「グリーンベルト」という言葉は、道路の緑色の路側帯を指すこともあれば、都市の周囲に広がる緑地帯、あるいは土砂災害を防ぐための植樹帯を指すこともあります。同じ単語なのに分野によって意味がずれるため、ニュースや行政資料を読んでいて混乱した経験がある方も多いのではないでしょうか。この記事では、3つの意味の違いを整理したうえで、東京や兵庫県六甲山系での導入事例、ドイツの取り組み、そして暮らしの中で誰でも始められる緑化のヒントまで紹介します。
グリーンベルトには実は3つの意味がある
グリーンベルトを調べると、交通安全の話と都市計画の話、防災の話がまざって出てくることがあります。これは誤解というより、もともと英語の「green belt(みどりの帯)」という言葉が、分野ごとに別々の制度・実務のなかで使われてきたことが理由です。まずはこの3つを切り分けて整理しておきましょう。
交通安全のための路側帯グリーンベルト
歩道が整備されていない生活道路では、車道と歩行者の境目が分かりにくく、接触事故のリスクが高まります。この境目を緑色に着色し、視覚的に区別しやすくしたものが、通学路などでよく見かける路側帯のグリーンベルトです。ペイントによる対策のため比較的低コストで導入でき、全国の自治体で通学路の安全対策として広がっています。
都市計画で「開発を抑える」ためのグリーンベルト
都市計画の文脈でのグリーンベルトは、都市が無秩序に拡大しないよう、周辺に意図的に残す緑地帯のことを指します。イギリスのロンドン近郊で採用された「グリーンベルト政策」が有名で、都市のスプロール化(無計画な市街地拡大)を抑え、農地や自然環境を保全する狙いがあります。
防災・環境保全のための植樹帯グリーンベルト
3つ目は、土砂災害の防止や赤土の流出防止など、防災・環境保全を目的に帯状に樹木を植えるグリーンベルトです。樹木の根が土壌を保持し、水流の勢いを弱めることで、土砂崩れや赤土の海への流出を抑える効果が期待されています。この記事で紹介する六甲山系やドイツの事例は、主にこのタイプに当たります。

東京グリーンベルト構想から見る日本の都市緑地の歩み
日本で「都市計画としてのグリーンベルト」が本格的に検討されたのは、昭和初期の東京にさかのぼります。昭和7年(1932年)に東京緑地計画協議会が設立され、環状に緑地帯を配置する構想を含む「東京緑地計画」が策定されました。この計画に基づいて、都市の周辺に広大な緑地が確保されることになりました。
戦後の農地改革や高度経済成長期の宅地開発によって、当初計画されていた緑地の多くは失われましたが、現在の小金井公園や砧公園などは、この東京緑地計画の名残とされています。都市計画で一度確保された緑地が、時代を経て都市公園として市民に利用され続けている点は、緑地行政の連続性を示す興味深い事例といえるでしょう。
現在では、都市計画法に基づく生産緑地制度や、国が推進するグリーンインフラの考え方に、かつてのグリーンベルト構想の発想が形を変えて引き継がれています。グリーンインフラとは、コンクリートなどの人工構造物(グレーインフラ)だけに頼らず、緑地や水辺が持つ多面的な機能を、まちづくりに積極的に活かす考え方です。防災・生物多様性・景観形成といった複数の効果を同時に狙える点で、単一目的だったかつてのグリーンベルトより発展した概念だといえます。
兵庫県・六甲山系グリーンベルト整備事業に学ぶ防災効果
1995年1月に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)では、六甲山系一帯で地割れや土砂崩れなどの被害が多発したと報告されています。地震直後に降った雨によって被害はさらに拡大し、被害箇所は1,000カ所以上に及んだとされています。
この経験を踏まえ、兵庫県では「六甲山系グリーンベルト整備事業」が進められています。六甲山系の斜面に植樹を行い、樹木の根が土砂の流出を食い止める「災害緩衝機能」を高めることで、再び大規模な土砂災害が起きた場合にも被害を軽減しようとする取り組みです。植樹による防災機能の強化は一朝一夕には完成せず、樹木が根を張り、山肌を安定させるまでに長い年月を要する点も特徴です。
また、この事業は土砂災害への備えだけでなく、六甲山系の自然景観を保ち、周辺都市に暮らす人々の生活環境を豊かにするという副次的な効果も持っています。防災インフラと景観・環境保全を同時に実現しようとする点は、他の急傾斜地を抱える自治体にとっても参考になる取り組みです。

