干ばつがもたらす影響は、雨が降らない地域の農家や住民だけの問題ではありません。水不足は作物の不作、停電、食品価格の上昇、海上輸送の混乱へと連鎖し、輸入に頼る日本の食卓や水道にも届きます。干ばつとは、長期間の降水不足によって水の需要を供給が上回り、農業や生活、生態系に被害が出る状態のことです。
今年の夏は、四国の早明浦ダムの貯水率が下がり、香川県と徳島県で18年ぶりに第4次の取水制限が行われました。遠い国の話と思われがちな干ばつが、日本の足もとでも起きたということです。この記事では、国連機関などの最新データをもとに、暮らし・環境・経済への影響を整理し、日本との接点と私たちにできることまで考えます。
数字で見る世界の干ばつ|2023年以降に起きたこと
頻度と強度が増している
国連砂漠化対処条約(UNCCD)は、2000年以降、干ばつの頻度と強度が29%増えたとしています。2050年には世界人口の4分の3が干ばつの影響を受けうるとの見通しも示しています。
また、世界の土地の最大40%が劣化しており、約32億人の暮らしに直接影響しているとされます。干ばつは、土地の劣化と重なることで被害が大きくなります。
2025年7月には、UNCCDと米国の国家干ばつ緩和センターが報告書「Drought Hotspots Around the World 2023-2025」を公表しました。2023年以降、観測史上でも特に広範囲で被害の大きい干ばつがいくつも起きたと記録しています。
農業が受ける損失の大きさ
国連食糧農業機関(FAO)の2023年の報告書によると、過去30年間に災害で失われた作物と畜産の生産額は約3.8兆ドルでした。年平均では約1,230億ドルで、世界の農業GDPの約5%にあたります。損失が最も大きいのは穀物で、年平均6,900万トンです。
この数字は洪水や病害虫、紛争などを含む災害全体の合計で、干ばつだけの損失ではありません。ただ、災害の件数は1970年代の年約100件から、2000年代初めごろには年約400件へ増えています。干ばつはその中でも農業への打撃が大きい災害のひとつです。
経済的なコストも膨らむ
UNCCDの報告書は、OECDの推計として、干ばつ1回あたりの経済的コストが2000年の少なくとも2倍になっていると紹介しています。2035年までにさらに35〜110%増えるとの見通しも示されています。
被害が増える背景には、気候変動による雨の降り方の変化だけでなく、人口や水の需要が増えていることもあります。干ばつは「自然現象」だけでなく、水や土地の使い方とも結びついた問題として捉える必要があります。
暮らしへの影響|食料、水、そして移動を迫られる人々
食料不足と飢餓
干ばつの影響がもっとも直接的に表れるのが、食料です。雨に頼る農業が中心の地域では、不作がそのまま食料不足と収入の減少につながります。
世界の飢餓人口は、国連の「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)」2026年版で、2025年に約6億4,500万人(世界人口の7.8%)と推計されました。2024年の約6億7,300万人から約1,400万人減り、3年続けて減少しています。2025年は、アジア、中南米、アフリカで同時に飢餓が減った初めての年でもあります。
つまり、「世界の飢餓は増え続けている」とは言えません。それでも、6億人を超える人が飢餓にあることに変わりはありません。SOFI 2026の発表でFAOは、非常に強いエルニーニョ現象を今後の下振れリスクとして挙げています。
2024年の南部アフリカで起きたこと
エルニーニョ現象による干ばつが2024年に南部アフリカを襲い、南部アフリカ開発共同体(SADC)は約6,800万人(地域人口の17%)が影響を受けていると発表しました。南アフリカ、ザンビア、ジンバブエは域内の主要なトウモロコシ生産国で、そろって不作に見舞われ、地域全体の食料安全保障が揺らぎました。
