近年ビジネスにおいて、多様な能力や価値観をもつ人材を確保し、組織の生産性や競争力を高めるために、ダイバーシティの推進を行う企業が増えています。
本記事では、ダイバーシティが注目されている理由や、メリット・デメリット、推進方法、SDGsとの関係性などをまとめました。
まずは、ダイバーシティとは何か詳しく知りましょう。
ダイバーシティとは
ダイバーシティ(diversity)とは、直訳すると「多様性」「相違点」「多種多様性」などを意味する言葉です。
しかし近年は、年齢や性別、人種、宗教、障害の有無、学歴など、さまざまな考え方や属性の人が集まっている状態を表す言葉としても使われています。
ダイバーシティ経営とは
ビジネスシーンでは、多様な人材を積極的に採用し、その能力を最大限発揮できる環境を提供することによって、組織内の生産性や競争力を高める経営戦略のことを「ダイバーシティ経営」と呼びます。
ちなみに、ここで言う多様な人材の「多様(性)」には、属性以外に働き方やキャリア、経験なども含まれています。
参照元:
・ダイバーシティ&インクリュージョンの基本概念・歴史的変遷および意義|中村豊
・平成27年度新ダイバーシティ経営企業100選ベストプラクティス集|経済産業省
ダイバーシティは2種類ある
ダイバーシティには、2種類の属性が存在します。
表層的ダイバーシティ
表層的ダイバーシティとは、性別や年齢、障がい、人種、民族など、「生まれもったもの」や「自分の意思では、変えることが難しい属性」を意味する言葉です。
主な取り組みとして、女性や障がい者、外国人など、マイノリティ(少数派)とされる人々の雇用や福利厚生制度の整備が挙げられます。
しかしこの取り組みは、「多様なメンバーを集めること」自体が目的になってしまうケースが多いことから、表層的ダイバーシティの推進ではなく、CSR(社会的責任)の取り組みに入るとも言われているのです。
深層的ダイバーシティ
深層的ダイバーシティとは、表層的ダイバーシティの反対。
つまり、外見では認識が難しい内面的な特徴を意味します。
例えば、性格や価値観、思想、宗教、これまで受けてきた教育、言語、能力などです。
これらの特徴をもつ人が集まることによって、良い刺激となり組織内の競争力を高め、生産性の向上につながります。
また深層的ダイバーシティを推進すると、ビジネス環境の変化に迅速に対応し、問題が発生しても多様なアイディアを出しあい、解決に導く力が強い企業になるでしょう。
ダイバーシティが注目される理由
ダイバーシティについて理解したところで、続いては、なぜ注目されているのか理由を見ていきます。
企業のグローバル化
近年は日本企業の海外進出や、海外企業の日本進出が増加傾向にあります。
そのため企業は、国内だけでなく、世界中の顧客に対応できる商品やサービスの開発・提供が求められています。
この課題に対応するために、国籍や人種、価値観などが異なる多様な人材を集め、育てる必要があるのです。
労働力人口の減少
これまで労働力人口の減少の理由として、少子高齢化が挙げられていましたが、近年はそれ以外の問題も浮上しているようです。
厚生労働省が発表した『令和4年版厚生労働白書』によると、2025年以降から「現役世代」と呼ばれる20~64歳の人口が急減すると推測されています。
現役世代の人口減少はすでに始まっていますが、2025年以降は急速に進むそうです。
このような理由も含め日本企業は、外国人や女性、障がい者など、多様な人材を採用する必要があります。
働き方と価値観の多様化
近年は働き方改革の影響もあり、「ワークライフバランス(※)重視の働き方」や「自分の能力や技術、個性を発揮できる場所」などを重視する人が増えています。
また、以前より家事や育児に参加する男性が増えたり、女性の労働人口が上昇したりすることも関係しているでしょう。
そのため企業も、現代の働き方や価値観を理解し、柔軟に対応できるマネジメントを行う必要があります。
(※)ワークライフバランス:働く全ての人々が、「仕事」と「仕事以外の生活(趣味や学習、育児、介護など)」のバランスをとり、両方を充実させる働き方や生き方。
ダイバーシティを推進するメリット
続いては、ダイバーシティを推進するメリットを確認していきます。
人手不足の解消
ダイバーシティの推進によって、社員が働きやすい職場環境が整います。
