地方創生とは、人口減少や経済の停滞が進む地方を立て直し、地域の特性を活かして将来も暮らし続けられる社会をつくる国の取り組みです。2014年に始まり、2025年6月には方針を改めた「地方創生2.0」が閣議決定されました。
この記事では定義の説明は最小限にとどめます。いまの地方が数字でどう見えるか、「消滅可能性自治体」はどこまで読み取ってよいか、2.0では何が変わったかを整理します。そのうえで、読者が次に取れる関わり方まで具体的に書きます。
地方創生の10年を振り返る|1.0で何が起き、いまの現在地はどこか
地方創生は、2014年の「まち・ひと・しごと創生法」の施行と、内閣に置かれたまち・ひと・しごと創生本部を出発点にしています。目的は、人口減少に歯止めをかけることと、東京圏への人口の過度な集中を是正することの2つです。それから10年あまりが過ぎ、2025年にはこの考え方そのものを見直した「2.0」が打ち出されました。
1.0の反省として挙げられたこと
2025年6月13日に閣議決定された「地方創生2.0基本構想」は、これまでの取り組みを振り返り、子育て支援や移住促進が中心になったと整理しています。その結果、自治体どうしで人口を奪い合う形になったという反省も示されています。人口が減っても機能する地域社会や産業構造をつくる取り組みは、後回しになってきたという認識です。
数字で見るいまの現在地
2025年国勢調査の速報値では、外国人を含む日本の総人口は1億2304万9524人でした。2020年の前回調査から309万6575人(2.5%)減り、減少数・減少率ともに国勢調査で過去最大です。47都道府県のうち、人口が増えたのは東京都と沖縄県だけで、45道府県は減っています。東京圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)は全国の30.1%を占め、初めて3割を超えました。なお、速報値はその後の集計で更新される場合があります。
出生の面でも同じ傾向が続いています。厚生労働省の人口動態統計(概数)では、2025年の日本人の出生数は67万1236人で、統計を取り始めた1899年以降で最少でした。合計特殊出生率は1.14で、過去最低とされています。総務省の住民基本台帳人口移動報告でも、日本人の移動は東京圏が30年連続の転入超過でした。
地方が直面する課題|人口の数だけでは見えない3つの層
地方の課題というと「人口が減る」ことに話が集まりがちです。実際には、人口の数、人口の構成、暮らしを支える仕組みという3つの層が重なって起きています。層ごとに分けて見ると、対策の的も見えやすくなります。
人口の減少と少子高齢化が同時に進む
令和8年版高齢社会白書によると、2025年10月1日時点の65歳以上人口は3,622万人でした。15歳未満人口の割合は10.9%まで下がっています。働く世代が減ると、税収が細る一方で、医療・介護などの支出は増えやすくなります。小さな自治体ほど、この板挟みが財政を直撃します。
若い女性が地元を離れる背景
2.0の基本構想は、若い世代、とくに若年女性の流出を重く見ています。地元を離れた人の声として「やりたい仕事がない」「結婚や出産への圧力が息苦しい」といった理由が紹介されています。賃金や仕事の選択肢といった経済面だけでなく、地域の空気や固定的な役割意識も、離れる理由に挙がっているわけです。基本構想が「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」の解消を柱に含めているのは、このためです。
暮らしを支える足と生活サービスが細る
人が減ると、バスや鉄道、病院、スーパーといった生活サービスの採算が合わなくなります。国土交通省は、公共交通の空白が生じている地域を「交通空白」と呼びます。国土交通省の「交通空白」解消に向けた取組方針2025では、全国に約2,000の交通空白地区と、観光の足の空白が約460地点あるとされています。移動手段がなければ、通院や買い物、高校への通学にも影響が出ます。
「消滅可能性自治体」の数字をどう読むか|誤解されやすい3つの点
地方の将来を語るとき、必ずと言ってよいほど出てくるのが「消滅可能性自治体」です。2024年4月に民間の有識者でつくる人口戦略会議が公表した分析では、全国1,729の市区町村のうち744自治体(約4割)が該当しました。2014年の日本創成会議による最初の分析では896自治体でした。数字の印象は強いのですが、読み方を誤ると、住んでいる人の暮らしを実態以上に悲観的に見てしまいます。
該当は「消滅が決まった」という意味ではない
この分析の基準は、20〜39歳の女性人口が2020年から2050年までの30年間で50%以上減る自治体、というものです。将来人口の推計に基づく分類であり、実際にその自治体がなくなることを予告するものではありません。2024年の分析では、2014年に該当した自治体のうち、239自治体が今回は脱却したとも整理されています。若者向けの施策や産業の変化で、将来の見通しが変わった地域もあるということです。
