コンパクトとは「小さくまとまった」という意味であり、コンパクトシティは生活圏が小さくまとまった町を指します。
日本のみならず世界中で都市機能を集約し、経済の活性化や環境問題の改善、行政サービスの向上などが目指されています。
日本のみならず世界中でコンパクトシティが話題となっていますが、この記事では日本と海外でのコンパクトシティの事例についてご紹介します。
コンパクトシティの概要については下記記事をご覧ください。
国内のコンパクトシティの事例を紹介
日本では急激な人口減少が進む一方で都市への人口集中が進行し、地方は過疎化しています。
住民が地方に拡散してしまった都市では、高齢者など一部の住民が現在の生活水準を維持することが難しくなっています。
持続的な成長や限られた社会インフラの効率的な利用のためにコンパクトシティの取り組みが進んでいます。
富山市
富山市は富山県の中央部に位置する県都であり、日本海側有数の中核都市として発展を続けてきましたが、現在42万の人口が急速に減少することが予測されています。
それと同時に少子化や高齢化が進んでおり、現在の都市機能が維持できなくことが危惧されています。
富山市は自動車に依存したライフスタイルが特徴であり、移動手段として自動車を利用している人が約72%、世帯あたりの乗用車保有台数が全国トップクラスという自動車利用県です。
自動車への過度な依存により富山市は公共交通手段が衰退し、市街地が低密度化したことで自動車を使えない高齢者にとっては不便な都市になってしまいました。
これに対して、富山市は2007年に「持続可能なコンパクトシティ形成」という目標を掲げました。
富山市は、現在ある徒歩で利用できる生活圏を公共交通手段で結ぶという構想を発表しました。
この構想を実現するためには、公共交通機関を人々の日常的な移動手段にすることが必要です。
富山市は廃線になるJR線を活用して、本格的なライトレールを整備し、歩いて暮らせる街づくりを行いました。
これによって自動車を利用できない高齢化でも、手軽に公共交通機関が利用できるようになりました。
また、郊外に拡散していた人口は中心市街地に戻ってきて、転入超過に転換しました。
加えて、都心地区や公共交通沿線地区に住宅助成制度を設けることで、人々が街の中心地に移転しやすいような環境を整備しています。
鷹栖町
鷹栖町は、北海道のほぼ中央に位置する町です。
北海道で札幌に次ぐ都市である旭川市まで、車で25分という位置にあります。
鷹栖町は他の多くの地方都市と同様に、将来的に人口が減少していくと予想されていました。
そのため鷹栖町は、同町のサービスの低下や生活の質の低下を防ぐために、鷹栖町立地適正化計画という都市開発計画を実行しました。
鷹栖町立地適正化計画は町の中に「居住誘導区域」を設置し、一定の人口密度を維持することによって、人々の生活サービスやコミュニティの持続的な発展を確保するを目的としています。
「居住誘導区域」には生活に必要な公共施設や福祉施設、医療施設、保育施設などを集約し、非常にコンパクトなつくりにすることで、人々が徒歩で各種サービスを効率的に受けられるようになりました。
大分市
大分市は高度経済成長期に工業都市として発達しましたが、人口の増加とともに市街地が拡大しました。
しかし、1970年代から都市の空洞化が進み、コンパクトシティの計画が発表されました。
大分市は大分駅を高架化し、空き地が点在していた駅の南側に文化施設や芝生広場を建設。
これによって駅周辺にマンションが建設されたほか、トキハや大分パルコといった地元百貨店が集まりました。
都市機能が集約され、町に活気が戻ったことで若者の人口流出を防ぐこともできました。
周辺の地域から人口が流入しているほか、市内ではさまざまなイベントが開催されており、賑わいが増しています。
海外のコンパクトシティの事例を紹介
続いて、海外におけるコンパクトシティの事例をご紹介します。
欧米などの先進国では、早い都市では戦後すぐにコンパクトシティ化が進められました。
コンパクトシティ化と同時に、自然や環境の保全を重視した欧米のモデルは、日本人にとっても参考になるところがあるはずです。
ポートランド
ポートランドは、アメリカ西海岸にあるオレゴン州最大の都市です。
西海岸といえばシアトルやカリフォルニアが観光地として有名ですが、両都市の間に位置するのがオレゴン州です。
ポートランドは「アメリカで最も住みやすい都市」に選ばれており、1週間で約500人が移住すると言われています。
ポートランドは、インテル社などのハイテク企業が進出するなど「シリコン・フォレスト」と呼ばれています。
1960年代までポートランドはアメリカの典型的な車社会でした。
しかし、1979年に「都市成長境界線」という都市部と農地や森林などの郊外を区切る境界線を導入しました。
都市部側で開発を中心に行い、郊外では従来の農地や森林を保全するという政策を行います。
これによって郊外への無秩序な都市化を抑えることに成功し、住居や職場、生活必需品を購入するスーパーなどを徒歩圏内に設置することで効率的なコンパクトシティを実現しました。
また、都市部の建物には1階にはレストランなどの商業施設を設置し、上の階に会社のオフィスや住居を置く「ミックスドユース」を取り入れています。
この使い分けによって昼夜時間を問わず街に活気が戻り、時間ごとのエネルギー消費量が平準化されるなどの効果が得られました。
フライブルク
フライブルクは、ドイツの南西部にあるバーデン・ウュルテンベルク州の都市です。
スイスとの国境近くに位置して、スイスのバーゼル市との交流がさかんな都市です。
人口23万人の小さな都市ですが、旧市街には中世の街並みが残り、フライブルク大学や各種研究機関のある大学都市でもあります。
フライブルクの街づくりは、第二次世界大戦後すぐに始まりました。
フライブルクは戦争中に空襲を受けて、都市の80%が破壊されました。
戦後企画された復興計画で、中世時代の街並みを再現すると同時にコンパクトシティ化が決定しました。
都市の中心や住宅地に大規模な商業施設を集中させたほか、街の人口密度が適度に高いレベルになるように調整するために戸建ての建設を制限しました。
さらに、住民が自由に移動できるように、街の中心部には路面電車の整備・拡充や自動車交通が推進されました。
一定の人口密度に制限したことでこれらの路面電車が通れるスペースがあり、仕事やスーパーなどの買い物の中心地を住宅街に設置するという「ショートウェイコンセプト」と呼ばれる理念が活かされています。
コンパクトシティと同時に環境都市化も進んでいます。
旧市街では自動車の乗り入れが制限されており、自転車や徒歩での移動が推奨されています。
市内にはソーラーパネルや風車も設置されており、コンパクトシティと環境保護が調和した新しい都市づくりを実現しました。
まとめ
コンパクトシティは都市機能を集約することで人々の生活の水準が向上するといったメリットがあり、多くの都市がコンパクトシティ化を進めています。
日本では高齢化や地方の過疎化といった問題があり、コンパクトシティ化を進めることは必要不可欠になってくるでしょう。
今回ご紹介したように、国内や海外の成功事例から学べることは沢山あるはずです。