大量生産・大量消費・大量廃棄の時代を経て、循環型社会を目指す動きが強まる日本。
2000年になると、環境に優しい廃棄物の処理方法「3R」の優先を呼びかける「循環型社会形成推進基本法」も制定されました。
しかし廃棄物の中には、通常のリサイクル手法では処理できない物も存在します。
そういった廃棄物を効果的に活用する手法の1つが、サーマルリサイクルです。
本記事では、サーマルリサイクルのメリットやデメリット、SDGsとの関係性などをまとめました。
まずは、サーマルリサイクルがどのようなリサイクル手法かを知りましょう。
サーマルリサイクルとは
サーマルリサイクルとは、廃棄物(主にプラスチック)を焼却した際に発生する熱を、エネルギーとして再利用する手法です。
通常リサイクルは廃棄物を原料に、別の製品を作ることを言います。
しかし、汚れが付いている物や、様々な素材が混ざった複合樹脂が使われている物はリサイクルに向いていません。
サーマルリサイクルは、そういった廃棄物を無駄なく活用します。
そして、サーマルリサイクルには、
・熱利用
・発電
・セメント原、燃料化
・固形燃料化(RPF,RDF)
など、いくつかの手法があります。
現在、サーマルリサイクルによって発生したエネルギーの利用が日本全体で進んでおり、全国のごみ焼却所1067ヵ所のうち約7割が使用している状態です。
そして、熱エネルギーは温水や蒸気になり、暖房や浴場・温水プールなどに活用されています。
参照元:プラスチックの基礎知識|一般社団法人プラスチック循環利用協会
マテリアルリサイクルとケミカルリサイクル
リサイクルの手法はサーマルリサイクルの他に、マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルがあります。
2種類の違いは、下記の通りです。
マテリアルリサイクル | ケミカルリサイクル |
・不純物を除いた廃プラスチックを粉砕・洗浄。それを原料に、新しい製品をつくる手法 ・マテリアルリサイクルでつくられた製品は、コンテナやベンチ・遊具・土木シート・フェンスなど、多方面で使用されている | ・廃プラスチックを科学的に分解 ・分解方法も、高炉原料化やコークス炉化学原料化、ガス化、油化などがある ・分解後は、様々な化学物質として再利用される |
日本のサーマルリサイクルの割合
出典元:プラスチックリサイクルの基礎|一般社団法人プラスチック循環利用協会
プラスチック循環利用協会によると、2019年の廃プラスチック排出量は850万トン。
そのうちサーマルリサイクル量は、513万トンでした。
これは、プラスチックリサイクルの有効利用率85%のうち、60%をサーマルリサイクルが占めていることになります。
海外ではリサイクルとして認められていない
海外では、「サーマルリサイクルは廃棄物を新しい製品に作りかえていないため、リサイクルとは言えない」という国も存在します。
そのため「エネルギー回収」や「熱回収」と呼ばれているのです。
また欧州では、サーマルリサイクルは「熱を回収する方法」として考えられており、リサイクルではなく「リカバリー」に分類されリサイクルと差別化されています。
ここまでは、サーマルリサイクルについてお伝えしました。
続いては、メリットとデメリットについて見ていきましょう。
サーマルリサイクルのメリット
サーマルリサイクルのメリットは、3つあります。
資源消費を削減できる
先述した通りサーマルリサイクルは、本来ごみとして捨てられるはずの廃プラスチックや紙類などを資源として利用しています。
これらの資源は、焼却した際に熱を発生させますが、資源によって発熱量に差がでます。
例えば廃プラスチック。
発熱量が他の資源よりも大きく、紙類と比較すると2~3倍になります。
石炭や石油などの化石燃料にも引けを取りません。
そのためサーマルリサイクルは、石炭や石油などの消費量を削減できます。
通常のごみより埋立地のスペースを使わない
循環型社会への移行に伴い、ごみの排出量も少しずつ減少し、埋立地の寿命も少しずつ長くなっています。出典元:一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成28年度)について|環境省
サーマルリサイクルは焼却すると、ごみの体積が小さくなるため、通常の状態で埋め立てるよりスペースを削減できます。
そのため、埋立地の寿命を延ばすことにつながっているのです。
しかし、埋立地が満杯になる日も遠くはないでしょう。
環境省も、「日本の埋立地(最終処分場)は、2040年頃には満杯になる」と発表しています。
メタンガスの発生量を削減できる
プラスチックは劣化が進むと、温室効果ガスの一種である「メタン」を発生することが、ハワイ大学の研究で明らかになりました。
メタンは、同じ温室効果ガスである二酸化炭素より平均寿命は長くありません。
しかし重量で比較すると、二酸化炭素より強い温室効果をもっています。
サーマルリサイクルでは、劣化する前に回収したプラスチックを資源として燃やし、エネルギーを得ます。
