サーマルリサイクルとは、廃プラスチックなどのごみを焼却するときに出る熱を、発電や温水などのエネルギーとして回収して使う手法です。ごみを新しい製品の原料に戻す「マテリアルリサイクル」とは違い、燃やして熱を取り出す点が特徴で、国際的には「熱回収」「エネルギー回収」と呼ばれることもあります。
日本の廃プラスチックの約9割は「有効利用」されていますが、その大部分をこのサーマルリサイクルが占めています。この数字をどう受け止めるかで、サーマルリサイクルの評価は大きく変わります。この記事では、定義を押さえたうえで、最新の統計、自治体の清掃工場の実態、メリットとデメリット、海外との違い、私たちが選べる行動までを順にたどります。
サーマルリサイクルの仕組みと種類|熱回収の主な方法
サーマルリサイクルは、ごみに含まれるエネルギーを熱として取り出す手法です。特にプラスチックは石油を原料にしているため、燃やすと発熱量が高く、石炭や石油に近い熱を出すとされています。この性質を生かして、燃やした熱を無駄にせず使うのが基本の考え方です。
一方で、単に燃やして処分するだけの「単純焼却」は、サーマルリサイクルには含まれません。熱を回収して発電や熱供給に利用してはじめて、エネルギー回収として数えられます。この線引きが、後ほど出てくる統計の読み方に関わってきます。
発電と余熱利用
ごみ焼却施設では、燃やした熱でボイラーの水を蒸気にし、タービンを回して発電します。発電しない施設でも、蒸気や温水を近くの温水プール、浴場、暖房などに供給している例があります。同じ熱回収でも、電気にするか、熱のまま使うかで利用の形が分かれます。
固形燃料化とセメント原燃料化
廃プラスチックや紙くずなどを砕いて固めた固形燃料(RPFやRDF)にして、工場のボイラーなどで燃料として使う方法もあります。また、セメント工場では、廃プラスチックなどを原料や燃料の一部として焼成工程に使うことがあります。いずれも「ごみから出る熱や成分を、別の産業で化石燃料の代わりに使う」点が共通しています。
ほかのリサイクル手法との違い
廃プラスチックのリサイクルには、サーマルのほかに2つの手法があります。マテリアルリサイクルは、廃プラスチックを粉砕・洗浄して新しいプラスチック製品の原料にする手法です。ケミカルリサイクルは、化学的に分解して油やガスなどの原料に戻す手法で、ガス化、油化、高炉原料化、コークス炉化学原料化などの方式があります。汚れが多いもの、複数の素材が貼り合わされているものは、前の2つには回しにくいため、サーマルが受け皿になってきた背景があります。
日本の廃プラスチックはどう処理されている?2023年データで見る内訳
では、日本の廃プラスチックは実際にどう処理されているのでしょうか。プラスチック循環利用協会の推計によると、2023年の廃プラスチックの総排出量は769万トンで、前年から52万トン減りました。そのうち有効利用された割合は89%です。
この89%の内訳は、マテリアルリサイクルが22%、ケミカルリサイクルが3%、サーマルリサイクル(エネルギー回収)が64%とされています。残る11%は有効利用されておらず、環境省の令和7年版白書では、約8%が単純焼却、約3%が埋立と整理されています。
「89%がリサイクル」とは言えない理由
「有効利用率89%」だけを見ると、ほとんどがリサイクルされているように読めます。しかし内訳を見ると、新しい製品や原料に戻る(マテリアルとケミカル)のは合わせて25%ほどで、有効利用の中心はエネルギー回収です。数字の見出しだけでなく、どの手法が何割を占めるかまで見ることが、誤解を避ける第一歩になります。
数字の年と範囲に注意する
一般に出回っている数字には、統計の年や対象が違うものが混在しています。以前の記事では2019年の有効利用率やサーマルの割合が紹介されることが多く、現在は2023年版が最新の公表値です。この記事の数値は、協会と環境省が公表した2023年(または令和5年度)のものに統一しています。
清掃工場で進む発電と熱利用|自治体ごみ焼却施設の現状
家庭から出るごみの焼却を担う市区町村の清掃工場でも、熱回収は進んでいます。環境省の令和5年度の調査では、全国のごみ焼却施設は1,004施設で、そのうち発電設備を持つのは411施設、全体の40.9%でした。
総発電電力量は10,254GWhで、約262万世帯の年間電力使用量に相当します。ごみは日々必ず出るため、安定して熱源になる点が、再生可能エネルギーの発電とは違う特徴です。
余熱利用は7割超の施設に広がる
発電まではしなくても、余熱を温水や蒸気として使っている施設は724施設で、全体の72.1%にのぼります。以前の記事では「ごみ焼却施設の約7割がサーマルリサイクルを利用」と紹介されていましたが、これはこの余熱利用の割合に近い数字です。発電をしている施設は約4割、余熱を利用している施設は約7割と、2つの指標を分けて見ると状況がつかめます。
産業廃棄物の焼却施設でも発電が行われている