また、現代に合った働き方であることから、さまざまな人材が集まりやすくなり、企業側も大勢の中から優秀な人材を採用できます。
多様なアイディアが生まれる
深層的ダイバーシティの推進によって、性格や価値観、思想、これまで受けてきた教育、言語、能力などが異なる多様な人材が集まります。
そのため、課題に対してさまざまな意見を聞くことができ、早期解決につながるでしょう。
アイディアも生まれやすくなります。
ダイバーシティ推進するうえで考えられる課題
メリットの多いダイバーシティですが、課題も存在します。
コミュニケーションの弊害
国籍や言語、宗教などが異なる多様な人材が集まるため、「言語の違いによって、情報を正確に伝えられない」や「本来の意図とは異なる捉え方をされた」「無意識に行っていたことが、ハラスメントにあたる行為だった」など、うまくコミュニケーションがとれずにトラブルが発生することもあります。
組織内のパフォーマンス低下にもつながるため、日頃から話す時間をつくったり、個人面談を定期的に行ったりしましょう。
ダイバーシティ推進の方法
先述した問題を防ぐためには、どのような方法があるのでしょうか。
続いては、ダイバーシティ推進の方法を確認していきます。
柔軟な働き方のできる職場づくり
今後は、「必ず出社して仕事をする」や「〇時までに出社して、○○時まで働く」という縛りをなくし、柔軟な働き方が実現できる環境や制度が求められます。
例えば、自分の始業や終業時刻、働く時間を自由に決められる「フレックスタイム制」や「裁量労働制」、出社せずに仕事ができる「リモートワーク」などの導入は、柔軟な職場環境の実現に貢献します。
その他にも、育児休暇や介護休業などを導入することによって、育児や介護が理由で働きづらさを感じていた人材も、働きやすくなり生産性の向上も期待できるでしょう。
社内研修
ダイバーシティやマイノリティ(少数派)について理解を深めるためには、従業員全員が参加する社内研修を定期的に行うことが大切です。
定期的に行うことによって柔軟な考え方が身につき、多様な価値観や思想をもつ人材が、自身の能力を発揮できる働きやすい職場になります。
担当部署や担当者の設置
ダイバーシティを推進する多くの企業は、社長や副社長を直轄とした「ダイバーシティ推進室」を設置し、推進室担当者を中心に取り組んでいます。
担当部署や担当者の設置によって、ダイバーシティ推進に取り組みやすくなり、各部署との情報共有や連携がスムーズに行えるようになるのです。
参照元:価値創造のためのダイバーシティ経営に向けて|経済産業省
ダイバーシティの推進はSDGs目標達成につながる
2015年に開催された国連総会にて、193カ国が賛同したSDGsは、世界中で起きている「環境」「社会」「経済」の課題解決を目指す国際目標です。
17の目標と169のターゲットが設定されています。
2030年までに全ての目標を達成し、「誰一人取り残さない」世界を実現するために、さまざまな企業や団体、個人が取り組んでいます。
そしてダイバーシティの推進は、目標8の達成に貢献すると考えられているのです。
目標8「働きがいも経済成長も」
目標8は、地球上に暮らす全ての人々にとって、「誰も排除しない持続可能な経済成長」「完全かつ生産的な雇用」「働きがいのある人間らしい仕事」などを促進する目標です。
そして、目標を達成するために、産業や金融など、あらゆる分野のターゲットが設定されています。
そのなかでも、特に関係の深いターゲットが【8.5】です。
2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一価値の労働についての同一賃金を達成する。
ダイバーシティは、多様な人材を積極的に採用し、各々が持つ能力を最大限発揮できる環境を提供することによって、組織内の生産性や競争力を高めます。
そのため、ターゲット8.5やSDGs目標8の達成には、ダイバーシティの推進が欠かせないのです。
まとめ
グローバル化やSDGsの目標達成に向けた取り組みの加速によって、注目されているダイバーシティ。
特に企業は、思想や価値観、学歴、能力などの特徴を意味する、深層的ダイバーシティの推進が求められています。
自社で取り組む際は、デメリットや課題を理解し対策を考えたうえで、推進方法を実践しましょう。
全ての人が、自分らしく働ける職場環境を目指して、お互いを尊重し助け合いながら取り組むことによって、組織内の競争力も高まり、生産性も向上します。