日本全体の活力と繁栄を保つためには、大都市だけでなく、地方都市や農山漁村もまた活気に満ちた場所であることが求められます。しかしながら、現代の日本では地方での人口減少や経済衰退が進む一方で、これに対抗するための具体的な取り組みが急務となっています。
ここで注目すべきキーワードが、「地方創生」です。今回はそんな地方創生について、詳しく解説していきます。
地方創生とは
地方創生とは、人口減少や経済衰退が進む地方を再生し、地域の特性を活かした持続可能な社会をつくり上げる取り組みのことを指します。具体的には、地方の人口を増やし、地域経済を活性化し、地域の魅力を引き立てることを目指します。
地方創生の目的は、地方の活力を取り戻し、人々が地方で豊かで充実した生活を送れる社会を実現することです。これには、地域の資源や特性を活かした産業の育成、地域コミュニティの強化、魅力的な地域文化の創出などが含まれます。また、地方創生は単なる経済的な成功だけでなく、地域が持続的に発展し続けることができるような環境を作ることも目指しています。
地方における課題とは
日本の地方における課題として様々ありますが、ここでは大きく3つ挙げたいと思います。それらは、人口が減っていること、高齢者が増えていること、そして労働者が足りないことです。これらの問題を解決するために、新しい街づくりが求められています。
3つの課題について下記でそれぞれ解説します。
1. 人口が減っている
人口が増えるか減るかは、人々がその地域に引っ越してくるか、引っ越していくか、そして生まれた子供の数や亡くなる人の数によって決まります。人々の移動による人口の増減を「社会増減」と呼び、生まれたり亡くなったりすることによる人口の増減を「自然増減」と呼びます。
日本全体の人口は、2008年から徐々に減少しています。そして、2053年には人口が1億人を下回ると予想されています。特に地方の人口減少は深刻で、都市部への一極集中が進んでいます。このままだと、地方の市街地が広がりすぎて、使われない建物が増え、病院やバスなどの公共サービスが維持できなくなる恐れがあります。
2. 高齢者が増えている
次に、高齢者が増えている問題です。これは、生まれてくる子供の数が減っている一方で、高齢者の数が増えているためです。そして、働く年齢の人々が減っているため、税金の収入が少なくなっています。これが地方だけでなく、日本全体の財政難の原因の一つとなっています。
3. 労働者が足りない
最後に、労働者が足りない問題です。これは、「完全失業率」という数値で分かります。完全失業率とは、働きたいと思っているけど仕事が見つからない人の割合のことを指します。この数値は2002年に一番高くなった後、徐々に下がってきています。しかし、今でも一部の地方では、労働者が足りないという問題が存在しています。
これらの問題を解決するためには、地方でもっと働きやすい環境を作ったり、若者が住みたくなるような魅力的な地域を作ることが重要です。また、高齢者でも活躍できる場所を作ったり、地域の特性を活かした新しい産業を生み出すことも求められています。
地方には、独特の自然や文化があります。それらを活かした新しいビジネスを創出することで、地元の若者たちにとって魅力的な働き場所を提供することが可能です。また、地元の高齢者が経験や知識を活かして働ける場所を作ることも、高齢者の増加という問題に対する一つの解決策になります。
さらに、地域の魅力を発信することで、他の地域から新たに人々が移住してくる可能性もあります。そのためには、地方自治体や地元の団体、企業、NPOなどが協力し、地域の魅力を広く伝える活動が必要です。地元の祭りや特産品、観光地などを活用して、地方の魅力を伝えることができます。
地方創生の歴史と法制度
2014年に制定された「まち・ひと・しごと創生法」が、地方創生の取り組み強化のきっかけとされています。この法律は、地方創生を国の重要な政策として位置づけ、地方自治体に対して、地方創生に向けた様々な取り組みを進めることを求めました。具体的には、各地方自治体が地方創生計画を立案し、国がその計画を支援するという形が採られました。
以降、地方創生を推進するために、さまざまな法律や政策が次々と施行されています。これらの法律や政策は、地域の資源を最大限に活用して産業を育成し、雇用を創出することを目指しています。さらに、地域コミュニティの絆を強化し、地方への移住を促進する取り組みも行われています。
このようにして、地方創生の取り組みは幅広い分野で展開され、日本全国の地方自治体がそれぞれの地域の特性を活かした地方創生計画を進めています。これらの取り組みを通じて、地方が再び活力を取り戻し、持続可能な未来に向けて前進していくことが期待されています。
