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職場ハラスメントの実態と世界比較|パワハラ・セクハラが減らない日本の構造的課題

コロナ禍でパワハラ増加も ハラスメント大国日本におけるパワハラ・セクハラの状況を世界と比較

不名誉な「ハラスメント大国」という言葉が、日本の職場を語るときに繰り返し使われます。パワハラ防止法が2020年に施行され、2022年には中小企業にまで義務が拡大されました。それでも、いじめ・嫌がらせに関する労働相談は増え続けています。数字の背景には、法律だけでは変えきれない職場文化や、世代間の意識格差があります。この記事では、最新の国内データと国際比較をもとに、日本のハラスメント問題の現在地を整理します。

「いじめ・嫌がらせ」相談が過去最多水準|厚生労働省データで読む現状

厚生労働省が毎年公表している「個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、令和5(2023)年度の総合労働相談件数は約124万件に上りました。そのなかで「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は約9万2,000件と、10年以上にわたって相談類型のトップを占め続けています。

注目すべきは、パワハラ防止措置が大企業に義務化された2020年以降も数字が落ちていない点です。2019年度時点では87,570件だった件数は、その後も増加傾向をたどり、令和4(2022)年度には88,851件、令和5(2023)年度にはさらに増加したと報告されています。「相談しやすい環境が整ったことで表面化する件数が増えた」という側面もありますが、実態として職場のハラスメントが解消されていないことは明らかです。

また、男女雇用機会均等法に関わる相談の内訳では、セクシャルハラスメントが最も多く、次いで婚姻・妊娠・出産を理由とする不利益取扱い(マタニティハラスメント)が続きます。働く女性が増える一方で、妊娠・育児をめぐる職場環境の整備が追いついていないことが数字に表れています。

国際比較で見えてくる日本の立ち位置

ISSP(国際社会調査プログラム)の調査データに基づく国際比較では、職場でのパワハラ(いじめ・嫌がらせ)を受けたと回答した割合について、日本は25.3%で調査対象37カ国中第4位にランクインしています。上位はインド(32.3%)、オーストラリア(31.9%)、ニュージーランド(29.6%)と続きます。

一方、スウェーデン(12.4%)やドイツ(10.5%)、スペイン(8.6%)など欧州の多くの国は下位に位置します。この数値をそのまま「欧州はハラスメントが少ない」と読むのは早計です。背景にあるのは、回答者がどこまでをハラスメントと認識するか、という意識の差です。

ランキング上位の理由は「意識の高さ」にある

フランスは1992年にすでに法律でセクハラ罪を定義し、刑事罰を設けました。イギリスやベルギーも早い段階からハラスメントを法制化しています。こうした国々では、職場でのあいまいな行為も「ハラスメントかもしれない」と認識されやすく、相談や申告のハードルが低い。結果として数値が高く出やすい構造があります。

日本では長らく「多少の叱責は指導の範囲」「体育会系の文化」として許容されてきた行為が、欧米では明確にハラスメントとみなされます。つまりランキング上位に位置することは、必ずしも発生件数が多いことだけを意味せず、「認識できている件数」が多いことを示している面もあります。

セクハラ被害の国際比較

WIN World Surveyの調査では、18〜34歳でセクハラを受けたことがある女性の割合として、日本は14%と報告されています。先進国のなかで決して低い数字ではなく、メキシコ、アイルランド、オーストラリアなどとともに上位に入ります。パワハラの国際ランキングと組み合わせて見ると、日本は「認識されにくいが実態は多い」という構造が浮かび上がります。

ILO条約第190号と日本の未批准問題

2019年、ILO(国際労働機関)の総会で、職場での暴力とハラスメントを全面禁止する国際条約「第190号条約」が採択されました。2021年に発効し、2025年時点で40カ国以上が批准しています。

しかし日本はまだ批准していません。条約の採択審議でも、日本の経営者団体は「義務的規制の強化には慎重」という姿勢を示していました。批准に向けた国内での議論は続いていますが、法的拘束力のある国際基準に踏み込む動きは鈍いのが現状です。

ILO条約第190号の特徴は、正規雇用だけでなく、フリーランス・インターン・ボランティア・求職者なども保護対象に含める点にあります。日本の現行法が「雇用関係のある労働者」を主な対象としているのと比べると、射程範囲の違いは大きいと言えます。

パワハラ防止法の施行後、何が変わり何が変わっていないか

2019年に成立した「パワーハラスメント防止法」(改正労働施策総合推進法)は、2020年6月に大企業で施行され、2022年4月からは中小企業にも適用が拡大されました。これにより、すべての企業にパワハラ防止のための措置(相談窓口の設置・就業規則への明記・研修の実施など)が義務づけられています。

法整備が進んだことで、「ハラスメントは許されない」という社会的認識は広がりました。企業の相談窓口数も増え、被害を訴えやすい環境が少しずつ整ってきています。一方で、相談件数が増え続けているという事実は、「窓口が増えても問題の根本が変わっていない」ことを示唆します。

管理職世代の意識格差が壁になっている

40〜50代の管理職層は、自身が若いころに強い叱責や長時間労働が「当たり前」とされる職場を経験してきた世代です。そのため、自分の言動がパワハラに当たるという感覚が鈍い場合があります。定期的な個人面談を設けている企業でも、部下側が「この場では本当のことを言えない」と感じていれば、制度は機能しません。