世界に目を向けると|ドイツの「グリーンベルト」保護の取り組み
海外にも、防災・環境保全を目的としたグリーンベルトの事例があります。代表例が、ドイツの旧東西国境沿いに広がる「グリーンベルト(Grünes Band)」です。冷戦時代、東西ドイツを分断していた国境地帯は人の立ち入りが厳しく制限されていたため、結果として長期間にわたり開発の手が入らない緑地帯として残されました。
ドイツ再統一後、この帯状の土地は自然保護団体BUNDなどの働きかけによって保護区域として位置づけられ、国内9州にまたがる総延長約1,400kmの生態系ネットワークとして管理されています。この地域では、他の地域で減少がみられる鳥類「マミジロノビタキ」の生息数が増加したという報告もあり、1,200種以上の絶滅危惧種を含む動植物が生息しているとされています。
ドイツの事例が示すのは、グリーンベルトが単なる緑の帯ではなく、分断された地域を結ぶ「生態系の回廊(エコロジカル・コリドー)」として機能し得るという点です。日本でも河川沿いの緑地や里山をつなぐネットワークづくりが各地で模索されており、点在する緑地を線でつなぐという発想は今後さらに重要になっていくと考えられます。
グリーンベルトとSDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」
SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年の国連総会で採択された17分野の国際目標です。このうち目標11は、都市や居住地を誰も排除することなく、安全かつ持続可能にすることを掲げており、災害リスクの管理や、すべての人が安全な緑地・公共スペースを利用できる状態を目指すターゲットが含まれています。
これまで見てきた東京の緑地計画も、六甲山系の防災植樹も、ドイツの生態系保護も、性質は異なりながら「災害に強く、緑にアクセスできるまちをつくる」という点で目標11の方向性と重なります。グリーンベルトは目標11だけでなく、気候変動対策を掲げる目標13や、陸の生態系保全を掲げる目標15とも関連する、複数の目標にまたがる取り組みだといえるでしょう。

今日からできる|暮らしの中に小さなグリーンベルトをつくる方法
六甲山系やドイツの事例は行政や自然保護団体が主体となる大規模な取り組みですが、緑を帯状につなぐという発想自体は、個人の暮らしの中でも応用できます。ベランダや玄関先の小さな緑化も、近隣の緑と緑をつなぐ一歩になり得ます。ここでは、手間・コスト・効果の観点から3つの選択肢を比較してみます。
- プランターでの帯状緑化:ベランダや玄関先にプランターを並べるだけで始められ、初期費用も比較的抑えられます。ただし単体では防災効果はほぼなく、景観と生き物の立ち寄り先を増やす程度の効果にとどまります。
- 緑のカーテン:ゴーヤやアサガオなどのつる性植物を窓辺で育てる方法で、夏場の室温上昇を抑える効果が期待でき、環境省なども家庭の省エネ対策として紹介しています。初期費用は数千円程度からで、毎年の水やりや撤去の手間がかかります。
- 生垣づくり:ブロック塀を生垣に置き換える取り組みで、多くの自治体が助成金制度を設けています。費用はプランターより高くなりますが、延焼防止や防風、景観向上など複数の効果を長期にわたって得られる点が特徴です。
いきなり生垣づくりに踏み出すのが難しい場合は、まず住んでいる自治体のホームページで「緑化助成」「生垣助成金」といった制度が用意されているかを確認してみることをおすすめします。多くの自治体では、樹木の購入費や工事費の一部を助成する制度があり、個人の庭先の緑化がそのまま地域のグリーンベルトの一部になっていきます。

まとめ
グリーンベルトは、交通安全のための路側帯、都市の拡大を抑える緑地帯、防災・環境保全のための植樹帯という、性質の異なる3つの意味で使われる言葉です。東京の緑地計画や六甲山系の整備事業、ドイツの生態系ネットワークは、それぞれ目的も規模も異なりますが、いずれも都市や暮らしを自然の力で守ろうとする取り組みだといえます。都市の発展と自然環境の保全は、一見すると相反するようで、グリーンベルトという発想を通じて両立を目指すことができます。まずは、自分の住む自治体に緑化助成の制度があるかどうかを調べてみることから始めてみてください。
- グリーンベルトには「路側帯」「都市計画の緑地帯」「防災・環境保全の植樹帯」という3つの異なる意味がある
- 東京緑地計画(1932年)を起源に、小金井公園・砧公園などが現在も緑地として受け継がれている
- 兵庫県の六甲山系グリーンベルト整備事業は、阪神・淡路大震災の土砂災害を教訓に進められている
- ドイツの「グリーンベルト(Grünes Band)」は旧国境沿い約1,400kmに広がる生態系ネットワーク
- 個人でも、プランターや緑のカーテン、生垣づくりから小さなグリーンベルトを始められる
参考文献
- 東京都都市整備局「都市計画公園・緑地」(東京都、https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/)
- 国土交通省近畿地方整備局 六甲砂防事務所「六甲山系グリーンベルト整備事業」(国土交通省、https://www.kkr.mlit.go.jp/rokko/)
- 国連広報センター「SDGs(持続可能な開発目標)」(国際連合広報センター、https://www.unic.or.jp/)
本記事はMIRASUS編集チームが公的資料・企業公式情報をもとに作成しています。

