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産業と技術革新の基盤をつくろう

SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」とは?概要と日本の取り組み・現状を解説

SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」は、強靱(レジリエント)なインフラを築き、誰も取り残さない持続可能な産業化を進め、イノベーションを後押しする目標です。道路や水道、通信網、工場、研究開発までを含む広い目標で、「自分の暮らしとは遠い話」と感じる方も多いかもしれません。ただ、蛇口から水が出ること、スマートフォンがつながること、道路を安全に走れることは、すべて目標9の土台の上に成り立っています。この記事では、目標9の中身を整理したうえで、世界と日本の最新の状況、八潮市の道路陥没や能登半島地震から見えた課題、そして読者のみなさんが今日からできることまでを順に見ていきます。

この記事で学べること

  • 目標9の3つのキーワード(インフラ・産業化・イノベーション)の意味
  • 国連の最新報告から見た、世界のインフラ・通信・製造業の現在地
  • 日本のインフラ老朽化と、八潮市の道路陥没・能登半島地震で明らかになった課題
  • 研究費や5Gなど、日本の強みと課題
  • 生活者として、今日からできる具体的な行動
目次

目標9の中身|3つのキーワードで読み解く

目標9の公式な文言は「強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」です。抽象的に見えますが、「インフラ」「産業化」「イノベーション」という3つのキーワードに分けると、何を目指しているのかが見えてきます。

目標9には具体的なターゲットも設けられています。たとえば、質が高く強靱なインフラの開発(9.1)、後発開発途上国で産業が雇用とGDPに占める割合を倍増させること(9.2)、研究開発への支出や研究者数を増やすこと(9.5)、後発開発途上国で情報通信技術へのアクセスを大きく改善すること(9.c)などです。

強靱なインフラとは、壊れにくく、壊れても早く戻る基盤のこと

インフラ(社会資本)とは、上下水道、電力・ガス、道路・鉄道、通信網、金融の仕組みなど、公共の利益のために社会が共有している設備や仕組みのことです。生活の命綱なので「ライフライン」とも呼ばれます。

「強靱」には、災害や事故に耐える頑丈さに加えて、被害を受けても早く復旧できるしなやかさが含まれます。世界にはインフラそのものが十分に届いていない地域もあり、整備と維持の両方が課題になっています。

包摂的かつ持続可能な産業化とは、産業全体で負荷を押し付け合わないこと

産業は、原材料の調達、加工、流通、販売がつながって成り立っています。一部の工程だけを効率化しても、別の工程や別の国に環境負荷や労働負担が移るだけでは、持続可能とは言えません。

「包摂的(インクルーシブ)」とは、産業の恩恵を一部の国や企業だけが受けるのではなく、小さな事業者や後発開発途上国も含めて広く行き渡らせる、という考え方です。カーボンフットプリントやフードマイレージのように、サプライチェーン全体でCO2を捉える視点も、この延長線上にあります。

イノベーションの推進とは、技術と仕組みの両方を新しくすること

イノベーションと聞くと最先端の技術を思い浮かべがちですが、本来は「新しい切り口」を意味する言葉です。再生可能エネルギーの導入ひとつをとっても、発電するときのクリーンさだけでなく、設備の設計から廃棄までのライフサイクル全体を見渡す工夫が求められます。生産や流通の仕組みを変える取り組みも、技術開発と並ぶイノベーションです。

世界の現在地|国連の最新報告でみる目標9の進み具合

国連の「持続可能な開発目標(SDGs)報告2025」は、目標9について、前進と格差の両方を示しています。数字を見ると、インフラと産業の発展が地域によって大きく偏っていることが分かります。

製造業は伸びたが、後発開発途上国は目標に届いていない

世界の1人当たり製造業付加価値は、2015年の1,649ドルから2024年の1,934ドルへと増えました(2015年固定価格、17.3%増)。後発開発途上国でも2015年以降に40.6%増えましたが、GDPに占める製造業付加価値の割合を倍増させるという2030年目標には届いていません。

通信は広がりつつあるが、低所得国との差が大きい

2024年時点で、5Gは世界人口の51%をカバーしています。高所得国では84%に達する一方、低所得国では4%にとどまります。4Gも世界人口の92%をカバーしていますが、低所得国では52%です。モバイルブロードバンドの圏外にいる人は世界で4%ですが、後発開発途上国では15%にのぼります。

研究開発は増えたが、CO2排出も過去最高に

研究開発支出の対GDP比は、2015年の1.72%から2022年の1.95%へ上昇しました。人口100万人当たりの研究者数も1,137人から1,420人に増えています。

