近年、都市部に次々とビルが建設され発展を遂げる裏で、気温上昇や豪雨による洪水など、さまざまな被害が起きています。
このような課題を改善へと導く考え方が、グリーンインフラです。
さらにグリーンインフラは、環境保全だけではなく防災や減災・地域の活性化など、幅広い分野の課題にも対応できると期待されています。
本記事では、グリーンインフラが注目されている理由や取り組み事例をまとめました。
まずは、グリーンインフラがどのようなものかを見ていきましょう。
グリーンインフラとは?
グリーンインフラとは、「Green Infrastructure(グリーンインフラストラクチャ―)」の略になります。
自然環境や生き物がもつ機能を活用し、「さまざまな社会問題を解決しよう」「新しい価値を生みだそう」という考え方です。
アメリカで誕生し、海外を中心に広がりをみせていましたが、近年日本でも少しずつ浸透しています。
そしてグリーンインフラの「グリーン」には、植物・農地・河川・森林・公園など幅広い意味が含まれているところも特徴です。
実用例としては、屋上や空き地の緑化が挙げられます。
ビルが多い都市部の屋上や空き地に植物を植えることによって、ヒートアイランド現象(※)の緩和や雨水の貯留が期待できます。
また身近に植物が増えることで、人々の癒しにもつながるでしょう。
(※)ヒートアイランド現象:都市の気温が周囲よりも高くなる現象。悪化すると、熱中症や感染症を媒介する蚊の冬越えなど、健康・生態系に被害を与える可能性がある。
ここまでは、グリーンインフラがどのような考え方なのかをお伝えしました。
次は、注目されている理由を見ていきます。
参照元:グリーンインフラストラクチャ― ~人と自然環境のより良い関係を目指して~|国土交通省
課題解決のためにグリーンインフラが注目されている
日本は2015年の国土形成計画(※1)の中で、現在抱えている下記の課題、
・国土の適切な管理
・安全・安心で持続可能な国土
・生活の質の向上
・人口減少・高齢化等に対応した持続可能な地域社会の形成
の解決策としてグリーンインフラを推進しました。
そして政府は、自然環境や生き物の機能を活用するグリーンインフラを推進することによって、「防災・減災」「地球復興」「環境保全」の効果を期待。
そのほかにも高齢化による低・未利用地の増加や、公共施設や上下水道などの社会資本の老朽化・維持するためのコスト増大の解決策としても注目しています。
(※)国土形成計画:国土形成計画法にもとづいたうえで、国土の利用・整備及び保全を推進するためにつくられた総合的かつ基本的な計画。
グリーンインフラを意識した国内外の取り組み事例
ここからは実際に、グリーンインフラがどのような所で導入されているのかを見ていきましょう。
【国内】大阪府大阪市
大阪府では「圧倒的な魅力を備えた都市空間を持つ大阪」の実現を目指し、さまざまな取り組みが行われています。
そのなかの1つが、「グリーンデザイン推進戦略」です。
このプロジェクトにはグリーンインフラの活用も含まれており、各地域の課題解決や魅力向上に活用されています。
そして、実際にグリーンインフラを活用したものが、大阪市東住吉区にある「クラインガルテン広場」です。
この広場は、旧市営住宅の跡地を農園に整備しました。
農園では、ボランティアによる野菜づくり体験や、育てた花苗を公共施設へ提供する活動が行われています。
そのほかにも、収穫した野菜を高齢者食事サービスの材料として提供。
このように大阪府はグリーンインフラを活用し、農業と食を通じて「まちづくり」と「地域コミュニティの形成」を実現しました。
【国外】ポートランド市
ポートランド市は、昔から林業が盛んな都市でした。
しかし、時代の流れとともに工業化が進むと、「全米一汚い川」と呼ばれるほど自然環境が悪化。
鮭やニジマスは絶滅危惧種に認定され、都市の下水道からは豪雨の度に下水が溢れ、政府から訴訟を起こされるほどの事態に。
原因である豪雨対策と流域圏の整備を行うために、ポートランド市はグリーンインフラを導入します。
下水道の氾濫対策として、レインガーデンやバイオスエールと呼ばれる植物を植えた低湿地を設置。
グリーンストリート(※)を設けることで、雨水の貯留や水質の浄化を実現しました。
(※)グリーンストリート:道路と歩道の間を掘り下げ、樹木や草花を植えた場所。雨水を一時的に貯留し地面にしみこみ、ろ過され、水質が浄化される。
現在、課題を解決したポートランド市は、グリーンインフラ導入の手本となっています。
また課題が改善されたことで、人や企業が集まり強い基盤を持つ都市に成長しました。
このようにグリーンインフラを導入すると、課題解決につながります。
そして、適切な管理を行い継続することによって、グリーンインフラはSDGsの目標達成にも貢献するのです。
参照元:「グリーンインフラ」の時代へ|一般社団法人グリーンインフラ研究会
グリーンインフラはSDGsの目標達成にもつながる
自然環境がもつ防衛機能や環境保全機能などを活用し、多様な課題の解決を目指すグリーンインフラ。
SDGsも環境・社会・経済と、さまざまな課題解決を目指しているため、グリーンインフラを取り入れることで自然とSDGsの目標達成にもつながります。
まずはグリーンインフラが、SDGsのどの目標達成につながるのかを確認する前に、SDGsについて知りましょう。
SDGsとは
Sustainable Development Goalsの略であるSDGsは、日本語で持続可能な開発目標を意味します。
2015年に開催された国連総会にて、193の加盟国が賛同した国際目標です。
環境・社会・経済の課題解決と「誰一人取り残さない」世界の実現を目指すために、17の目標と169のターゲットが設定されています。
私たちは全員で協力し、2030年までにすべての目標達成を目指さなければいけません。
その目標達成に貢献する可能性があると注目されているのが、グリーンインフラです。
グリーンインフラはSDGsのどの目標と関係しているのでしょうか。
さまざまなSDGsの目標達成につながる
グリーンインフラは、多様な機能を持つ自然環境や生き物の力を借りる取り組みです。
そのため組み合わせ次第で、さまざまなSDGsの目標達成につながります。
例えば津波被害から町を守るために、植樹活動を行ったとしましょう。
樹木は成長すると、地面に深く根を張ります。
そのため樹木が防波堤の役割をはたし、津波の勢いを和らげ被害を軽減。
また樹木を植えたことによりCO2の削減にもつながります。
CO2が削減されることによって、気候変動対策にも貢献できるでしょう。
このことから今回例に挙げた植樹活動は、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」・目標13「気候変動に具体的な対策を」・目標15「陸の豊かさも守ろう」の達成に関係している取り組みだと言えます。
自然環境や生き物の機能を活用しているため、関係しているのは目標15のみと思ってしまうかもしれません。
しかし津波の被害を軽減することで、安心して住み続けられる町を実現します。
さらにCO2の削減は、先述した通り気候変動対策に当てはまるため目標13の達成に貢献するのです。
まとめ
今回は、グリーンインフラについて紹介しました。
環境保全や地域活性化など、さまざまな課題を解決へ導く、と期待されているグリーンインフラ。
自然環境や生き物の機能を活用することによって、持続可能な社会を目指します。
最近は、グリーンインフラに取り組む自治体や企業も増えてきました。
さらに継続的に活用するとSDGsの目標達成にもつながります。
グリーンインフラは導入後、効果が出るまでに時間がかかるため継続的に取り組まなければいけません。
そして、この継続的に取り組む点はSDGsとも重なる部分があります。
企業や自治体で、グリーンインフラの導入を考えているのであれば、まずはどのような事例があるのか確認からはじめましょう。