされています。森林減少は年間約1,090万ヘクタールにのぼり、植林の面積と単純に差し引きできる性質のものではありません。もともとあった天然林を守る取り組みと、新たに木を植える取り組みは、役割が違います。企業がどちらにどう関わっているのかを分けて見ると、活動の意味が捉えやすくなります。
企業の植林活動を見極め、応援するには
ここまでの視点を、読者が企業の取り組みを見るときの具体的な問いにまとめます。企業のサイトやサステナビリティ報告書を開いたときに、次の4点を確かめてみてください。
- 植樹の場所と時期が具体的に書かれているか(国・地域名、年度、面積)
- パートナーのNGOや大学、自治体の名前が公開されているか
- 植えた後の手入れや、育成状況の追跡について触れられているか
- 目標に対して、何年度に何本まで進んだかが年度ごとに開示されているか
4つのうち複数に当てはまる企業は、本数だけを掲げる企業より、取り組みの中身を確かめやすいといえます。逆に、場所も時期も協力先も見当たらない場合は、「環境に優しい」という言葉だけが先行していないかを一度立ち止まって見てみる価値があります。
応援の方法は、買い物や投資だけではありません。ソニー銀行のように、サービスの利用が寄付につながる仕組みもあれば、国内の企業の森づくりや森林ボランティアに個人で参加できる機会もあります。「森ナビ・ネット」などで、住んでいる地域の活動を調べることから始められます。
まとめ
企業の植林活動は、苗木を植えるだけの活動ではありません。ソニー銀行は寄付で資金を出し、三菱商事は再生技術の実証を支え、JTは原料産地の森林と暮らしを守り、トヨタ紡織は事業拠点のある地域で長く森づくりを続けています。関わり方は違っても、NGOや大学、現地の人々と組み、植えた後の育成まで視野に入れている点は共通していました。
一方で、植樹本数は森が育った成果そのものではなく、植林は今ある森の保全とも役割が違います。世界の森林は減少のペースこそ緩んだものの、今も純減が続いています。数字を見るときは、場所、パートナー、手入れ、年度ごとの進捗の4点を確かめると、取り組みの中身が見えやすくなります。
まずは1つだけ、気になる企業のサステナビリティ報告書やサイトを開いて、植林の場所と手入れの記載があるかを見てみてください。
- 世界の森林減少は年間約1,090万ヘクタールで、減速しながらも森林の純減は続いている
- 4社の植林は、資金提供型・研究実証型・サプライチェーン型・拠点展開型という異なる関わり方をしている
- 国内でも企業による森林づくり活動は2,002か所(令和6年度)に広がっている
- 植樹本数は成果そのものではなく、手入れと追跡、パートナーの開示を合わせて見ることが大切
参考文献
- UN-REDD「Global deforestation slows, but forests remain under pressure, FAO report shows」(2025年)
- 林野庁「企業による森林づくり」(令和6年度実績)
- ソニー銀行「スマトラ島森林保全プロジェクト」(2025年3月31日時点)
- 三菱商事「熱帯林再生プロジェクト」(公式サイト・2026年10月閲覧)
- 環境省 30by30アライアンス「トヨタ紡織の取り組み」(2026年10月閲覧)

