最近よく耳にする「スマートモビリティ」というコンセプトをご存じですか?
スマートモビリティとは、ICT(Information and Communication Technology, 情報通信技術)を使って、車や公共機関などによる移動・交通をより安全で効率的なものにするという考え方です。
この考え方は、単に車や公共機関の効率化を目的とするだけではなく、エネルギー問題や環境問題、都市課題の解決をも目指しています。
この記事では、「スマートモビリティ」についてわかりやすく説明していきます。
スマートモビリティとは?
もともとは「賢い」「気が利く」という意味だった「スマート」という言葉は、スマートフォンやスマートシティというように、現代ではICTなどの新技術を利活用したものに使われています。
スマートモビリティとは、その〈スマート〉と移動性・可動性という意味の〈モビリティ〉を組み合わせた言葉で「ICTの技術を使って実現される、より安全で効率的な交通移動手段とそのサービス」を表します。
スマートモビリティの取り組みとして代表的なのがMaaS(マース:モビリティ・アズ・ア・サービス)です。
MaaSとは、ICT技術によって車や公共機関といった複数の移動手段から最適な組み合わせを検索・予約・決済まで一括して行えるサービスのこと。
発祥はフィンランドのヘルシンキですが、現在では世界中の都市で開発、実証実験が行われています。
車の自動運転や車載カメラ、人感センサーなどもまた、スマートモビリティの技術の一例です。
スマートモビリティの意味するもの
同じスマートモビリティというコンセプトを掲げていても、自動車メーカーと自治体とではその内容が微妙に異なります。
自動車メーカー
車は100年に1度の変革期といわれています。
大手自動車メーカーは将来を見据え、自らを単なる自動車メーカーではなく、スマートモビリティの担い手と表明するようになりました。
その変革のキーワードとなるのが、2016年にメルセデス・ベンツを展開するダイムラーが中長期戦略のタイトルとして発表したCASEです。
CASEとは、
Connected:コネクテッド
Autonomous:自動運転
Shared & Service:シェアリングサービス
Electric:電動化
の頭文字で、これからの車社会のあるべき姿=スマートモビリティの実現を象徴する言葉となっています。
それは、自動車をこれまでのように単に移動手段として捉えるのでなく、自動車がインターネットとつながり情報端末の役割を果たし(コネクテッド)、運転者なくしても移動が可能となり(自動運転)、必ずしも自動車を自身が購入・所有することも必要とせず(シェアリングサービス)、ガソリンを利用した内燃機関ではなく電池とモータで自動車が駆動する(電動化)という自動車の新しい姿と役割を体現した考え方です。
トヨタもこのCASEを自社のプロジェクトの主軸ととらえています。
CASEの技術開発を進めることで、convenience (ストレスフリーで移動できる交通社会)、safety(交通事故ゼロ)、comfort +サービス(行動予測や音声認識システムなどを利用してよりドライバーの快適さを追求)を実現することを目標に掲げています。
参照元:
・CASEとは|自動車業界の未来と変革を担う戦略と国内メーカーの取り組み事例|NikkenTotalSourcingInc.
・トヨタが取り組むスマートモビリティ社会 – CSR・環境・社会貢献|トヨタ公式企業サイト
国・自治体
国や自治体が掲げる「スマートモビリティ」は、公共の交通機関やまちづくりを包括した、地域の課題を解決するための概念として捉えられています。
経産省と国交省が2019年に立ち上げたスマートモビリティチャレンジというプロジェクトでは、以下の4つのチャレンジコンセプトが提示されました。
1.地域社会における公共交通を便利に
2.ITのちからで地域交通の維持
3.ヒトもモノもサービスも運ぶ車
4.自動走行技術をもっと身近に
このプロジェクトのもと、現在日本の各地域で官民の枠を超えた支援事業が行われており、先ほどのMaaSの導入を基軸として、地元観光の活性化や高齢者の移動の確保といった地域の課題を解決しようと取り組みがすすめられています。
参照元:スマートモビリティチャレンジ|経済産業省、国土交通省
スマートモビリティ化のメリットとは?
では、スマートモビリティにはどのような社会的インパクトがあるのでしょうか。
地域課題の解決
公共の交通サービスが一元化されれば、高齢者など移動が困難な人たちの移動の選択肢が増え、外出の機会を増やすことができ、ひいてはまちの活性化にもつながります。
また、自動運転やAIによるオンデマンド運転、キャッシュレス支払いなどを導入することにより、過疎地における移動手段を確保することも可能となります。
環境負荷の軽減
マイカーを公共交通やライドシェアの利用にかえれば、温暖化の原因となる排出ガスを減らすことができます。
また、EV(電気)やFCV(水素)を代表とする、よりエネルギー変換効率の高い燃料の自動車開発による環境問題への貢献が期待されています。
新しい産業の創出
モビリティと他のサービスがICT技術によって連携・統合されることで、新たなサービス創出を通じた新産業や新ビジネスの機会が創出されます。
2010年にアメリカで始まったマイカーを利用した配車サービス「Uber Cab」も、現在世界70か国600以上の都市でサービスを展開するまでに成長しています。
参考文献:日高洋祐他著『MaaS~モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』日経BP社
まとめ
ここまで、スマートモビリティの概要について説明してきました。
スマートモビリティは、革新的ともいわれる次世代の移動コンセプトです。
AIやビッグデータといったICT技術の急速な進歩が、このコンセプトを支えているのはもちろんですが、既存の業界の考え方や枠組みを超えて、ひとつのコンセプトを実現させようとともに取り組む異業種間の協力も、これまでにない革新的な側面でしょう。
スマートモビリティの挑戦は、サステナブルな社会を実現するために人類がひとつになって取り組む挑戦なのです。
参考資料:日高洋祐他著『MaaS~モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』日経BP社