その一方で、2024年のCO2排出量は過去最高の376億トンとなり、2015年比で8.3%増えました。産業の拡大と環境負荷の抑制を両立させる「持続可能な産業化」は、まだ道半ばだとわかります。

日本のインフラは大丈夫?老朽化の現状を数字で見る

目標9は、日本ではこれまで「基盤は整っている分野」と見られがちでした。ただ、インフラは作った後の維持が欠かせません。高度経済成長期に集中して整備された施設が、いま一斉に更新の時期を迎えています。

建設後50年以上の施設は、この先10〜15年で急増する

国土交通省の資料によると、建設後50年以上たつ施設の割合(約)は次のとおりです。

  • 道路橋は、2023年3月の37%から、2030年3月に54%、2040年3月に75%へ
  • トンネルは、25%から35%、52%へ
  • 河川管理施設は、22%から42%、65%へ
  • 下水道管渠は、7%から16%、34%へ
  • 港湾施設は、27%から44%、68%へ

建設年度が不明の施設は、この割合の計算から除かれています。実際の老朽化はこの数字より進んでいる可能性もあるため、「古くなるペースが速い」という傾向として受け止めるのが適切です。

点検と修繕は進んでいるが、現場の負担は続く

道路橋やトンネルは、5年に1度の近接目視点検が義務づけられています。国土交通省の「道路メンテナンス年報」(2025年8月公表)では、早期または緊急の措置が必要な判定区分Ⅲ・Ⅳの橋梁が、2018年度末の約6.9万橋から2024年度末の約5.3万橋へ減ったと報告されています。地方公共団体による、2019年度点検でⅢ・Ⅳと診断された橋梁の修繕などへの着手率は76%です。

あわせて、施設の集約・撤去・機能縮小を検討している地方公共団体は、2024年度末時点で92%にのぼります。人口減少のなかで、すべてのインフラを今のまま維持するのではなく、「何を残し、何を減らすか」を地域ごとに考える段階に入っていることがうかがえます。

地中にあるインフラは、見えないぶん気づきにくい

道路の下の空洞も、点検の対象です。国土交通省の路面下空洞調査では、3,079kmを調べ、119か所で路面陥没の可能性が高いと判定されました。この119か所は、すべて修繕などに着手しています。見えないインフラほど、定期的な調査が安全を守る手段になります。

八潮市と能登から見えた課題|強靱なインフラが問われた場面

日本のインフラの課題は、ここ数年の出来事に表れています。ここでは、国の資料で確認できる2つの出来事を取り上げます。

八潮市の道路陥没と、全国の下水道管の特別重点調査

2025年1月28日、埼玉県八潮市で、下水道管の破損に起因すると考えられる大規模な道路陥没が起き、トラックの運転手が亡くなりました。原因究明委員会の報告書概要(2026年2月)は、硫化水素による下水道管の腐食に起因すると考えられるとしています。

この事故を受けて国土交通省は、各地方公共団体に「下水道管路の全国特別重点調査」を要請しました。対象は467団体、約5,000kmです。管径2m以上で布設後30年以上たった管路が対象で、結果は緊急度で分けて判定されます。たとえば千葉市の資料では、緊急度Ⅰは「原則1年以内に速やかに対策」、緊急度Ⅱは「応急措置をした上で5年以内に対策」と整理されています。

事故をきっかけに、「見えないインフラの総点検」が全国で実施されたことになります。

能登半島地震が示した、耐震化の効果と遅れ

2024年の能登半島地震では、上下水道が大きな被害を受け、6県38事業者で最大約14万戸規模の断水が起きました。国土交通省の上下水道地震対策検討委員会は、浄水場や主要な管路などの基幹施設が未耐震だったことが、広範囲の断水と復旧の長期化につながったと整理しています。一方で、耐震化済みの浄水場や下水処理場では、重大な機能被害は確認されなかったとされています。

全国の水道の基幹管路の耐震適合率は、2022年度末時点で42.3%です。「備えておけば被害を抑えられる」ことが確認された一方で、備えの進み具合には自治体ごとの差も大きいことが分かります。

インフラは「暮らしを守る順番」で考える 中村哲医師の水路

海外に目を向けると、アフガニスタンで用水路の建設に生涯を捧げ、2019年12月に亡くなった中村哲医師の活動が思い浮かびます。診療所を建てるより先に、生きるための水と、農業で自立するための水路が必要だと考えた実践です。