産業廃棄物の焼却施設では、2023年度に発電設備を持つ炉が346炉あり、全体の約19%です。うち67炉は外部へ送電しています。自治体の清掃工場に比べると発電している割合は低く、事業者の規模や立地によって取り組みに差があることがわかります。
清掃工場のCO2を回収して使う試みも
清掃工場の排ガスから二酸化炭素を分離・回収して再利用する実証が、複数の自治体や企業で進められています。川崎市はJFEエンジニアリングと共同研究の協定を結び、排ガスからCO2を分離する技術の検討や実証試験に取り組むと発表しています。これらはまだ実証の段階ですが、サーマルリサイクルの課題であるCO2排出に正面から向き合う動きとして注目されます。
サーマルリサイクルのメリット|埋立を減らし、リサイクルしにくいごみの受け皿に
サーマルリサイクルには、大きく3つの利点があります。ごみを減量して埋立地を長持ちさせること、化石燃料の使用を減らせる可能性があること、そして、汚れや複合素材などでリサイクルしにくいものの現実的な受け皿になることです。
最終処分場の延命につながる
ごみを焼却すると、体積が大きく減ります。令和5年度の一般廃棄物の最終処分量は316万トンで、前年度から6.5%減りました。最終処分場の残余年数は、令和5年度末時点で全国平均24.8年(前年度は23.4年)です。以前は「2040年頃に満杯」という見方が紹介されていましたが、最新の数字では、廃棄物の減量や施設の整備によって残余年数は改善しています。ただし、新たな処分場を確保するのは難しく、焼却による減量は今も欠かせません。
化石燃料の代わりに熱源として使える
廃プラスチックは発熱量が高く、石炭や石油の代わりに熱源として使える面があります。発電や熱供給に使えば、その分の化石燃料を減らせる可能性があります。ただし、これは「燃やす量が増えるほど良い」という意味ではありません。あくまで、出てしまったごみの熱を捨てずに使う、という位置づけです。
リサイクルしにくいごみの現実的な受け皿になる
食品が付着した容器や、複数の樹脂が貼り合わされた包装などは、洗浄や選別に手間がかかり、マテリアルリサイクルの品質を落とすことがあります。こうしたものを無理に素材へ戻そうとすると、かえって手間やエネルギーが増える場合もあります。サーマルリサイクルは、そうしたごみを埋め立てに回さず、熱として使い切る選択肢として機能してきました。
サーマルリサイクルのデメリットと課題|CO2・有害物質・資源の一度きりの利用
メリットがある一方で、サーマルリサイクルには見逃せない課題もあります。主なものは、二酸化炭素の排出、有害物質への対策、そして資源が一度で失われてしまうことの3点です。
化石由来のCO2が出る
プラスチックの原料は石油なので、燃やせば化石由来の二酸化炭素が出ます。熱を回収して化石燃料を代替できても、燃やす過程のCO2そのものは減りません。気候変動対策の面では、プラスチックの使用量や焼却量を減らすこと、そして排ガスのCO2を回収・活用する技術が重要になります。
ダイオキシン類などの有害物質への対策
ごみの焼却では、条件が悪いとダイオキシン類などの有害物質が出ます。日本ではダイオキシン類対策特別措置法や廃棄物処理法の改正を通じて、排出基準と施設の管理が整えられ、排出量は大きく減ってきました。高温で燃焼して分解する施設や、排ガス処理設備の整備も進んでいます。とはいえ、施設ごとの適切な運転管理が前提になる点は変わりません。
資源として一度きりの利用になる
マテリアルリサイクルは、素材を何度か使い回せる可能性があります。これに対しサーマルリサイクルは、熱として使った時点で、プラスチックそのものは資源として戻りません。新たに石油などから作り直す必要があるため、資源循環の観点では「次善」の位置づけになりやすいのです。
海外では「リサイクル」と呼ばないことも|EUの廃棄物階層と日本の優先順位
サーマルリサイクルという言葉は和製英語に近く、海外では「エネルギー回収(energy recovery)」や「熱回収」と呼ぶのが一般的です。EUの廃棄物枠組み指令は、廃棄物の優先順位を、発生抑制、再使用の準備、リサイクル、その他の回収(エネルギー回収を含む)、処分の順に定めています。つまり、エネルギー回収はリサイクルとは別の段階に置かれています。
日本でも、循環型社会形成推進基本法(2000年)は、発生抑制、再使用、再生利用、熱回収、適正処分の順に優先順位をつけています。熱回収は、再使用や再生利用が技術的・経済的に難しい場合に選ぶ手法、という位置づけです。言葉の違いはあっても、考え方の骨格は近いといえます。
循環型社会の全体像や3Rの優先順位をあらためて確認したい方は、こちらの記事が役立ちます。
日本の統計が「高く見える」背景
日本の「有効利用率」は、エネルギー回収を含めて算出されています。そのため、素材として戻る割合だけを「リサイクル率」と数える国と比べると、高い数字に見えます。これは日本の統計が誤りというわけではなく、数え方の違いです。国際比較をするときは、「何を含めた数字か」をそろえて見る必要があります。