ザンビア、ジンバブエ、マラウイは、この状況を災害事態として宣言しています。それでも、必要とされた人道支援の資金は十分に集まりませんでした。
水の不足と、東アフリカ・ソマリアの現実
食料だけでなく、飲み水と衛生の確保も難しくなります。UNCCDの報告書によると、ソマリアでは2022年だけで干ばつに関連する飢えにより約4万3,000人が亡くなったと政府が推計しています。2025年初めの時点でも、人口の4分の1にあたる約440万人が危機的な食料不安にあり、うち約78万4,000人は緊急事態の水準に達する見込みとされました。
農地や水源を失った人が、水と土地を求めて移動することもあります。移住先では水資源や耕作地をめぐって地域の緊張が高まることがあり、干ばつが紛争の背景のひとつになりうることも指摘されています。ただし、争いの原因は政治や経済など複数の要因が重なるため、干ばつだけで説明することはできません。
環境への影響|土地が痩せ、悪循環が生まれる
砂漠化と土地の劣化
干ばつが長引くと、土壌の水分が失われ、植物が育たなくなります。植物が減った土地は風や雨で表土が流され、さらに作物が育たなくなります。これが砂漠化と土地の劣化です。
UNCCDによると、世界の土地の最大40%が劣化しています。干ばつは、人間による過放牧や森林の伐採といった土地の使い方の問題と重なって、その進行を早めます。
温暖化との悪循環
植物が減ると、大気中の二酸化炭素を吸収する量も減ります。土壌に蓄えられていた炭素が放出されることもあります。温暖化が進めば、気温の上昇や雨の降り方の変化を通じて、干ばつがさらに起きやすくなります。
干ばつが気候変動の結果であり、同時に気候変動を強める要因にもなる、という循環です。1回の干ばつを温暖化だけで説明することはできませんが、長期的な傾向としては、乾燥しやすい地域で干ばつのリスクが高まっていると国際機関は見ています。
生態系と水辺への波及
水不足は、人間の暮らしだけでなく、川や湖、湿地に頼る生き物にも影響します。水位が下がれば、魚や水鳥の生息地が縮み、水温の上昇や水質の悪化も起こります。
人間が水を確保しようとして地下水をくみ上げすぎれば、地盤沈下や水の枯渇という別の問題につながることもあります。干ばつ対策は、水を増やすことだけでなく、使い方を見直すことと合わせて考える必要があります。
経済への影響|電力、物価、物流に広がる
水力発電が止まると、産業と生活が止まる
干ばつは、電力にも大きく響きます。UNCCDの報告書によると、ザンビアでは2024年4月にザンベジ川の流量が長期平均の20%まで落ち込みました。国内最大のカリバダムの水力発電は、能力の7%まで下がっています。停電は1日最大21時間に及び、病院、パン屋、工場が休業に追い込まれたと報告されています。
水力に頼る国では、雨が降らないことがそのまま電力不足、生産の停止、失業へとつながります。2021年にブラジルが約100年ぶりの大干ばつに見舞われ、水力への依存が大きい電力供給が不安視された例もあります。
食品価格への影響は国境を越える
不作は、産地の外にも価格の形で波及します。UNCCDの報告書は、スペインのオリーブが2023年9月までの2年間の干ばつと猛暑で収穫が約50%減り、国内のオリーブオイル価格が2倍になったと伝えています。
また、2023〜2024年にタイとインドが乾燥して砂糖の供給が不足し、米国では砂糖・菓子類の価格が8.9%上がったとされています。日本でも、小麦やコーヒー、砂糖など輸入に頼る品目は、産地の天候の影響を価格で受けやすくなっています。
物流にも影響が出る
2023年には、パナマ運河の水源であるガトゥン湖の水位が下がり、通航が制限されました。運河は船を水門で上げ下げするたびに大量の淡水を使うため、雨が少ないと通れる船の数が減ります。
2026年はエルニーニョ現象の発生が伝えられ、中米で非常事態が宣言される事態になりました。報道によると、パナマ運河の通航は1日36隻から、9月15日以降は32隻に減らされる予定とされました。パナマ運河は通過貨物量で日本が世界3位とされ、日本の物流にも影響が及ぶ可能性が指摘されています。