地方創生の具体的な取り組み
地方創生に関する取り組みは、地方自治体や地域団体、企業、NPOなどによってさまざまに進められています。
これらには、地域資源を活かした新たな産業の創出、地元の若者や移住者を対象とした雇用創出、地域の魅力を伝える情報発信、地域コミュニティの強化などが含まれています。
重要なのは、地域の魅力を再発見し、発信することです。地域には、特産品、歴史、文化、自然など、様々な魅力があります。これらの魅力を活かして、新しい産業や雇用を創出し、地域に活力を取り戻すことが大切です。
地域の特産品を活用した新たなビジネスの創出、地元の歴史や文化を活かした観光業の振興、地域の自然環境を活かしたエコツーリズムの推進などがあります。これらの取り組みは、地方の魅力を引き立て、地方での生活や仕事を魅力的なものにしています。
以下で具体的な事例を見ていきましょう。
長野県小諸市の「まちおこし協力隊」
長野県小諸市では、地域の活性化を目的とした「まちおこし協力隊」制度を導入しています。この制度では、市外出身者を市内に移住させ、地域の活性化に取り組んでもらうというものです。まちおこし協力隊員は、様々な分野で活動しており、その中には観光振興や農業振興、地域イベントの企画運営などがあります。まちおこし協力隊制度は、小諸市の地域活性化に大きく貢献しています。
岐阜県飛騨市の「ゲストハウス」
岐阜県飛騨市では、空き家を活用したゲストハウスが注目を集めています。飛騨市には、古民家や町家などの空き家が多くあります。そこで、地元の若者が空き家を改装し、ゲストハウスとして運営するようになったのです。ゲストハウスは、観光客に飛騨市の魅力を知ってもらうための拠点となっています。また、ゲストハウスは、地元の若者が集う場にもなっています。
香川県小豆島の「オリーブオイル」
香川県小豆島は、オリーブオイルの産地として知られています。小豆島で生産されるオリーブオイルは、その品質の高さが評価されており、全国のレストランで使用されています。また、小豆島では、オリーブオイルを使った料理教室やオリーブオイルを使ったお土産の販売など、オリーブオイルを活用した観光振興にも力を入れています。
鳥取県湯梨浜町の「フードトラック」
鳥取県湯梨浜町では、フードトラックによる町おこしに取り組んでいます。フードトラックは、移動販売車で様々な料理を販売するものです。湯梨浜町では、町内にフードトラック専用の駐車場を設置し、様々なフードトラックの出店を受け入れています。フードトラックは、町に活気を与え、観光客の誘致にも効果を発揮しています。
山梨県富士吉田市の「富士山麓のブランチ」
山梨県富士吉田市では、「富士山麓のブランチ」というイベントを開催しています。このイベントでは、富士山麓の食材を使った料理やスイーツが食べられます。また、イベントでは、富士山麓の自然を満喫できるアクティビティも体験できます。富士山麓のブランチは、富士山麓の魅力を多くの人に知ってもらうためのイベントです。
長崎県五島列島の「五島列島移住コンシェルジュ」
長崎県五島列島では、「五島列島移住コンシェルジュ」制度を導入しています。この制度では、五島列島への移住を希望する人に対して、情報提供や相談などのサポートを行っています。五島列島移住コンシェルジュ制度は、五島列島への移住を促進し、地域の活性化に貢献しています。
これらの事例は、地方創生に取り組む際には、地域の魅力を活かすこと、地域の課題に真剣に取り組むこと、そして、地域の様々な主体が協力することが大切であることを示しています。
SDGsと地方創生の連携
SDGs(持続可能な開発目標)は、地球全体の持続可能な未来を目指した国際的な目標です。SDGsと地方創生は、共に社会の持続可能性と地域の活力を追求するところで交わります。
例えば、SDGsの目標の一つである「地域の持続可能な開発」は、地方創生の目標と直接関連しています。また、SDGsの他の目標も、地方創生の取り組みを通じて達成することができます。
また、SDGsと地方創生の関係において「SDGs未来都市」と「自治体SDGsモデル事業」についても知っておくべきと言えるでしょう。それぞれ説明します。
SDGs未来都市
「SDGs未来都市」とは、持続可能な開発目標(SDGs)に向けた優れた取り組みを行っている地方自治体のことを指します。日本政府が公募を通じて選定し、現在では29都市を 「SDGs未来都市」として選定しました。
これらの都市は、地域の特性や課題を踏まえつつ、SDGsの17の目標と169のターゲットに対して具体的なアクションプランを持ち、その実現に向けて取り組んでいます。その取り組みは、環境保全や社会的包摂性、経済的持続可能性など、SDGsの「経済」「社会」「環境」の3つの柱をバランス良く推進していくものです。
