動物性食品を避け、植物性食品を中心とした食生活を送る「ヴィーガン」。
このライフスタイルは、宗教的信条や動物愛護、さらには自然環境の保護といったさまざまな背景から選択されており、近年では特に環境問題への配慮から注目を集めています。
中でも、畜産業が温室効果ガスの排出源として地球温暖化を加速させているという問題意識から、環境保全を目的とした「ヴィーガン」の取り組みが世界的に広がりつつあります。
一方で、「ヴィーガン」への関心が高まるなか、これまであまり注目されてこなかった新たな環境への影響も指摘されはじめています。
本記事では、「ヴィーガン」の広がりに伴って懸念される環境問題を取り上げ、それに対して私たちが日常生活の中でどのような行動をとれるのかを考察していきます。
「ヴィーガン」で懸念される環境問題とは?
「ヴィーガン」というライフスタイルが広がるなか、その持続可能性に疑問を投げかける声も出てきています。具体的には以下のような環境問題が懸念されています。
森林伐採の継続
従来、家畜の飼育や飼料となる穀物の栽培のために行われる森林伐採は、地球温暖化の主要因の一つとされてきました。しかし、ヴィーガンの拡大によっても森林伐採が止まらない可能性があると指摘されています。
その理由は、動物性食品に代わる植物性の代替食品――たとえば豆乳、豆腐、大豆ミートなど――の需要増加に伴い、大豆や小麦などの栽培に必要な農地がさらに拡大される懸念があるためです。
こうした需要の高まりに対応するために、新たな農地の開墾が必要となり、その過程で森林が伐採される可能性があるのです。
食材輸送によるCO₂排出量の増加
農林水産省によると、日本における平成29年度の大豆自給率はわずか7%、小麦に関しても約12%にとどまっています。これに対し、米は約97%、野菜は約79%と高い自給率を保っています(※1)。
今後、ヴィーガン需要により大豆や小麦の消費が拡大すれば、これらの作物の輸入量も増加すると見込まれます。その結果、輸送に伴うCO₂排出量が増え、地球温暖化の進行を助長するリスクが高まります。
特に海外からの船舶や航空輸送は、大量の温室効果ガスを排出するため、輸入依存度の高さは環境負荷の大きな要因となります。
農薬使用量の増加
ヴィーガンの普及により、野菜や果物、大豆など植物性農作物への需要が増すことで、農業において安定した収穫を得るための農薬使用量も増加することが予想されます。
農薬の多用は、土壌や水質の汚染につながるだけでなく、農業従事者の健康への影響も懸念されます。結果的に、動物性食品を避けることで環境への負荷を減らそうとする取り組みが、別の形で環境問題を生み出してしまう可能性があるのです。
「サステナブル(持続可能)」な社会を目指すうえで、こうした新たな課題に目を向ける必要があります。
「ヴィーガン」で懸念される環境問題解決のためにおこなわれている対策
「ヴィーガン」食の普及がもたらす新たな環境負荷に対して、各国や国際機関、企業がさまざまな対策を講じ始めています。ここでは、主な国際的・国内的な取り組みを紹介します。
森林伐採の防止に向けた国際的な動き
2021年の「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)」では、日本を含む110カ国以上の首脳が、「2030年までに森林破壊を終わらせる」との共同声明に署名しました(※2)。
この合意の一環として、28カ国は、大豆などの農産物の国際取引を目的とした森林伐採の停止を約束すると見られています。
また、同年11月、欧州連合(EU)は、森林破壊の防止を目的とした新たな輸入規制を発表。これにより、EU内の企業が大豆やパーム油などの輸入を行う際、原産国において森林保護関連法が順守されている証明書の提出が義務化されました。
これらの措置により、国際的な農産物取引が森林保全と調和する方向へと転換しつつあります。
さらに、世界を代表する30社以上の大手企業も、森林破壊に関与する企業への投資を停止する方針を打ち出し、民間セクターからも持続可能な農業支援の動きが加速しています。