国の戦略はリサイクルと熱回収をどう位置づけているか
環境省の「プラスチック資源循環戦略」は、プラスチックの3R+Renewable(再生可能資源への置き換え)を柱にしています。製品デザインについては、リユース・リサイクルが可能なものにすること、難しい場合は熱回収が可能なものにすることが掲げられました。まず素材として回し、それが難しいときに熱回収を使う、という順序が読み取れます。
SDGsとの関係
SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」は、廃棄物の発生を大幅に減らすことを掲げています。サーマルリサイクルは、すでに出てしまった廃棄物を減らす手段にはなりますが、そもそも出さないこと(リデュース)を置き換えるものではありません。「燃やして熱を使えるから大丈夫」ではなく、「発生を減らしたうえで、残ったものの出口として使う」と考えると、優先順位がぶれにくくなります。
リサイクルとリユースの違いや、それぞれの意味をあらためて整理したい方は、こちらの記事も参考になります。
暮らしの中でできること|分別と買い方で「燃やすごみ」を減らす
サーマルリサイクルは、私たちが分別して出したごみの先にある仕組みです。ですから、家庭でできることは、燃やす量を減らすことと、素材として戻せるものを戻しやすくすることの2つに整理できます。
自治体の分別ルールを確認する
プラスチックの分別は、自治体によって大きく異なります。プラスチック製容器包装だけを資源として回収する自治体もあれば、2022年4月に施行されたプラスチック資源循環促進法の仕組みを使って、容器包装以外のプラスチック製品も一括回収する自治体もあります。お住まいの自治体の分別表やごみ分別アプリを一度見ておくと、「資源に出せるもの」と「燃やすごみになるもの」の線引きがわかります。
洗えるものは軽くすすぐ
食品が残った容器は、リサイクルの品質を落とす原因になります。すべてを完璧に洗う必要はありませんが、軽くすすいでから出すだけで、素材として使える可能性が高まります。自治体が「汚れたものは燃やすごみ」と案内している場合は、その指示に従うのが基本です。
買う段階で選ぶ
分別以前に、買い方でも差が出ます。次のような選択が、プラスチックごみそのものを減らします。
- マイボトルやマイバッグを持ち歩く
- 詰め替え用の商品を選ぶ
- 単一素材の包装や、簡易包装の商品を選ぶ
- 使い捨てのものを必要な分だけ使う
迷ったときの判断の順番
「このごみはどうすればいいか」と迷ったときは、減らす、繰り返し使う、素材として戻す、最後に熱として使う、という順に考えると整理しやすくなります。サーマルリサイクルは悪者ではなく、最後の出口として必要な仕組みです。その出口を使う量を、最初の3つで少しずつ減らしていく、というイメージです。
まとめ
サーマルリサイクルは、廃プラスチックなどを燃やして熱を発電や温水に使う手法で、日本の廃プラスチックの有効利用の中心を担っています。2023年は、有効利用率89%のうち64%がサーマルリサイクルで、マテリアルとケミカルは合わせて25%ほどでした。埋立を減らし、リサイクルしにくいごみの受け皿になる一方、化石由来のCO2が出る点や、資源として一度で終わる点は課題として残ります。
海外ではエネルギー回収はリサイクルとは別に扱われ、日本の統計は「何を有効利用に含めるか」の数え方が違います。数字の高さだけで評価するのではなく、内訳や定義を見ることが大切です。そのうえで、私たちにできるのは、ごみを減らし、分別ルールを確かめ、素材として戻せるものを戻しやすくすることです。まず、お住まいの自治体のプラスチックの分別表を一度開いてみてください。
- 日本の廃プラスチックの有効利用率は89%で、その64%がサーマルリサイクル(2023年)
- 清掃工場の約4割が発電し、約7割が余熱を利用している(令和5年度)
- メリットは埋立の削減と受け皿機能、課題は化石由来のCO2と資源の一度きりの利用
- 海外ではエネルギー回収をリサイクルと数えないことがあり、統計は数え方の違いに注意
- 減らす、分別を確かめる、洗えるものはすすぐ、が家庭でできる行動
参考文献
- プラスチック循環利用協会「2023年廃プラスチック総排出量は769万t、有効利用率は89%」(2024年)
- 環境省「令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 廃棄物等の発生、循環的な利用及び処分の現状」(2025年)
- 環境省「令和5年度における一般廃棄物の排出及び処理状況等について」(2025年)
- 環境省「プラスチック資源循環戦略」(2019年)
- 欧州連合「廃棄物枠組み指令(Directive 2008/98/EC)」(2008年)



