ストレージパリティという言葉を聞いたことがありますか?
ストレージパリティとは、再生可能エネルギーのコストを考える上で指標となる考え方で、社会に再生可能エネルギーが普及していくためのカギを握るといわれています。
今回は、このストレージパリティの意味や、今なぜ注目されているのかについてわかりやすく説明していきたいと思います。
ストレージパリティとは?
ストレージパリティとは、「太陽光をはじめとする再生可能エネルギー発電設備と蓄電池を導入した方が消費者にとって経済的となる状態のこと」を指します。
太陽光や風力を利用した再生エネルギー発電は、天候や風向きなど自然環境の要因により不安定になるというデメリットがあります。
このデメリットを補うためには、作った電気を蓄える「蓄電池」を使って、需要に合わせて供給を調整することが必要となります。
太陽光発電は年々着実にコストが低減していますが、価格競争力ではまだまだ現在の主力である火力発電などには及びません。
太陽光発電が社会に広く普及するためには、発電設備と蓄電池を合わせたコストを下げることで「ストレージパリティ」を達成し、他のエネルギー源による発電に対する競争力を強化する必要があるのです。
ポイントは蓄電池のコスト
太陽光発電そのものにかかるコストが既存の電力コストと同等かそれ以下になる、いわゆる損益分岐点を「グリッドパリティ」といいます。
太陽光発電そのもののコストは過去10年で着実に下がっており、このグリッドパリティが達成されつつある現在、次のステップとしてストレージパリティ達成のための「蓄電池のコスト低減」が焦点となっており、より安価な蓄電池の研究開発が盛んに行われています。
メーカー・研究機関の取り組み
蓄電池の市場も拡大し、各企業や研究機関がよりコストのかからない蓄電池の技術開発に取り組んでいます。
米テスラ社はEV自動車の技術を強みに、リチウムイオン電池の材料の見直しや内製化を図り、家庭用蓄電池の製造コストを大幅に下げています。
また、「ナトリウムイオン」を使用した蓄電池の技術研究や、古くから使われてきた「鉛」蓄電池の性能アップを図る試みなど、よく使用されているリチウムイオンより安価な材料を活用した蓄電池の開発も盛んに行われています。
また空気中の酸素を取り込む素材、負極には安価な金属などを使うため電極材料が安く、製造コストがリチウムイオン電池の10分の1にも抑えられると期待される「空気電池」も国際的に開発が活発になっており、注目されています。
日本やカナダ、ベルギーといった様々な国のスタートアップ企業が実用化に向けて開発を行っています。
参照元:
・テスラの蓄電池価格、「普及期」視野 日本に変革迫る|日本経済新聞電子版 2020年2月17日
・再生エネ普及へ蓄電池コスト減 安価な材料活用|日本経済新聞 2020年11月21日
・空気電池で再エネ蓄電 米新興、4.5万世帯分貯蔵へ施設|日本経済新聞電子版 2022年7月4日
政府の取り組み
政府もストレージパリティの達成に向け、蓄電池コストを下げるための施策に取り組んできました。
2021年に策定された「第6次エネルギー基本計画」では、2030年の目標として家庭用蓄電システムの価格を7万円/kWh、業務・産業用の価格を6万円/kWhと掲げ、国内の定置用蓄電池の導入支援を行っていくとしています。
2022年度にも、自家消費型の太陽光発電設備や蓄電池導入を行う事業主に対して補助金制度を実施しています。
その中で蓄電池に関しては産業用で19万円/kWh、家庭用では15.5万円/kWh(ともに税抜・工事費込)を目標価格と設定しています。
参照元:
・第6次エネルギー基本計画|経済産業省
・【公募のお知らせ】令和3年度補正・令和4年度 ストレージパリティの達成に向けた太陽光発電設備等の価格低減促進事業(二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金)|環境イノベーション情報機構
まとめ
ストレージパリティが、太陽光発電を代表とする再生可能エネルギーを導入する上での損益分岐点であることを説明してきました。
これまで人類が大量に消費してきた石炭や石油などの化石燃料は、いつかは枯渇する有限のエネルギーです。
また、排出される二酸化炭素は地球温暖化の原因となり、様々な負の気候変化を引き起こしています。
持続可能な社会を実現するための目標SDGsの中でも、化石燃料に替わるエネルギーとして、自然の力を利用した再生可能エネルギーの拡大が叫ばれています。
ただし、いくらクリーンで再生可能なエネルギーであっても、それが社会に普及するためには、誰もがアクセスできる価格の安さが必須条件となります。
ストレージパリティの取り組みとは、まさに人類の知恵を集約し新しい技術を開拓することで、再生可能エネルギーを誰にでも手の届くものにし、広く社会に普及させるための取り組みなのです。