地方の人口減少や財政難といった課題を解決するための手段として地方自治体はコンパクトシティ政策を推進していますが、課題に直面する地方自治体も少なくありません。
これらの課題を解決しない限りは、コンパクトシティが目指している都市の活性化や財政難の解決といった問題の解決にはつながりません。
コンパクトシティ政策の推進の過程で直面する課題として、以下のようなものがあります。
・住民の合意形成
・地方自治体の財政難
・様々なステークホルダーの強力
それぞれについて具体的に見ていきましょう。
コンパクトシティ政策の課題①:住民の合意形成
コンパクトシティ政策では、都市部の郊外に住む住民が中央部へ移住する必要があります。
移住を拒否して郊外に住み続けるという住民がいた場合は、郊外まで社会インフラや公共交通機関を整備するコストがかかってしまうからです。
しかし、実際に住居を移動するかどうかの判断は住民に委ねられているので、住民の賛同が不可欠です。
住民の反対によって、移住が進まなければ、中央部に公共施設や住宅街があっても無駄骨に終わってしまいます。
しかし、実際にコンパクトシティ政策を推進する際に、住み慣れた土地を離れて住居を移すことに抵抗がある人も少なくありません。
地方自治体の中には移住した場合には補助金を支給するなどの対策を取っている場合もありますが、成否は分かれています。
住民の中でも、地域に長く住んできた高齢者の抵抗が強いことが多々あります。
そもそも郊外に住んでいながら、必要な医療ケアや生活に必要なスーパーなどへのアクセスが難しい医療難民や生活難民の多くは、自動車による移動が難しい高齢者です。
したがって、高齢者の反対があればコンパクトシティの推進は困難になります。
また、若者の流出が著しい地方では高齢者が地方自治体の選挙に大きな影響力を持っているため、高齢者が現在の生活環境の変化に反対すると地方自治体がコンパクトシティの推進にかじを切ることは難しくなります。
実際に一部の地方自治体でコンパクトシティの実績があがり始めているものの住民の説得に時間を要しているとの報告もあり、納得できな住民とどのように折り合いをつけて、理解を求めるかが今後の課題となります。
コンパクトシティ政策の課題②:地方自治体の財政難
地方自治体がコンパクトシティ政策を推進する背景にあるのが、財政問題の解決です。
例えば、富山市や青森市などコンパクトシティを推進している地方自治体の動機も行政コストの削減があります。
2007年に財政再建団体となった北海道夕張市も、代表例の一つです。
しかし、コンパクトシティ政策を推進する際にはそもそも大きな資金が必要になります。コンパクトシティといえば、スーパーや企業の職場を中央部へ移動させることが主であると思われがちですが、公的施設も例外ではありません。
郊外に分散している人口に合わせて地方で分散している公共施設や公的な医療施設、学校などを都市部の中央部へ集約、さらに中央部での公共交通機関や下水道、道路の整備のためには地方自治体が大きな予算を執行することが不可欠です。
しかし、地方では人口の都心への流出や経済の停滞による税収の減少、少子高齢化による社会保障費の増大によって財政状況が悪化しています。特に1990年代後半以降は、地方全体での借入金も増大するなど地方財政は危機的な状況にあります。
このような財政状況の中で、コンパクトシティ推進のために財政を出動することや財政出動に対して住民からコンセンサスを得ることが難しいという問題があります。
コンパクトシティ政策の課題③:様々なステークホルダーの協力
コンパクトシティの実現の過程では、地方自治体の努力だけでは進みません。
郊外に分散している住民が、中央部へ移住することに同意することが必要です。
また、公共交通機関も民間化されており、民間事業者ですので、都市の中央部へ路線や本数を整備するビジネス上のメリットが必要です。
さらに、郊外や他県に事業所を持つ企業が都市の中央部へ事務所を移動させることに同意するためのビジネスチャンスがないといけません。
実際にコンパクトシティを推進した富山市では、大型商業施設やショッピングセンターが郊外に出店しており、行政の権限の限界が露呈しています。
これらのステークホルダーを納得させるためには地方自治体のトップダウンな政策ではなく、すべてのステークホルダーが議論に参加して、コンパクトシティ推進に参画し、ステークホルダーの利害調整をする必要があります。
しかし実際には、ステークホルダーの数が多いほど、利害調整や合意形成のハードルが上がります。
地方自治体がこれらのステークホルダーから協力を得るためには、住民から広範囲かつ協力な支持を取り付ける必要があります。
まとめ
コンパクトシティは都市機能の集約によって、人々の生活水準の向上や行政サービスの質の向上を目指す構想です。
しかし、地方自治体や住民、企業などステークホルダーによって求める理想の形は異なりますので、合意形成が不可欠です。
コンパクトシティのメリットだけに注目するのではなく、課題やデメリットに目を向けてそれらを乗り越えていくことが大切です。