日本にとっての干ばつ|2026年夏の四国と食料の輸入
18年ぶりの第4次取水制限
日本でも、干ばつに近い水不足は起きます。2026年夏、高知県の早明浦ダムの貯水率が低下し、香川用水では8月3日に第1次の取水制限が始まりました。制限は段階的に強まり、8月28日には香川県で60%削減、徳島県で約20%削減の第4次取水制限になりました。第4次は2008年以来18年ぶりです。
この日の早明浦ダムの貯水率は21.8%で、平年の80.7%を大きく下回っていました。両県は当初、県民生活への影響はないと説明していましたが、制限が続けば、農業用水や事業活動への影響が避けられなくなります。
その後、降雨で池田ダムへの流入量が増えたため、吉野川水系の関係機関は9月27日に取水制限を一時解除しました。今後の流入量次第では制限を再開する場合もある、と伝えられています。一度の雨で水不足が解消したとは言えず、秋の降雨状況が引き続き焦点になります。
食料自給率と「輸入に頼る」という構造
日本の足もとだけでなく、海外の干ばつも私たちの食卓につながっています。農林水産省が2026年8月に公表した令和7年度の食料自給率は、カロリーベースで37%(前年度から1ポイント低下)、生産額ベースで66%でした。カロリーで見ると、食料の6割以上を海外に頼っている計算です。
小麦は、主な輸入先が米国、カナダ、オーストラリアに集中しています。これらの産地で干ばつや高温による不作が起きれば、国際価格が上がり、パンや麺類の値段に響くことがあります。
また、食料を輸入することは、その生産に使われた水を間接的に輸入することでもあります。こうした水は「仮想水(バーチャルウォーター)」と呼ばれます。遠い国の水不足が、日本の食卓と無関係でない理由のひとつです。
日本の渇水と世界の干ばつは別の話か
日本は水資源に比較的恵まれていると言われますが、地域や年によっては、降水の偏りで渇水が起こります。2026年の四国の事例は、その一例です。
世界の干ばつとは規模も深刻さも違いますが、水の使い方、ダムや水路の運用、農業と生活用水の調整といった課題は共通しています。海外の事例は、日本の水の備えを見直すきっかけにもなります。
干ばつをめぐる誤解されやすい3つのこと
誤解1「遠い国の話で、日本には関係ない」
ここまで見てきたとおり、日本には少なくとも3つの接点があります。四国のように国内で水不足が起きること、食料の6割以上を輸入に頼っていること、そしてパナマ運河のように物流が海外の水不足の影響を受けることです。
「関係がない」のではなく、「影響が見えにくい」というのが実態に近いでしょう。食品の値上がりや品薄の背景に、産地の干ばつがあることもあります。
誤解2「世界の飢餓は増え続けている」
SOFIのデータでは、世界の飢餓人口は2025年まで3年連続で減っています。一方で、アフリカの飢餓率は約20%と依然として高く、気候の影響を受けやすい地域では回復が遅れています。
「悪化し続けている」と悲観するのも、「もう改善している」と安心するのも正確ではありません。全体の改善と、地域ごとの深刻さの両方を見ておく必要があります。
誤解3「個人にできることは寄付だけ」
寄付は有力な手段のひとつですが、唯一の方法ではありません。食品ロスを減らすこと、水や食料の産地を意識して選ぶこと、正確な情報を知り周囲と共有することも、干ばつと向き合う行動になります。
また、寄付の効果を高めるには、どこに、どのように届くのかを確認して選ぶことが大切です。次の章で、選び方の目安を紹介します。
私たちにできること|選び方と判断基準
寄付先を選ぶときの3つの目安
干ばつや飢餓への支援では、国連WFP協会(国連WFPの日本の公式支援窓口)、ユニセフ、国境なき医師団など、複数の団体が寄付を受け付けています。選ぶときは、次の3点を確認すると判断しやすくなります。
1つ目は、使い道が明確かどうかです。緊急支援なのか、栄養治療食の提供や水インフラの整備といった中長期の支援なのかが、公式サイトで説明されているかを見ます。