インフラの価値は、設備の大きさではなく、そこで暮らす人の生活が立ち直れるかどうかで測られる、という目標9の考え方を象徴しています。

日本の強みと課題|研究開発と通信のいま

インフラの維持に課題を抱える一方で、日本には研究開発や通信の面で積み上げてきた強みもあります。目標9の「イノベーション」と「ICT」の側面を、最新の公的統計で見てみましょう。

研究費と研究者は過去最高水準

総務省統計局の「科学技術研究調査」(2025年結果)によると、2024年度の研究費の総額は23兆7,925億円で、前年度から7.9%増えました。研究者数は2025年3月31日時点で91万2,800人で、前年度比0.6%増の過去最多です。

研究費や研究者が増えていること自体は前向きな動きです。ただ、国連報告が示したように、イノベーションは「どれだけ投資したか」に加えて、「社会課題の解決にどう結びつけたか」が問われます。

5Gの人口カバー率は高いが、地域差が残る

総務省の発表では、全国の5G人口カバー率は2025年度末で98.6%でした。都道府県別では89.2%から99.9%までの幅があり、政府は2030年度末に全国・各都道府県で99%を目標にしています。世界全体の5Gカバー率が51%であることと比べると高い水準ですが、都道府県のあいだにはまだ差があります。

「自前主義」を超えて、連携でイノベーションを進める

日本政府が2025年にまとめたSDGsの自発的国家レビュー(VNR)報告書は、一部の分野で過度な自前主義がイノベーションの進展を妨げている傾向があると指摘しています。そのうえで、AI、デジタル、GX(グリーントランスフォーメーション)の分野では、国際連携や技術の導入が必要だとしています。

自社や自国だけで抱え込まず、他の企業や国、地域と協力する姿勢は、目標9の「包摂的」という考え方とも重なります。

誤解されやすいポイントと、今日からできること

目標9は「専門家や大企業の話」と受け取られやすい一方で、生活者にもできることがあります。誤解されやすい点を整理したうえで、具体的な行動を見ていきます。

誤解しやすい点は「新しい技術ほど良い」という見方

イノベーションというと、最先端の技術や新しい設備を思い浮かべがちです。しかし、八潮市や能登半島地震の例のように、既存のインフラを点検し、直し、備えることも目標9の中心にあります。新しく作ることと、今あるものを守り続けることは、どちらも欠かせない両輪です。

また、「日本は先進国だから、インフラの課題は関係ない」とも言い切れません。人口減少のなかでの更新の優先順位づけは、日本が先に直面している課題とも言えます。

生活者にできる3つの行動

  • お住まいの自治体の水道・下水道・道路の更新計画や耐震化の状況を、公式サイトや広報で調べてみる
  • 道路の陥没やひび割れなど、危険を感じる異状を見つけたら、道路管理者(国道・県道・市道で窓口が異なります)に連絡する
  • 災害に備えて、飲料水の備蓄や断水時の生活を、家族で一度シミュレーションしておく

台風や秋雨の季節が終わり、これから冬に向かう今は、備蓄の点検に向いた時期です。インフラの被害は、備えの差が暮らしの差になって表れます。

仕事や買い物の場面でできること

仕事のなかでも、「この仕組みはライフラインの維持や強靱化に役立つのか」という視点を持つと、新しい改善のヒントが生まれることがあります。買い物では、フェアトレード製品やアップサイクル製品を選ぶことが、サプライチェーン全体への関心につながります。小さな選択でも、産業のあり方を問い直すきっかけになります。

まとめ

SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」は、強靱なインフラ、包摂的で持続可能な産業化、イノベーションの3本柱で成り立っています。世界では製造業や通信が広がっている一方で、後発開発途上国や低所得国との格差が残っています。

日本では、建設後50年以上たつインフラが2030年代から2040年にかけて急増します。八潮市の道路陥没や能登半島地震は、見えないインフラの点検と耐震化の大切さを示しました。研究費や5Gの整備など、日本ならではの強みも確認できます。

目標9は、専門家や大企業だけが担うものではありません。自分の地域のインフラを知り、異状に気づき、備えるという行動は、生活者にもできる目標9への参加です。まずは、お住まいの自治体の水道や道路の情報を1つだけ調べてみてください。

  • 目標9は「強靱なインフラ」「包摂的で持続可能な産業化」「イノベーション」の3本柱
  • 世界では5Gのカバー率が高所得国84%に対し、低所得国は4%と大きな格差がある
  • 日本の道路橋は、建設後50年以上の割合が2023年3月の約37%から2040年3月に約75%へ増える見通し
  • 八潮市の道路陥没と能登半島地震は、点検と耐震化の重要性を示した
  • 自治体の情報を調べる、危険な異状を連絡する、備蓄を見直すことが、生活者にできる行動

参考文献

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