推計の前提と、指標の偏りへの指摘
青森県知事は、この推計が2020年までのトレンドが続くという前提に基づくものだと指摘しています。また、20〜39歳の女性人口だけで「消滅可能性」を論じる手法そのものに問題があるという批判もあります。指標が一つに絞られている以上、自治体の産業や介護・医療の基盤まで映しているわけではありません。リストは「状況を知る入口」として使い、個々の地域の実情は別の資料で補うのが現実的です。
当事者の視点で受け止める
「消滅」という言葉は、そこで暮らす人にとって重く響きます。該当した自治体の住民は、日々の生活を営み、地域の仕事や行事を担っています。外から見る人は、リストの有無で地域の価値を測るのではなく、その地域が何を大切にして、何に困っているのかを知ることから始めるのがよいでしょう。
「地方創生2.0」は何が変わったのか|1.0との違いと5本柱
2025年6月13日に閣議決定された地方創生2.0基本構想は、今後10年を見据えた方針です。内閣官房は、これを単なる地域活性化策ではなく、日本の活力を取り戻す経済政策であり、多様な幸せを実現する社会政策であると位置づけています。
1.0との最大の違いは前提の置き方
2014年の1.0では、人口減少を食い止めることが前面にありました。2.0は、当面は人口・生産年齢人口が減るという事態を正面から受け止めることを出発点にしています。そのうえで、人口が減っても社会と経済が機能するよう、適応する策を同時に進める考え方です。人口の「数」を競うのではなく、地域の「稼ぐ力」と「暮らしの質」を高める方向に軸足が移ったといえます。
5本柱の全体像
内閣官房の整理では、柱は次の5つです。1つ目は、若者や女性にも選ばれる地方づくりと、生活必需サービスの維持を含む生活環境の創生です。2つ目は、地域資源を高付加価値化して稼ぐ力を高める「地方イノベーション創生構想」です。3つ目は、政府関係機関や企業・大学の地方移転、関係人口の創出などを進める「人や企業の地方分散」です。4つ目は、AIやドローンなどの新技術を活かした新時代のインフラ整備です。5つ目は、都道府県や市町村の枠を超える「広域リージョン連携」です。
総合戦略で具体策に落とし込まれた
基本構想を受けて、2025年12月には「地方創生に関する総合戦略」が閣議決定されました。これまでの取り組みのフォローアップと、今後の推進戦略をあわせてまとめたものです。ふるさと住民登録制度や地域交通の再構築といった、次の章で触れる施策も、この流れの中にあります。
動き出した具体策|交通空白の解消、関係人口、ふるさと住民登録制度
方針だけでは暮らしは変わりません。2.0のうち、生活者に近い場面で動き出している施策を2つ取り上げます。どちらも、住んでいる人と、住んでいない人の双方に関わる施策です。
交通空白を3年で解消へ
国土交通省の「交通空白」解消に向けた取組方針2025は、2025年度から2027年度を集中対策期間としています。この期間中に、全国約2,000の交通空白地区と約460地点の観光の足の空白について、解消の目途をつけることが目標です。日本版ライドシェアや公共ライドシェアの普及、民間技術の活用、国による伴走支援などが手段として挙げられています。2026年6月には、新たに見つかった空白にも対応する「取組方針2026」がまとめられています。自治体によって使える手段が違うため、地元の自治体がどの方式を選ぶかで、暮らしの変化も異なってきます。
関係人口を可視化するふるさと住民登録制度
基本構想は、今後10年間で関係人口を実人数1,000万人、延べ人数1億人つくる目標を掲げています。関係人口とは、その地域に住んでいなくても、仕事・趣味・ボランティアなどで継続的に関わる人のことです。この「見えにくい関わり」を可視化するのが、ふるさと住民登録制度です。
総務省は2026年3月に、7道県と21市町村をモデル事業の対象に選びました。制度は2026年度中の開始を目指しており、専用アプリは年度末のリリースが予定されています。2026年10月時点では、モデル事業団体が検討状況を共有する段階で、制度が本格的に動くのはこれからです。
先行地域に見る打ち手の違い|奈義町・海士町・神山町
地方創生の事例は「成功した町」として語られがちですが、条件の違う地域にそのまま当てはまるわけではありません。ここでは3つの地域を並べ、打ち手の違いに注目します。
奈義町の子育て支援
岡山県奈義町は、保健師などによる継続的な支援を行う「奈義町版ネウボラ」など、子育てを中心に据えてきた町です。内閣官房の資料では、合計特殊出生率が令和3〜5年の平均で2.25とされ、全国の水準を大きく上回っています。移住者を呼び込むより、いま住んでいる世帯が子どもを持ちやすい環境を整えた例といえます。
海士町の島留学