日本の「みどりの食料システム戦略」
日本国内では、農林水産省が2021年3月に発表した「みどりの食料システム戦略」により、持続可能な食料供給体制の構築が進められています(※3)。
この戦略では、2050年までに以下の目標を掲げています。
– 農林水産業におけるCO₂ゼロエミッションの実現
– 化学農薬の使用量をリスク換算で50%削減
– 化学肥料の使用量を30%削減
ゼロエミッション化とは、農作物の生産・輸送などにおけるCO₂排出量を可能な限り削減し、最終的に排出量と吸収量のバランスをゼロにする取り組みです。
また、農薬のリスク削減については、より安全な農薬への転換や、新しい技術による代替策の導入が推進されています。化学肥料についても、輸入原料や化石燃料に依存しない持続可能な栽培方法への移行が進められています。
こうした包括的な取り組みによって、ヴィーガンの食文化と環境保全が両立できる社会の構築が期待されています。
※2:出典:BBC News JAPAN「COP26 森林破壊を2030年までに終わらせると100カ国超が署名」
※3:出典:農林水産省「みどりの食料システム戦略の策定について」
「ヴィーガン」で懸念される環境問題解決のために私たちができる対策
「ヴィーガン」食の選択がもたらす環境問題を回避するためには、単に動物性食品を避けるだけではなく、その生産や流通過程にも目を向ける必要があります。ここでは、個人レベルで実践できる具体的な対策を3つご紹介します。
1. 食材の生産ルートを把握する
まず、自分が消費する食材が「どこで、どのように生産されたのか」を意識的に確認することが重要です。すべての情報を完璧に把握するのは難しいですが、多くの企業や生産者は自社サイトなどで生産背景を公開しています。
たとえば、農薬の使用状況や生産者の顔が見える食品は、環境に配慮した農法である可能性が高く、信頼性の高い選択につながります。
2. 地産地消を心がける
「地産地消」とは、地域で生産された食材を地域で消費することで、輸送によるCO₂排出を大幅に削減できる取り組みです。特に輸入食品は長距離輸送による温室効果ガスの排出が大きいため、地元産の食材を選ぶことで環境負荷を減らすことができます。
また、地域の直売所や朝市、または生産者直送のアプリなどを活用することで、流通コストや中間輸送を省け、鮮度の高い食材を入手できます。
3. 「有機JASマーク」のあるオーガニック食材を選ぶ
農薬や化学肥料を極力使わずに生産された「オーガニック食材」を選ぶことも、環境保護につながる行動の一つです。日本では、一定の基準を満たした有機農産物に対して「有機JASマーク」の表示が義務づけられています。
買い物は「投票」とも言われるように、環境に配慮した商品を選ぶことで、生産者の取り組みを支持し、より持続可能な社会づくりに貢献できます。
環境に配慮した「食」のあり方を選ぶ
本記事では、「ヴィーガン」の拡大が新たな環境課題を引き起こす可能性があること、そしてそれに対する国内外の対策、さらには私たちが日々の生活の中で実践できる対策について解説しました。
「エンバイロメンタル・ヴィーガン」という考え方に象徴されるように、食の選択が環境保護と密接に関わっている時代です。ただヴィーガンになるだけではなく、「どのように作られた食材か」「どのように届いたか」にも意識を向けることで、より深い意味で“環境にやさしい”食生活が実現できます。
一人ひとりの行動が、大きな変化を生む一歩となるでしょう。
参照元:
・その1:食料自給率って何?日本はどのくらい?│農林水産省HP
・【COP26】 森林破壊を2030年までに終わらせると100カ国超が署名│BBC News JAPAN
・みどりの食料システム戦略の策定について│農林水産省HP
・Q&Aでオーガニックを知ろう!│特定非営利活動法人 日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会HP