動物性食品を避け、植物性食品を中心に食べる「ヴィーガン」は、動物愛護や宗教、健康、環境への配慮など、さまざまな理由で選ばれています。その一方で「ヴィーガンが広がると、大豆畑のために森が切られるのでは」「輸入が増えてかえってCO₂が増えるのでは」という疑問も聞かれるようになりました。結論を先に言えば、この懸念は半分は当たっていて、半分は数字で見ると言い過ぎです。どちらの半分なのかを、最新のデータと日本の制度から整理します。
ヴィーガンに向けられる3つの環境面の懸念
ヴィーガンの環境負荷をめぐって指摘される点は、大きく3つに分けられます。いずれも「植物性食品の需要が増えれば、その原料を作る農業の負荷が増える」という発想が出発点です。
森林伐採が止まらないのではないか
豆乳、豆腐、大豆ミートなどの需要が伸びれば、大豆や小麦の作付けが増え、新たな農地が必要になります。その開墾が森林を切り開く形で進めば、畜産の負荷を減らしても森林伐採は止まらない、という見方です。
輸入が増えて輸送のCO₂が増えるのではないか
日本は大豆の大半を海外に頼っています。農林水産省によると、令和6年度の食料自給率はカロリーベースで38%で、小麦の自給率は16%です。植物性食品の中心になりやすい大豆や小麦が輸入に偏っているため、需要が増えれば船舶や航空機による輸送が増えるという心配が生まれます。
農薬の使用が増えるのではないか
野菜、果物、豆類の需要が増えると、安定して収穫するための農薬も増えるのでは、という指摘です。農薬は土壌や水質への影響だけでなく、農作業に携わる人の健康にも関わるため、見過ごせない論点です。
数字で見ると見えてくる「大豆の本当の行き先」
3つの懸念を検証するには、「そもそも大豆はどこに使われているのか」を知る必要があります。ここが、懸念を考えるうえで最も見落とされやすい部分です。
世界の大豆の約77%は家畜のエサ
Our World in Dataの整理では、世界の大豆の約77%が家畜の飼料になり、豆腐や豆乳、テンペなど人が直接食べる大豆食品は約7%にとどまります。飼料の内訳では、鶏が37%、豚が20%、養殖が6%とされています。つまり「大豆畑が広がっている」という事実の大きな部分は、肉・卵・乳製品・養殖魚を支える需要です。
食べ物を変えると、必要な土地が大きく減る試算がある
2018年に科学誌Scienceへ掲載されたPooreとNemecekの研究は、123カ国・約3万8000の農場のデータをもとにしています。この研究では、食生活が植物中心に移ると、世界の農地は約3.1億ではなく約31億ヘクタール、割合にして約76%減りうると試算されています。食料由来の温室効果ガスも最大で約7割減る可能性があります。同じ重さあたりで比べると、牛肉は約60kgのCO₂換算、エンドウ豆は約1kgという開きがあります。
輸送より「何を食べるか」の影響が大きい
輸送のCO₂は、多くの食品で全体の10%未満です。牛肉では約0.5%にすぎません。食品の排出量の8割超は、土地利用の変化と農場での生産段階で生まれています。だからといって輸入が無関係とは言えませんが、「地元産かどうか」より「肉を何で置き換えるか」のほうが、数字の上では効いてきます。
この数字は、元の疑問への一つの答えになります。植物性食品の需要が伸びても、肉や乳製品の需要がその分減るなら、世界全体で必要な農地は増えにくいと考えられます。ただし、これは「代替が実際に起きれば」という条件つきの話です。
それでも残る課題は「産地」と「作り方」
懸念を数字で見直しても、課題が消えるわけではありません。残るのは、植物性食品を増やすかどうかではなく、その原料がどこで、どのように作られたかという問題です。
大豆の産地が森林破壊とつながる場合がある
Our World in Dataによると、ブラジルでは2006年に始まった大豆モラトリアムの後、アマゾンで大豆が直接森林を置き換える動きは大きく減りました。一方で、大豆の生産は南へ移り、2015年の時点でアマゾン産は13%、セラード産が48%を占めています。大豆が牧草地を置き換えることで、牛の放牧地が森林側へ押し出される間接的な影響も指摘されています。植物性食品であっても、産地によっては森林への圧力になりうるのです。
加工食品は原料の行き先が見えにくい
大豆ミートや植物性ミルクなどの加工食品は、原料の産地が複数の国にまたがることがあります。パッケージの原料原産地表示を確認すると、国産原料か輸入原料かの手がかりが得られます。ただし、表示から森林への影響まで読み取れるわけではありません。分からない部分は分からないものとして、確認できる範囲で選ぶのが現実的です。
農薬と肥料は「ヴィーガンかどうか」より栽培方法の問題
農薬や化学肥料の使用量は、食生活の名前ではなく、作物の種類や栽培の仕方で決まります。畜産でもエサになる穀物や牧草を育てるために農薬や肥料が使われているため、「植物性だけが農薬を増やす」とは言い切れません。確かなのは、栽培方法に目を向けるほど負荷を下げる選択肢が広がるということです。
国際社会と日本は、どこまで対策を進めているのか
原料の産地という課題には、国際的な枠組みと日本の制度の両方が関わっています。ここでは主要な3つの動きの現状を確認します。
COP26の森林宣言は、目標に届いていない
2021年のCOP26では、100カ国超の首脳が「2030年までに森林破壊を終わらせる」とするグラスゴー首脳宣言に署名しました。しかし、2025年の「森林宣言評価」によると、世界は2030年の目標に対して63%の遅れがあります。2024年に恒久的に失われた森林は810万ヘクタールで、目標達成に必要な年間の上限を300万ヘクタール超えました。主な要因は大規模農業、鉱業、伐採だと報告されています。
EUの森林破壊防止規則は、適用が延期されている