問題を可視化するには、上司への匿名フィードバック(360度評価)や、外部相談窓口の周知徹底など、複数の経路を確保することが有効です。1つの窓口だけに頼る構造では、管理職自身が加害者の場合に機能しない盲点があります。

カスハラ・SNSハラスメントなど「新しい形」も急増

職場ハラスメントの形態は、従来のパワハラ・セクハラにとどまらず、多様化しています。なかでも社会問題として大きく取り上げられているのが、カスタマーハラスメント(カスハラ)です。顧客や消費者から従業員に向けられる理不尽な要求・暴言・過剰クレームを指し、サービス業を中心に深刻な被害が報告されています。

東京都は2024年4月、全国で初めてカスタマーハラスメント防止条例を施行しました。「お客様は神様」という文化が根強い日本社会において、カスハラを明示的に「してはいけない行為」と位置づけた意義は大きいと言えます。厚生労働省も2024年度にカスハラ対策のための業種別マニュアルを更新し、企業の対応支援を強化しています。

また、テレワークの普及に伴い、チャットツールやメールを通じた「オンラインハラスメント」も問題化しています。深夜・休日を問わずメッセージを送り続ける、既読スルーを責める、オンライン会議中に一方的に叱責するといった行為は、対面より証拠が残りやすい反面、被害を「大げさに感じてはいけない」と思わせる心理的圧力も伴います。

マタハラ・ジェンダーハラスメントの深刻さ|少子化との二重苦

日本では少子化対策が国家的課題となっている一方、妊娠・出産・育児をめぐる職場でのハラスメントは依然として多く発生しています。「妊娠したなら辞めてもらうしかない」「育休はとれるが戻る場所はない」といった言葉を受けた、という声は珍しくありません。

厚生労働省の統計では、男女雇用機会均等法に関わる相談のなかで、婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いは4,769件(令和元年度)にのぼります。出産後も働き続けたい女性が、ハラスメントによって職場を去ることを余儀なくされるケースは、個人の問題であるだけでなく、社会全体の労働力損失でもあります。

育児・介護休業法の改正(2022年)によって育児休業の取得が男性にも促進されるようになりましたが、「育休をとると評価が下がる」「上司に嫌みを言われた」という声はまだ聞かれます。制度と文化の乖離を埋めることが、マタハラ・パタハラ(パタニティハラスメント)の解消につながります。

被害に遭ったとき、組織が取り組むべき実践的対策

ハラスメントが疑われる状況に置かれたとき、まず重要なのは記録を残すことです。日時・場所・発言内容・周囲の状況をメモしておくだけで、後の相談や手続きがスムーズになります。音声の録音は、自分が当事者として参加している会話であれば法律上問題ありません。

個人としての相談先には、会社の相談窓口のほか、都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」(無料・予約不要)や、法テラス(法律相談の費用補助あり)があります。社内の窓口に言いづらい場合は、外部の専門機関を最初の相談先にすることも選択肢の一つです。

一方、組織・企業としての対策には複数の層が必要です。以下に、実践につながる取り組みを整理します。

  • 匿名で利用できる外部相談窓口の設置と、その存在を全従業員に定期的に周知する
  • 管理職向けのハラスメント研修を「単発」ではなく年1回以上の継続実施にする
  • 360度評価など、部下から上司への匿名フィードバックを仕組みとして導入する
  • 相談した人への不利益措置(報復)を明文で禁止し、違反時の処分を就業規則に記載する

まとめ|数字の向こうに一人ひとりの職場がある

パワハラ・セクハラをめぐる日本の状況は、法整備という点では前進しています。しかし相談件数の高止まり、ILO条約の未批准、カスハラ・オンラインハラスメントの新たな広がりを見れば、まだ課題は山積みです。国際比較のデータが示しているのは、「問題に名前をつけて認識できる社会」がより多くのハラスメントを把握できるという逆説でもあります。まず、自分の職場で何が起きているかを知ること。そして、違和感を感じたときに声に出せる関係性をつくることが、最初の一歩になります。

この記事で整理したポイントを、以下にまとめます。

  • いじめ・嫌がらせの相談件数は令和5(2023)年度も高水準が続き、相談類型のトップを10年以上占め続けている
  • 国際比較では「上位国ほどハラスメントへの認識が高い」傾向があり、発生数だけでなく可視化の度合いも反映されている
  • ILO条約第190号(2021年発効)を日本はまだ批准しておらず、国際基準への対応が遅れている
  • カスハラ・オンラインハラスメントなど新しい形態が急増し、東京都は2024年4月に全国初のカスハラ防止条例を施行した
  • 被害を受けたらまず記録を残し、社内外の相談窓口を複数把握しておくことが重要

まずは自分の職場の相談窓口がどこにあるか、今日確認してみてください。

  • 記事を書いたライター
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小山悟郎

株式会社Japan PI 代表、調査員歴30年を超えるバイリンガル探偵。1992年、東京都渋谷区の追跡調査センターへ入社し、現場調査員やケースマネージャーとして経験を積む。2002年、東京都新宿区にてJapan PIを創業し独立。探偵業務と外国語学習をライフワークとし、日本と海外で調査を行う。国際調査協議会(CII)、および世界探偵協会 (WAD) 会員。Japan Times、Beacon Reportsなど取材歴多数。

  1. 職場ハラスメントの実態と世界比較|パワハラ・セクハラが減らない日本の構造的課題

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