そのため、メタンの発生を防げるのです。
参照元:
・世界のメタン放出量は過去20年間に10%近く増加。主要発生源は、農業及び廃棄物管理、化石燃料の生産と消費に関する部門の人間活動|国立環境研究所
・避けては通れない「プラスチックと温暖化」の話をしよう|国際環境NGOグリーンピース・ジャパン
サーマルリサイクルのデメリット
様々なメリットがあるサーマルリサイクルですが、デメリットもあります。
二酸化炭素の排出
サーマルリサイクルでは、廃プラスチックや紙類などの資源を燃やす際に、熱と一緒に二酸化炭素も発生します。
温室効果ガスの一種である二酸化炭素は、地球温暖化にもつながる物質です。
メタンの発生を抑制できる一方で二酸化炭素を排出してしまうため、完全に環境に優しいとは言い切れないでしょう。
しかし、最近では二酸化炭素排出量を抑制できる施設も登場しています。
有害物質の発生
資源を燃やすと二酸化炭素以外に、有害物質であるダイオキシンも発生します。
ダイオキシンは、私たちの身体に影響を及ぼす毒性の高い物質です。
しかし現在は、ダイオキシン類対策特別措置法の施行や廃棄物処理法の改正によって、排出されるダイオキシンの推定総重量も減少しました。
なかには、高温で燃やすことによって、ダイオキシンを完全分解する施設も登場しています。
このような施設が増えることで、サーマルリサイクルのデメリットも少なくなり、限りなく環境や人に優しいリサイクル手法になっていくでしょう。
ここまでは、サーマルリサイクルのメリットとデメリットを確認しました。
続いては、サーマルリサイクルとSDGsの関係性について見ていきます。
参照元:
・プラスチックのリサイクル20のはてな|一般社団法人プラスチック循環利用協会
・リサイクルの現場から|塩化ビニル環境対策協議会
サーマルリサイクルはSDGsの目標達成に貢献
SDGsは、2015年に開催された国連総会で誕生しました。
「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略であり、現代社会が抱える環境・社会・経済の課題解決が目的です。
2030年までに地球上に暮らす全員が協力し、目標達成を目指すSDGsには17の目標と169のターゲットが設定されています。
そしてサーマルリサイクルは、SDGsの目標13・14・15の達成につながる可能性があるのです。
目標13「気候変動に具体的な対策を」
目標13は、気候変動と気候変動によって起こる被害や影響に対して、あらゆる方面から対策を行う内容が盛り込まれています。
その中に、廃棄物削減やリサイクルも含まれているのです。
サーマルリサイクルは、地球温暖化の原因であるメタンを抑制できる反面、二酸化炭素を排出する点が問題視されていました。
しかし最近では、技術の進歩によって排出量削減に成功している施設もあります。
そのため、以前より環境に優しいリサイクル手法になっていると言えるでしょう。
参照元:廃プラスチックのリサイクルで、高炉のCO2排出量を削減。更に微粉化で効率向上|国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
目標14「海の豊かさを守ろう」
目標14は、海洋や海洋環境・生物・資源を保全し、持続可能な形で利用できる状態をつくる内容です。
そして、海洋プラスチック問題も取り上げられており、その内容はプラスチック利活用全般の話にまで広がっています。
何らかの理由で海に辿り着いたプラスチックは、放置されると劣化が進みメタンを発生させます。
私たちがしっかりと決まりを守り、プラスチックを決められた場所に捨てたり分別したりすることで、サーマルリサイクルの資源として利用できるのです。
廃プラスチックの有効活用と海洋環境の改善にもつながるでしょう。
目標15「陸の豊かさも守ろう」
目標15はキャッチコピーの通り、「陸の豊かさを守る」ことに注目しています。
設定されているターゲットも、
・生態系の保護や回復
・持続可能な利用の促進
・持続可能な森林管理
・砂漠化や土地劣化の阻止・回復
・生物多様性の損失を止める
など、幅広い内容です。
以前は、廃棄物を燃やすと有害物質が発生し、自然環境や生態系に悪影響を及ぼしていました。
しかし近年は、目標13でもお伝えした通り、法整備や技術の進歩によって有害物質排出量の抑制に成功しています。
まとめ
日本で行われているリサイクル手法の中でも、高い割合を占めるサーマルリサイクル。
廃プラスチックや紙類などの資源を燃やし、熱エネルギーを発生させ様々な形で有効利用しています。
しかし海外では資源から新しい物を作る、マテリアルリサイクルが手法として一般的です。
環境や人に優しい世界を目指すのであれば、日本もマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルの割合を増やしていく必要があるでしょう。
そのためには、私たち一人ひとりの行動も重要になってきます。
プラスチック製品の購入を控え、マイボトルやマイバックを持ち歩くなど、小さなことから変えていきましょう。