人口減少と高齢化が進む日本で、「コンパクトシティ」という言葉をよく耳にするようになりました。
人口の急激な減少と高齢化を背景として、高齢者や子育て世代にとって安心できる健康で快適な生活環境を実現すること、財政面・経済面において持続可能な都市経営を可能とすることが、今の都市行政の大きな課題です。
その解決策として注目されているのがコンパクトシティ政策ですが、推進にあたっては複数の壁が立ちはだかっています。どのような課題があり、どう向き合えばよいのか、整理してみます。
コンパクトシティ政策とは|国の制度的な位置づけ
2014年(平成26年)5月1日に施行された改正都市再生特別措置法(いわゆる「コンパクトシティ法」)をもって、「コンパクトシティ」が「国策」として位置づけられました。
立地適正化計画は、居住機能や医療・福祉・商業、公共交通等のさまざまな都市機能の誘導により、都市全域を見渡した持続可能な都市構造を目指す包括的なマスタープランです。
国土交通省はこれを軸に「コンパクト・プラス・ネットワーク」の考え方を推進しており、
令和6年3月31日現在、立地適正化計画の作成について具体的な取組を行っている都市は747団体
にのぼっています。一方で、計画を策定しても現場での実効性をどう高めるかは引き続き課題とされており、
国土交通省は立地適正化計画の実効性向上を目指すための方向性のとりまとめ案「立適+(プラス)」を公表し、計画を策定した自治体が見直しを行うための「まちづくりの健康診断」の考え方を示しました。
課題① 住民の合意形成
コンパクトシティ政策を進めるうえで最初の壁となるのが、住民の理解と協力を得ることです。郊外に住む人々が都市の中心部へ移住することが政策の前提となりますが、住み慣れた場所を離れることへの抵抗感は強く、移住を拒否した住民が郊外に残り続ければ、そこへのインフラや公共交通を維持するコストが引き続き発生します。
コンパクトシティの推進には地域住民の理解と協力が必要であり、住民参加型のワークショップや説明会を開催して意見交換の場を設けることで、住民の声を施策に反映させやすくなるとされています。また、成功事例を共有し、具体的なメリットを伝えることで住民の関心と協力を得られる可能性が高まります。
とくに長年その地に暮らしてきた高齢者の反対意見は大きな影響力を持ちます。若者の流出が著しい地方では高齢者が選挙における多数を占める傾向があり、現状の生活環境の変化に対する反対が強まれば、自治体がコンパクトシティ推進に舵を切ることは難しくなります。移住に対する経済的インセンティブの提供だけでなく、丁寧な情報提供と対話のプロセスが欠かせません。
なお、
国土交通省は「コンパクトシティは居住者を短期間で強制的に移転させるものではなく、住民にインセンティブを付与しながら20〜30年という時間をかけて拡散した市街地の集約化を図るもの」と説明しています。
長期的な視野で進める政策であることを住民と共有することが、合意形成の第一歩といえます。
課題② 財政難と初期投資のジレンマ
コンパクトシティ政策が推進される動機の一つは行政コストの削減です。
コンパクトシティ化することで、公共施設・インフラの維持やごみ収集などの行政サービスを効率的に行えるほか、都市部の土地利用が増えると地価の維持や固定資産税の税収維持も可能になるとされています。
しかし、目指すべきゴールにたどり着くまでに大きな財政出動が必要になるという矛盾があります。郊外に分散している公共施設・医療施設・学校などを中心部へ集約し、公共交通や道路・下水道を整備するには相当の予算が必要です。
地方公共団体の職員数は減少し、財政についても人口減少を受けて厳しい状況となっています。規模の小さな自治体では、インフラの維持も課題です。
また、
地方公共団体の職員数はピーク時から15%減少しており、借入金残高は20年以上高い水準で推移しています。
財政が逼迫している状況の中で、将来の効率化に向けた先行投資に踏み切ることは、住民の納得を得ることも含め難しい判断を迫られます。
国土交通省は「都市構造再編集中支援事業」などを通じて
立地適正化計画に基づき、市町村や民間事業者等が行う一定期間内の都市機能や居住環境の向上に資する公共公益施設の誘導・整備、防災力強化の取組等に対し集中的な支援を行い、各都市が持続可能で強靱な都市構造へ再編を図ることを目的とした支援制度を創設しています。
こうした国の補助制度を活用しながら財政的な負担を分散させる視点が重要です。
課題③ 多様なステークホルダーとの利害調整
コンパクトシティの実現は、地方自治体単独の努力では進みません。住民・民間交通事業者・企業・医療機関など、多様なステークホルダーが関与しており、それぞれの利害が一致しないケースも多くあります。
公共交通網に投資をしたとしても、自動車による移動に慣れた住民が十分に公共交通機関の利用に向かうのかという不安もあります。
また、
既存商店街内においてもストロー効果の発現やタイアップの失敗により、全体として見ると成功とは言い難い状況になる場合もあるとされています。
失敗事例も少なくなく、
再開発ビルの失敗例としては、青森市の「アウガ」、佐賀市の「エスプラッツ」、秋田市の「エリアなかいち」などが挙げられています。
これらの事例が示すのは、行政のトップダウンな整備だけでは中心市街地の活性化は実現しないという現実です。
成功したコンパクトシティには、公共交通の整備を通じた移動利便性の向上、都市機能の集約による無秩序な開発の抑制、そして自治体が長期的な視点で政策を推進し住民と協力しながら実施するという共通点が見られます。
民間事業者が参入するビジネス上のメリットを設計することと、住民が「選びたくなる中心部」を育てることが、官民協働の鍵となります。
課題を乗り越えるために|「コンパクト+ネットワーク」という考え方
コンパクトシティが目指しているのは、行政機関や商業施設などを中心地の駅周辺に集約し、それらと適切な場所に設置された居住地を公共交通機関によって繋ぐことです。
国土交通省が推進する「コンパクト・プラス・ネットワーク」の発想は、単なる集約ではなく、各拠点を公共交通で結ぶことで地域全体の利便性を保つ点に特徴があります。
コンパクトシティはスマートシティとの融合により、都市機能の効率化と住民サービスの向上を図る次世代の都市モデルへと進化しつつあります。ICT技術の活用はその大きな柱となるもので、デジタル技術の進化により都市政策の多くの領域でDXが推進されています。
データを活用した交通・医療・行政サービスの連携が、今後の課題解決の選択肢を広げる可能性があります。
まとめ|住民・行政・民間が共につくるまちの未来
コンパクトシティ政策が直面する課題は、「住民の合意形成」「財政難と初期投資のジレンマ」「多様なステークホルダーとの利害調整」の3点に集約されます。これらはいずれも、行政だけの力で解決できるものではありません。
課題やデメリットを直視しながら、住民・行政・民間事業者が対話を重ねて合意形成を積み上げていくプロセスこそが、持続可能なまちづくりの土台です。
まず自分たちの地域がどのような立地適正化計画を策定しているか、国土交通省が2024年4月から運用を開始した「不動産情報ライブラリ」で居住誘導区域や都市機能誘導区域を確認できます。自分の住む地域の現状を知るところから、コンパクトシティへの理解を深めてみてはいかがでしょうか。