EUの森林破壊防止規則(EUDR)は、大豆、牛肉、パーム油、コーヒー、カカオ、木材、ゴムなどを対象に、森林破壊と結びついた産品のEU市場への流入を防ぐ制度です。2025年12月23日に官報で公表された改正により、適用は大規模事業者が2026年12月31日、小規模事業者が2027年半ばへ延期されました。2026年4月に見直しの機会も設けられているため、最新の適用状況は欧州委員会の発表で確認してください。
日本のみどりの食料システム戦略
農林水産省は2021年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定しました。2050年までの目標として、農林水産業のCO₂ゼロエミッション化、化学農薬の使用量(リスク換算)の50%低減、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の30%低減、有機農業の取組面積を耕地の25%(100万ヘクタール)まで広げることを掲げています。2030年に向けては、有機農業の取組面積を2017年の2.35万ヘクタールから6.3万ヘクタールへ広げる目標が置かれています。
植物性食品の選択が広がるときに、農業側の負荷を下げる仕組みがあるかどうか。この戦略は、国内でその受け皿をつくる取り組みと位置づけられます。
買い物で迷ったときの選び方の優先順位
ここからは、実際の買い物でどう判断するかです。完璧を目指すと続かないため、効果の大きい順に並べました。
1. まず、肉や乳製品の量を減らす
最初の一歩は、産地の細かな違いよりも、置き換える量です。週に数回の肉料理を豆腐や納豆、豆類の料理にするだけでも、食事全体の排出量には大きく効きます。全員がヴィーガンになる必要はなく、植物性の日を増やすフレキシタリアン的な選び方でも意味があります。
2. 次に、原料の産地と認証を確かめる
豆腐や味噌、納豆、大豆ミートは、パッケージの原料原産地表示で国産かどうかを確認できます。国産大豆は、ほぼ全量が豆腐や納豆などの食用に使われているとされており、国内の農家を支える選択になります。輸入原料の場合は、森林破壊に配慮した調達方針を公表している企業かどうかも、判断材料になります。
3. 有機JASや地産地消は、プラスアルファとして取り入れる
有機JASマークの付いた食品は、農薬や化学肥料の使用を抑えた栽培であることの目印です。日本の有機農業の取組面積はまだ耕地全体のごく一部で、選べる商品も限られます。地産地消は、輸送のCO₂に対する効果は限定的でも、生産者の顔が見える安心感や地域の農業を支える意味があります。10月は国産大豆の収穫期にあたり、直売所や道の駅で、味噌や豆腐、乾燥大豆を見かけやすい時期です。無理のない範囲で試してみてください。
誤解されやすい3つのポイント
最後に、この話題で誤解が生まれやすい点を、対比の形で整理します。
「ヴィーガンは環境に悪い」は言い過ぎ
ここまで見てきたとおり、世界の大豆の大半は家畜のエサです。ヴィーガンの拡大が新たな課題を生むという指摘は正当ですが、それを理由に「だから肉を食べたほうが環境に良い」と結論づけることはできません。
「ヴィーガンなら何でも環境にやさしい」も言い過ぎ
植物性の食品でも、産地や栽培方法、加工や包装によって負荷は変わります。ヴィーガンというラベルは環境への配慮を保証するものではなく、確認の出発点にすぎません。
食の選択は、人それぞれの事情の上にある
ヴィーガンを選ぶ理由は環境だけではなく、動物愛護や宗教、体質、健康などさまざまです。食べ方を他人と比べて評価するのではなく、自分の事情の中で、できる範囲を少しずつ広げていくという捉え方が現実的です。
まとめ
ヴィーガンが環境問題をもたらすのかという問いには、「植物性食品を選ぶこと自体が問題なのではなく、原料の産地と作り方によって負荷が変わる」と答えられます。大豆の約77%が家畜のエサであること、食品の排出量の大半が輸送ではなく生産段階で生じていることを踏まえると、肉や乳製品の量を減らす効果は小さくありません。
そのうえで、森林破壊と結びついた産地の大豆や、栽培過程の農薬・肥料の問題は残っています。COP26の森林宣言の進捗は遅れ、EUの森林破壊防止規則は延期されており、制度が追いつくまでには時間がかかります。日本のみどりの食料システム戦略も、2050年に向けた長い道のりの途中です。
だからこそ、買い物の場面では、量を変えること、原料原産地表示を見ること、可能な範囲で有機や国産を選ぶことの順に取り入れるのが現実的です。まず今週の食事のうち一食を、豆腐や豆類を中心にした献立に変えてみるところから始めてみてください。
- 世界の大豆の約77%は家畜のエサで、人が直接食べる分は約7%にとどまる
- 食品の排出量は輸送より生産段階の割合が大きく、「何を食べるか」の影響が大きい
- 産地や栽培方法によっては、植物性食品でも森林や農地への負荷が生じうる
- COP26の森林宣言は目標に届かず、EUの規則も延期されており、制度は発展途上
- 肉を減らす、原料原産地表示を見る、有機や国産を選ぶの順に取り入れる
参考文献
- Our World in Data「Soy」(閲覧2026年10月)
- Our World in Data「You want to reduce the carbon footprint of your food? Focus on what you eat, not whether your food is local」(閲覧2026年10月)
- Science「Reducing food’s environmental impacts through producers and consumers」(2018年)
- 農林水産省「令和6年度食料自給率」(2025年)
- 農林水産省「みどりの食料システム戦略」(2021年)
- Mongabay「EUDR anti-deforestation law officially delayed for second year in a row」(2026年)
- Euronews「Forests are non-negotiable」(2025年森林宣言評価の報道)(2025年)