2つ目は、活動報告が公開されているかどうかです。寄付金がどう使われたかが年次報告などで確認できる団体は、信頼の目安になります。
3つ目は、寄付金控除などの税制上の扱いです。認定NPO法人などへの寄付は、税の控除の対象になる場合があります。対象かどうかは団体や自治体の案内で確認してください。
食と水の使い方を見直す
食べ残しや食品ロスを減らすことは、食料の生産に使われた水と土地を無駄にしないことにつながります。買い物のときに、国産や地元の食材を選ぶ機会を少しずつ増やすのも、輸入への依存を和らげる方法のひとつです。
家庭での備蓄も役立ちます。普段使う食品を多めに買い、使った分を買い足す「ローリングストック」なら、災害時だけでなく、価格の急な変動にも備えられます。
また、節水は水不足のときだけの行動ではありません。歯みがきや食器洗いで水を出しっぱなしにしないといった習慣は、水を使う意識そのものを育てます。
正確な情報を知り、広げる
現地の状況や支援団体の活動を、SNSなどで共有することも、貢献の方法のひとつです。ただし、広める前に、国連機関や支援団体の公式の発表をもとにしているか確認することが大切です。
数字や出典があいまいな投稿を共有すると、かえって誤解が広がることがあります。一次情報にあたる習慣は、干ばつに限らず、環境や社会の問題を考えるときの土台になります。
まとめ
干ばつは、食料、水、電力、物価、物流へと影響が連鎖する課題です。世界では2023年以降、南部アフリカやソマリア、地中海地域などで深刻な被害が報告されました。日本でも、2026年の夏には四国で18年ぶりの第4次取水制限が行われ、食料自給率は37%と、海外の天候と無縁ではありません。
一方で、世界の飢餓人口は2025年に約6億4,500万人まで減り、3年連続で改善しています。ただ、非常に強いエルニーニョ現象が下振れのリスクとして指摘されており、気候の影響を受けやすい地域では油断できません。
大切なのは、遠い国の出来事として切り離さないことと、できることを1つずつ選ぶことです。まず1つだけ、今日の食事で食べ残しを出さないことから試してみてください。
- 干ばつは、暮らし・環境・経済に連鎖して影響する。
- 世界の飢餓人口は2025年に約6億4,500万人まで減ったが、アフリカなど地域差が大きい。
- 日本でも、2026年夏の四国の取水制限や、食料自給率37%という形で影響が表れている。
- 寄付は使い道と報告の有無で選び、食品ロスの削減や情報の確認も有効な行動になる。
参考文献
- UNCCD「Global Drought Hotspots report catalogs severe suffering, economic damage」(2025年)
- UNCCD「World leaders gear up for landmark UN land and drought summit」(2024年)
- FAO「Launch of The State of Food Security and Nutrition in the World (SOFI) 2026 Report Statement」(2026年)
- FAO「First-ever global estimation of the impact of disasters on agriculture」(2023年)
- NBC News「Nearly 68 million suffering from drought in Southern Africa, says regional bloc」(2024年)
- 農林水産省「令和7年度食料自給率・食料自給力指標について」(2026年)
- 熊本日日新聞「香川・徳島で第4次取水制限 18年ぶり、早明浦ダム低下受け」(2026年)
- 熊本日日新聞「降雨で取水制限を一時解除 徳島、香川」(2026年)
- 秋田魁新報「パナマ運河に水不足危機 エルニーニョ発生で非常事態」(2026年)