自治体SDGsモデル事業
一方、「自治体SDGsモデ゙ル事業」とは、これら「SDGs未来都市」の中でも特に先導的な取り組みを行っている事業のことを指します。現在、10の事業が選定されました。
「自治体SDGsモデル事業」は、SDGsの理念に基づき、経済・社会・環境の三側面にわたる新しい価値創出を通じて、持続可能な開発を実現するポテンシャルが高いと認められた事業です。地域における自律的好循環を生み出す可能性を秘めており、多様なステイクホルダーとの連携を通じて取り組みが進められています。
これら「SDGs未来都市」や「自治体SDGsモデ゙ル事業」の取り組みは、他の地方自治体に対するベストプラクティスとなり、さらなる地方創生やSDGs達成に向けた取り組みの加速に寄与しています。
地方創生における現状における課題と解決策
地方創生の取り組みは、今後も日本の地方の未来を切り開くための重要な手段となります。
しかし、この地方創生にはまだまだ解決しなければならない課題がたくさんあります。
東京一極集中の問題
まず、東京一極集中という問題があります。これは、仕事や生活の便利さから人々が東京に集まりすぎてしまうことを指します。新型コロナウイルスの影響で、家で仕事をするテレワークが増え、都心から離れた地方への移住に関心が高まっています。しかし、実際に地方に移住する人の数はまだ少ないのが現状です。これでは、地方の街が元気になるのは難しいです。
解決に向けて
地方の魅力を再発見し、アピールすることが重要です。それぞれの地方が持つ自然、文化、歴史、食べ物などの特性を活かし、魅力的な地域ブランドを作ることで、より多くの人に地方への関心を持ってもらうことが可能です。また、地方での生活に必要なインフラの整備や、リモートワークに適した環境の提供も重要です。これにより、都市部と地方との間で生活スタイルの選択肢が広がり、東京一極集中の傾向を和らげることが期待できます。
成果として十分とは言えない状況
次に、国からの予算投入が地方創生の成果に直結していないという問題があります。政府は、地方創生のために大きな予算を投入し、さまざまな取り組みを行っています。しかし、地方の人口が減少したり、東京と地方の経済の差が広がったりと、地方創生の目指す方向に進んでいるとは言えません。
解決に向けて
地方創生に関する政策の成果を明確にするためには、具体的な目標設定とその達成度の評価が必要です。また、地方創生の取り組みは長期的な視点で見る必要があります。一時的な予算投入だけではなく、持続的な支援とその効果を見極めるフレームワークが必要です。
持続可能な取り組みとしてまだまだ弱い
最後に、地方経済が自立して成り立つ「持続可能な状態」になっていないという問題があります。地方を元気にするためには、地域の人々が自分たちの力で経済を回すことが大切です。しかし、政府からの補助金に頼り切っていては、その地域が自立して発展することは難しいです。
地方創生は、地域の魅力を最大限に活かし、地域自体が自立して発展することを目指しています。そのためには、地域の人々が一丸となって、自分たちの地域を良くするための取り組みを行うことが重要です。地方創生は一朝一夕で成し遂げられるものではありませんが、一歩ずつ進めていくことで、よりよい未来を作ることができるでしょう。
解決に向けて
地方創生は、一時的な支援だけではなく、地域が自己完結し、自走する経済を創出することを目指すべきです。これを実現するためには、地元の人々が主体となり、地元の資源を活かしたビジネスや産業を創出することが大切です。ここで、教育や育成プログラムが重要な役割を果たします。地元の若者に起業や新しい事業創出のチャンスを提供し、地域の成長を後押しすることが求められます。
地方創生への期待とその実現に向けて
地方創生は、日本の地方の未来を切り開くための重要な取り組みです。地方の魅力を再発見し、地方での生活や仕事を魅力的なものにすることで、地方の活力が回復し、日本全体の持続可能な未来が実現することを目指しています。
しかし、上記でも述べたように地方創生には多くの課題があります。これらの課題を解決するためには、地方自治体や地域団体、企業、NPOなどが協力して取り組むこと、そして国の積極的な支援が必要です。
地方創生の実現に向けて、私たち一人一人ができることもあります。地方の魅力を再発見し、その情報を発信すること、地方の商品を購入すること、地方への旅行や移住を考えることなど、さまざまな形で地方創生に貢献することが可能です。
地方創生への期待は大きく、その実現に向けた取り組みはこれからも続いていきます。地方創生の取り組みが、日本の地方の未来、そして日本全体の持続可能な未来を切り開くことを期待しています。