NHKのドラマ「恋せぬふたり」でも話題になった「アロマンティック」という言葉を知っていますか?
アロマンティックは性の多様性のひとつで、恋愛感情を抱かない人のことを指します。
今回は、アロマンティックの意味やアロマンティックを自認する人が感じる生きづらさについて見ていきたいと思います。
アロマンティックとは
アロマンティックとは「恋愛の、ロマンチックな」を意味する「romantic」に否定(not)を表す「a」が付いた言葉で、「他者に恋愛感情を抱かない」人のことを意味します。
アロマンティックも性の多様性のひとつ
性は、個人個人が自分らしく生きるために尊重されるべき個性のひとつです。
性は以下のような多様な要素を含んでおり、人の数だけ様々な組み合わせのバリエーションがあると考えられます。
アロマンティックも性の多様性のひとつです。
生物学的な意味での性差
染色体の違い、生殖器・生殖機能の違い、ホルモンによって決定される性差のことで、英語では「Sex」と呼ばれます。
社会的・文化的な性差
生物学的な性差「Sex」に対して、社会的・文化的に形成された性差のことを英語で「Gender(ジェンダー)」と言います。
・髪型や服装、言葉遣い、性格の上で期待される「女らしさ」「男らしさ」
・「女の子は花屋さん、男の子は野球選手」「男性はリーダー、女性はサポート役」といった社会的に期待される役割分担
などが社会的・文化的につくられた性差にあたります。
性的な指向
どのような性別の人を好きになるかや、恋愛や性愛を好む・好まないといった性の指向性を意味します。
・L レズビアン 女性の同性愛者(心の性が女性で恋愛対象も女性)
・G ゲイ 男性の同性愛者(心の性が男性で恋愛対象も男性)
・B バイセクシャル 両性愛者(恋愛の対象が女性にも男性にも向いている)
などは性的指向を指す言葉です。
性自認
自分の性をどのように認識しているかを表す「性自認」は「心の性」とも呼ばれ、生物学的な性差とは異なることもあります。
「身体的な性」と性自認が異なる人のことを「T トランスジェンダー」と言います。
上記のLGBT以外に、今回のアロマンティック(恋愛感情を他人に持たない人)やアセクシャル(他人に性的欲求を抱かない人)、クエスチョニング(性的指向や性自認が定まっていない人)、ノンバイナリー(性自認が男性/女性の二分法に当てはまらない人、Xジェンダーとも言われる)など、性は虹のように多様であることから、グラデーションで表現されることもあります。
参照元:多様な性について考えよう!~性的指向と性自認~|法務省人権擁護局
アロマンティック/アセクシャル(アロマ/アセク)の多様性
アロマンティックが性の多様性のひとつであるだけではなく、アロマンティックやアセクシャルを自認する人の中にも、様々なバリエーションが存在します。
2020年にAro/Ace調査実行委員会が実施した調査結果にも、一様ではないアロマ/アセクの現実が反映されています。
例えば、性的欲求を抱かないアセクシャルを自認する人の中にも
・アロマンティック(恋愛感情も抱かない)
・ロマンティック(恋愛感情は抱く)
・グレイロマンティック(恋愛感情を抱くことがあるのかはっきりしない、特定の条件下でのみ恋愛感情を抱くなど)
・デミロマンティック(強い絆や信頼関係がある場合のみ、恋愛的に惹かれる)
・リスロマンティック(恋愛感情があっても、両思いを望まない)
など、様々な恋愛感情のバリエーションがあります。
逆に、アロマンティックを自認する人の中にも性的欲求を抱くという人が存在します。
恋愛のプロセスで発生するスキンシップに対する受け止め方も人によって異なります。
先の調査でアロマンティックを自認する人に「嫌悪感を感じる行為」についてたずねたところ
・キスをする 67.7%
・手をつなぐ 26.1%
・ハグする 24.8%
・握手する 29.4%
・どれにも嫌悪感を覚えない 29.4%
と、受け止め方が様々であることが分かりました。
参照元:アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2020
アロマンティックの「生きづらさ」
性的少数者の人たちは、マイノリティであるがゆえに生きづらさを感じることが少なくありません。
アロマンティックを自認する人も、以下のような生きづらさを感じがちです。
認知・理解不足
性的マイノリティの中でもLGBTは比較的社会的な認知が進んでいますが、アロマンティックは未だその存在さえ知る人は多くありません。
そのため、
「恋愛話は誰でも好き」
「恋愛はみんながするもの」
という固定観念から、知らず知らずのうちにアロマンティックを自認する人たちを傷つけていることがあります。
また、恋愛感情がないことが理解できないために「今は仕事が充実しているから、恋愛はあえて封印してるんだ」といった間違った思い込みをする例もあります。
マイクロアグレッション
マイクロアグレッションとは、意図的または無意識に、差別的な言動や否定的な態度を日常的にとることを言います。
性的マイノリティをひとくくりにして「ああいう人たちは・・・」といった物言いをすることは、れっきとしたマイクロアグレッションです。
マイクロアグレッションは、本人には悪気がなく無意識であることも多いため、知らず知らずのうちに相手を何度も傷つけているケースも少なくありません。
まとめ:アロマンティックが自分らしく生きられる社会とは?
アロマンティックが誰に傷つけられることもなく、自分らしく生きられる社会とは、どのようなものなのでしょうか。
また、そのために1人ひとりができることとは何なのでしょうか。
多様な性について知る
性に関わることは「秘すべき事」とされてきた歴史があり、なかなかオープンにならない現状があります。
正しい理解のために性を話題にすることは、けっして恥ずかしいことではありません。
自分とは異なる性指向をもつ人・性自認をする人を理解するために、いろいろなソースから知識を得ることは非常に大切です。
アンコンシャスバイアスに気づく
体とこころの性が一致していることは「当たり前」で、男女の恋愛が「普通」という固定観念から、気付かないうちに偏見にもとづいた発言や行動をすることがあります。
まずこの偏った常識「アンコンシャスバイアス」に気付くことが、性の多様性を尊重し、互いを認めることにつながります。
理解者・支援者を目指す
当事者ではないけれど、性的少数者を支援する人を「アライ(Ally)」と言います。
アロマンティックを含む性的少数者の人は、傷つくことを恐れて自己防衛のために多数派を装っていることも少なくありません。
そのような人たちが自分らしく働ける環境を目指し、様々な企業がアライへの取り組みを始めています。
例えばファッションブランドのGAP JAPANでは、国内全店舗の従業員にLGBTアライトレーニングを実施し、アライ宣言をした従業員には支援者を表明するためのピンバッチやステッカーを支給しています。
たくさんの人がアライを表明することで、どのような性的指向/性自認の人も自分らしさを隠すことなく、ありのままに生きられる社会に近づいていくのです。
参照元:ギャップジャパン全国約6,400人の従業員にLGBTアライトレーニングを実施|PR Times