島根県の離島である海士町は、過疎と財政難に直面するなかで、若者を島に呼び込む「島留学」などに取り組んできた町として知られています。高校の魅力づくりを入り口にして、島外から人が来る流れをつくった点が特徴です。教育を入り口に、地域との関わりを長く続ける設計になっています。
神山町のICT企業誘致
徳島県神山町は、首都圏のICT系企業を呼び込み、働く場と移住のきっかけをつくった例として、総務省の資料でも紹介されています。町に仕事の場を「持ち込む」やり方です。一方で、通信環境や企業との相性など、他地域でそのまま再現できるとは限らない条件も含まれています。
3地域から読み取れること
3つの地域を並べると、子育て、教育、仕事という、地域が自分で選んだ一点に継続して力を注いでいる点が共通しているように見えます。補助金の枠に合わせて事業を組むより、地域の課題から逆算して施策を選んでいる様子がうかがえます。自分の地元や関心のある地域に当てはめるときは、成功の結果より「その地域は何を課題と捉えて、何を選んだのか」を見るのが参考になります。
私たちにできること|関わり方の深さと判断基準で選ぶ
地方創生は、国や自治体だけが担う課題ではありません。ただ「応援したい」という気持ちだけでは、何から始めればよいかわかりにくいものです。関わりの深さと、選ぶときの視点に分けて考えてみます。
関わりの深さで3段階に分ける
一番入りやすいのは、地域の産品を買うことです。次に、旅行や短期滞在で実際に足を運ぶことがあります。さらに進むと、二地域居住や、ボランティアなどの形で継続的に関わる段階があります。ふるさと住民登録制度が目指しているのは、この3段階目の関わりを、住んでいない人にも開く仕組みです。
ふるさと納税や特産品の選び方
ふるさと納税は、寄付先を自分で選べる入り口です。年末が近づく時期でもあるので、返礼品の内容だけでなく、寄付金の使い道が公開されているか、自分が関心のある課題と合っているかを見て選ぶと、その後の関心が続きやすくなります。特産品を買うときも、生産者や地域の取り組みが説明されている商品を選ぶと、地域の背景まで知るきっかけになります。
継続できるかを判断の軸にする
関わり方を選ぶときの基準は、次の3点に整理できます。
- 地域のどんな課題に対する関わりなのかが説明されている
- 地元の人が主体になって運営している取り組みである
- 自分の生活の中で、無理なく続けられる頻度と負担である
一度の大きな関わりより、小さくても続く関わりのほうが、地域にとっても関わる人にとっても負担が少なくなります。
まとめ
地方創生は、2014年の開始から10年あまりを経て、2025年に「人口減少を正面から受け止める」2.0へと考え方を改めました。2025年国勢調査の速報値では、45道府県が人口減となり、東京圏は初めて全国の3割を超えています。出生数も10年連続で最少を更新しており、地方だけでなく日本全体の課題として扱う必要が高まっています。
一方で、「消滅可能性自治体」のような数字は、推計の前提や指標の偏りを踏まえて読む必要があります。交通空白の解消やふるさと住民登録制度のように、暮らしの現場に近い施策も動き始めています。奈義町・海士町・神山町の例が示すように、地域ごとに選ぶ打ち手は違います。
読者にできることは、買う・訪れる・継続して関わるという3段階から、自分の生活に合う入り口を選ぶことです。まず1つだけ、関心のある地域を決めて、その地域の取り組みを調べるところから試してみてください。
- 2025年国勢調査の速報値では、人口が増えたのは東京都と沖縄県だけで、45道府県が減少した
- 2.0は人口減少を前提にして、稼ぐ力と生活環境の維持を同時に進める考え方に変わった
- 「消滅可能性自治体」は将来推計に基づく分類で、消滅を決めるものではない
- 交通空白の解消とふるさと住民登録制度が、2026年度に具体化の段階に入っている
- 関わり方は、地域の課題・地元主体・続けやすさの3点で選ぶ
参考文献
- 内閣官房「地方創生2.0」(2025年)
- 内閣官房地域未来戦略本部事務局「『地方創生に関する総合戦略』の概要について」(2026年)
- nippon.com「〈縮むニッポン〉人口5年で309万人減少―国勢調査」(2026年)
- nippon.com「2025年人口動態統計(概数)」(2026年)
- 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2025年結果(要約)」(2026年)
- 内閣府「令和8年版高齢社会白書 第1章 高齢化の状況」(2026年)
- 国土交通省「『交通空白』解消に向けた取組方針2025」(2025年)
- 総務省「ふるさと住民登録制度」(2026年)
- 三重県掲載資料「令和6年・地方自治体『持続可能性』分析レポート」(人口戦略会議)(2024年)
- 内閣官房「奈義町の取組」(2023年)

