人口約14億人を抱える中国。
広大な国土を持つ、世界で最も人口の多い国です。
中国では、十数年前から深刻な大気汚染が問題となっており、国内産業や人々の健康に甚大な被害が及んでいます。
そしてこの大気汚染は、中国国内だけでなく日本へも影響していることがわかってきました。
この記事では、中国の大気汚染の現状と日本に住む私たちへの影響について解説します。
なぜ中国で大気汚染が起こっているのか
中国では1978年に改革・解放政策が打ち出され、経済発展が優先されてきました。
そんな中で環境に対する優先度は低く、発電所や工場からの排煙、石炭暖房、そして自動車の排気ガスを原因とした大気汚染が進んでしまった背景があります。
石炭に依存
私たちの周りには「Made in China」と記された中国製品は非常に身近なもの。
中国は世界の中でも有数の工業大国で、多くの工場が稼働しています。
中国の発電所は、石炭を原料とする火力発電が主流です。
また、石炭は製鉄やセメント工場でも大量に消費されています。
中国は、エネルギーのおよそ75%を石炭に依存しています。
また、中国北部の地方では、真冬になると氷点下30度を下回ることもあります。
地方の一般家庭で使用されているのも石炭を燃料としたストーブです。
そのため、とくに冬場は大気汚染が深刻な状況になってしまいます。
自動車の排気ガスも
中国では年々自動車の販売台数が増加傾向です。
それに伴い、ガソリンやディーゼル燃料の消費も増えています。
日本と比較すると中国は自動車の排ガス規制が緩く、とくに工場で生産された荷物を運ぶトラックなどのディーゼル車は排気ガスの浄化装置を装備していないことも多いようです。
自動車の普及や規制の緩さも大気汚染の一因となっています。
PM2.5とは
PM2.5とは、大気中に存在する2.5µm(1µm(マイクロメートル)は1mmの1000分の1)以下の小さな粒子の総称です。
中国の大気汚染物質には、このPM2.5が多く含まれています。
2.5µmはだいたい、髪の毛の40分の1くらいのとても小さい粒子です。
PM2.5はこの小ささから、目に見えにくく、そして風に乗って遠くまで飛びやすいという特徴があります。
参照元:
・国立環境研究所
・「中国における大気汚染について」|在中国日本大使館
どのくらい深刻?大気汚染の現状
中国の大気汚染はどのくらい深刻なものなのでしょうか。
人口の多い首都北京や大都市の上海では、高濃度のPM2.5が浮遊し、大気に「もや」がかかったようになるスモッグがみられることもあります。
微細な粒子であるPM2.5は、窓やドアのわずかなすき間からも室内に侵入してしまいます。
年平均でみてみると、中国の大気汚染は日本の約7倍。
ひどい時には目張りをした室内で空気清浄機を稼働しても、1週間程度でフィルターが変色してしまうほど深刻な状況に見舞われることも。
高濃度のスモッグによって視界が限られると、屋外への外出を制限する必要が出てきます。
大気汚染による健康被害
PM2.5は、その小さなサイズから人が吸い込むと肺の奥に入りやすく、さまざまな健康被害を引き起こします。
ぜんそくや気管支炎などの呼吸器系の病気や、心臓病などの循環器系疾患のリスクが代表的です。
さらに、死亡のリスクもあります。
PM2.5が高濃度の日には、当日あるいは数日後の死亡数が多いという調査結果があります。
実際、中国では大気汚染の影響で呼吸器や循環器の病気により死亡した人が120万人を超えたというショッキングな報告も。
もともと呼吸器や循環器の病気をもつ人や、お年寄りや子どもなどは、とくに影響を受けやすいようです。
日本にも無視できない影響がみられる
大気汚染物質が偏西風に乗って国境を越え、他の国にも影響を与えることを「越境汚染」と言います。
日本にも、風に乗って運ばれたPM2.5による被害が報告されています。
日本への健康被害
中国で発生するPM2.5はとても小さな粒子であるため、風に流されて海を越え、日本に到達してしまいます。
中国の大気汚染が原因で、日本でも健康被害が起こることがわかってきました。
中国本土よりも日本のPM2.5の濃度は低いものの、吸い込むことで病気のリスクが上がることには変わりありません。
対策を取らないと、喘息や慢性閉塞性肺疾患、そして肺がんなどを発症する危険があると考えられています。
越境汚染は世界問題
越境汚染は日本と中国だけの問題ではありません。
例えば、インドネシアの焼畑農業やプランテーション農業による煙が、シンガポールやマレーシアに風で運ばれて起こる「ヘイズ」という煙害も、国際問題になっています。
大気汚染は発生源である国だけの問題ではなく、空を介して近隣の国々にも影響する深刻な課題であると言えるでしょう。
参照元:The Global Burden of Disease Study 2010(GBD 2010)
大気汚染問題への対策
大気汚染への対策は、国家間のさまざまな利権が絡み合うこともあり、解決が難しい問題です。
その中でも実際に行われている国内外の対策について紹介します。
中国政府の取り組み
中国政府は、長年大気汚染問題に取り組んできました。
2006年より「国家環境保護第11次5カ年計画」を実施し、目標を定めて排気ガスの規制を行ったことで一定の効果がみられました。
しかしながら、2013年に大気汚染による影響で多くの人々が健康被害にさらされているという発表もあり、さらに厳しい規制が必要であるという認識が高まっています。
石炭に頼っている中国のエネルギー消費構造を簡単に変えることは難しいかもしれません。
今後、石炭と併用しながらも環境に配慮したエネルギーに転換してくことや、自動車排気ガスの規制を行っていくことが必要とされています。
日本政府の取り組み
日本政府も中国の大気汚染解決に向けて、さまざまな働きかけを行っています。
具体的には、大気汚染の測定方法や発生源の解析などの技術や情報公開のノウハウ構築において日本の技術が導入されました。
一方で国内に向けての対策として、2009年にPM2.5の大気環境基準を新設。
被害の実態について、積極的な調査を行い、日本国内における健康被害についても研究しています。
中国に近い九州地方の大気汚染の影響が大きいことにも着目し、環境省がPM2.5の拡散状況と大気汚染の予測を公表しています。
参照元:
・「中国大気環境改善に向けた日中都市間連携協力による5年間の取組の成果について」2019|環境省
・「中国の大気汚染と外務省の取組」|外務省
私たちができる大気汚染対策について考えてみよう!
中国の大気汚染の現状と、日本に住む私たちの生活や健康に及ぼす影響について紹介しました。
数多くの取り組みによって、中国の大気汚染は、近年改善の兆しがみられていますが、依然として濃度が高い日もあります。
そのため、日本にいる私たちも汚染物質を吸い込まないように気を付けることは非常に大切です。
まずは住んでいる地域のPM2.5の濃度をチェックしてみることをおすすめします。
インターネットで濃度情報を公開しているサイトを検索し、情報を参考にマスクの着用や外出時間の短縮、空気清浄機の利用などの対策をとって、大気汚染による健康被害を予防しましょう。
日本は中国から多くの製品を輸入しています。
そういった面では、日本も中国の大気汚染に責任があると言えるかもしれません。
「隣の国で起こっていることだから」と他人事として捉えるのではなく、関心を持って情報を集めたり、排気ガスを削減できるような生活を心がけたりすることが必要なのではないでしょうか。